ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第四八話 伸ばすべき要素

「家庭料理って美味いもんだな」

「なんだァ、いきなり」

「今日、泊まらせてもらったところの人に持って行きなさいって渡されたのよ。ちょっとならやるぞ」

「……くれ」

「はい、あ~ん」

「ン」

 

 意外にも素直に食べた。

 いや~、にしても良い人だったなぁデューベのお母さん。

 優しくて惚れちゃいそう。

 人妻は守備範囲外だから変なことはせんが。

 

「うめェな」

「だろ? 自分でも料理は作れるけどさ……やっぱ誰かに作ってもらった料理って、良いよな」

「そォいうモンか?」

「そういうモンよ」

「ふ~ン……」

 

 興味なさすぎない?

 もうちょっと会話を楽しんでくれよ。

 ……やっぱマユゲにとって俺との会話は嫌なのか?

 

「なンだよ、その最高に愉快な面はよォ」

「マユゲ、俺のこと嫌い? 話したくないと思ってる? 嫌なら今日はもう帰るわ……」

「……はァァァァァ」

「やっぱ嫌なのか……」

 

 覚悟していたことではある。

 なのに辛い。

 マユゲと一緒にいる時間を楽しいと思っているからこそその時間が失われるのは嫌だ。

 けれど俺のワガママでマユゲに不快な思いをして欲しくない。

 大切だからこそ幸せでいて欲しい。

 

「ったく、馬鹿がよォ。ちょっとこっち来い」

「……わかった」

 

 マユゲが指さした通り、マユゲの隣にしゃがむ。

 

「嫌だったらなァ、素材だけ残して即行でこの空間からはじき出してるってンだよォ」

 

 抱きしめられた。

 胸の柔らかな感触と、冷たくも暖かな手の感触。

 状況を理解するのに時間が掛かった。

 

「これは……脈アリってことでオーケーですか?」

「……アホォ、オレの理想には程遠いってンだ」

「でも、これは……」

「何度もしてやるほど安かァねェぞ。研究材料がなくなると困っからァ仕方なくだァ」

 

 幸せ、俺(ここ)でなら死んでもいいかもしんない。

 

「ならお望み通り殺してやろォ」

「許容であって願望じゃないです、すみません!」

 

 調子に乗りました、すみません。

 

「ったくよォ……」

「心を許してる証拠ってことでどうかお許しをば」

「逆効果なのわかってるだろォが」

「まあ、うん」

「ふンッ」

「あでッ」

 

 肘打ちヒドーイ。

 痛くないから良いけど。

 

「痛くないなら文句言うな」

「あいよ」

 

 ダメージないならそれでヨシッ。

 

「それで? 帰んねーってこたァ他に用があンだろ?」

「ああ、そうだそうだ。ちょっと聞きたいんだけど……これって系統で言ったら何?」

 

 そう言いながら銅貨を軽く投げ、そこに向かって冷気の魔術を奔らせる。

 帰ってくるときに軽く訓練をして近距離なら触れなくてもできるようになったのだ。

 距離は大体一メートル、腕を伸ばしたら大体肩から俺が生えたくらいの範囲が攻撃できる。

 それ以上になると魔術が霧散して使えなくなる。

 

「ッ!? そいつァ系統的には火、だな」

「……どういう理由で?」

「正確にはちげーンだが、あえて四系統に分類するなら火ってだけだ」

「具体的には?」

「色々あってなァ、例えば魔力の消費量によって分ける、とか。火系統を()としてではなく()として認識した時だとそれは同一だなァ。その他はぶっちゃけメンドクセェから説明しねェ」

 

 色々あるのね。

 今はキャパオーバーで無理っぽいな。

 

「それの使い手はほとんどいねェから基本は冷気魔術とか氷結魔術で通じるぜ」

「ほうほう、ならなんでも良いや」

 

 分類が面倒なのはわかった。

 そのあたりに関しては気にしてもそこまで意味がないのもわかってるから深くは考えない。

 とりあえずは『使えりゃいいや』のスタンスで行こう。

 

「……さっきの言葉ァ、訂正してやる」

「さっき? どのタイミングの話さ」

「ほンのちょっとだがオレの理想に近づいてるぜ? ほンのちょっとだがなァ」

「?」

 

 理想って何さ。

 もしかして最高の実験体とか、研究対象とかそういう系?

 怖くね、それ。

 

「ちげェよ」

「じゃあなんなのさ。……さては、昔の男か?!」

「アホか」

 

 辛辣。

 

「……生憎となァ、生まれたその時から今に至るこの時まで良い男に会ったことなンてねェ」

「ふっ、目の前にいるぜ?」

「だから理想は理想。言っちまえば昔の男じゃなくて未来の男(・・・・)だなァ」

「ガン無視だ、ワァイ」

 

 でもそうか、長生きしても良い人と出会うってワケじゃないのか。

 運が悪い……いや、そもそも引きこもりなんだから出会えるワケねーな。

 変に同情するところだったぜ。

 

「まァ、オレと結婚したいってンだったらもっと頑張るこったなァ」

「何故そこで頭を撫でるのかはこの際聞かん。ただ……撫でたいなら言ってくれればしゃがむぞ? わざわざ魔術で浮かび上がらなくたって……」

「……うるせェ」

「そんなデカい声出してないで~す」

 

 にしても理想、か。

 エルフの寿命からマユゲの歳を察するに、生半可な努力じゃ無理だな。

 

「諦めンのか?」

「なワケ。拒絶されねー限りしつこいから覚悟してやがれ」

「うっわ、メンドクセェ」

 

 拒絶しない限り許容しているって教えてしまったのが失着だったな。

 ……ま、嫌われたくねーし、変なことする気はねーから安心しろしろ。

 

「アドバイスだ、風の魔術の腕でも磨いてろ」

「ええ、前も言ってなかった?」

「大事だから何度も言ってンだろォがよォ」

「ちなみに理由は?」

「言うかボケェ、誰かに聞いてわかるンだったら人間はとっくに全知だっての。強くなりてーならちったァ考えやがれってンだ」

「は~い」

 

 自分で考える。

 ま、言ってることは正しいな。

 口は悪いけど。

 

 そんな軽口を内心でマユゲに向かって叩きながら思考を魔術に向ける。

 まず闇雲に魔術を試す前にどういう理由(アクセス)かを考えるべきだ。

 現在魔術は多数存在し、定型化している。

 けれど俺が独自に氷結の魔術を生み出したように定型化した魔術が全ての魔術というワケではない。

 原理的に可能な魔術であれば未発見でもいくらでも生み出せる。

 枷はいらない。

 壁もいらない。

 自由な発想で魔術を想像し、創造する。

 まずはどんな魔術が欲しいか。

 自分に必要な魔術を考えてから自分に可能な範囲を選ぶための長さの枷を嵌める。

 

「……」

「……頑張れよ」

「…………」

 

 何故マユゲは風の魔術を薦めた?

 方向性はまず二つ。

 ひとつ、風系統が良い。

 ひとつ、その他火・水・土系統が悪い。

 火の良いところは燃費、悪いところは周囲に被害が出る。

 風の良いところは火に次ぐ燃費、悪いところは意識して収束させないと距離によっては拡散する。

 水の良いところはそこそこの燃費と強度を併せ持つ、悪いところは中途半端さ。

 土の良いところは高い強度とそれによる操作の単純さ、悪いところは燃費。

 燃費、つまり試行回数を考えるなら火だ。

 何を思って風にした?

 訓練という状況、マユゲのこの特殊空間内で燃え移るモノはなく周囲に被害は出ない……実戦を想定しているから?

 燃費のメリットを掻き消して想定被害のデメリットが大きいから?

 勘だけど多分違う。

 だとしたら……風に残るのはデメリットだけ。

 そのデメリットを利用しろということだろうか。

 

「俺の射程範囲は……大体一一メートルってところか」

 

 全力ではない、普段使うような瞬時に発動できる即効性と威力を併せ持った【風槍穿ち(ショット)】。

 放つと途中までは形状を保ったまま直進し、ある一定のライン、今の俺の限界である一一メートルを超えると魔術は一瞬で霧散した。

 【風槍穿ち(ショット)】としての術式は失われたがそこに宿ったエネルギーまでは消えていないらしく、効果範囲外であっても風が吹いているのはわかる。

 ただやはり術式は失われているから攻撃力は一切なく、周囲の空気に溶け込んでいるからただ突風が吹いたに過ぎない。

 

「限界まで集中した状態での射程範囲は…………二三メートル、大体倍くらいか?」

 

 サイズも威力も恐らく変わらない。

 変わっているとしたら都度構築することによる意識変化、ゲーム的に言えば乱数のようなモノ。

 その状態だと二三メートル。

 

「?」

 

 何かが引っかかった。

 射程が長いとか短いとかではない。

 感覚的なモノ。

 

 なんだこの違和感。

 さっきと何かが違う?

 射程が違うのは当然だよな。

 そうやったんだから。

 威力かサイズ?

 受けてないんだから威力なんてわからんしサイズも目視じゃわからん。

 何が違う?

 何が――

 

「――【風槍穿ち(ショット)】」

 

 再び最大射程での魔術。

 だが今度は狙撃をした。

 魔術で生み出した小石に向けて放ち、射程ギリギリの位置で小石は粉々に、砂粒になった。

 

「なるほど、違和感はこれか」

 

 さっきと違ったのは射程外の感覚だった。

 風の魔術、つまりは空気という本来不可視の存在をどうやって知覚していたのか。

 一一メートルを超えて霧散した魔術としての手ごたえを失ったただの空気。

 なのに何故風が吹いていると理解できたのか。

 答えは単純で、魔力か何かによる知覚範囲があるから。

 これは恐らく二三メートルが俺の()の及ぶ範囲なのだろう。

 本来の最大射程がそこ。

 そこ以上に効果範囲が伸びるのかはわからないが、少なくともそこまでは魔術は鍛えられる。

 

「要するに、だ。強くなりたいなら新しい魔術覚える前に今できることを磨けってことね、了解ッ!」

 

 多分あの雰囲気だとその範囲も鍛えれば伸びるんだろう。

 それはつまり強くなるということ。

 やらない理由がない。




 今回出てきた『知覚範囲』という概念
 誤解覚悟で端的に言えば、第六感の影響範囲、です
 その範囲内であれば前書いたように視線に気づいたり殺気に気づいたりとすることができたり
 ただ殺気とか強い感情に関しては強さによっては知覚範囲外のモノであっても感知可能です

 これに関しては他にも色々設定があるので詳細は控えます
 魔術の系統に関しても同様です

 魔術の系統概念に関しては人によって違う
 けど系統を詳しく気にする人は一般的な系統概念と学術的な系統概念の両方を持ってるからちゃんと同じ認識で話し合うことはできます

 ちなみに凍結魔術を火系統に分類する人たちの認識は
 これらの本質は熱の操作、火と認識しているモノはエネルギー過多による熱エネルギーから光エネルギーへの自然変換である
 というものです

 言っちゃえば魔術における火とは熱+光
 魔力⇒熱+光
 凍結とは熱の反転
 魔力⇒-熱
 ってことです

 物質的な火と魔術的な火を分けて考えているワケですね
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