ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「んっ、地味に刺さるな」
この世界に来てすぐに靴は新しいのを買った。
動きやすくも靴底の硬い靴を基本は履いている。
以前の靴は平坦な道を歩くための柔らかい靴底だったからだ。
柔らかい靴底は平坦な道を歩く分には疲れにくいが凸凹した悪路を歩くには不向き。
だから森を歩くときなんかは今の靴を履いていたのだが、土の一切ない場所は盗賊のいた洞窟以来。
あっちの洞窟は人の出入りである程度平坦になっていたがこっちはかなりごつごつしていて足に刺さるような感じがする。
「あんま無駄には動けんな……」
慣れが必要な硬い靴もある程度慣れていたのだが、状況が悪化したせいでその慣れがあまり意味を成さない。
さてどうするか。
見せてもらった地図だと道の分岐はあまりないみたいだけどすぐ横に水が続いてるから余計に神経が磨り減るんだよなぁ。
それに壁とか掘ってきたらどうしよ。
正確には海だ。
そもそもこの洞窟自体、海蝕洞だからそこに海水が伸びているのはおかしくはない。
幸い現段階では干潮なのもあって深くても足の甲辺りの高さだ。
けれど進むにつれて海水側の底は深まり、海水に高さが生まれる。
そうなると
「……ん? 何か引っかかるような……」
生じた違和感。
視線が水面に引き寄せられ、けれど違和感の正体は依然不明。
「ッ! 敵か」
肌にまとわりつくような気色の悪い気配。
まるでヌタウナギが肌を這うような感覚に嫌悪感を抑えきれないまま短剣を構え、足音を極力消しながらゆっくり奥へと進む。
嗅覚強化を施し、その応用で視覚と聴覚も強化した。
ピチ、ピチ、と湿った人間にに似た人間ではない足音が洞窟に複数。
一体の姿を確認した俺は立ち止まり、魔術を構築し始める。
魔力を喰うが悟られにくく殺傷能力の高い【
『グォッ!?』
鈍く短い断末魔の叫びを残してそいつは死んだ。
持っていた三叉槍はパシャリと音を立てて水となり、数枚の鱗と魔石を残して霧散する。
「ふぅ……緊張した」
初めて相手にするモンスターとはやけに緊張する。
とはいっても現状遭遇したモンスターなんてゴブリンと
残ったドロップアイテムを回収し、耳を澄ませると複数の足音が複数の通路から近づいてきているのがわかった。
なら遠慮する必要はないと俺は【
そして戦いやすいようにいくつかの通路を超えて少し奥の広い空間で待ち構えることにした。
「よっしゃ来いやッ。……やっぱくんな!」
数が多い。
正確な戦力が不明な以上あまり多くを相手取りたくないのが本心。
既に灯りで魔術を使っているからあまり複雑な魔術は行使できない。
するとしたら灯りを消すことになる。
「俺は人間だ……人間の真価は思考だ……数で劣るなら戦況は俺が造るんだ」
弱者として強者に成るための武器の駆使。
弱い俺がそれを使わないのは勝ちを捨てるのと同義。
無意味に負ける気はさらさらない。
『ギャッギャッギャッ!』
「
魔力を圧縮してそのまま飛ばす魔術に分類されない魔力弾。
その応用で剣身に纏わせた魔力を斬撃として飛ばす。
ほんの僅かな光と光子を散らしながら直進する斬撃は狙いよりも少し上に反れて
「つかホント多いな、くそっ」
一〇を超える集団。
正確には奴らの武器である三叉槍が魔術で構築されているから複数の魔術行使はできないらしい。
だから俺を包囲できる数でしか基本的に戦えなく、一〇だろうと五〇だろうと戦闘継続時間以外の違いはないのだ。
槍での攻撃を突き、払いと考えて槍のリーチ的にできて六体での包囲が限度。
壁際で戦う、立ち回る、通路に入るなど手段によっては六体未満に減らせるからもっと楽にもなる。
「まずはサシで勝負だッ」
簡易的な魔術。
土の生成で短時間だけ足止めをして一体だけを誘き出した。
『ギャァッ!』
汚い咆哮。
顔目掛けて迫って来る水の三叉槍。
直線的で、軌道の視覚情報もほとんどなく槍がそのまま大きくなるようにすら見える。
驚くほどに速いが避けられないほどではない。
「ッ!」
左へ上半身を傾け、そのまま倒れ込むように前に進んで
すれ違うように立ち位置を変え、再び向き合うと不意に右耳が痛んだ。
「なんだこれ……」
素早く耳に触れて確認をする。
指先が紅い。
触れた時の感触もおかしかった。
耳が切られている。
「ちッ、油断した」
避けたつもりだったのだが避けきれていなかった。
情けない。
「死ね」
端的な殺意をぶつけながら短剣を振るって斬撃を飛ばす。
だがそれは三叉槍によって防がれてしまった。
……さっきのを見て遠くで剣を振るったら攻撃が来るって学習したのか。
クソッ、もうちょいわかりにくくするべきだった。
いや、そうなると威力が落ちる。
……威力が低いと油断させておいた方が良かったか?
……反省は後だ。
今は目の前のこいつに集中。
「おらッ!」
斬りかかるが効果はナシ。
槍に防がれ橙色の軌跡はピタリと止まる。
速攻で右足で足払いを仕掛けるが圧倒的な体重を俺の技術ではどうすることもできない。
2メートル100キロッ。
こんなに違うのかよッ!?
自分との圧倒的格差。
俺と
どれだけ力を貯めるための安全な時間があっても、完璧な蹴りを入れても倒せる気など全くしなかった。
『ギュッ!』
「ッぶね!」
距離を取ろうと後ろに跳んだ瞬間。
青い三叉槍が迫ってきた。
場所は宙。
回避しようにも足が地面についていないからロクに動けない。
どうするッ、どうする!?
捻る、回転するだけ。
身体を倒す、動ける距離がほとんどない。
――そうか、これがある。
すぐ左手を横へ突き出した。
同時に魔力を込めた。
重量の増加。
エネルギーの追加によって俺の上半身は引力を持ったように左へ引っ張られる。
身体が横に回転し、倒れた。
よしっ。
それと同時に首と捻って
三叉槍の姿を追う。
頬を撫でる感触を代償に、俺はさっき攻撃を受けてしまった理由を理解した。
「形状操作なんてありふれた手口に俺が引っかかるとはな」
漫画なんかじゃよく使われていた手法だ。
だからこそ作品でそういうのをよく見てきた俺としてはそれに引っかかったっていうのが憧れの一つをこの身で受けたという意味で楽しくもあり、三叉槍が水でできているという要素から想像できそうだったという見落としという意味で悔しくもある。
「礼も兼ねて苦しまないように殺してやんよ」
威嚇の笑みが漏れた。
単に俺の殺意を感じ取っただけかもしれないが、奴は身構えた俺に合わせるように槍を構えた。
「すぅぅぅぅ」
息を吸う。
息を止める。
そして小さく息を吐き出しながら一気に加速した。
距離を一気に詰め、左手を右側へ思い切り引きつける。
明らかな
すぐさま大きく避け、そのまま懐に潜り込むと今度は三叉槍が大きく縦に一回転して頭上から襲いかかって来る。
「ぬらッ!」
引きつけていた左手を上へと一気に開放し、その威力で三叉槍を跳ね上げた。
ガラ空きになった胸。
橙色の一閃がその胸を貫き、奥に秘めた硬質をも砕く。
カランと落ちた三叉槍は持ち主の死とともにパシャリと水へ戻って地面を湿らせた。
「オーケー、勝てねぇこたぁねぇ。イケるぜこれはよぉ」
この数を相手にして、勝ち目あり。
その事実は本能を刺激し、獰猛な笑みを引き起こす。
成長の実感。
勝利の快感。
最高という他なく。
俺はそこに
青い三叉槍:材質は水ながら打ち合えばその硬さがわかる
この三叉槍は魔術でできているが
稀に槍を残す個体が存在し、その個体は大体だ長である
槍を残すのは魔術が固体化したからではないかと言われており、槍を残す個体はどれも長生きで大柄な歴戦の強者なため討伐は困難
希少性、実用性、研究価値などから様々な層に高値をつけられる