ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第七二話 宙を舞う

 向かってきた一発目を避けると直後にもう一体から二発目がやってくる。

 来たのは絶妙な高さと角度から。

 退いても体勢と身体能力的に退ききる前に拳を受ける。

 左右に避けることもできない。

 

「っえぃッ!」

 

 即座に膝を抜き、重力で身体を沈み込め、抜いた膝でそのまま着地する。

 腕が来るのとは反対方向に行くため上体を起こし、倒すとしていては間に合わないと踏んであえて腕方向に身体を仰け反らせると二〇センチほど上を腕が通り、視界に影が走った。

 

「アッブね」

 

 残った足で地面を蹴りながら後ろに跳び、それと同時に膝を抜いた脚に力を込めることで身体を持ち上げる。

 ゴーレムたちと距離が取れると同時に二体のゴーレムが重なる位置になり、一時的に一対一の状況が出来上がった。

 

「おうおう、邪魔そうだな」

 

 ただでさえ鈍重なゴーレムだ。

 こういう位置取りをしてしまえば相手をするのは楽である。

 

 とはいえ近づいたら危ないのは変わらないし、回避のために大きく動いたら一体二に戻るから動きが制限されてることにも変わりはない。

 ダイレクトに魔石を砕くにはまだ貫通力が足りないし、狭いところじゃ首は刎ねれないから……どうしたもんかねぇ。

 腕を切ろうにも根元は太すぎて咄嗟の切り返しで切断できる自信はない。

 かといって拳の方は止まってるタイミングの方が少ないから中々切れない。

 ……二体になるだけでゴーレムってこんなに面倒になるのか。

 これじゃ海悪魔(サハギン)と戦う方が圧倒的に楽じゃねえの?

 

「極力動かずにやってみるか……」

 

 二体目も参戦しようと動いているから動かないワケではないが、その位置取り以外は極力動かない。

 そう考えてやってみたのだが難易度は跳ね上がった。

 位置取りは基本同じペースで動けばいいからそこまで問題ないとして、動く量が少ないということは必然的に相手の攻撃は必中に近しく、しゃがむか跳ぶか剣で流すくらいしか選択肢がない。

 前二つはともかく、剣で流すというのは力と力のぶつかり合いみたいなものだから必然的に力で劣る俺の方が消耗する。

 というかゴーレムは肉体が無機物だから消耗はないだろう。

 

 ……もしかしてコレはクアークからの『受け流しの技術を磨け』的なそういうアレ?

 となると頑張るしかないな。

 幸い受け流し自体は不可能ではないんだ、こうしてできてることを頑張れば打開策も見つかるはず。

 

「角度、構え、姿勢、受けてから受け流すまでの腕の動かし方……」

 

 思考を口に出し、それを行動として形にして(アウトプット)

 繰り返すことで技を磨く(インプット)

 細かく調整し、試し、上手くできた動きを再現してひたすら身体に覚えさせる。

 

「あっ……」

 

 穴の中にパズルのピースが嵌まったような、そんな快感と。

 そしてしっくりくる受け流しをできたという達成感。

 

 今の、スゲエ気持ちよかった……。

 弱くてもダメだけど力み過ぎても受け流しには向いてないのか。

 なんていうか、直線的な流れを曲線にした感じか、今の……。

 

 疲労で全身から余計な力が抜けた。

 それによって攻撃を受けてから流すまでの間に意図せず腕が動き、全身が動き、回転の力が受け流しに加わっていた。

 脱力と、無我と、本能による現段階での最適解。

 つまり力ではない、技。

 

「あとは今のを全ての攻撃に対して意図的に出せるようにすれば……」

 

 そうは言ってもそれは中々難しい。

 攻撃に合わせた正しい足の位置、剣の角度、腕の角度、腕の動かし、脚の動かし、腰の動かし。

 複数個所を同時に動かしつつそれぞれを繋げる。

 相手の動きを正確に見極める必要があるのだ。

 

 さっきは……うん、右の方から来て……。

 自分の力だけでやったワケじゃないな。

 相手の力で自分の身体を動かして方向を合わせて流してたな。

 つまり――

 

 片足に体重の多くを載せ、もう片方は最低限のみでほとんど浮いている状態。

 そこから攻撃を受けると身体が勝手に回転し、拳が頬を掠める。

 

 なんとなく掴んだ、

 今のに最低限の自分の力を加えつつ主導権は向こうじゃなくて俺が握る。

 ゴーレムが単純な攻撃しかしてこなくて楽だな。

 

「よしッ」

「いや。よしッ、じゃないからね!」

「へ?」

 

 突如ツッコミが訪れ、思わず反応してその方向を見るとそこには宙を舞うゴーレムの姿が。

 影が差し。

 姿が徐々に大きく映る。

 

「――ブねえッ!」

「倒せって言ってるでしょうが! 何訓練相手にしてるワケ? 罰としてもう一体追加!」

「カッ、カカカカカッ、カカポッ、カカト! 踵掠ったッ! マジビビったんだけど!?」

「いいから倒す!」

「イエス、マム!」

 

 どうやら俺の考えすぎで。

 普通に倒せばよかったらしい。

 受け流しの技を磨けとかそういうアレじゃなかった。

 そして難易度は余計に悪化している。

 

「ハッハァッ! クソかよチクショー!!」

 

 最低限の温情か、飛んで来たのはクレイゴーレム。

 というか飛ばしたということはそれだけの力があるということだろうか。

 蹴ったにせよ持ち上げて投げたにせよ、どちらにしても途轍もない力であることには変わりない。

 

「こうなったらッ!」

 

 投げられてきたクレイゴーレムが攻撃してくる前に片側の膝の一点だけを狙って連続で攻撃する。

 再生するよりも早く脚の傷が深まり、やがて自重に耐え切れず脚が折れた。

 横に転ぶゴーレム。

 脚の再生には時間が掛かるだろう。

 だから俺はあえて止めは刺さず、次のゴーレムを相手にすることに決めた。

 

 どうする……。

 よし、転ばしたこいつを利用するか。

 

 折った足を回収し、手前のゴーレムに投げつける。

 すると足は殴り砕かれ、その隙に俺は奥にいたゴーレムに向かってジャンプした。

 胸元に着地し、そこを足場にして再び手前にいたゴーレムを相手するため背後から襲い掛かる。

 頭部に向かって跳び蹴りをぶちかまし、倒れたゴーレムの上に積み上げた。

 

 うぇぉッ!

 想像以上に反動スゲエわ、これ。

 力ばっか強化し過ぎて肉体の耐久性能がつり合ってない。

 

「ちょっと寝てろッ!」

 

 ゴーレムの腕は決して短くはないが長くもない。

 それに対してゴーレムの胴体は分厚く、厚いところでは一メートルはある。

 下のゴーレムは上のゴーレムごとを自分を起き上がらせられるだけの力はなく、上のゴーレムは一メートルほど浮いた状態で力を加えなければならないうえに力が逃げる体勢だから簡単に起き上がれない。

 

「さぁてラス一。さっさとくたばれ」

 

 一対一の状況を作り出せた今、かなり有利に戦える。

 攻撃を受け流し、そのまま懐に潜り込む。

 そうするとゴーレムが取る行動は踏みつけか後退のどちらか。

 どちらにしても時間は充分あり、そのうちに意識を集中させて一気に胸を貫く。

 

「よしッ。あとは残る二体!」

 

 なんとか頑張って起き上がりかけていたゴーレム。

 跳躍し、空中で武器強化を研ぎ澄ませて二体を一気に貫いた。

 流石に二体の魔石の位置が上下に重なることはないが、外側の装甲を突破してしまえば簡単で。

 剣先から冷気を伝播させて魔石を凍らせる。

 

 剣縛りだけどこれくらいは良いだろ。

 勝ち確だし。

 

「ふぃぃ。勝った」

「お疲れ様」

「うん。誰かさんのおかげで余計に疲れたわ」

「あっはっはっはっは」

「あっはっはっはっは」

 

 殴りたい、この笑顔。

 いけしゃあしゃあと……怒っちゃうぞ。

 比較的温厚な俺でも怒っちゃおっかな?

 なあ?

 やるならせめて一言言えよッ。

 そしたら許す。

 

「あれだね、ヒイラギは連撃がヘタクソだね」

「アッハァッ! 基礎もロクにできてない奴に剣縛りさせたくせにそんなこと言うのはその口か、おい。今度ロカリーのジャム詰め込むぞ?」

「いらな~い」

 

 今度見かけたら買おっかな。

 そのままは流石に量食えないけど紅茶に入れると美味いんだよな、あれ。

 

「遅いのが悪いのよ」

「む……。ならせめて次やる時はちゃんと言ってね? うっかりで死ぬとかマジ勘弁」

「……言えばいいの?」

「そりゃ、まあ。うん」

「変わってるわね」

「そうか? 勝てると思って寄越したってことなんだから無理じゃないってわかってるし」

「へぇ。わかったわ、ありがと」

 

 流石に俺も何もなしに単独でゴーレム三体に挑んだりはしない。

 こうしてクアークが俺の実力を見極めて、そのうえでできると思ったから投げた、っていう認識が前提にあるからこそ多少の無茶ができる。

 

 クアークは無自覚に俺に自信をくれてるのか?

 ……というか今の流れってまた墓穴った?

 ま、いっか。




 ちなみに関係ないですが紅茶にジャムを入れるのはロシアンティーじゃないです
 ジャムを入れたら熱々の紅茶が冷めてしまうから寒いロシアじゃやらないとかなんとか
 ジャムを入れるのは他国らしいです
 ロシアはジャムを舐めつつ飲むとのこと
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