ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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作者が鳥頭だったので泣く泣く柊にも鳥頭になってもらいました
すまない、柊


第二七話 保身と現実

「ヒイラギ、今日はやけに早いにゃ」

「ん、おお。訓練してもらうのは今日でやめてな、最後に一回だけ戦って止めたんだ。そんで依頼でも受けようかなって聞きに来た」

「そういうことか、にゃるほど。でもいつもとあまり変わらにゃいけど? ちょっとだけ依頼が増えてるけど」

 

 正直金には困ってないから金重視の依頼はいらない。

 だから依頼選択の基準が面白いかそうじゃないかになるけどあまり増えてないんだったら根本的な問題だ。

 

「どんな感じ?」

「えっと……(とにゃり)街までの護衛、鉱山街までの護衛、海域調査団の募集、王都近辺の森の調査、村近辺の森の調査、盗賊退治、犯罪組織の調査……あとはいつも通り」

「いくつか難易度おかしくない? 隣街はともかく鉱山街までの護衛は遠すぎるし海域も盗賊も犯罪組織も初心者が手を出して良い依頼じゃねーだろ」

 

 この世界に来てから俺も色々調べて、勉強した。

 鉱山街まではかなり距離があり、移動手段にもよるが最低でも一週間はかかるらしい。

 野営経験なし、モンスターを殺したことも人を殺したこともない俺がそれだけの時間をいきなり過ごすのは流石に無理がある。

 海域調査もいつどのタイミングで襲ってくるかがわからない上にそもそも海のモンスターはかなり強いというから精神力も実力も未熟な俺には無理だ。

 盗賊退治は一対多数の戦闘経験が皆無だし相手は同じ人間だから普通のモンスターを相手にするのとは話が違う。

 犯罪組織も同様で、狡猾な手口を使う奴ら相手にロクに経験を積んでいない素人が手を出せば返り討ちに合うだろうし、場合によっては警戒を強められてその後ずっと手掛かりを掴めない膠着状態にしてしまう戦犯になりかねない。

 

「まあとりあえず全部教えて」

「わかった。まずはこれから……一つ目の護衛依頼は依頼主アルフィー、移動手段は徒歩だから大体三日掛かる、経路的に途中で村があるはず、報酬は五〇〇〇アスター」

「三日で銀貨五〇か……安くない? それともこれが普通?」

「ん〜ちょっと安いかにゃ〜。でも費用は依頼者負担だし出てくるモンスターの強さを考えるとそこそこ優良依頼にゃのさ」

 

 なるほど、依頼はそのあたりもちゃんと考えなきゃいけないのか。

 でも確かに遭遇するモンスターの強さは重要だ。

 王都からすぐの街だからモンスターはそこまで強くない、と。

 地形的にも高低差が少なくて良い。

 

「次」

「鉱山街までの護衛、依頼主アマート、移動手段は馬車、一週間、これも途中にちゃんと村があるはず、報酬は二〇〇〇〇アスター」

「やっぱ遠くまで移動するだけあって結構高いな金貨二枚……」

「費用は依頼主負担」

 

 ま、聞いただけで初めから候補に入ってないけど。

 

「次」

「海域調査団、これまでににゃいほど大規模な調査約三〇キロの範囲を調べるにあたって開拓兵全体に募集、期間は一ヶ月、ずっと海の上ってワケじゃにゃくて毎日ちゃんと港に戻る、報酬は出来高払」

「なるほど、死ねと」

 

 壊血病とかの心配がなくていいのは安心だけど弱い開拓兵は雑用、とかじゃなくて普通に戦えっていうのが鬼畜な話だ。

 ぶっちゃけ罠だろ、これ。

 

「次」

「王都近辺の森調査、最近ゴブリンの様子がおかしいらしいの」

「うん……ん? ……うん」

「特定エリアにおける遭遇の増加、生息域の変化、異常行動……具体的には仲間が死ぬと魔石を回収して逃げる個体を複数確認」

 

 ごめん、それ多分、ていうか絶対俺だわ。

 特定エリアでの遭遇増加は薬草採取を命じたから行動範囲が変化したのか?

 薬草集めてるの見られなくて良かったぁ。

 もし見つかったら余計話がややこしくなってたところ。

 それで生息域の変化は同じ理由だろ。

 

「原因を突き止めたら報酬は二五〇〇アスター、原因次第では追加報酬あり。これは色んにゃ人が受けれるから先を越されたら無駄足ににゃる」

「それはヤダな」

 

 せっかく頑張ったのに何もなしとか辛すぎ。

 まあゴブリン相手にするワケだからそこで自然と稼げるだろうけど。

 

「期間が制限されてにゃいから大体の人は普通の依頼と同時並行、片手間で調査してるの」

「それもそうか」

 

 思考の順序が違った。

 依頼の話を聞いてるからつい依頼第一の思考でやってたけど確率の低いことを第一に計画して動くより安定した成果の方を第一に計画して動くのは当然。

 こういう思考回路の差は異世界人だからなのか、開拓兵として未熟だからなのか、それとも単に俺が馬鹿だからなのか。

 正直三番目が一番高いと思うけど。

 

「次」

「村近辺の森調査、依頼主マイヤー村村長マイヤー、この森は王都近辺の森と(おにゃ)じ森、けどゴブリンは森の南側でこの依頼は森の北側、内容(にゃいよう)は村人が森で怪しい人影を見て不安に思ってるから調査してほしい、報酬は三七五〇アスター」

「ゴブリンじゃねーの?」

「私もそう思う。けど目撃証言によるとゴブリンよりも大きかったとか剣を持ってたとか、まあ薄暗い(にゃか)で見たからアテにはできないと思うの」

 

 ゴブリンだって個体差があるだろうし剣だって開拓兵が捨てたか奪われた剣を使ってる可能性だってある。

 入り口付近じゃあまりみないゴブリンも俺のせいで見かけてる可能性があるし。

 ……それを考えたらこれを俺が受けたら完全なマッチポンプな気がする。

 

「次」

「盗賊退治、商人や旅人が襲われて荷物を奪われる被害が多数、暗数を考えるとこの数の五倍以上ににゃる、西の街道で被害があったらしいけど最近は姿を潜ませてるらしい、姿を見た者は少にゃいけど数少ない目撃証言によるとリーダーは男で鼻筋に真っすぐ大きな傷があって片耳がにゃかったらしいの」

「恐ろしいじゃねーの」

 

 認知件数が二件。

 慣れた様子で人殺しに一切躊躇いがなかったらしいから五倍どころじゃないかもしれない。

 人数もそこそこいたらしいし、俺一人じゃ無理だし仲間もいないから他の奴任せだな。

 

「次」

「犯罪組織の調査、街に潜伏していると噂の犯罪組織の手掛かりが欲しいとのこと、人身売買や違法魔道具の取引を主に行ってるらしいの」

「人身売買と違法魔道具……後者はともかく前者は奴隷ってことだよな? 普通に奴隷は街で見るし要するに人攫いで奴隷落ちってことか?」

 

 正直奴隷云々の倫理観は興味がない。

 この世界での奴隷の実態を知らない以上は奴隷って言葉だけで悪だと断罪する気はないし、そもそも俺は圧倒的に少数派(マイノリティ)だ。

 そういう文化だし、現代倫理観無双は相手に対して独善を押し付ける傲慢さとその国の“常識”を個人の“異常”で論破できる論破力がないと前提として無理な話。

 興味がなければそんな論破(コミュ)力俺にはない。

 奴隷の方が幸せだって可能性だって充分あるし。

 

「うん。アホみてーにゃ借金無理やり負わせて払えにゃいからって奴隷にしたり、口実も何もにゃく無理やり奴隷にしたり。違法魔道具は効力が高い代わりに安全性が著しく低いモノとかで、詐欺に使われたりするの。違法魔道具は他にも所有所持するのに許可が必要だったりする高性能魔道具を無許可で売るのにも当てはまるよ」

「ようは無知な奴を騙して食い物にしようってことだな」

 

 やっぱ異世界でもそういうクズはいるもんだなぁ。

 ま、何も知らない香月を良いように利用した俺が言うかって話だけど。

 

「なるほどねぇ、どれも俺にはムズすぎるわ」

 

 戦っていない以上ゴブリンに勝てるかどうかすら曖昧なのに単純に強い奴とか知恵が回る奴とか、難易度高すぎるっての。

 辛うじて隣街ならいけそうだけどしばらくこの街を離れるつもりはないし。

 

「うん、今日はいいや」

 

 頑張るのは良いけど頑張りすぎはダメだし。

 今日は適度に頑張るけど依頼はやらない!

 戦うのは楽しいけど戦闘狂(バトルジャンキー)じゃないし。

 ……あれ? 戦うのが楽しいって時点で戦闘狂(バトルジャンキー)か?

 ……ジャンキーでいいや。

 ジャンキーだからって困ることはないし。

 

「今日はバイバイ」

「おつかれー」

 

 どっちかってーとそっちのがお疲れじゃない?

 

 明らかに疲れているように見える。

 肩は少し下がっているし、書類が溜まっているのも見える。

 仕事だから仕方ないとはいえ一応世話になってるワケだからそのうち労ってあげるのもいいかもしれない。

 

 

 

「おーす、元気か少年少女ども~」

「あ、兄ちゃん!」

 

 子どもは元気だねぇ、ハッハッハ。

 こらこら、お兄さんがいくら菩薩のように優しいからってローキックは止めなさい。

 お兄さんはサンドバッグじゃありません。

 だからってよじ登らない。

 お兄さんは木じゃありません。

 

「みんなッ、ヒイラギさんにそんなことしたら!?」

「いや、まあ全然痛くねーから平気なんだけど」

 

 それに俺は大事なことを思い出した。

 生きる上で大切な三つのこと。

 その一“だらしねぇ”という自分への戒めの心。

 その二“歪みねぇ”という賛美の心。

 その三“仕方ないね”という相手への許容の心。

 これがあれば人生なんとかなる、気がする。

 

「まあ今日用があるのはシャプルなんだけどな」

「そうなんですか?」

 

 前回うっかり忘れていたことだ。

 

「シャプル、前回聞くの忘れてたんだけどマユゲから……風と?」

「……雪、です」

「そっか。……でも今子どもがいるんだよなぁ……」

「あ~……」

 

 流石に子供と触れ合ってるところを邪魔するワケには。

 そう思っているとシャプルは少し困ったような表情をしてから子どもたちを見る。

 

「みんな、私ちょっと用事ができたので今日はもうおしまいです」

「え~!? ……わかった」

「すみませんね」

 

 聞き分け良くていい子じゃねーの。

 世界中の子どもがこんな感じだったら楽なのに。

 

「では、行きましょうか」

「お、おう」

 

 よくわからないがマユゲと会うのはそんなに大事なのか?

 でも仲良くないって言ってたし。

 

「よォ、待ってたゼェ」

「私も会いたいと思ってましたよ」

「……」

 

 意外と平和?

 ケンカはしない感じ?

 ちょっと身構えてたから安心。

 けどシャプルがケンカするの見てみたかったから残念。

 

「ヒイラギ……来ていきなりでわりィが帰ってくれ」

「……わかった。できればケンカすんなよ」

「……理由がない以上ケンカしねェよ」

「なら安心だ」

 

 ま、女子には色々積もる話があるんだろ。

 ヒイラギはクールに去るぜ。




 もし仮に異世界に行く機会があっても現代倫理観無双は絶対にやめましょう
 場合によっては異端者だとして魔女狩りみたく火炙りとかの処刑になりますよ
 その倫理観は我々の世界、というか日本でのみ通用するモノです
 異世界では誰が何と言おうとアナタが少数派で、特殊な世界でもない限りはどこかしらで倫理観のズレがあります
 現代倫理観無双をどうしてもしたいというのなら自分が絶対に正しい、自分こそが全てであるという傲慢な思考の下で認識が違う相手にも絶対に論破されない相手の考えを理解したうえで自分の思考を理解させるコミュ力で頑張りましょう
 じゃないと死にます



 妖精哲学の三信は実際役立ちます
 特に三つ目の許容の心
 例えばムカついた時に“仕方ないね”と脳内で再生しましょう
 楽しくなりますから
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