ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
良かったですよ……ホント
「攻めきれねえな」
キュリアスの言葉通り。
約一〇分におよぶ戦闘の中、蛇足野郎に与えられたダメージはほとんどなかった。
僅かな鱗の傷や刃状突起の些細な欠け、ほとんどがそれだけ。
傷に傷を重ねようにもそれを狙った瞬間蛇足野郎はその思考を読んだかのように素早く動き、狙いを逸らしてくる。
せめてもの救いは魔の吸収能力が低いことと、自己再生能力がないことくらい。
それ以外は攻撃力も知能も魔術も絶望的だ。
「あぁ、どうするよ」
ぐび、と
すると酩酊によく似た嫌悪感が全身を襲った。
俗にいうポーション酔い。
体内の魔力が急激に変化することで起こる状態異常で。
モノとしては魔力の大量消費とほとんど変わらない。
なんだこれ。
立ってるのに立ってない感じ。
大気魔も合わさってマジクソ。
「モルガン、お前がやれ」
「わ、私!?」
「ああ、一番通用してるのはお前の力だ」
キュリアスとマーリン。
二人のつけた傷に対してモルガンのつけた傷は僅かながら勝っている。
深く、長く、血こそ出ていないが強い。
「できると思わないんだけど……」
「やれ」
「あっはっは! 諦めろモルガン、そいつはいつも通り勝手だ。マーリン相手と考えちまえ!」
「おイ」
「はぁ……それなら仕方ないね」
「おイっ」
諦めて立ち向かうよ、と。
疲れた眼差しで蛇足野郎を睨みつけるモルガン。
だがふと、一体どうすればいいのかとばかりに首を傾げる。
「モルガン、難しいのはどっちだ。多重行使か。それとも想像を固めることか」
「想像……」
「なら守りは俺に任せろ。攻めることができないこの身でも、それくらいできるだろうさ」
「そうか、頼む」
モルガンの前に躍り出て、魔術を行使する。
【
その魔術の性質を理解した理的暴力によって、効率的に、冷徹に、暗壁が内側から破壊される。
「危なっかしい! 見とれんわッ!」
「サハルさんッ!?」
壁を砕き覗かせた顔を。
サハルさんの拳が鋭く撥ね上げる。
素早く尻尾が、毒針が振るわれるが、それすらも蹴り上げて俺たちを守る。
「守ること、それすらもできていない。格好をつけた分格好悪いな」
「うぐッ……カッコつけたつもりはないけど、実際有言実行できてないからその通りだな」
羞恥に顔を歪めながら暗壁を生み出し。
そして何本目かわからない
元々ロクにポーションを使わないタイプだったこともあり
残っているのはいつだったかにベアトリクスから貰った
――いや、たしか
つまり魔力回復ができる回数は一六。
そしてその回数を一五に減らす。
?!
これ、反動少ないな。
奥の方に若干苦みがあるけど魔力回復による体調変化が……すっげー楽!?
予想外の恩恵。
流石は旅の薬師で生活できるほど、といったところだろうか。
そんじょそこらの、並みの店で売られているような統一品とは全く違う。
驚くほどの腕。
ああ、なおのこと苦しんでほしくねぇなぁオイッ!!
「君の未熟は承知の上。多少の失敗は私たちも許容の範囲内」
「ヒデぇ――なッ、っと!」
サハルさんの
圧倒的な脚力に蛇足野郎は完全に止められ、そこに二人の追撃が加わった。
「合図を出したら壁を正面に出せ。それまでは他の方法で妨害をしろ」
「妨……害……」
難しいこと言ってくれるじゃねぇか。
だができるって考えての指示だろ?
やってやんよ。
妨害。
そう考えて真っ先に思いついたのは足止め。
だが蛇足野郎の脚は正しく“蛇足”にしか見えず、それを凍結させて使用不可にしたところで足止めにはならない。
胴体を凍らせるのは難しいが、仮にできてもすぐに剥がれ落ちてしまう。
ではどうするか。
相手の探知を妨害することを考えたが、それをしてしまうと味方にも影響が出て敗因を作りかねない。
だからダメだ。
……いや、待て。
探知、魔力、周囲に対して、原理、干渉、隠蔽、移動――
設置?
ふと一つの、使えるかロクにわからないアイデアが生まれる。
「――【
生まれた大量の鏡。
それは可視非実体の魔術。
つまり、探知下で見ることができ、けれど触れることの叶わない。
攻撃力も防御力もない弱き魔術。
「そいつは触れてもなんら影響がない! 発される魔力も気にするなッ!」
「君が何人もいるみたいで気色悪いな」
「あっはぁ! 酷いぜぃ!」
そう。
霧中に生まれた無数の【
俺が普段無意識に発する微弱な魔力を鏡から。
探知をすればまず間違いなく掛かり、けれど非実体ゆえに何をしても破壊されず。
それが消えるには俺が解除をするか、俺が気絶をするか。
叩かれれば魔の干渉によって一時的に周囲へ拡散してしまうが、少しの時間ですぐさま集まり同じように妨害をする。
「フハハハハハハハハッ! こいつぁ最ッ高に愉快だ! 独力ではないとはいえ自分を優に上回る相手を手玉に取ってるぜ!」
これは未熟な俺では使えるはずのなかった魔術。
加護の下でのみ成立する
モルガンの固有能力【夢幻霧】によって強化をされている今、本人にその意識はないだろうが俺には、俺たちにはその力の一部を扱える。
とはいっても固有能力そのものを使えるワケではない。
固有能力の力を因数分解的に紐解き、その要素のいくつかを借りられるというだけ。
たとえば、霧中での魔術構築の簡易化、イメージの反映難度の低下、魔術に対する“霧”という概念付与、魔術に対する“非実体”という概念付与。
恐らくこの先魔術を極めるまでの道のりで独力でそれを可能とするだろう。
ゆえにこの魔術は
あくまでも現在で可能な“合体魔術”だ。
「うるさいですよ~、ヒイラギさ~ん」
「サーセン」
周囲に現れた増援の気配。
人という存在とロクに触れたこともなく、もっといえば生まれたばかりゆえに同じモンスターとすらも
つまりただ純粋に敵の増加としか認識しておらず。
蛇足野郎は大量の、倒しても倒しても元の数に戻る敵を相手に暴れ狂うのみ。
どんなに賢いお前でも、知らないことを想像はできないだろ!
お前はモンスターであって、バケモンじゃない。
知において無から有を生み出すことはできない。
知っていることを効率よく組み合わせるだけ。
生存競争の中でわざわざ魔力放出なんて自己弱体技を使うモンスターは
知らないことへの対処能力は、見えないことへの対処能力はお前にはないからなぁッ!
最早無様にすら映る姿を目に、ほくそ笑む。
仲間の位置を把握し、仲間の攻撃の意思を感じ取った瞬間。
反対側の【
それだけ。
たったそれだけで敵の意識を削ぐことができる。
仲間に背を向けさせ背後からの攻撃をさせることができる。
「――イケるよ」
夥しい背の傷。
三人の身体が血に染まりつつあったその時。
モルガンから待ち望んだその言葉が発される。
「退避は?」
「いらないさ」
「そうか。なら好きにやれ」
「当然ッ!」
全員が笑う。
決着。
俺が無防備を生み出す。
キュリアスが撥ね上げ。
マーリンが蹴り曲げて。
サハルさんが叩きつける。
「私と正面から見つめ合うのは初めてだね」
モルガンの正面一メートル。
トマティーナように身体を叩きつけられ。
動けない蛇足野郎。
「――【開け】」
過程を飛ばしたかのように。
そこには正中線から真っすぐ二つになった蛇足野郎の死があった。
使わなかった合図
本来、サハルの予定では【
なので万が一の時はぶつかり合いをせず、下から顎を弾き上げようと想定していました
予定が狂うのはよくあること
むしろ“万が一の時”がなくてよかったですね、ハハッ(裏声)