ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第五六話 心境変化

「へ~、しばらく(はにゃ)れるんだ」

「うん。とは言っても多分二ヶ月くらいしたらまた戻って来るけど」

「頑張るんだぞ~」

「もちろん」

 

 寂しがってくれないのはちょっと悲しい。

 とはいっても知り合って十日、ゼーフルスにいた期間を考えると付き合いは一週間だ。

 その付き合い自体仕事でしかないし。

 感情が動くワケもないか。

 

「そうだ。前言ってた奢りの食事、今日はどうだ? 店はそっちの好きなところで」

「今日は八の鐘で仕事が終わるからその後でも良いかにゃ?」

 

 八の鐘って言うと……午後六時か。

 

「余裕で待つぜ」

「ありがと」

「んじゃそれまでギルドの書庫にいるわ。多少長引くこともあるだろうし、終わったら声かけてくれ」

「りょうかーい」

 

 こっちの飯食える店ってどういうのがあるんだろ。

 基本こっちって美味くて腹に貯まるを重視してるし、あまりおしゃれな料理って見たことないんだよなぁ。

 甘味も大体フルーツ系だし。

 ケーキみたいなのはいくつかあったけど。

 

 あらかじめ日を決めていないからデートとは言えないがやっていることは恐らくデートだろう。

 が、この国で暮らして二週間の俺にはこの世界におけるデートの感覚がない。

 ここの女の人が何を喜ぶのか、こういうシチュエーションにおける店はどこが良いのか。

 俺は元の世界でさえそういう経験がなかったのにここに来て根底から違う相手との食事。

 思考が迷子だった。

 やはり世界が違っても生物である以上恐らく不変であろう【プレゼント】。

 有用なモノを貰って嬉しくない生物はいない。

 有用ということは生きるのに役立つということ。

 生存本能が存在する以上は【プレゼント】とは本能レベルで嬉しいはずだ。

 

 となると、金か?

 やはり世界が違っても金がある男の価値は高まるのか?!

 

 だが流石に生々しいかと却下し、いよいよどうしたものかと頭を悩ませる。

 が、そもそも経験のない俺があれこれ考えてもどうしようもないと悟り、俺は逃げるように書庫に入った。

 

「本の……かほり……」

 

 大量の本が並び、中には古びたモノもある。

 そこから発される独特な香りは図書館に幾度となく通っていた俺にはとても懐かしいものだった。

 マユゲの持っている本はどれもマユゲしか触らないし、あの特殊な空間ゆえ湿度や日光などといった要因で劣化することもなく。

 とても綺麗で新品同然だった。

 だからか匂いも薄かった。

 

「落ち着くわぁ……って、落ち着いてる場合じゃねえ。調べ物調べ物」

 

 調べるのはとりあえずノースミナスの周辺地図やノースミナス自体のこと

 他にはノースミナス周辺に現れるモンスターの種類や情報。

 あと、可能ならそこで得られるモノの詳細も欲しい。

 

「え~っと? 鉱山都市ノースミナス。ここでは多種多様かつ上質な鉱石が採掘可能で、ルートヴィヒを古くから支えている。山の斜面にできた都市のため、最も高い位置と最も低い位置での高低差は一〇〇メートルを超えるという。歴史の長さに比例して坑道も多く、様々な理由によって放棄された坑道には多くのモンスターが住み着くという。製錬やモンスターの対処などが理由で眠れない街の異名を持つ……へ~」

 

 トレノと若干違った。

 あっちは眠らない、だっけ?

 

「ああ、山があるから平地部分にしか街壁がないのか」

 

 本に描かれた街の絵を見てふとそう零す。

 傾斜の強い山に壁を築くのは大変だろうし、山自体が壁にもなるだろうからあまり必要はないだろう。

 流石に最低限の柵はあるみたいだがそれだけ。

 とはいえ斜面に壁なんて重量物を載せたら間合いによっては大規模な土砂崩れが起きるだろうから現実的に考えたらそうなるのは理解できる。

 

「採れる鉱石は~っと」

 

 マユゲに渡された紙を取り出して見比べる。

 書かれた鉱石はちゃんとあった。

 一度書かれているものがないと焦ったが、よく見たらその素材はモンスター素材らしく鉱石と素材の間には線が引かれている。

 

「出るモンスターはマユゲが言ってたように硬い系。刃は潰したくないしやるなら飛翔斬撃かガントレット、魔術だな。ボロボロにしすぎると素材が残っても無駄になるし、急所狙いが有効、と」

 

 モンスターの弱点の一つである魔石を砕けばいい。

 もちろん弱点だから防御力も警戒も高いのだが、突破力さえあれば楽な方法ではある。

 

「ゴーレム、リザード、スコーピオン、バット……その他色々。基本的に鉱石でできていたり体表が鉱石で覆われていたり……うへぇ、めんどくせー」

 

 石や鉄をも容易く切り裂くというグラムは持っていないし、石を切ったという柳生宗厳でもないからその防御を突破するのは中々難しそうだ。

 

 純粋に攻撃力を上げるか……力のゴリ押しはあとのことを考えると怖いし。

 倒し方のわからない初期はゴリ押しも仕方ないけど終わる頃には少ない力で技と作戦で倒せるようになりたいな。

 

「まあとりあえずモンスターのことを……え~と、クレイゴーレム、高さ三メートルほどの粗雑な人型モンスターで特殊な技能はないが高い物理魔術防御力を有しており決め手に欠ける場合は非情に苦戦を強いられることになるだろう。動きは鈍重なため逃げるのは容易いが一撃は非常に危険で、勝つことを目的にすれば経験豊富な者であっても油断はできない。……うわぁ」

 

 後回しにすることは確実だろう。

 気まぐれに試しに行くことはあっても初めから倒すつもりで挑むことは恐らくない。

 大型モンスターとの戦闘経験がなく、俺自身一戦をどれだけ長期化できるのか理解しきれていないのだ。

 そんな状態で挑みに行くのは無謀というもの。

 やるなら少しでも後、少しでも実力を磨いた後で、だ。

 

「ストーンゴーレムやアイアンゴーレムなどもいるが基本は同じである。なるほど。次が、アースリザード、土喰いの異名を持ちその異名の通り土を喰らって地面を弱くさせる厄介な生態を持つ。土中から吸収した成分が体表に体液として分泌され析出することで非常に強固な鎧と化す。腹部など下部にはその鎧が少ないものの全体の重量が非常に重いため転倒させて弱点を突くことができず強い衝撃を通して殺すなどの手段が主流であるが、動く以上は関節部などにいくつか隙間が存在するためそこを徹せるだけの技術があれば通常武器を用いて倒すことも可能である。他の種にメタルやクリスタルなども存在する。また、スコーピオン系は同様の生態をしているがリザードと比較して非常に獰猛で強固な尾や鋏での攻撃は並大抵の防具を容易く破壊するという」

 

 読んている限り勝機がない気がしてくる。

 防具が軽装な俺としては防具破壊は大して関係はないのだがそもそもの力量差が異常なほど大きくて今の俺が挑んで良い相手とは思えない。

 なんというか初見プレイヤーが初期装備アンド序盤のレベル帯で中盤エリアに迷い込むみたいな場違い感がある。

 これは休む暇がなさそうだ。

 

「バット系、坑道に住む蝙蝠型のモンスターで怪音波を用いて平衡感覚の喪失をもたらす他、種類によっては複数体での音波の重ね合わせによって魔術を発動させる場合もある。発動する魔術は様々であり、炎上させる魔術の場合もあれば氷結させる場合も内部から破壊してくる場合もある。……えげつなッ。幸いなことにそれらの怪音波は浴びれば不快に感じるため、不快感を覚えた場合は即座に倒せば影響はない」

 

 前情報の限りではこのバット系が一番えげつない気がする。

 倒す以外にはどうしようもなく、防御不可。

 おそらくは音波である以上魔術で音を遮断すれば防御は可能だろうけれども正直そんな高度なことはできない。

 音の遮断に限れば多分余裕だ。

 けれども音を遮断しつつ呼吸可能なように空気を取り込むというのは並行処理がキツイ。

 もし仮にできたとしてもそれを行っている間は他の魔術を使えない。

 そもそも魔術に手いっぱいで防御も回避も攻撃もできないかもしれない。

 

「いや、でも……マユゲはこの街をある程度知ってるみたいだった。そこで鍛えて来いってことは一ヶ月の間俺なら生き残れる可能性があるってことだよな? だったら無理じゃねえ。無理じゃねえなら全力で気張って万が一の勝機を掴み取るまでっ」

 

 諦めなかったら勝ち取れるかもしれない勝機があるということを盗賊との戦いで学んだ。

 あのリーダーの男は執念深く、未練がましく、狡猾に、最後まで勝利を諦めなかった。

 今日、体裁を気にして死ぬ気かと、戦いにおけるみっともなさの重要さを説いたばかり。

 教えた俺がその教えに背くワケにはいかない。

 

「依頼受けてよかった……依頼を受けて、自分の考えを他人に伝えたことで前を見続ける理由を貰えた」

 

 師は弟子を育て、弟子は師を育てる。

 流石に俺があの三人の師匠だなんて言いすぎではあるけど。

 やっぱり教えた側が教えたからこそ得られるモノっていうのはちゃんとある。

 きっとベアトリクスが俺に教えてくれたのも同じような理由があったのかもしれない。

 かつては龍が、今はモンスターがいる過酷な生存環境の中での合理化。

 知識を独占するのではなく他者に教えることで他者も自身も成長するという全体成長の合理性。

 

「良いなぁ」

 

 綺麗事と合理性が共に在れるというのが凄く美しく思えた。

 というか感情をそのままストレートに表現すれば『カッコいい』と思った。

 感情で動くタイプでも、理性のみで動く冷血な男でもない。

 情緒と合理を兼ね備えた姿が男として、人間としての完成形。

 俺の中ではそうなったのだ。

 

「人間って嫌いだったけど、意外と悪いモンじゃねえのかもな」

 

 今なら歩み寄れる気がする。




 人間が基本嫌いだったヒイラギは以前までは環境がマトモだったら自分もマトモになれると考えていました
 けどこの世界に来て二週間
 自分から動くことも必要だと考えるようになりました

 努力で全てが変えられるワケではないですし、環境も重要です
 良い人と出会い、時には悪い人とも出会い、頑張って生きて成長するヒイラギを描きたいなぁと書いてて思いました(小並感)

 六〇話近く書いてて成長が遅いのは許してください
 まだ二週間ですし……
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