ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第二八話 宿屋の娘は今

「今日は休みなのか?」

「あン? ああ、オヤジ殿じゃねえの。そうそう、色々片付いたからちょっと休んでんだ」

「オヤジ殿は止めてくれ、俺はクレイオスだ」

 

 そんなカッコいい名前だったのか。

 

「なあ、頼みがあるんだ」

「……要件次第だな」

 

 正直面倒だけど俺は懐の広い男になるんだ。

 流石に違法行為は断るけど。

 

「俺、娘がいるんだ」

「あ~……ああ、たまに見かけた白いちまいのか」

 

 確かに何度か見かけた。

 小柄でふわふわした白髪の女の子。

 夜、仕事を手伝ってたのを憶えてる。

 

「んで? 護衛の任務か何か?」

「いなくなったんだ」

「……詳しく聞かせろ」

 

 いなくなった、つまり失踪。

 何かしらの事故に遭ったか、事件に遭ったか。

 ここまで心配しているということは今まで何も言わずにいなくなることはなかったか、長時間いなくなることはなかったということだろう。

 

「朝、アンタら客がいなくなってからあの子に買い出しを頼んだんだ。いつも頼んでることだった、いつもなら半鐘しないくらいで帰ってきてたんだ」

 

 半鐘っていうと一時間だな。

 正確に三六〇〇秒かは知らないがまあ測らなくて良いだろう。

 世界が違うんだから自転速度とかも違うだろうし。

 ざっくり一時間で問題ない。

 

「けどもう三鐘しても帰って来なくて」

「流石に遅いな。……なんで俺なんだ? 衛兵なりなんなりに言えばいいだろうが」

「言ったさ! だが証拠も何もなしにただ三鐘の間帰って来ないだけじゃ動いてくれない!」

 

 そのあたりは警察と同じか。

 とはいえ証拠も何もないんじゃイタズラを疑うのも確かだしなんの手掛かりもなしに動いても徒労なのは目に見えてるからその行動は責められない。

 

「出せるモンは?」

「金貨一枚くらいしか……」

「まぁ、それで良いだろぉ。……成功報酬金貨一枚それで探してやる」

「ほ、本当か!?」

「ただし、覚悟はしとけ」

「なんのだッ……」

 

 鈍いのか?

 それとも慌てて思考がそうなってるだけか?

 いや、そうじゃないな。

 この面は気づきたくないっていう現実逃避の面だ。

 

「最悪の場合だよ」

「殺されてる、そう言いたいのか……」

「場合によっちゃ、わかるだろ?」

「ッッ」

「ちまいがあの見た目だ、そういう奴らにとっては極上の食いモンだろぉよ」

「やめてくれ……」

「殺されてんのはマシな結末だ」

「頼む……やめてくれ……」

「嬲られるか、よくて奴隷だな」

「やめろ……」

「まあ奴隷に落ちたら結局同じ運命か」

「やめろッッ!!」

「……そぉだな、こんなところで油売ってたら手遅れになっちまうからな」

 

 現実を突きつける。

 相手にとって嫌なことだってのは理解の上で。

 俺はそれでも容赦なく現実を突きつけよう。

 下手に確約して、助けられず、逆上されて殴られるのはごめんだ。

 それに、傷つくのなら前もって覚悟してる方がマシだろう。

 

「あのチビはどこに買い物行ったんだ?」

「エーベルヴァインは……北の大通りにいつも行ってた。開拓兵を見るのが好きだって……」

「わかった。……経営不振にならんよう精々仕事でもして待ってろ」

 

 北の大通りは確かに冒険者が多い。

 遠方から帰ってきたり、向かったり。

 近くには俺も行っている王都近辺の森があるから初心者も多くいて、実力様々な開拓兵を見れるだろう。

 

「なあ、このくらいの小さい女の子を見なかったか? 白くてふわっとした感じの」

「いや知らねえ」

「そっちのアンタは? このくらいの女の子で白くてふわっとしてる」

「知らん」

「なあ――」

「急いでる」

 

 声をかけても目撃者はおろか、そもそも話を聞いてすらもらえないことが多々。

 数を撃っても意味はないだろう。

 だとすればするべきは手当たり次第に聞いて回るんじゃなくて可能性の高そうな相手を選んで効率よく聞いて回る。

 

「だけど誰に聞く? 人も店も多い、六時間前の人間を憶えてる奴はいるのか? そもそもその時いた人間が今もいるとは思えない。いるとして店の人間、けど店も多いし……」

 

 視界に映るだけでも数えきれないほどの店がある。

 人もいる。

 この中から数少ない正解を見つけ出すのは困難だ。

 

「エーベルヴァインの知り合いに聞く? 誰が知り合いか知らねえだろうが。エーベルヴァインが買い物してるであろう店に話を聞く? どこで買い物したかなんて――」

 

 考えを纏めるため口に出していると不意に何かが引っかかって思わず口が止まる。

 どこで買い物をしたかなんてわからない?

 本当にそうだろうか。

 まず第一に宿屋での買い出し。

 夜に出す食事の買い出しだ。

 だとすれば見せ場食糧を売っている店に限られ、その中でも店のメニューに使われている食材、そして安く仕入れられるかが重要。

 

「肉、野菜、魚……」

 

 大まかな場所は買いに行く客の服装でわかる。

 今日の晩のメニューは肉とスープとパン。

 材料を買える店はそれぞれ――。

 

「なあ、このくらいの大きさの白くてモフッとした女の子を見なかったか?」

「あ~、見たねぇ」

「本当か!? どんな様子だった?」

「どんなも何も、いつもと変わらなかったよ」

「そうか……悪いな」

 

「このくらいの白くてモフッとした女の子見なかったか?」

「見た」

「どうんな様子だったか憶えてるか?」

「昨日と同じだった」

「そうか、ありがとうな」

 

「このくらいの白くてモフッとしたエーベルヴァインって女の子見なかったか?」

「見たよ、いつも通り可愛かったねぇ」

「そうか」

 

 ダメだ、誰に聞いても手掛かりがない。

 派手に動きすぎると攫ったであろう奴らに気取られて逃げられかねないし。

 どうする、どうすればいい?

 …………?

 派手に動きすぎると?

 そうだ、そもそもこんなに人通りの多いところで人攫いなんて起こるのか?

 宿からここまでにそんな道はない。

 道的にショートカットのために人のいない路地を通るなんて必要もないから普通はありえないはず。

 ならなんで連れ去られた?

 路地に行ったところを?

 誰かに連れられて?

 騙されて?

 路地に行く必要はない、そこに目的は何もない。

 ……目的があった?

 一体どんな?

 男たちの怪しげな取引現場を目撃した?

 そういえばこの街には犯罪組織がいるって……。

 いや、ずっと見つかってない犯罪組織が人目につくかもしれない場所で取引なんてするか?

 

「くそっ、想像に想像を重ねても答えなんて出ねぇ……」

 

 焦るな、苛立つな。

 冷静に、冷徹に。

 正しく動くため感情を動かさないクズで在れ。

 こうなった以上手当たり次第に探すしか現状手がない。

 かといってそのまま動いてたら時間がかかりすぎる。

 せめて犯罪に利用されそうな物騒な人気のない路地の情報を得てそこを重点的に――。

 

「――シャプル!!」

「ひぅッ!?」

「どォした?」

 

 孤児の面倒を見る者として近づいてはいけない場所なんかは知っている可能性が高い。

 

「人攫いが起こりそうな危ない路地を知らないか?」

「人攫い、ですか?」

「……なるほどなァ、そォいうことか」

 

 流石に説明はいらないか。

 

「そォだなァ……シャプル」

「ええ」

「どうしたんだ」

 

 二人とも何か知ってるのか?

 もしかしてそういう場所に心当たりがあるとか、マユゲは結界を張ってるからそういうの感知できるとかそういうのか?

 

「まず街にいない可能性がある」

「なんでだ、自分から街の外に出たってのか?」

「いや、門はワリと雑な警備だからなァ、兵士のタイミングによっては魔術使えば騙せンだよ」

「マジか」

「賄賂だので見逃す奴もいるし、そもそも手下って場合もある。あとはァ奴隷(しょうひん)として運べばワリと簡単にできっからなァ」

 

 想像以上に厄介だな。

 そのあたりは兵士が悪いってよりかは単純に狡猾で巧妙なんだろう。

 

「……ヒイラギ、おめェ今日どこに行ったァ?」

「ヒイラギさんは今日ギルドに行ってます」

「ならそこでのことを思い出してみろ」

「ギルドでのこと?」

 

 大したことはやっていない。

 訓練をして、依頼を受けようとして受けなかった。

 訓練の内容はいつも通り。

 だとしたら依頼?

 依頼を受けようとしたときに何かあったってことか?

 確か……隣街までの護衛、鉱山街までの護衛、海域調査団の募集、王都近辺の森の調査、村近辺の森の調査、盗賊退治、犯罪組織の調査。

 ……。

 

「もしかして盗賊退治、いや、犯罪組織の調査か?」

「どっちかはわからねェ。どっちでも考えられンだよ。盗賊つっても下っ端はほとんど顔が割れてねェからなァ、何食わぬ顔で潜り込めるし襲った商人によってはそいつに成りすまして、なンてこともできる」

「なるほど……でも外か、広いな」

「よく思い出せ。盗賊の発見された場所、現在の動向、その後を予測しろォ」

 

 場所?

 確か西の街道で襲撃を受けたって話で、現在は身を潜めている。

 身を潜めている……潜伏。

 確かリーダーは顔バレしてるって話だったはず。

 じゃあ街には入れないはずで……街の外に潜伏?

 位置的に近いのは北の森……。

 

「盗賊たちは北の森にいて、攫われた女の子もそこにいる可能性が高い?」

「あァ、考えるのが遅すぎるが、まァそういうこった」

「助かった! お礼はまた今度――」

「待て!」

「な、なんだ?」

「こいつを持っていけ」

 

 宙を舞う黒い石の嵌まった指輪。

 見た目はまるで魔石のようだが少し違う。

 魔石は中が星空のように煌めいているが、この黒い石は黒水晶(モリオン)のように純黒であり、けれど魔石のように時折中が輝きを見せる。

 

「そいつァ魔力貯蔵のための指輪だ。困ったらそいつを使え」

「ありがとう! 流石俺の愛するマユゲだ!」

 

 頼りになる。

 依存しそうなレベルで頼りになる。

 ホントこの世界の男の目は節穴なんじゃないのか?

 

「……」

「ヤメロ、こっちを見るンじゃねェ」

「……」

「マジでやめろ」

「…………」

「あのヤロォ、余計なこと言いやがって! ……嫌ではなかったけど!!」

 

 

 

 この森のどこにいるんだ。

 流石に浅い場所にはいないだろうけど。

 かといって中央付近は危ないはず。

 今は数が激減してほとんど姿を見ないらしいけど昔は岩纏熊(ストーンベア)がいたって話だ。

 もしいたら並みの強さなら死ぬらしい。

 ……いや、そう思わせてその場所に隠れてるのか?

 

「どこにいる? 俺ならどこに隠れる?」

 

 俺なら……人の来ない場所に。

 そうだ、俺はゴブリンを利用するために何度も人のいない場所を探してるし使用してる。

 そこの辺りなら。

 ……いや、冷静になれ、俺程度が思いつくこと真の悪党なら秒で想像できるし盗賊を探してる奴らも簡単に思いつくはず。

 その上でいないはず。

 そこを探したうえで見つかってないはず。

 だとしたらどこだ。

 考えろ……考えろ……。

 そもそもそのあたりは俺が行ってる、あまり人がいかないだけで絶対に行かない場所じゃない。

 だとしたら……行っても意味のない場所か!

 そもそもメリットのない場所なら万が一来てもすぐ帰る。

 いや、もっとだ。

 そう考えたうえでより深く。

 人が近くまで来るがそこに関心を向けないような場所、そして隠れやすい。

 

「……川辺の洞窟。正確には川の近く、茂みの辺りに洞窟があるって……」

 

 この辺りの地形図にほんの少しだけ記載があった。

 特徴はほとんどなくてただの洞窟。

 何も住んでいないし何も採取できない。

 穴。

 

「確か向こう側……」

 

 ある程度近づいた辺りで動きを止める。

 盗賊が見張りをしている可能性があるからだ。

 

「――[洞窟の手前まで行って誰もいなければ止まれ、いれば襲い掛かれ]」

 

 ゴブリンを探し、完全催眠で索敵に向かわせる。

 俺は反対方向に回って身を隠しながらゆっくり近づく。

 遠目では誰もいなさそうで、洞窟自体はかなり広そうだ。

 すると洞窟に近づいていっていたゴブリンが立ち止まる。

 

 誰もいない?

 考えが外れたか?

 

 そこそこ自信があっただけに少し残念しつつ一応様子を窺いに洞窟入り口に近づく。

 観察眼は鍛えていないからここ最近出入りがあったかどうかはわからない。

 入り口には古びた鳴子が落ちている。

 朽ちて、切れた鳴子でかなり古びているのがわかり、少なくとも数十年は経っているだろう。

 

「……ん?」

 

 よく見るとその切れた鳴子は何者かによって蹴られ、ワイヤー部分がズレた後があった。

 地面には錆の線が描かれていて、ワイヤーが今ある部分にはその錆の線が描かれていない。

 

 当たり、か?

 だけど今突撃するのは危険だな。

 敵の数が把握できてないし、罠も確認できてない。

 

「……[叫べ、そして俺と戦いを演じろ]」

 

 再び完全催眠でゴブリンを操る。

 

『ガァアアアアアッ!!』

 

 その叫び声は洞窟の中に反響し、俺はゴブリンと戦いを演じる。

 短剣を構え、以前の動きを思い出しながら攻撃のフリをして、ゴブリンはそれに合わせて避けたり反撃のフリをした。

 

「ゴブリンか!」

「てめぇッ!」

 

 大きな足音を響かせながら奥から二人の男が出てくる。

 盗賊というには普通の顔で、少し拍子抜けだが人を騙すというのならそういうモノだし盗賊は生まれながらに盗賊ではなくただの人間だから当然だ。

 

「って、なんだ雑魚開拓兵が雑魚相手に苦戦してるだけか」

「ちッ、おい、どうする?」

「帰らせるに決まってるだろ」

「けど場所知られたし」

「平気だろ、こんな奴」

 

 話し合いながら近づいてくる男たちは武器を構えると俺がゴブリンから距離を取ったタイミングで勢いよくゴブリンの首を刎ねる。

 

「その魔石はやるから帰んな、この辺りはまだお前には早いよ」

 

 何も知らなければ騙されそうな笑みと態度でそう説いてくる男たち。

 けれど聞こえにくかったとはいえ近づきながら話していたから「場所を知られた」という部分は聞こえていた。

 場所を知られたらマズい時点で真っ黒確定である。

 

「[俺に従え]」

 

 問答無用で俺は洗脳をした。

 利用価値があるから即座には殺さず、洗脳を施して俺に危害を加えられないようにしていくつかの命令を下す。

 そうして俺は潜入のために拳を横に並べる形で両腕を差し出し、縄で縛られて洞窟の中へ入っていった。

 

 




 この世界はざっくり我々の世界と同じ時間です
 一日二四時間で、街では四時から二〇時まで二時間おきに合計九回の鐘を鳴らして時を告げます
 鐘はそれぞれ音の異なる鐘を鳴らすことでどの時間かを知らせます
 例えば四時(第一鐘)なら一番高い鐘を、正午(第五鐘)なら少し低い鐘と一番高い鐘を、二〇時(第九鐘)なら一番低い鐘と一番高い鐘を
 二進数でやるわけです


 岩纏熊(ストーンベア)はかつて王都近辺の森にいたモンスターで、今は王都近辺の森では見かけません
 同じように王都近辺の森には狼タイプのモンスターがかつては多くいましたが現在ではかなり奥地に行かないと見られません
 ちなみに洞窟の鳴子は岩纏熊(ストーンベア)と戦った数十年前、もしかしたら百年ほど前の開拓兵が設置したモノです
 その開拓兵は男女のペアで、岩纏熊(ストーンベア)と戦い辛勝を収めるものの互いに満身創痍になりながらもなんとかこの場所までたどり着き、身を休めるため警戒として設置しました
 なんの偶然か、今回はその当時と同様に二人の男女が洞窟で運命の分かれ目に立つことに
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