ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一八〇話 “ない”ではなく“わからない”

「ぬぉらッ!」

 

 槍が下から勢いよく振り上げられる。

 非強化の切っ先は引っ掻くように下から上へ一筋の線を走らせようとするが、そうはさせないとモルガンの上半身が後ろへ退く。

 ギリギリ、どちらにとっても間に合うか間に合わないかだった。

 仰け反りは腹部を回避させ、さらには胸部の回避も成功させる。

 けれど運命の瞬間、顎下からモルガンの顔へと迫る切っ先が、不意に軌道を変えた。

 鋭く伸びた切っ先はモルガンの顔を切り、紅い線を引く。

 

「まさか食らってしまうとは……今のはその瞬間だけ握りを緩めたのかい?」

「ああ。感覚からして探知はあまり使わず視覚で対処、不意打ちだけは探知で得た情報を使って回避。ざっとそんなモンだとわかったからな、左の動きで誤魔化しつつ右は力加減だけでやらせてもらった」

 

 視覚情報寄りのモルガンは筋肉の微細な動きは感知できない。

 正確には少しなら可能だが情報の少なさゆえにフェイントをかければそっちに気を取られて上手くいく。

 その予想と目論み通り、ちゃんと騙されたし攻撃も成功した。

 本当はもう少し上手くいく予定だったのだが。

 

「まさか槍を奪われた上に攻撃を喰らってしまうとはね……」

「ふっふっふ、俺も日々成長しているというワケだ」

 

 よほど悔しかったのかため息交じりに槍を担ぐモルガン。

 左で槍を抑えつつ右手で握手を差し出され、それに応じる。

 

「甘いよまったく……」

「んぐぇッ!?」

 

 腕を捻られ、足払いを掛けられた挙句、石突きが喉元に軽く刺さった。

 

「勝敗条件は“相手が降参の言葉を言うまで”そう決めただろうに……」

「あ」

「普段モンスターと戦うからって油断するモンじゃないよ。旅をすれば賊に襲われることもある、それに君は厄介なのを相手にするのが多いらしいし、覚えておいて損はないんじゃないかい?」

「っ、頼む」

「良いよ、好きに掛かってきて」

 

 

 

「結局マトモに攻撃当てられたのは初めのアレ含めて二回だけ……は~、モルガンは遠いなぁ」

「一季と少しくらいでしょ? むしろそれだけの期間でよく上達してると思うよ」

「そりゃまあ、幸運なことに色々教えてくれる人が近くに何人もいたりしますし? 動き真似るだけなら能力使ってできるから身体に叩き込めますし」

 

 もはや今は立つ体力すら残っておらず、火照った身体には地面の冷たさが気持ち良い。

 とはいっても時期的にはもう夏。

 日差しのせいで地面は少し温い。

 日陰に移動をすればいい話だが、その気力も残っていない。

 

「もっと自信持ちなよ。上を見てもキリないよ? マーリン見なよ、あの忌々しいほどの根拠のない自信。アレって意外とモテるんだよ?」

「本性を知らずに騙されてる……」

「対外的にはアレは良く見えるってことさ」

「モテたいワケじゃねぇけど……自信かぁ。成長の実感がないんだよなぁ」

 

 マーリンがモテるとか、マジすか。

 あの随所で、日常レベルでクソムーブをかましてくるあんにゃろうをか?

 ……世も末だな!

 

「成長してるとも。保障する、君はちゃんと成長してるよ」

「マ、マジで?」

「え~、何ぃ? 私の言うことが信じられないって言うのかい? 傷つくなぁ、一緒に死線を潜り抜けた戦友だと思ってたんだけど……」

「わ~ッ! 戦友です戦友ッ。戦友も戦友、もう大戦友ッ。信じますともッ」

「うん。じゃあそんな大戦友の言葉を信じてもうちょっと自信つけようよ」

「頑張る」

 

 成長してる。

 やはり口で言われただけでは実感が湧かない。

 信じられないワケではないが、自分のことのように思えなかった。

 だが少なからず成長している確証は、ある。

 不覚をとり、ゴブリン相手に怪我を負ってしまった初日。

 今はよほど怪我を受け入れ防御力を下げない限りは直撃しても無傷で終わるだろう。

 それを考えれば成長している。

 槍の扱い方だってできることが増えたからこそ海悪魔(サハギン)の動きが非効率に思えるようになったし、格上のモルガンの動きだって身体的無理なく模倣できる。

 その点でも強くなっている。

 ゴーレムだって種類にもよるが今ならクアークのように両断できる自信がある。

 それを踏まえれば技も身についた。

 強くなっている。

 それは事実だ。

 ただ、それ以降の実感というべきか。

 自分の立ち位置というべきモノが曖昧だ。

 

「にしても、そんな大戦友の顔を躊躇なく切るなんてね。いくら治せるからって傷が残ったらどうしてくれるんだい。一応ではあるけど評価項目だったりするんだからね?」

「ははは、そん時はそん時で責任取りますとも」

「責任? 結婚でもするのかい?」

「……」

「おいおい、本気にしたのか」

「……そっちがそれで良いなら俺は良いけどさ。本命はマユゲだし、なんかよくわからんが趣味の悪いクアークに好かれてるしで、三人だぞ? 別に俺自身はモルガン嫌いじゃないし愛せと言われたら愛せるけどさ。それにしたって俺は現状まだ弱いしこんなナヨナヨした男だぞ?」

 

 ぶっちゃけ俺が女の人側なら一〇〇%断るわ。

 こんな一〇キロリットルの欠点を煮詰めに煮詰めて人の形にしたような男、大金貰っても嫌すぎる。

 ……ホント、クアークの趣味悪すぎ。

 仮に結婚するとして、見えてなかった俺のダメなところ見つけて嫌気が差すだけだろ。

 その点俺の心読めるマユゲってスゲーわ。

 俺の本性全部知ったうえで研究目的ありきとはいえ訓練とか勉強とか酒とか付き合ってくれるんだから。

 流石、俺の愛しのマユゲだぜ。

 

「へ~、アリナシで言ったらアリなんだね」

「ナシの要素なくない? 強いし凛としてるし優しいし、頭も悪くはなさそうだし付き合い良いし、顔評価項目に入れるなら美人だし。まああえて欠点挙げるなら…………なんだ? ガッツリ酔った時の絡みが激しかったり口が多かったり?」

「え゙……私って酔うとそうなるの? 自覚なかったよ……」

「一度だけな。記憶失くすレベルでガッツリ飲んで、解散後しばらくしてまた会った時にそんなんだったからちょっと驚いたわ」

「ご、ごめんね……迷惑かけることには人一倍注意してたんだけど」

「大丈夫大丈夫、マーリンよりはよっぽどマシだから」

「比較対象にアレが挙がることすらイヤなのさッ!」

「あ、ごめん」

 

 いや、マジ、ごめん。

 地雷踏んじゃった。

 

 思慮に欠ける自分が嫌になる。

 空気が読めない自覚はあったけど、コレは流石に我ながら、ない。

 たった今の一言でこれまで積み上げてきた信用とか全てが崩壊する、その覚悟とさせる。

 本当に、自分が嫌だ。

 基本的にこれまで積み上げたモノが無駄になるからタイムマシンなんかは要らない派だが、今だけは、数秒前に戻りたい。

 マユゲ曰く時間遡行装置は設備の規模的にも消費魔力的にも事実上不可能な、文字通りの机上の空論らしいが。

 

 たしかマユゲは“人生の大部分を突っ込ンで、辛うじて”って言ってたっけ。

 魔術種(エルフ)の人生オールベットって、どのレベルだよ、と思うけど。

 

「本当に、ごめん」

「まあ、別に良いよ。慣れてるし」

「慣れてるのは許す理由にはならないだろ?」

「あ~もう、めんどくさいよ。じゃあハイ、君だから許すっ。悪意なし、一緒に戦って築いた信頼関係。これが許す理由っ。……これで良いかい?」

「そう言われたらこれ以上なんも言えねぇよ」

「君は気にしすぎ。君の真面目なところ、好きだけど冗談が通じない時があるのはちょっと面倒だから変えれるなら変えて欲しいかな」

「頑張ります」

 

薬も過ぎれば毒となる……いや、今の状況だと“分別過ぐれば愚に返る”とか“礼も過ぎれば無礼になる”とかの方が良いか。

 何事も過ぎればダメ。

 剣士らしく物事の間合いをはかっていくか……剣士?

 今の俺って剣士か?

 短剣士? 双剣士? 双短剣士? それとも魔術師? 槍を使う時もあるし槍使い? 殴る時もあるし拳士? わからん。

 てか今の状態こそ“分別過ぐれば愚に返る”じゃねえか、考え過ぎて迷ってるわ。

 

「あ、そうそう。さっきの、冗談でも嬉しかったよ」

「……え?」

「じゃあね、また空いてる日にアイツと三人、探索に行こう」

「お、おう!」

 

 結婚うんぬんはともかく、感想自体は普通に本心だったぞ?

 好感度高いのは事実だし。

 って、ああ、冗談って結婚の部分か。

 どの部分かわかんね~。

 

 俺同様に腰を下ろしていたモルガンは「訓練はおしまいだね」と言って立ち上がり、小走りで去ってゆく。

 ふとその横顔と後ろ姿を見ながら、自分の頬に手を当てた。

 キザな感じに、気取ったような表情や口調になっていなかっただろうかと。

 口説くような、というより口説いているも等しいセリフを口に出し、羞恥が途轍もない。

 最近、人と多く接するようになってから。

 以前の反動が現れたように他人を好意的に見ることが多くなった気がする。

 わかりやすく、端的にいえば“惚れっぽくなった”だろうか。

 そのせいで最近やたらと口を滑らせていないか不安になる。

 

 ……ああ、違う。

 接するようになってからじゃない。

 ノースミナスから帰ってから、だな。

 マユゲに好意を――“愛してる”と言ってから。

 自分の中で“好き”とか“愛”とかの感情が、朧気だけど形を持ち始めて。

 多分その影響で、好きとか愛とかに対する免疫が自分の中にないせいで、惚れっぽくなった、んだろうなぁ。

 

 腑に落ちてスッキリ、という感覚。

 そして同時に僅かな後ろめたさ。

 その好意は果たして本物なのか。

 偽りの好意で接してはいないのか。

 だが直後に、直前の言葉を思い出した。

 真面目“過ぎる”。

 好きとか愛とか、そういう真面目な話だ。

 真面目でいるのは当然のこと。

 けれど、自分の感覚と感情をごちゃ混ぜにしているのが自覚できた。

 

 ははは、ホント迷走してんな、俺。

 好きとか愛とかわからなくても、どういう人間と関わっていたいとかはあったじゃねえか。

 別にないモンが芽生えたワケじゃねえ。

 元々あった感情が整理できて、そこに対してラベリングして自覚しただけ。

 好き、がわからなかっただけで、好き、がなかったんじゃない。

 うん……恋愛感情はおいといて、モルガンを好ましく思っていることに変わりはない。

 ……そっか、俺も少しは“好き”がわかるようになったのか。




 はい、というワケでヒイラギ一一〇日? 一一一日? での変化でした
 力強くなったり、心が少し強くなったり、より他人に歩み寄れるようになったり、好きという感情が少しだけ理解できたり
 表現が上手くできてる気がしないものの、感情は主観だからあまり描写を細かくしないのが正解なのかな、と思ったり
 

 言い訳でしかありませんがね


 今回で一度終了です
 中途半端な感じでモヤモヤしますが、まあ仕方ない
 またそのうち、再開します
 それまでは他の作品でも書いて気分転換をしようと思います(上げるかは不明)

 VEIN
 BloodMoon:Origin
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