ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第七四話 心境の変化

 拳を構え、強化する。

 ガントレットと生身を一体化させるイメージで。

 身体強化と武器強化を混ぜ合わせる。

 

「ッ……」

 

 二つの強化が反発し合い、手が痛みを訴えた。

 気を抜けば反発力で魔力が暴発しそうなほど強力な抵抗。

 それを魔力操作で抑え、強化を両立させ、殴りつける。

 

「オルァァッ!」

 

 衝撃でゴーレムの身体が仰け反る。

 退き、効果を確かめると殴りつけた場所に残った罅割れと陥没が目に入った。

 装甲を完全に破壊することはできなかったがダメージはある。

 それすらもすぐに修復されてしまっているが修復速度を上回るダメージを与え続ければ勝てる可能性はある。

 

 全身くまなく攻撃するか。

 それとも魔石の一点突破でやるか。

 全体だな。

 再生速度的に狙い辛い一点を狙うくらいなら広く破壊して再生リソース割かせてその後で魔石狙いに行った方が良い。

 

 方針を決めた俺は再生途中の左腕の断面を殴り、反撃の右拳を避け、胸を殴り、踏みつけを跳んで避け、針を魔力弾で砕き、背後に回って殴る。

 繰り返す一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)

 ゴーレムの前身から結晶片がパラパラと崩れ落ち、消滅していた。

 

「……ん? 何か忘れているような?」

 

 不意に襲い掛かってきたコレジャナイ感。

 間違ったことはしていないはずだ。

 身体強化も武器強化もしている。

 こういうタイプの敵には打撃という定石も守っているのだが、しっくりこない。

 何か物足りない感じだ。

 

 習ったことはちゃんとやってるはずなのになんでこんなにスッキリしないんだ?

 魔術……いや、それとはちょっと違うか。

 ……なるほど、理解した。

 そういえば魔力の使い方がもう一つあった。

 

「ん、ちょっとやり辛い」

 

 俺が自力で見つけた数少ない技。

 魔力を溜めて、ねじ込むゴリ押し。

 そういえば俺がこの街に来て初めて戦った時もこれを使っている。

 ただ、腕に魔力を溜める堰き止め(ダム)を作ろうとすると意識を割く必要があり。

 俺の脳のリソースや熟練度的にこれ以上増やすのは難しい。

 

「よし、攻撃力極振りだ」

 

 探知を削ぎ落とし、空けたリソースを腕に回す。

 腕にかかった三重の魔。

 身体強化と、武器強化と、魔力の溜め。

 異なる性質に変化した魔力。

 通常なら同じ場所に存在することのない異質の魔力が反発し合い、悲鳴を上げていた腕が咽び泣いた。

 その痛みは魔力の流れ道を伝って肩を、胸を、心臓にまで伝播する。

 

 一気に行くか。

 これ維持できる気ぃしねえし。

 

「くた、ばれぇえええええッッ!!」

 

 捨て身で右拳を打つ。

 まず一発。

 即座に拳を戻し、二発目。

 

「――え」

 

 拳は異常なほど軽く。

 手ごたえは一切なかった。

 姿は変わらずそこにあるが、けれど拳は当たらず。

 避けられるなどとは一切思っていなかった俺はその動揺から腕にかけていた強化の操作を全て手放してしまった。

 

 なんで?

 どういうこと?

 避けられた?

 それとも空振り?

 

 思考が全てそれに向き。

 そうしていると不意にゴーレムの影が降ってきた。

 そして突然身体が後ろへ引っ張られ、俺の身体は宙を舞う。

 

()ぃッ!?」

 

 投げ飛ばされ、壁に後頭部を強打した。

 

「勝ったと思っても気を抜くなって言ったわよね?」

「え? 勝ったの?」

「……そもそもそこ?」

 

 言われてさっきまでいた場所に目を向けるとそこには大量の結晶が散らばっていた。

 比較対象がこれまで倒したゴーレムだからか残った量はやけに多く感じる。

 具体的に言えば片腕がほぼ完全な状態で残っていた。

 

「二撃目が空振ったから避けられたとばかり」

「一撃で胸に穴開いてたよ。あ~あ、魔石も粉々じゃないの」

「うお、マジだ」

 

 白い結晶の中に黒い魔石の残骸が散らばっている。

 元の大きさが拳ほどで、それが指の骨一つ分ほどのサイズまでバラバラだ。

 

「でも倒せるとは思わなかったわ」

「無理前提かよ」

「不可能ではないけど倒せるにしてももう少し時間が掛かると思ってたから」

「ま、要は経験を積ませる目的だったんだろ? それなら別に良いけどさ。もうちょっと認めてくれても良いんじゃない?」

 

 そりゃお世辞にも強いなんて言えないだろうけどさ。

 勝率の方が低いとはあまり思われたくない。

 流石にちょっと不快だ。

 

「認めてはいるよ。ただアタシの予想を大きく上回ったってだけ、小さく見積もったつもりはないともさ」

「なら良いんだけどさ」

 

 髪に絡んだ土を払いながら立ち上がり、全身に治癒魔術を掛ける。

 

「ッ……」

「どうしたの?」

「あ、いや、くしゃみが出そうで出なかっただけ」

「……そう?」

 

 突然右腕が痛んだ。

 さっきと同じ。

 反発の感覚。

 掛けた治癒魔術が暴れ、腕の内部を斬り、引きちぎるような痛み。

 身構えていなかった分さっきよりも痛みがなくてもさっきよりも痛む。

 

 強化は解いたのに……魔力が残ってるのか?

 それに腕が痺れてる。

 震えて、ガントレットがぶつかって音も鳴ってる。

 

 カチカチと音を発するガントレットを外し、収納する。

 そして震え、痺れて思うように動かない右手を左手で持ち上げてジッと見つめた。

 薄暗くてよくわからない。

 けれど近くで、ジッとよく見たらわかる手の変色。

 指先が青黒くなっていて、そこから手の甲や手の平に変色が走り、袖をまくるとそれが腕の方まで伸びて襟を伸ばして見ると肩口まで続いているのがわかった。

 

「お~い、勝てたのが嬉しいのはわかるけど早く手伝ってよ~。せっかく便利な魔道具持ってるんだからさ~」

「あ、ああ」

 

 散らばった結晶の欠片を拾い集めて一ヶ所に積み上げるクアーク。

 視線はそっちに向いていて俺の様子は知る由もない。

 そっと俺は襟と袖を正し、グローヴを普段よりも深く着けて結晶の回収に向かった。

 

「なあ」

「何?」

 

 なんとなく声をかけたはいいものの話題を考えていなかった。

 だが声をかけてしまったし、目はこっちを向いている。

 話題を絞り出すことにした。

 

「さっきの……倒せるとは思わなかった、ってことはさ。上出来、ってことで良いんだよな?」

「そうね。やっぱり動きは素人臭いし戦いの流れも満足に支配できてなかったけど、勝てたんだからちゃんと強くはなってると思うわよ」

「……わかった。ありがとう」

 

 わかってはいたがクリスタルゴーレムを倒せたからといって強くなったとは言えないらしい。

 あくまでも成長しただけで、強くはなく。

 平均値からしたら『マシになった』程度。

 落ち込みたくもなるがそんな余裕はない。

 やるべきことをやるだけ。

 過酷に虐げられて、押し潰されるのなんて二度と御免だ。

 

 寝て起きてで治んなかったら明日は無理言って休ませてもらおう。

 予定を崩すわけだし最悪弁償を……俺の出せるモノにクアークが欲しがるモノなんて――。

 

「ん?」

「どうかした?」

「ああ、いや……クリスタルを踏んでたのに気づいただけ」

 

 拾い上げた欠片。

 それは円柱を半ばで円錐にしたような形状で。

 それは先端が欠けていて。

 それは弾丸だった。

 

 これ……あの時のだよな?

 けどクリスタルゴーレムの出した針はすぐ消えてるし。

 偶然か?

 

 思いつきでその弾丸の材質を複製、つまり結晶を生み出してみようとした。

 けれど当然ながら失敗した。

 その程度の思いつきをこの街の人間がしないワケがないし、それが可能なのだとしたらこうしてクリスタルゴーレムの素材を依頼で要求されることもないだろう。

 もし仮にできたとしても、それは大幅に劣化していてクリスタルゴーレムの素材に遠く及ばない。

 恐らく初めて戦った時にゴーレムの材質再現をできたのはその参考にした破片がまだ生きていた(・・・・・)からか、ごくありふれたような単純な材質だったからだろう。

 だとしたら恐らくこれはただの偶然だ。

 どうしてモンスターが肉体のほとんどを霧散させるのに一部は残すのか、という基本的なことすら解明できていないのに偶然の理由を求めるのはダメだろう。

 

 ま、一応回収しておくか。

 形状的にこれは納品できないな。

 クリスタルゴーレムが新しい攻撃方法を見つけたと誤解を生んで面倒なことになりかねないし。

 

「ちなみにあとどれくらいの量が必要なんだ?」

「……言っておくけど今回は異常なくらい運が良いわよ?」

「そうなの?」

「ないワケじゃないけど普通はもっと少ないわね。前アタシが倒した時は四分の一も落とさなかったから」

「へ~」

 

 うわ~、ドロップ率そんなにしょっぱいの?

 ならホント今回はラッキーじゃん。

 ……あれ?

 長期依頼の雰囲気を知るためにこの依頼を受けたのに異常なくらいの入手しちゃったら本末転倒じゃね?

 

 あくまで重要なのは長期依頼を受けること、その達成に掛ける時間自体は重要ではない。

 確かに依頼主からの評価もあるから軽視して良いワケではないが、元々の目的を見失ってはならないワケで。

 だとするとどちらかといえば今回多く残ったことは嘆くべきにも思えてくる。

 

「元の予定通り、掛ける時間は変更しなくても良いか?」

「むしろ変える理由がないわよ。……何? もしかして本題を見失いかけたの?」

「……うん。お恥ずかしながら」

「探索に限った事じゃないけど、生きる上でちゃんと目的は憶えておくようにね。目的を忘れたまま曖昧に進み続けると気づかないうちに暴走しちゃうことがあるから」

「わかった」

 

 こういう時、日本じゃ抱かなかった大人の格好良さが身に染みてわかる。

 多少イメージが悪くてもクアークはちゃんと歳相応の経験を積んだ、人生経験豊富なおとななのだと。

 なんというか男を引っかけるために作ったような雰囲気が拭いきれない感じがして美人で強者ながらもなんとなく親しみの持てる人だと思っていたのが、不意に遠ざかったような感覚で。

 一度親しみを持ってしまったからこそその遠ざかる感覚がより一層イヤに思えて、必死に追いつきたいと感じてしまう。

 

「今日はここで終わりね」

「早いな」

「長期依頼よ? これが普通、急いでも無駄なの。むしろ長期依頼は急げば急ぐほどミスが増えて失敗しやすくなるんだから」

「なるほど。そういうことなら了解だ」




 ふとした拍子に発される人生経験から放たれる正論ってその時無防備にいるからこそグッと来ますよね
 他人が名言って思う言葉って本人からしてみれば人生から来る当然の認識で、それを何の前触れもなく突然言われると効果が抜群でヤバい(語彙力もヤバい)
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