ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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 いつもの倍近くなった……まあいいや


第四七話 水平線の向こう側は

「……多くないですか?」

「や~、うっかりうっかり。昨日集めた分を数え入れるの忘れてて今日だけで一〇〇倒しちゃったよ」

「……そうですか」

 

 反応薄くない?

 もうちょっと『凄いですね』みたいな感想を向けてくれても良いんだよ?

 って、もっと凄いデューベが彼氏なんだからそうは思わんわな。

 んじゃ戻ったらマユゲに褒めてもらおっと。

 ……それもムリか。

 アイツがこんなんで褒めるとは思えねーし。

 

「これで良いんだよね?」

「はい。試験なのでその分の報酬は出ませんがそれ以外の余剰魔石と鱗などの素材の買い取りは可能です」

「んじゃ買い取りでよろしく」

 

 昇格で色んな権利くれてやるから金寄越せ、ってのを手っ取り早く試験で徴収した感じだろう。

 実に合理的だ。

 ちなみに開拓兵はかなり自由でワリと適当に見えるがその実この国で最も税金を納めている職業である。

 理由としては“ギルド”と言う組織に商人のほとんどが属しているから。

 一般人なら普通は持たない商人との繋がり。

 自力でコネを作って、買い取り額の交渉をして――としていたら手間だし生活が苦しいギリギリの状況からそれをやっていたら間に合わない場合が多い。

 だからギルドは少し安めの定額(・・)で素材を買い取ることでその初期における最重要要素である時間(・・)を大幅に稼ぎ、そしてその少しぼったくられた分はギルドに入る。

 ギルドは国営だからつまりはそこの一部が国費になるのだ。

 

「おぉ、これまでと全然稼ぎが違う」

「貴方は一般開拓兵です。一般開拓兵は買い取り時の買い取り額が少し低下しますがその分の基本的な値段設定がそれまでとは全く異なりますので稼ぎが増えます」

「なるほど」

 

 ギルドが買い取りを行うメリットは他にもあるらしく、曰く経済の安定(・・・・・)犯罪の早期発見(・・・・・・・)だ。

 (ギルド)が買い取りを行うことで素材価値の変化による急激な価格変動を防止することができる。

 例えばAという素材があって、その使用目的と被るがA以上の効果をもたらしより簡単に入手可能なBという素材が見つかるとして、そうなるとAという素材の価値は急落してAを主な収入源としていた者やその在庫を大量に抱えていた商人は大幅な損害を被る。

 けれど(ギルド)が買取価格やそれによる物流制御を行うことで国費を使って価値の急落したAにしばらくの間価値を持続させることが可能だ。

 急速に価格が下がることによって起こる経済損失を、緩やかに価値を下げることで防止する。

 犯罪の早期発見は単純だ。

 もし素材が異常な値段で取引されていればそれが高かろうと低かろうと犯罪に繋がっているとわかる。

 これが民営だったならば把握していない原因による価格急変が可能性に含まれるから犯罪とは認識し辛いが、国営ゆえに価格と犯罪の二点を結ぶことができるのだ。

 

「んじゃ試験も終わったことだし王都に変えるわ。あんがとね」

「はい?」

「え? まだ何かあった?」

「いえ、もう夜なので船はもう出てませんと」

「……あ」

 

 そうだぁ。

 この時間じゃ船出せねえわ。

 帰れねぇ。

 この時間から宿探して見つかる?

 最悪野宿?

 

「一応聞くけどさ……ギルドに泊まることって……」

「難しいかと。試験期間中であれば可能ですがヒイラギさんはもう既に試験を終えましたし」

「ウボァー」

 

 どうしよ。

 この街の宿屋ってどこだ?

 ギルドに泊まれば良いって認識でいたから宿屋なんて視界に入ってても認識してないし。

 

「よう、お困りのようだな」

「デューベ……」

 

 なんだその主人公の強さアピールの為だけに知能と倫理観を削られたテンプレ先輩冒険者みたいな声の掛け方は。

 お前は主人公キャラだろうが。

 

「泊まるところないなら俺んち来るか?」

「良いのか?」

「泊まるスペースはあるからな」

「……なら頼む」

 

 せっかくの厚意、無駄にするワケにもいかない。

 俺もワリと本気で困ってるし。

 

「相変わらずね、デューベは」

「はは、困ったときは助け合わないとな」

「そう言って私たちには全然助けさせてくれないくせに」

「……ははっ」

 

 わぁ、主人公の優しさアピールに使われるモブってこんな気持ちなのね。

 オレはクールに去るぜ……去りてぇよ。

 でも今いなくなったら宿にも困るし気づかれるし。

 

「それじゃ、行くか」

「お、おう」

「?」

「気にすんな」

 

 短く終わって良かった。

 流石に人目があるから自重してくれたのか?

 延々といちゃついてるの見せられなくて良かった……ホント。

 

「家どこ? 昨日の店の隣?」

「お、よくわかったな。言ったっけ?」

「お~ん。店入ってすぐの時に隣んちの三つ下って言ってたぞ」

「そうだっけか? まあその記憶通りで正解だ」

 

 てことはここか。

 

「ただいま~。ダチ連れてきたんだけど一日泊めて良い~?」

「アンタねぇ、そう言うのは先に言いなさいよッ」

「仕方ねーだろ、今日帰るつもりだったらしくて今日泊まる場所ねーんだから」

「やっぱ迷惑だよな。今から宿探すから良いよ、最悪野宿でも良いし」

「ああっ、待って待ってっ、別にそういうつもりじゃないから!?」

「もう外暗いんだからアブねーって」

 

 ええぇ、でも今そういうのは先に言いなさいって……。

 それってただでさえ迷惑なのに余計迷惑ってことじゃん。

 

「こういうのって今に始まったことじゃなくて、恒例のやりとりみたいなのよ」

「そうそう。別に気にする必要ねーって」

「アンタが言うことじゃないわよね?」

「……じゃあ、一晩ご迷惑おかけします」

「気にしなくていいのいいの。いらっしゃい、おかえり!」

「どうも……」

 

 誰かの家に泊まったことなんてないから空気感がわからん……。

 実際こんなモンなのか?

 てかさっきナチュラルに俺のこと『ダチ』って紹介したな……、早くない?

 普通なの、それ。

 コミュ強だね、ホント。

 

 とはいえ友人として見てくれてるってのは素直に嬉しい。

 単に紹介の仕方に迷った結果の消去法的呼び方だとしてもそもそも友人なんて皆無だった俺には馴染みがないものだ。

 ちゃんと認められてるって感じがする。

 

「とりあえず俺の部屋に行くわ」

「ああ」

 

 そう言って通されたのは殺風景な部屋。

 普段使っている宿よりも殺風景じゃないかと思うほど。

 

「なんもねーな」

「置く必要も欲しいモンもないしな」

「あるのは多少の装備だけか?」

「見える範囲だとな。子どもの頃のモンは適当に整理して片づけてある」

「そんなモンか」

 

 この世界は娯楽が少ない。

 というか娯楽が発展できるほどの余裕がない。

 あるのは子ども向けの歴史書――つまりは英雄譚などの絵本くらいだ。

 けどこの世界はかなり食が良い。

 生活の中に娯楽を追加するのではなく、生活に必要な要素の娯楽性を強化している。

 毒のあるモノですら工夫して食べているというのはなんともフグを食す日本人的なバカと天才の両取りを彷彿とさせて面白い。

 まあ毒があるのをどうにかして食べるってのは日本人だけじゃない。

 記憶が確かならブラックビーン……アボリジニがそんなことをやっていた気がする。

 

「そうだ、宿代っていくら払えばいい?」

「は? いらねーだろ」

「食費とかあるじゃん」

「いらねーって。俺が言い出したことなんだから」

「……そうか?」

「そうだ」

 

 そういう国民性なの?

 まあ物騒な世界だから助け合いの精神が俺らの時代より強いってのは理解できるけど。

 

「ところでよ。言いたくないなら別に言わなくて全然構わねーんだけど、あの数を一日でどうやったんだ?」

「お? それは殺されそうになってたお前があんなに倒せるはずがねーってことか?」

「ちっげーよ。……いや、違わねーけど」

「どっちだよ……」

 

 まあ、ノルマの半分もこなせてなかった奴がその翌日に倍以上倒してたらそりゃビックリだわな。

 俺だって驚く。

 それが友人なら煽りまくるし。

 

「別になんてことねーぞ? 思いついた魔術試したら思いの外上手くいっただけだし」

「ヒイラギ独自の魔術か……スゲーじゃねえか。新しいの思いつくなんて根性入ってるぜ」

「いや知らん。普通にあるヤツかもしれんし」

「あのなぁ……お前が自分に自信がないのはなんとなくわかってるぜ? けど既にあるってのが凄くないってのとは繋がらんだろうが」

「でも……」

「ドアホウ!」

「いッ!?」

「ヒイラギはその魔術を知らなかった! 考えて考えて、考え抜いた結果海悪魔(サハギン)を楽に倒せる力を手に入れた! 凄いことだろうが!」

 

 ……だからって叩かなくたっていいでしょ。

 

「そう……か? だって俺は既にあるモノを組み合わせただけだし……」

「それを言ったら世の中のモン大抵そうだろうが。どんな奴だって偉くなくなっちまう。例えば学者でなんつったっけ? フーベルタ・ホルシュタインって人がいるけどそいつは偉くねーのかよ? 俺勉強できねーから詳しくはねーけどそういうのって色々既にある計算式とかで色々やってんだろ?」

「それはそう、だな」

 

 マユゲの持ってる本の中にそんな名前の著者がいた気がする。

 研究ジャンルは多岐にわたって、色んなことを色んな角度から見ているって俺でもわかる内容だった。

 けど確かに人間の叡智は先人たちの成果を引き継いで生まれている。

 それを否定したらマユゲも、エリナも凄くないと言ってしまうことになる。

 

「思いついたらそれはスゲーだろ」

「そうだな。……んじゃ俺は凄いってことで精々崇め奉るがよい」

「なんじゃそりゃ」

 

 自信、持ちてぇなぁ。

 

「てかそんなんでよく開拓兵になろうと思ったな。そんだけ自信ないと他の職業に就こうとか思うんじゃねーの?」

「異世界人にそんな自由はない」

「あ、それもそうか」

「てかそういうデューベはどうなのさ。ユーは何しに開拓兵に?」

「あ~、俺か? 俺は……」

 

 言い辛い内容なのか言うか言わないか悩むデューベ。

 無理に聞く気はないのだが悩むということは言っても良いという気持ちがあるということだから少し待つことにした。

 

「俺はな、外に出たかったんだよ」

「はい?」

「生まれた頃から海を見続けてきてさ、この先はどうなってるんだろうって思ったんだよ」

「あ~、未知への探求心か」

「ずっと海が続いているのか、それとも見たことのない島や大陸があるのか。水平線の奥に思いを馳せてたら何もせずにはいられなくなったんだよ」

 

 俺も小さな頃、小学校の行事で海の近くに行ったとき似たようなことを考えたのを思い出した。

 水平線の向こうがどうなっているかなんてのは俺の場合は調べようと思えばいくらでも調べられる時代だったから多分デューベとは全然違うだろうけど。

 それでも『この先はどうなっているんだろう』って感情はあった。

 

「うん。俺も大体同じだ。俺は開拓兵としていつか必ず世界の全てを見て回る、そのために強くなる」

「そうなのか……」

 

 少し驚いたような、それでいて嬉しそうな表情をしている。

 同じような目標の奴に会ったことがなかったのか?

 他の奴らはなんなんだろう。

 

「世界にはおもしれー場所がいっぱいあるんだろ? いつか行きてーよな」

「いっぱい、か。正直海の向こう以外考えたことなかったな」

「龍壁山脈の向こうはこことは全然違うって話だぜ? 気になるだろ!」

「海の向こうしか見てなかった」

「空を飛ぶ大陸、逆巻く滝、枯れたまま成長する常夜の森! ワクワクするだろ! しかもこれがほとんど開拓できてない状態での話だぜ?!」

 

 無粋かもしれないが俺はその全てをこの目で見て、解き明かしたい。

 魔術(ファンタジー)科学性(ルール)があるこの世界。

 全ては無理でも、その片鱗で良いから理解したいのだ。

 

「お前……なかなか熱いじゃねえか!」

「自信はなくてもしたいことはあるからな!」

 

 憧れは止まらないんだ。

 蓋をしたって憧れには焦がれ続ける。

 なら俺は止まる気はない。

 

「お互い、やりたいことやり尽くして死のうぜ」

「そんなん言ったら俺とかいつまで経っても死ねないわ」

「確かに、俺もだ」

 

 アルコールなんて入っていないのに昨日のようなテンションで笑い合う。

 気の合う奴とは酒なんてなくても思う存分語り合えるってのは初めて知った。

 

「二人とも、ご飯できたよ」

「はいはい、んじゃ行くか」

「おうとも」

 

 用意されていたのは市場で見かけたような安価ながらも人気がある食材を使ったシンプルながら手間をかけて作ったことがわかるコレぞ、というような家庭料理の数々。

 普段は宿や屋台のモノを食べている俺にとってこの世界の家庭料理は初めてだ。

 

「スゲー、見た目おもしれーしうまそー」

「そうか? 普通だと思うけどな」

「アンタ作ってる人間に失礼だね。そこはありがとうございますお母様、でしょうが」

「いや、初めて見るし……お母様!?」

「なんでうちの母親をオメーがお母様呼びなんだよ」

「そういうワケじゃなくて……親? てっきり姉で親はまだ働いてんのかと思ってた……」

 

 いや、見た目なんてロクにアテにならないんだけどさ?! 

 若ッ!

 普通に一〇代後半か二〇代前半で納得しそうな見た目してんだけど?

 

「この普人種でこの歳まで実家暮らしだったら行き遅れにもほどがあるだろ……」

「まだぴちぴちの三〇歳よッ」

「三〇……あれ? デューベが一六で……スゲー」

 

 一四で生んだってことは一三で身籠ったってことだから……異世界スゲー。

 てかそれ考えたらデューベがネヴァって子を彼女にしてるのって普通というか、父親を受け継いでるというか……。

 

「ほら、そんなことどうでもいいからッ。さっさと食べちゃいなさいよ」

「あ、そうですね」

「そうだな、食おう食おう」

 

 魚が深海魚的な恐ろしい面構えなのは気になるが、まあ問題ない。

 おそらく海悪魔(サハギン)との生存競争という地獄を見てきた魚たちだ、面構えが違うのは当然だ。

 

「さあ、夕飯だ」

「召し上がれ」

「いただきます」

 

 うん、美味い。

 

「それどこの文化だ?」

「異世界、日本」

「えっ……」

 

 デューベのお母さんが俺を戸惑いの目で見てる。

 そうそう、普通はこういう反応だよ。

 異世界人だからどんな考えをしてるかわからない、って未知への恐怖心。

 デューベがオープン過ぎるんだよな。

 

「意味としては食材とか料理を作ってくれた人に対するお礼だな。食べた後はご馳走様、だ」

「モンスターでもか?」

「あ~、まあ、うん? 結局は生存競争だし、俺の糧になるっていうのは俺の助けになるってことだし俺は一応感謝するかな。軽めだけど」

「ふ~ん。面白いな」

「まあ俺の世界だと情報がすぐ手に入る時代でさ、食べ物ひとつにも結構手間がかかってるってのは知ってたし生きた魚を殺して捌いたことあるからさ、ちゃんと他の命を奪って生きてるって自覚はあるぞ? まあだからって生き物をかわいそうとは思わんがな」

「感謝はするけど大切には思わないってことか?」

「違うな。感謝してるしそこそこ大切にも思ってる。けど俺たち人間は他の生物に対して知能という武器で勝ってきた勝者だ。だから俺は人間(・・)という種として勝者の特権である敗者の全てを奪う。それが自然の摂理だからな」

「む、難しいことを言うな」

 

 ……スマン、馬鹿には難しかったか?

 いや、俺が難しく言いすぎたか。

 

「……生存競争の勝者としてその肉を食うのは当然の権利、だから俺は勝者として喰らう。以上!」

「なるほど、わかった!」

 

 あれだな、時として説明省いて結論だけ言っちまった方が早い時もあるな。

 

「ところで、ヒイラギなんで泣いてんだ? 情緒不安定か?」

「え? ……あ、本当だ」

 

 目を拭うと指が濡れる。

 片目だけだが涙が出ていたらしい。

 

「多分アレだ、家庭料理を食ったのが久々だからだ」

「そんなに美味いか?!」

「デューベ、それ以上余計なこと言ったらあとで説教するけど良い?」

「……ふっ、俺は黙ってるとするか」

 

 仲良いね。

 羨ましいわ。

 

「何かあったの?」

「別にそういうワケじゃないんですけど。ただ前の世界の俺の親って共働きで夜遅くまで働いてたからあまりこういうのって食べたことなかったんですよ。小さい頃は流石に食べてたんですけど七歳くらいからずっと食べてなかったんで、こういう絶妙な味付けっていうか家庭の味を感じたのがちょっと懐かしくて」

「そう……なら思う存分食べなさい! いっぱいあるんだからね」

「……どうも」

 

 自覚なかったけど、俺って愛情に飢えてたんだな……。

 だからハーレムとか言ってたのか?

 情けなくて恥ずかしいような、理由がわかってスッキリなような。

 今は考えないようにしよう。

 今は今この時を楽しまないと。




 こういう思春期ムーブ、ラノベの流行り的にはあまり好かれてなさそうだけど作者はワリと好きです
 過ぎるほどに不完全な主人公や主要キャラが成長する姿っていうのは作者の好物


異世界語小話

 まだ描写していませんがまあ、お察しの通り異世界語は勝手に翻訳されています
 詳しいことは今後
 今回はこの世界特有の言い回しについて

 龍が長年人間の脅威だったこの世界では龍に関する言い回しが多数存在します
 例えば『津波』という単語をわかりやすくこの世界風に表現すれば『龍波』ですが、原文を直訳すれば『龍の身(じろ)ぎ』です
 この世界では長い間龍波が龍によって生み出されると信じられていたのです
 実際、そういう龍波も存在しました(全てではないです)

 他には『噴火』は『龍の激怒』で、『地震』は『龍の飢腸』、『嵐』は『龍の慟哭』など
 その他にも多数存在します
 ま、本編じゃまず出ないでしょうしフレーバーテキストとでも思ってください
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