ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「なんつーか、身体が変な感じするんだけど?」
「言ったろォ、変化がわかンのは明日、つまり今日だって」
「そうだけどさ。怖いくらい身体がしっくりくるんだけど?」
朝、目覚めた時から不思議な感覚がずっとあった。
全身のありとあらゆる不調をなくしたかのような軽い感覚。
凝りも筋肉痛も一切なく、新しく身体を創ってそこに乗り移ったみたいだ。
「一度ボロボロにしたろォ?」
「うん」
「軽く治癒したとはいえ痛んだ状態で一日過ごしたよなァ?」
「そうだな」
「色々変わったンだよ」
「お、おう。そうか」
端折った!?
まあ多分説明しても把握しきれないってことだろう。
多分今まで感じてた肉体の感覚を一日不調状態で過ごすことで忘れて、完全に治った状態の肉体で目覚めることで感覚を切り替えたみたいな感じだ。
「わかってンじゃねェか」
「あ、正解なのね」
「まァ、おおよそそンな感じだなァ」
にしても本当に身体が軽い。
今となっては前は悪霊でも取り付いてたんじゃないかってくらいだ。
気分的には短距離走世界記録更新狙えるレベル。
ふははッ、本当に身体が軽いぞ!
「いい歳してはしゃいでンじゃねェよ。子どもかァ、テメェはコノヤロー」
「あい、サーセン」
「ったくよォ……」
今日からしばらく旅だから体力の浪費はダメだっていうのに調子に乗ってシャドウボクシング的な感じで動いてしまった。
「しばらく会えねえけど、元気でな」
「おォ」
「研究ばっかやってないでちゃんと健康的な食事摂れよ?」
「……おォ」
「俺に会えないからって寂しがるなよ?」
「おォ……って、誰が寂しがるかってンだッ!?」
ちぇっ、ちょっと期待したんだけど……。
まったく、素直じゃないわぁ。
でも機会は他にあるし、今はいいや。
「じゃあ俺は他の知り合いに適当に挨拶して街出るわぁ」
「そォか……そォだ、ヒイラギ」
「あン?」
挨拶も終えたことだし、と出ようとした時何か言い残したことがあったのかマユゲから声がかかる。
振り返ってみると少し神妙な面持ちをしていて、何か真面目な話かと身構えてしまった。
なんだ?
やっぱ素直になって愛を囁くとか……はい、違いますね。
わかったのでその怖い表情やめてください。
「アイツには、シャプルには既に声をかけたか?」
「まだだけど?」
「……なら声はかけンな。理由は聞くな」
「えぇ……どうしても?」
「どォしてもだ」
「それを無視したらどうなる?」
「オレが不機嫌になる」
「えぇ……」
わけがわからないよ。
どうしようか。
正直確かにそこまで付き合いはない。
恩はあるけど。
関係の始まりは依頼だし、その後の付き合いはたまに会う程度……まあそれ言ったら毎日会ってるのなんてマユゲとフェーニャンと宿の奴くらいだし。
恩、あるんだよなぁ。
エーベルヴァインを助ける時にきっかけになったし。
えぇ……。
でもこれまで仲が悪くても会うなとは言わなかったマユゲがこういうってことは……何かあるのかぁ?
「信じて……損は……ないんだよな?」
「あァ。多分ヒイラギ的には得するンじゃねェのか?」
「それによってシャプルとの関係性が悪くなることは?」
「ねェ。つーかお前が旅に出た後オレが言いに行く」
「そっか……なら信じる」
嘘が嫌いなマユゲだ。
きっと言ってることに嘘はないだろう。
俺は俺の目を信じることにしよう。
「万が一の時は責任とれよ?」
「だからァ、説明すっから恨みかったとしてオレだってのォ」
「んじゃ、行ってくるわ」
「行ってこい……帰り待ってるからよォ」
「! おうッ」
くそッ。
不意打ちとはズリィじゃねえのよ。
行ってらっしゃいという言葉と、ここが帰る場所であるということを証明する言葉。
涙は頑張って堪えた。
「そうか。いなくなっちまうのか」
「二ヶ月くらいな」
「また戻って来るのか?」
「ああ、戻って来る」
そういうとクレイオスのおっさんは少し寂しそうな顔をする。
「ヒイラギが泊まり始めて二週間。長かったような短かったような」
「俺としては初めてのことばっかだったから長く感じたよ」
本当に、長かった。
色々新鮮で、辛いこともあったと言えばあったけど、それをひっくるめて楽しかったと思う。
いや、思うじゃなく実際に楽しかった。
「娘のこと、改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」
「だから別に良いって……」
「あの子がいなくなったら俺たちはダメだったかもしれない」
「俺たち? ああ、奥さんか。そういえば会ったことないな」
「毎日見てるじゃないか?」
「え? あ? え? もしかしてあの人?」
「そうだ」
「うっそだろ!? マジかぁッ!? え? 普人種だよな!? ずっと娘だと思ってたんだけど?!」
首肯。
今まで娘だと思ってた女の人はクレイオスのおっさんの妻だったらしい。
正直おっさん以外からの肯定があっても信じられない。
この世界の人間は普通といっておきながら俺の考える普通とは違うのだろうか。
いや、街には俺の思う普通の、年齢と見た目がそこそこ同じな人間がいる。
きっと細胞の老化を低減させる固有能力的なそういうあれだろう、多分。
「あ~そうだ、なら貰ってた前払いの金を返さねえとな」
「……いや、いいよ。一度払ったもんだし、それに使い道はありそうだから多少の足しにしてくれ」
目を横に向けると覚悟を決めた少女が立っていた。
答えは聞かずともわかる。
「手助けはできんが、頑張れよ」
「……一緒に行っちゃ、ダメ、ですか?」
「無理、だな」
そういえばただ開拓兵になりたいんじゃなくて俺のパーティに、って言ってたんだっけ。
まあ、無理だ。
ダメとか俺の迷惑とかじゃなくて、無理だ。
「どうして……ですか」
「そりゃエーベルヴァインに経験がないからだ。俺が戦いに行くのは雑魚じゃない。全力で戦う、命の危険が当然のように付き纏う死と密接な旅。弱い俺には手いっぱい、俺以上に弱い奴を連れて行ってもまあほぼ一〇〇%の確率で死ぬ」
「弱い……から」
「多少経験があれば違ったんだろうけど経験皆無な奴は無理だ。……恨むなら一日でも早く決心しなかった自分を恨め」
後悔なんて基本は自分に向けるモノだ。
なぜあの時こうしてしまったのか。
なぜあの時こうしなかったのか。
努力しなかったことで後悔しても、努力して後悔したことは少なくとも俺はない。
それに……世界は俺だけじゃない。
憧れで盲目的になるのはこの子のためにならないだろうな。
その方向だけを見れるのは時としてプラスになるけど、少なくとも今回はマイナスだろう。
「ま、頑張れ。ギルドには俺の同郷の奴とか俺の知り合いで言えばベアトリクスって赤髪の女開拓兵がいるからその人を頼るのも良い」
「はい……」
この機会に決心を早めることを心掛けてほしい。
チャンスはずっとある、じゃなくて。
どんどん失われると。
熟考と早い決心を両取りできるように。
「じゃあな」
「はい。わがままを言ってしまってすみませんでした」
「構わんさ」
さて、次は誰に挨拶をしようか。
現在位置からの経路と親しい人間の列挙を脳内でしようと思った時、ふと警邏の兵士が目に入り。
思考がアデルに行き着く。
流石に上級騎士様相手にそれは無理か。
というよりもプライベートのこと話すほど親しくもないわな。
下心なしで普通に仲良くできればと思ってはいるが現状仲良くはできていない。
接点がほとんどないからどうしようもないのだが。
「ベアトリクスとエリナか?」
近い方にと思いつつ歩いていると不意に見知った姿を見つける。
それは向こうも同じだったのか三人も手を上げながらこちらに近づいてきた。
「よう、三藤」
「お前ぇ、俺らのことそういう認識だったのかよ」
「超ドストレートだな」
「わかりやすくて良いと思うぞ。実際俺らってずっと一緒にいるし」
「まあまあ、辛うじて三人とも名前憶えてるから」
そうカッカなさんな、と宥めると三人から同時に呆れのため息を向けられた。
「まあいいか。それで、その後どんな調子よ。俺らの誘い断ってソロで動いちゃってよ」
「んぁ? 俺か。その後っつーと五日目からだな。え~そうだな、盗賊退治したりゼーフルスっつー南の街に行って
「お、おう……それホントにこの二週間のことか?」
「そりゃもちろん」
気持ちはわからんでもない。
言ってて俺も濃いと思ったもん。
ところがどっこい……夢じゃありません! 現実です……! これが現実……!
「もう一般開拓兵になったのか……。てか旅に出んのか。いつからだ?」
「今日」
「今日?! 早いな」
「そうか?」
俺としては普通だ。
やってる内容こそ濃く感じるが、俺としてはやりたいと思ったことを続けてたら流れでこうなっただけ。
急いでるつもりは……あまりない。
目標のために多少頑張りはしてるがブラック企業みたいなことはしてない。
……それは比較対象が悪いか?
「見習いの俺が言えたことじゃねえかもだけど、頑張れよ永井」
「おぉ。そういうお前らもな」
そうだ。
ついでだし香月たちにも挨拶するか。
ベアトリクスに挨拶するついで、いたらだけど。
いなかったらわざわざ探しはしない。
メンドイし。
流石にどこぞの学園都市の教師なんかみたいな感じではないです
年齢に対して異常と思えるほど若々しい、そんな感じ
普通に純粋な普人種だけど固有能力関係なく見た目が若いです