ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第六八話 生身の膂力

 まず出たのは雰囲気が違う、という感想。

 ノースミナスのギルドの訓練場は大まかには王都のモノと同じだが、全体から受ける印象が少し違った。

 試射用の的などに使われている素材などが違うのだろう。

 

「特色、か?」

 

 それに王都に比べて少し寂しい。

 王都では同郷連中を除いてもそれなりに人がいた。

 けれど今は時間によるものもあるのだろうけれど俺とクアークの二人だけ。

 もちろん全く使われていないというワケではなさそうだ。

 訓練場のところどころには移動や踏み込みなどによって一部だけがすり減った窪みがあり、的にも大量の傷が走っている。

 古いワケではなく、地面は見てもわからないが的の方は新しい。

 

「教えるのは良いけどヒイラギは長剣を持ってるの?」

「持ってないけど動きを知っておいて損はないし、昨日みたいに――こんな感じで伸ばせば使えるし」

「昨日見た時も思ったけど面白い使い方するわよね」

「そうか?」

 

 正確なことはわからないけど俺の仮説(なか)では武器強化は魔力に『斬る』だったりの方向性(・・・)を持たせて覆って強化する方法だ。

 つまり通常の魔術や身体強化同様に根本は魔力。

 操作によって魔術が形状を変え、身体強化が部位を限定できるように、武器強化も形状は自由自在。

 やろうと思えばただの包丁を長剣に強化することもできるはずだ。

 

「実戦ならそれでも良いかもしれないけど、今から教えますって時に他のことに意識を割かれても困るからアタシの剣を貸してあげるわ」

「あ~。壊しそうだし練習用で良いなら自分で作る」

「どういうこと?」

 

 少しとはいえ高価な軽魔銀(ミスリル)を用いた長剣。

 下手に扱って壊すのは怖いからと断るとクアークは小さく首を傾げた。

 

「こういうことっ」

「――おお~。見た目そっくりの剣ができた」

「流石にこのサイズだと地味に重いな。でもこんなモンか」

「ちょっと貸して頂戴」

 

 そう要望され、軽く手触りを整えてから渡す。

 受け取ったクアークはそれをまじまじと見つめ、掲げ、見下ろし、ヒュッと樋のない剣で心地よい風切り音を鳴らした。

 

「少し重くした同じ剣もう一本造れない?」

「ん。どれくらいの重さが良い?」

「最低でも倍は欲しいわね」

「オーケー」

 

 剣を返してもらい、その形を読み取る。

 そうすることで目視での形状把握によって生じる形の誤差をなくし、模造を完璧に。

 全く同一の形状を指定し、そこにさっき込めた量の倍以上の魔力を注ぎ込んだ。

 

「おンも!」

「どれどれ? おおっ、イイ感じね」

「片手でそんなブンブンと……」

 

 強奪するように俺じゃ片手で持つのも一苦労な剣を片手で持ち、軽々と振り回すクアーク。

 重量が圧倒的に違うにもかかわらず剣速は衰えず、その重さを知り、そこに宿る魔力を感じ取れるがゆえに俺が作った剣が持っていたとき以上に禍々しく感じられる。

 

 ああ、嫌だ。

 もうこれ絶対ロクなこと起こらん。

 

「じゃ、まずは動きを打ち合いで覚えてね」

「その……剣で?」

「うん」

「……おっふ」

 

 形が同じで、けれど質量比は一対五ほど。

 打ち合って勝てる気がしない。

 

「もちろんアタシは全力は出さないよ。使うのは武器強化、の強度向上だけ。身体強化も他の魔術も一切使わない。まあ魔術の使用禁止はヒイラギもそうしようか」

「……剣の訓練だしな。こっちは武器強化全般と身体強化ありだよな?」

「うん。じゃないとアタシの手加減ありでもすぐ終わっちゃうもの」

「勝敗条件は?」

「アタシは掠りでもしたら負け、ヒイラギは……剣が半分以上折れたら負けってことで」

「なるほど」

 

 俺の敗北条件で一瞬悩んだのは俺が降参しないと考えたからか?

 ……まあいい。

 ロクに相手にならないだろうけど全力本気でやってやる。

 

「あ、そうそう。アタシの動きを見て覚えるのはもちろん、武器強化の練度とかチェックするからヒイラギが覚えてること全部出し切るつもりで」

「ハナから手ぇ抜く気はねえよ。どうせ死なねーだろぉから殺すつもりでやってやんよ」

「怖いわね。でもそういう思い切りの良さ、好きよ。アタシ」

 

 二〇メートルほど距離を取って、向かい合う。

 合図はいらない。

 そんなモノ、あってもなくてもこの状況じゃ関係ないのだから。

 圧倒的な実力差。

 下手を打てず、俺は合図の有無にかかわらずクアークの動きを見ることでしか戦いを始められない。

 つまり、向かい合った瞬間から戦いは始まっている。

 

 くそ、普段の軽いノリと違って今の表情はほとんど見てないからどう動くかの手掛かりが一切掴めない。

 隙もほとんどないし、たまにフェイント仕掛けてくるから精神力が削られる。

 やっぱりこっちから攻めないとダメなのか?

 いや、揺れるのはダメ。

 待ちが正解のはず。

 

「それじゃあ、行くよぉ」

「ッ!?」

 

 まさかの攻撃宣言。

 嘘ではなく、クアークはその宣言通りに倒れ込むように膝を曲げて飛び出す力を貯める。

 

 こんなことしてくるなんてッ!

 くッ、不意を突かれて一瞬硬直してしまったッ……。

 

 突撃してくる前になんとか防御の体勢を整える。

 踏み込みのための傾きがピタリと止まり、切っ先が俺に向けられ、俺は防御のため呼吸と止めて歯を食いしばった。

 だがクアークはそこからさらに倒れ込み、俺の呼吸の合間を正確に突いて突撃してくる。

 

「あはは、本当に素直だね君は!」

「嘘が必要な時以外は素直ってのが俺の取柄でねッ!!」

 

 首を狙って放たれた一撃。

 ギリギリのところで剣を挟み込つつ片膝を抜き、攻撃の力を利用して攻撃の向かってくる方向とは逆に体勢を崩しながら剣の側面で攻撃を受け流す。

 

「おらァッ!」

 

 同時に膝を抜いたほうの足でクアークに足払いを仕掛けるが、体幹が強く一切ビクともせず。

 目的を即座に変更し、クアークの足を足場にして壁面蹴りのように距離を取った。

 

「切り替えが良いッ。けど咄嗟の時以外の行動と行動の間にある思考時間が長いッ!」

 

 距離を取った先で次の一手に思考を巡らせた瞬間、追撃が飛んでくる。

 剣が足元に突き刺さり鈍い音と衝撃が身体を伝った。

 ほんの僅か、投げの動作が見れなかったら直撃していただろう。

 

 けどこれで武器はない!

 今がチャンスッ。

 

 追撃のために剣を手放したこの隙に、と向かってきていたクアークに対して二歩踏み込み、横に薙ぐ。

 前に踏み込んだ瞬間を狙ったから避けられない。

 そう狙ったのにクアークは踏み込んだまま上半身だけを引くことで薙ぎ払いの範囲から逃げて俺に殴りかかってきた。

 

「剣だけが武器じゃないのは君もわかっているだろう? 相手が剣を手放したからと言って油断するんじゃないッ。敵が違う武器を秘めているのは当然のようによくあることだよ!」

「くッ!」

 

 言う通りだ。

 俺の意識は剣に向きすぎていた。

 ついさっき俺自身が蹴りを仕掛けたというのに。

 

 重いッ!

 これが生身の力かよッ!?

 ゴーレムくらいあるじゃねえか!

 

 剣の腹で受けるが衝撃がすさまじく、力負けすると理解してすぐ上に弾く。

 だが衝撃で後退してしまい、攻撃の暇なく拳が襲い掛かってきた。

 今度は拳の軌道を見極め、片手を空けて外へと押し出すように弾く。

 なんとか防ぐことができた。

 それは直撃は(・・・)しなかった、というだけであり。

 流そうとした動きに対応され、流し返されてしまった。

 一歩遅れの対応だった動きが二歩遅れの対応になり、クアークの力に対応しきれず徐々に体勢が崩される。

 体勢を立て直そうと退くがすぐ距離が詰められてほとんど意味をなさない。

 

「ほらほらっ、甘い甘い!」

「やべッ!?」

 

 意識外に潜るように斜め下へと深く踏み込み、その姿を追い認識した瞬間には地面に突き刺さっていた剣を既に手にし、切りかかろうとして来ていた。

 

「せいッ」

「ッゥ……」

 

 顔に真っすぐ突き出される恐怖を絶え間なく感じながら全てを防ぐことを諦めて致命傷になるであろう攻撃だけを見極めて防ぐ。

 そうしたお陰である程度動きに余裕ができ、少しではあるが反撃のタイミングも現れ始めた。

 

 よし、なんとか動けるようになってきた。

 突きのタイミングで反撃――ここッッ!!

 

 突きが出た瞬間、剣の内側に剣をねじ込んでそのまま剣を滑らせて首を取りに行く。

 

「だから甘いって言ったでしょ」

「ぐぅぅッ!!?」

 

 腹に重い衝撃。

 時間が遅くなる中、クアークの太ももを目にしてそこで初めて腹に突き刺さっているのが膝だと理解した。

 そして直後、後頭部に鋭い痛みが走る。

 刹那の間暗転する視界。

 晴れたかと思えば今度は視界が白む。

 

 殴られた。

 多分柄頭。

 ダメだ、やり辛い。

 平衡感覚も若干ヤバいな。

 

「よっ、と」

 

 なんとかして戦える状態に。

 そう思っていると不意に腕が掴まれ。

 直後に浮遊感。

 気が付けば投げ飛ばされていた。




 10キロ以上の剣を片手で振り回す……
 ヒイラギも平然と2キロの剣を状況に応じて両手片手で使い分ける……
 ……うん!
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