ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
避けて、攻める。
言語化すればたったそれだけのこと。
その二動作に俺の全神経は注がれていた。
「ノルマ100とかっ、キツっ」
試験内容は
レベリングのために敵を倒しまくるのはゲームだと当然だったからか、やる前は一〇〇など余裕だと思っていた。
けれど実際にやってみるとその大変さがわかる。
いつ訪れるかもわからない増援、五感を強化しないと把握しきれない全方位の情報、いつも以上の情報量は脳へも絶大な負担をかけ、ありとあらゆる疲労が襲い掛かって来る。
「ふざっ……けろっ」
今現在、倒せているのは三〇と七。
戦っているのが八。
「【
火系統の魔術というのは実にいい。
難点があるとすれば今放った【
まあ使用者の場合は同じ魔力による反発だかなんだかで自傷ダメージはないのだが。
「あ゙ぁ゙、疲れた」
消費が少ないとはいえ広域にすれば増えるのは必然。
これまでの魔術行使も合わせて魔力残量は半分を切っている。
これだけやってもノルマの半分にも満たない。
しかもこれが一般。
つまりは『普通』だというのだからなんとも恐ろしいものだ。
「流石にそろそろ休憩――」
不自然に風の音が一つ消える。
反響する爆音。
揺らぐ爆風。
それらを掻き消して、穴が開いた。
咄嗟に反応し、目を向ける。
死にかけの
「――ッ!? ッぐゥッ!!」
防御は間に合わず。
正しくは振り向きざまに上がっていた左腕が壁となって防御にはなった。
「クソッタレ!!」
腕の中で水になる。
同時に蓋となっていたモノが消えたことで腕から大量の血が流れ出る。
すぐ荷物の中から
シュゥと煙を発して傷が塞がった。
「腕思うように動かん、頭クラクラする……」
左腕の軽度麻痺、立ち眩みに似た症状。
流石に俺が用意できるモノの効果じゃこんなモノだろう。
もう一本飲めば血も戻るかもしれないがそれをするとポーション酔いを起こすかもしれないし。
そうなったら立ち眩みの症状以上の症状でロクに戦えなくなって本末転倒だ。
「てか、俺何時間戦ってる?」
ダメだ、わからない。
空腹の感覚も曖昧だ。
疲労で食欲がない。
時間感覚が消えている。
こうして思い返すと完全に外の情報がない状態で長時間戦ったことがなかった。
盗賊との戦闘はすぐ終わり、ゴブリンとの戦闘は薄暗いながらも陽の感覚は確かにある。
外の情報がないのは初めて。
五時間六時間は戦っている気もするし、疲労でそう思うだけで一時間くらいしか戦っていない気もする。
ペースも一体に掛かる時間も違うから全くアテにならない。
「……そろそろ帰るか」
まだ行けるはもう危ない、ってのはゲームの言葉だったか。
その言葉は実際本当だと思う。
つまりは油断大敵ということなのだから。
「……ちっ、来てやがんなぁ」
背後からの足音。
何事もなく返してくれはしないらしい。
「しゃーねえ、返り討ちにしてノルマ半分達成にするか。海水の所為で動ける範囲が限られてるけど退避できるから問題ないだろ」
潮が満ちて足場が狭くなっているが今いるここはもう一本道だから通路からの増援もない。
いざという時に逃げられるのなら戦っても問題ないだろう。
「来いッ!」
『ギェギェッ!』
牽制として魔力弾を撃ち込む。
油断した頭に当たったから
『ギェッ!』
真っすぐ腹に目掛けて突いてくる。
それを左で払い切りながら前に踏み込み、右で首を切る。
すると他の
左は間に合わない。
そう考えて俺は踏み込みの勢いをそのままに首を切った
ダメージを負っていた
胸を刺してやろうと左手を握る力を強めた瞬間、苦痛の中にいたそいつがせめてもの報いとばかりに俺に飛びかかってきた。
咄嗟に避けようとするが距離の所為で間に合わず。
その鋭い牙は俺の肩に食い込んだ。
「ぐぁッ!!」
ぐちゃぐちゃと嫌な音を発しながら牙が深くまで潜り込む。
幸い、死によってダメージの加速は止まった。
あとは
けれど痛みで思考を失った意識は追撃を忘れていた。
直前で迫る矛先に気づきなんとか防御には成功したがあと一瞬でも遅れていたら死んでいたかもしれない。
それほどまでにギリギリだった。
「ヤベェ、目が霞む……腕も」
動かすたびに肩が激痛を訴える。
無視すれば動かせるが痛みが強く、どうしても動きが鈍ってしまう。
ロクに戦える気がしない。
「ぁ……」
徐々に打ち合いの衝撃に身体が耐えられなくなってきている。
力が入らないせいで肉体が脆弱だ。
打ち合うたびに腕が一瞬痺れる。
ここで死ぬ。
そんな考えが思考を占領していた。
「死んでッ、たまるかッ……」
何もできていないのだ、死ぬわけにはいかない。
そんな思いとは関係なく背後でパシャリと水音がした。
目が向く。
目が合った。
「は……」
背後には
ワケがわからない。
一瞬思考が凍てつく。
けれど思考を止めるワケにはいかないと本能が無理やり思考を動かした。
そしてそいつらが出ようとしている水路を見て理解する。
外から戻ってきたのだと。
満潮で深みを増した水路。
広く深くなったことで音を発さないで近くまで来ることができたのだ。
「テメッ! [動くんじゃねぇッ!!]」
槍を投げようとしている姿を見て、無意識に言葉に魔力が籠る。
が、すでに遅く三叉槍はその手から離れていた。
もう間に合わない。
そう理解しつつも最後まで抗おうと腕を持ち上げた時、三叉槍が姿を消した。
何故消えた?
幻覚。
転移。
何処に?
わからない。
防げる?
わからない。
それでもとさっきまで見えていた軌道上まで短剣を構えようとすると近くからこの場にはふさわしくない金属音を伴った着地音が響いた。
「良い根性だぜ! あとは俺に任せろィッ!!」
若い男の声。
その手には青い三叉槍。
男がその三叉槍を構えると突風が吹き荒れ、投げ放つと次の瞬間には水路の海水が爆ぜていた。
「すげぇ……」
投げた瞬間から着弾まで。
一切見えなかった。
だけどこの男がやったのは一目瞭然。
まさに
「スゲーって? そりゃ当然っ! 俺だからなあッ!!」
セリフだけならただのカッコつけとしか思えないだろう。
けれど事実として、そいつは最高にカッコよかった。
ニッと笑みを向けながらも敵を倒す手は止まらない。
同じくらいの歳であろうに強さが違いすぎる。
「よしッ、終わったぜ。変えろーぜ、リンさん心配してたしな」
「……あ、あぁ。助かりました」
「別にかしこまらなくて良いぜ。大体同じだろ?」
「一七だ」
「ほらいっこ上、大して変わらねーだろ」
その言い方ってことは一六歳なのか。
パネ~。
「俺はデューベ。アンタは?」
「……俺はヒイラギ、さっきは助かった」
「いいってことよ。愛しのリンさんに頼まれたら断れねーしよ」
「さっきから言ってるリンさんってのは?」
「あれ? 聞いてないのか? 受付にいたろ」
「
「そうそう。あ、先に言っておくけど俺の彼女だから手は出すなよ?」
「そうか……ん? マジで!?」
ガチで驚いた。
別に親しくないから興味は全くなかったけど歳の差……ってそれは俺とマユゲの方が離れてるか。
いや、それ抜きにしても一六で多分二〇超えた年上と付き合うって……スゲー。
モテ男かよ、ってモテ男の要素は充分か。
強いし、頼まれたとはいえ俺を助ける優しさあるし、ついでにイケメンだし。
「スゲェな、……ハーレム?」
「流石にまだ二人だよ。今の俺じゃこれが限界、ヨエーもん」
「おっふ……」
リアルハーレムお疲れ様です!
つかさっきので弱いって、マジかぁ……。
あの強さで養って守れるの立った二人なの?
道のりは遠いなぁ。
「なあ、礼といっちゃなんだがなんか奢らせてくれないか? あんま高いのは無理だけど」
「お、マジか? なら良い店知ってるからそこに案内してやるよ」
「ちゃんとしたお礼はそのうちしっかり返すから、とりあえずな」
「別に気にしなくて良いぞ。よくあることだし」
「お、おう……」
マジか。
主人公かい? キミ。
人命救助がよくあることって、修羅場慣れしすぎじゃない?
そりゃ強くもなるわ。
実はというと【洗脳】で動きを止めていたからデューベが来なくても無事脱出はできてた
投げられた三叉槍も辛うじて防げたし、倒せもしたから本当の意味では命の恩人ではないけど、ヒイラギは命の恩人だと思ってます
デューベが来た理由は作中でも言っている通りリン(受付嬢)が帰りの遅いヒイラギを少し心配して頼んだからです
つまりはヒイラギの帰りが遅い限りは登場は確定事項
ヒイラギがボロボロだろうとピンピンしていようとどれだけ奥まで行っていようと関係なくデューベは来ます
デューベからは逃げられない
ガチ目に主人公気質なデューベ君
ちょっと鈍くはあるけど難聴ではないしアホみたいな勘違いもしない系モテ男
ヒイラギはこの優しさを見習え