ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第六九話 己の剣

「うぐッ!」

 

 投げ飛ばされた方向に対して横になるようになんとか体勢を整え、そのまま横に転がる。

 地面に落ちた衝撃で意識が完全に覚醒し、手を横に伸ばして進行方向の地面を叩き、そのまま跳ね起きた。

 

「くそッ」

 

 起き上がり、クアークを睨み、そこでようやく自分の手から剣が失われていることに気づく。

 

「蹴られた衝撃でも殴られた衝撃でも離さなかったのは褒めるけどまだまだね。ダメージで力が弱まっててお陰で取りやすかったわ」

「ちッ」

 

 クアークの手には二本の剣が握られていて、俺から取ったと思しき剣を挑発するように左右に振っていた。

 流石にこの状況で『返せ』というのはおかしな話。

 今は戦いで、剣を奪われたのは俺の落ち度返してほしければ奪い返すしかない。

 

「まあ剣の訓練だし――」

「すぅぅ、ふぅぅ」

 

 息を整え、思考を落ち着かせる。

 そして拳を構え、クアークの動きを観察する。

 

 腹が痛いけど骨は折れてない……、腕もちゃんと動く。

 うん、大丈夫だ問題ない。

 二刀流相手は流石にリーチも手数もキツイな。

 新しく作りたいけど魔術の使用は禁止だし。

 できそうなのは殴る、蹴る、突く、掴むとかくらいか。

 攻撃を掻い潜りながらは流石に……あ――。

 

「……」

「やってやんよ」

 

 手を構え、クアークに襲い掛かる。

 重い剣を持っているであろうクアークの右手側に移動し、それを追って剣を振り払ってきたところで踏み込み、手刀を構え、脚から伝わった力を腰や上半身の捻りで増幅し、脇目掛けて放った。

 

「ッ!?」

 

 初めて驚愕を見せるクアーク。

 直前で後ろに跳ばれてしまい当てることはできなかった。

 初見のさっきで決めたかったのだが、やはりそう上手くはいかないらしい。

 

「一体今のは何?」

「見たまんま、手刀打ち(チョップ)だよ。ただし俺の手は結構切れ味良いぜ?」

「面白い……使い方ね」

「はッ、そう教わったからな。思い込み(イメージ)だよ思い込み(イメージ)

 

 それが大切だと言ったのは他でもないクアーク自身。

 武器強化はやってみた感じやっぱり身体強化に似ていて、だから手刀を刃として認識できる。

 そして身体強化を行っている今の俺は素の俺よりも当然ながら強く、その自分に対する強いという認識が手刀の武器強化に必要なイメージの増幅も行っていた。

 イメージで武器強化の形状を長い刃へと変え。

 今の俺には非実体の剣が備わっている。

 

「そんな使い方、始めて見たわ」

「そうか」

 

 俺には会話を繰り返せるほどの余裕はない。

 クアークの言葉を適当にあしらい、攻撃する。

 切ると受け止められ、突くと弾かれ、体力が減るだけ。

 なんとか拮抗状態に持ち込めているのは武器の質量差があるうえに身体強化があるからだろう。

 

 流石にこの回転数維持するのちょっとキツイかも。

 強化の合わせ技の集中力も、打ち合いの衝撃もあって手が痛いし。

 

 剣がない分打ち合いの衝撃が手に伝わってくる。

 強化のおかげで手が切れることはないが、衝撃は伝わってくるからその分のダメージが尋常ではない。

 俺の剣を持っている左手、右側はまだ剣の重さが普通だから衝撃はマシなのだが。

 右手、左側は剣の重さが尋常ではないから一撃一撃が全身に響く。

 

「もう限界なの? 鈍ってきてるよ!」

「うるッ、せえッ!」

 

 連斬で酸欠に近い脳は攻めきれないストレスを下地にして挑発に容易く応じてしまった。

 無謀に払う右腕。

 しまったと思う頃には遅く。

 がら空きになった腹に鋭い蹴りが炸裂した。

 

「うぐッゥッ……」

 

 胃の中身を全てぶちまけそうな威力。

 空気が無理やり排出され。

 地に足つかぬまま上がりそうな胃の中身ごと空気を呑み込んだ。

 

「がはッ!」

 

 すると肺が空気を拒む。

 吸った空気が吐き出され、気づけば切っていたらしい口から血が滲んで口元を拭った手に血が付着していた。

 

「負けて……たまるかってんだ」

 

 拒む肺に無理やり空気を取り込み、突撃する。

 

 このまま何もできずに負けたくない。

 俺だってできるはずなんだ。

 持ち堪えられてる以上は発想ひとつで逆転だって。

 

 必死に自分を励ます。

 そうやって無理にでも活力を振り絞らないと前向きにいられる気がしなかった。

 逆転の発想は逆転する意志がなければ生まれない。

 勝ちを渇望しなくては苦しい戦いでは勝つことなどできない。

 そんな気がして必死に自分に鞭を打つ。

 

「ちゃんと考えないと勝ち目ないわよ!」

「ああッ!」

 

 腕を振りかぶるとそれを迎え撃つように剣が向かってくる。

 俺は直前で踏み込んだ足に力を込めて全身に急ブレーキをかけ、あえて先手から後手に回った。

 迎え撃つための剣を迎え撃ち、左手で剣を外へ滑らせながら右手を胸に向けて突き出す。

 

 どうくる。

 右か、左か、後ろか、俺を蹴るか。

 どれにせよそろそろ終わらせる!

 

 どの方向に動くかと足に注意を向けていると、剣を振った勢いに身を委ねて身体全体が左側に傾きそれと同時に上半身が剣から逃れるために身体が捻られた。

 ギリギリのところで避けられ、突き出した右手は何も切らない。

 

「! 危ない、びっくりしたよ」

「ちッ、当たればいいものを……」

 

 右手を引くときに右肩をそのまま引いて時計回りに戻すのではなく。

 途中で右肘を内側に曲げてそのまま勢いよく引くことで僅かに空いた距離を詰めて引き切りで攻撃をしようと目論んだ。

 けれどそれすらも見破られ。

 避けられてしまう。

 いよいよ策が尽きてきて、不意打ちで得られる勝機がどんどん減っていた。

 

「逃がすか!」

 

 とはいえ無理な回避行動に体勢が崩れている。

 限られた勝機の中で最も可能性があるのは恐らく今この瞬間。

 追わなければ勝てるものも勝てなくなる。

 そう信じて踏み込んだ。

 

 もっと倒れろ!

 もっとッ!

 勝つんだ!

 崩せ崩せ崩せッ!

 

 暴走に近いほど燃える闘志。

 踏み込めていない剣は重さがほとんどなく。

 技と多少の力で対処されている状態だ。

 もう打ち勝ちつつあり、体勢は徐々に悪化している。

 

「――ぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 体力配分を考えないこの攻防で決めきるための絶え間ない猛攻。

 切りにいくと剣先で逸らされ、そのまま突きが襲い掛かって来る。

 それを躱して逸らされた腕で腕を切りにいくと剣が引っ込められ、右側が動いた。

 

 (それ)ごと叩き切るッ!

 

 右側から迫って来る剣を見て、俺はそのまま攻撃しては相打ちになってしまうと考えて剣を手刀で上回ることに決めた。

 ならばとあえて大きく左手を右へ振りかぶり、腰元から右上を経由して左下へと斜めに弧を描く。

 魔力がある限り修復可能な手刀と違いただの剣であるそれは、度重なる打ち合いによって疲弊していた影響で折れて剣身が宙を舞い。

 そして俺の手刀はクアークの首元に当たり、そこで止まった。

 

「か、勝ったッ!」

 

 思わず喜びから拳を握り。

 笑みが零れた。

 

「ヒイラギ」

 

 けれどクアークはニヤニヤと笑いながら喜びに水を差す。

 

「君の負けよ」

「……は?」

 

 理解ができなかった。

 勝利条件である掠りでもする、は達成している。

 それどころか一発当てた。

 どんな理由でそんなことを言ったのか、わからない。

 

「これ、な~にかな?」

「さっき折った剣の柄?」

「正解。それでだけど~、ヒイラギの敗北条件はなんだったっけ?」

「確か……剣が半分以上折れたら負け。……あ」

「そう。これってヒイラギの剣なのよね。しかも半分どころか根元からスパッと」

 

 確かにその通りだ。

 敗北条件は満たされている。

 勝利条件も同様に満たされているが、コンマ数秒の差で俺の負けが確定している。

 となると。

 俺の攻撃は言ってしまえば勝負後の後出し。

 それで勝利を主張するのは盗っ人猛々しいにもほどがありすぎる。

 

「くっ……俺の負けか……いけると、思ったんだけどなァ……」

 

 本気でやったからこそショックが強い。

 涙さえ出るほどに、悔しいのだ。

 わざわざ手加減まで貰っておいて善戦も何もないかもしれないけど、それでも俺にとっては本気で、全力で、命が懸かってるワケじゃないのに本気で勝ちたいと望んだ戦いだった。

 

「最後の最後で俺は……俺の……くそっ……」

 

 もしかしたら本気でやっているつもりで、本当の本気じゃなかったのかもしれない。

 自分の剣を、自分の命として認識できていなかった。

 それができていれば剣を切る、なんてことはしなかっただろう。

 俺は、心のどこかで油断していたんだ。

 

 勝ちたかったぁ……。

 

「悔しい?」

「当たり前だろ! 全力で戦ってッ、勝てると思ったんだ! 勝ったと思ったんだよっ……」

 

 涙が止まらない。

 悔しさが全てを塗りつぶして止めようという気すら生まれない。

 

「ならこれからもっと頑張れッ。アタシが手伝ってあげるから!」

「ッ……。おう!」




 剣を奪われた時点でほぼ負けが確定
 だからこそ「剣の訓練だし――」と返そうとしたんですけどヒイラギが話を遮ったうえで武器を見つけてしまったからタチが悪い

 まあ剣を破壊すれば勝てるとはいえクアークは剣を壊すつもりはありませんでした
 壊れたのはヒイラギの実力と不注意
 最後まで気を抜かない、勝ったと思った時こそ注意しなければならない、それを実にできず種のままにしてしまったのが敗因ですね
 一応勝ち筋はあったんですけど
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