ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第五〇話 槍使いの模倣

「一体何を? ヒイラギさんは槍を使ったことないって言ってましたし、槍使いの知り合いが来るんですか?」

「いや、いない。ただちょーっと最近槍使いと戦うことがあってな、その動きで良ければ見せてやる」

「! 是非、お願いします!」

 

 うんうん。

 元気だね、良いよぉ。

 

「えっと、まず得物が――」

 

 記憶を辿る。

 思い出そうとすればその姿形は容易に浮かび上がる。

 あとはその記憶を疑わず、従って再現するだけ。

 

「――これだ」

「水の……槍?」

「そ。海悪魔(サハギン)ってモンスターの使ってた三叉槍。慣れの問題で本物よりは強度落ちてるだろうけど演武として使う分には充分だろ」

 

 妙な感じだ。

 普段と違う持ち手。

 完全な円柱を握っている違和感。

 少しやりにくい。

 多分大丈夫だろうけどやる前に一応感触確かめておくか。

 

 イメージを視界に映して、なぞる。

 突いて、払って、回して。

 感触を手に馴染ませる。

 

「うん。今からやるからちゃんと見てて」

「はい!」

 

 意識を研ぎ澄ませ、自己洗脳をして、想起する。

 一〇〇以上戦った海悪魔(サハギン)の動き。

 記憶は意識を書き換えて、海悪魔(サハギン)を降ろす。

 今の俺は悪魔憑きだ。

 

「す、スゴイ……見やすいように速度を落としてくれてるのに、速いッ」

 

 洗練された動きは、それを見る思考に余白を空けない。

 ゆえに速く感じる。

 無駄が多く含まれた動きに存在する一連の動きを繋げる連結部。

 だが一連の動きにその繋ぎ目がなければ情報は止まらない。

 ひとつひとつの動きを処理する、という工程が全ての動きを最初から最後まで処理し続けることになる。

 思考の休憩時間がないのだ。

 

「これが、ヒイラギさんのいる世界……」

 

 獰猛だが荒々しくない動き。

 それは他者の動きを真似することのなかった完全な我流のミアとは全く異なっている。

 積み重ねてきた練度も、込めた思いの純度も性質も、未知のモノ。

 明確に感じる未熟さとそれを見ただけで再現するというヒイラギへの尊敬の念。

 ヒイラギを知らないがための勘違い。

 だがそれはミアの活力となっていた。

 

「とまあ、こんな感じだな。どうだ? 参考になったか?」

「は、はい! 自分なんか全然だったと思い知りました! これからもっともっと頑張ります!!」

「そうか。これからも何か困ったら好きに頼ってくれ、俺もそうやって成長した」

「はい! ありがとうございます!」

 

 可愛いもんだ。

 多少面倒という感覚は残っているけど、それでもこうして頼られるのは悪い気はしない。

 頼られる程度には強くなっているということが理解できるし、後輩に眼差されることでもっとちゃんとしなければという風に気が引き締まりもする。

 

 それにこうして教えることで少し気も楽になった。

 今までは『教える』という行為を難しく捉えすぎて『教育』という風に思っていた。

 自分なんかじゃ教育者には相応しくない、教えるならもっと強い人が賢い人が、と。

 けれどその理屈で言えば俺は世界で最も優れた存在にならないと教育者にはなれない、もしかしたら世界一でもなれないかもしれない。

 明確に優れた存在でなければ教育者失格だというのなら世の中の教育者は全て失格である。

 論文を発表したワケでも、何かしらの受賞をしたワケでもない教育者は世界には大勢で。

 けれどそいつらは皆教育者として生きている。

 俺なんかでも誰かに教えられることはある、俺なんかでも誰かに何かを教えても良い。

 そう思えて気が楽になった。

 

「……そうだな、最後に一つプレゼントだ。今からちょっと身体を操るけど良いか?」

「え、あ、はいッ!」

「じゃあ……『俺の動きを模倣しろ』」

 

 槍を複製しながら軽めの【洗脳】を掛ける。

 抗おうと思ったら容易く抗える、意識もほぼほぼ完全に残っているし記憶も普通に残る、その程度の【洗脳】だ。

 

「この効果は薄いからあまり抵抗しないように。失敗しちゃうから」

「はい!」

 

 注意を促してから俺はゆっくり三叉槍を構え、ミアもほんの一瞬遅れて三叉槍を構える。

 俺が動くのとほぼ同時にミアも動き始め、やがてその動きの時差は縮まり。

 一連の動作を全て終えることには俺たちの動きは完全にシンクロしていた。

 

「じ、実際に自分で動いてみると眺めるより全然違う……」

「ふっ、ミアは凄いな」

「どういうことですか?」

「今の動きは俺の動きと全く同じだ。体格が違う分多少の差はあるけど動作は同じ。……実力以上の動きをして身体が痛まないってことはちゃんとしてるってことだ」

 

 俺がベアトリクスの動きを模倣した時は全然ダメだった。

 けどミアは平気な顔をしている。

 確かに躍動感なんかは全く違うけれど、それでも格上の動きを真似してノーダメージは凄いことだ。

 

「関節の可動域も、筋肉の柔軟性も、しっかりしている。強さの証だ」

「あ、りがとう、ございます……」

「鍛えればちゃんと強くなれる。これからも頑張れよ」

「はいッ!」

 

 元気な返事をするとミアは自分の槍を持ってさっきの動きを自力で再現し始める。

 身体に残った感覚を飛び起こすようにゆっくりと、丁寧に。

 下書きの線をなぞるように慎重に手を、腕を、足を、脚を、肩を、腰を、槍を動かす。

 始め、素人の動かす傀儡(マリオネット)のようにぎこちなかった動きは何度も重ねるごとにその歪さを失くし、やがて膨大な川の流れを受けた石のように滑らかになっていた。

 

 呑み込みが早いな。

 学習能力が高いのか。

 それともその素直さが習得の手助けとなったのか。

 これでゴブリンとしか戦ったことない我流だってんだから恐ろしいねぇ。

 土台が全然違うとはいえ。

 これは軽くへこむわ。

 

 俺との差。

 早熟か晩成か。

 そう考えようとしても考えるたびにそれは自分への言い訳なのではないかと考えてしまう。

 いちいちくだらないことで立ち止まってしまう自分が嫌だ。

 

 ――お互い、やりたいことやり尽くして死のうぜ。

 

 不意に。

 本当、何の前触れもなく思い出したデューベの言葉。

 デューベとの約束。

 

 そうだ。

 これを果たすんだった。

 

 高揚した気持ちで言い合った、多分アイツにとっても話の流れの適当な口約束。

 けれどそこから連鎖してその時の感情が僅かに蘇った。

 

「ふふっ」

 

 変わったつもりでもそう簡単に根っこの部分が変わらないのはわかっている。

 けれどそれを理由に変わるのを諦めたくもない。

 前だったらこのまま腐ってしばらく動けなくなっていたのに今はちゃんと動けるように、少しずつでいいから変わりたい。

 

「あれ? にゃんか、良いことでもあったの?」

「ん~、あったっちゃあったかな?」

「そうにゃのか」

「うん。言うなら……この世界の人たちは良い人が多いな、って」

「そうかにゃ?」

「そうそう。フェーニャンも良い人よ? 感謝してますとも」

「にゃらその恩返しとして今度食事でも奢って欲しいにゃ~、って」

「お、デートか。良いね、行こうか」

「にゃにゃッ!? 奢るのにノリ気って変わってるにゃ……」

 

 殺伐とした日々に癒しを与えてくれるんだから奢りくらいするさ。

 そもそも美人とのひと時を楽しめるんだ、喜びますよ。

 

「あんまそういう機会ってないのか?」

「あんまりだにゃ~。今はギルドで働いてる方が楽しいかにゃぁ」

「今は……前は何してたんだ?」

(にゃに)って……そりゃ受付嬢にゃんだから開拓兵に決まってるよ」

「?」

「あ~、そっか、異邦人(ヒイラギ)はそのあたりのことわからにゃいよね」

 

 暗黙の了解的なやつか?

 

「単純に開拓兵としての経験が色々役に立つ場面があるからギルドには元開拓兵の職員が多いし、受付嬢はちょっと面倒な奴を相手しにゃきゃいけにゃい場合もあるから安全のために、って」

「お~、なるほど。……てことはフェーニャンって俺より強い?」

「ヒイラギなんてクソザコだにゃ」

「おっふ」

 

 もしかして遠征組?

 一般と遠征の壁って分厚いんだろ……マジかぁ。

 こんなホンワカした雰囲気で圧倒的強者かよ。

 

 戦闘のペースなど人さまざまだから単純な比較は難しいが、一般から遠征に昇格するには通常年単位の時間を要すると聞く。

 つまりは早くても俺が二十歳頃だ。

 歳の差をあまり感じない見た目やノリのフェーニャン。

 素直に信じることはできない。

 

「ちなみに今何歳?」

「えっと、たしか……二一?」

「いつ受付嬢に?」

「今年!」

「……なんで辞めたの?」

「…………壊滅的にモテにゃかったんだよ」

「……」

「……」

 

 それは、まあ。

 大変だな?

 

 モテない、を理由に強者の座から降りたという事実に俺は耳を疑った。

 男女で思考は違う。

 異世界人ともなればそれは強い。

 が、やはり理解できなかった。

 

「家庭を護る立場の()(おんにゃ)より弱いのが嫌らしい」

「え? は? ……理由それだけ?」

「え、うん」

 

 なんだそれ。

 いや女性蔑視(ミソジニー)じゃないのはわかるけど。

 たしかに理屈自体はちゃんと、多分正しく理解できている。

 理解しようと頭を働かせたらちゃんと理解できる範囲の思考だ。

 男側としては『自分は弱い』って思考から転じて『男として責務を果たせない』ってなって『自分の価値低下』っていう風になるんだろう。

 だからってそれだけで諦めんのかよ?

 いや、まあ俺が少数意見なのはわかるけど。

 文化も辿ってきた生物としての歴史も全然違うから根本的に重要視してる部分が全く異なるのは理解の上。

 けどあえて、それでも言うとするなら。

 お前ら本当にフェーニャンのこと好きなのかよ?!

 好きなら強い弱い関係ねーだろ、と。

 でも、やっぱ、この世界で男が女を護れないってのは俺が考えてるよりもっと致命的なんだろう。

 

「ヒイラギ?」

「ああ、うん。変な同情とか慰めとかじゃなくてさ、本心。俺がフェーニャンを好きなようにフェーニャンを心から愛する男はいるから、諦めんなよな」

「……ゔぇッ!?」

「……ん?」

 

 あれ?

 俺今ワリと変なことを。

 ……ん?

 まあ、口走ったことはこの際どうでもいい。

 俺って、フェーニャンのこと好きなの?

 口をついて出たってことは本心ってことだよ、な?

 それは友人として? それとも異性として?

 良いと思えるところは色々ある。

 一緒にいて不快になったことはない。

 まあ、それだけだ。

 ……わからん。

 考えれば考えるほどわからん。

 

「ヒ、ヒイラギって私のこと好きにゃの……か?」

「多分。一緒にいて嫌ではないし」

「自分より強いのに?」

「関係ない」

「自分より圧倒的に強いのに?」

「だったら自分がもっと強くなる。自分が劣ってる、は諦めの理由にはならんだろ」

「そうにゃの?」

「それは諦めの理由じゃなくて頑張らない理由じゃねえの?」

 

 他人の心なんて全くわからないから断言はできない。

 けど俺で考えるとしたら。

 多分理由はそれだ。

 好きなモノを諦めるほど俺は諦めが良くない。

 だから多分それは本当に好きってワケじゃなくて、切り捨てようと思えば切り捨てられるモノで。

 切り捨てて動かなくて良くなる理由として都合よく利用しているだけだと思う。

 

「ま、正直ヒイラギは私の好みじゃにゃいけど!」

「ヒデェッ!」

「私の理想はぁ、強くてぇ、賢くてぇ、自由でぇ、人生を心の底から楽しめてぇ、自分にはもったいにゃいって思えるぅ、何事(にゃにごと)にも全力を出せるような男だから」

「……そりゃモテねーわ」

 

 もう、全然俺とはかけ離れた理想だ。

 俺は立派な男じゃない。

 多分一生かけて頑張ってなろうとしても、なれないと思う。

 俺はいつだって興味のないことからは逃げて。

 いつだって手を抜く免罪符(りゆう)を探し求めていた。

 今日だってミアのために動くことを少し面倒だと思ってしまった。

 

「そりゃモテねーわ」

「二度も言わんでいいッ」

「え? あ、うん」

 

 自戒の念は二度も漏れていたらしい。




 ミアもフェードロヴァもヒイラギのことを好きとは思ってません
 ミアは『村を護ってくれた尊敬できる開拓兵』
 フェードロヴァは『異世界から来たのにワリと自分たち(こっち)寄りな思考をしてる変なヤツ&ワーカホリックのヤベー奴』
 って認識です

 つーかコイツ最近いっつも思春期してんな
 書いてて楽しい
 読んでて楽しいかは……知りません

 多分六一話あたりからはそういうの減ると思います(多分)
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