ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第七五話 右腕を怪我し、一日休む

「ごめん」

「別に良いわよ。無理させて身体壊させる気はないんだから」

 

 腕の痛みで目が覚めた。

 昨日の右腕の異変は時間経過で悪化し、寝るときには流石にグローヴは外すし装備も外して薄着になるワケで。

 異変に関しては昨日の夜の時点でクアークに知られていた。

 そして今日起きて、右腕は絶え間なく痛みを訴え熱を発していた。

 痛みはまるで内部から針で刺すようで。

 熱は腕に触れずとも昇る熱気が頬を撫でて熱をわかるほど。

 

「とりあえず今日は魔力の操作、具体的には右腕に魔力を流すのは禁止よ」

「わかった。それ以外だったら普通にモノ掴んだりしても良い?」

「ええ、ダメなのは魔力を流すことだけだから」

 

 どうやらこの症状はそこまで珍しくはないらしい。

 より正確には珍しくはあるが少なくはないとのこと。

 俺の右腕が今どういう状況かといえば、端的にいえば『酷使』。

 制御が未熟な奴が身体強化を掛け過ぎるとその魔力に肉体が耐え切れず、少しずつ破壊され、どうにかしてその酷使を耐えようとした肉体が肉体の変質を行う。

 今俺の右腕は二種類の肉体が――数学的な雰囲気で例えるならAとA´がある感じで。

 その肉体同士の反発だったり、変質した方は身体強化の影響が強いから素の魔力と反発し合って、それで今肉体が異常をきたしている。

 らしい。

 

「今日は自由行動ね。アタシは久々に暴れたい気分だから奥の方行ってくるわ」

「お~う。長期間拘束することになってすまんね」

「じゃああまり無茶はしないように。魔力の問題が主とはいえ身体自体が不調なことには違いないんだから」

「はいは~い。流石にこの状態じゃ俺も戦いに行こうとは思いませんとも」

 

 俺はどうするか。

 訓練したいけど腕痛いしなぁ。

 まあ腹減ったしメシ食いに行くか。

 

 昨日かなり戦ったからか異常なほど空腹感がある。

 戦うようになってから食欲が倍以上に跳ね上がったのは自覚していたが今に至っては長期間の断食明けを彷彿とさせるほど。

 なんとなく身体が味の濃いものを求めているのもわかる。

 夜に満腹まで食べたはずなのだが。

 

「それ、美味いか?」

 

 見かけた屋台で売っていた面白い食べ物に興味を引かれて声をかける。

 全体的な雰囲気はトルティーヤとか春巻きとかの生地で包んだ食べ物だがその生地の色が炭でも入れたのかと聞きたくなるほど真っ黒だ。

 もはや段々と生地が焼きすぎたのかとすら思えてくる。

 

「こいつぁラズラミって穀物の粉をこねて焼いたアラミナって食いモンだ。食ってみるか?」

「ああ」

 

 差し出されたアラミナを受け取ると包装紙越しでもかなり熱く、口に運んでみると熱さとともに生地の外側のサクッとした食感と内側のしっとりした食感が同時に現れ、続いてソース・肉・野菜の味がやってきた。

 辛みの強いソース、口の上でほぐれる甘い脂の肉、瑞々しく歯ごたえがある野菜。

 それらが生地の穀物感や独特のほのかな苦みと絶妙に合う。

 

「美味いな」

「当然だろ。てことで銅貨二枚」

「うわ、サービスじゃないのかよ。まあ払うけどさ」

「食わせちまえばこっちのモンよ」

 

 どこの要塞のコーヒーだ。

 こっちはしっかり美味いけど。

 

「おっと、ごめんっ」

「んお?」

 

 金を払っていると突然少年がぶつかりながら走っていき、角に入って行った。

 

「なあアンタ、何か盗られたんじゃないか?」

「ん? ……いや、特に何もなくなってないな」

 

 指輪があるから基本的に手荷物はほとんどないし、指輪のことで変に絡まれないために疑い防止で腰に小さめの硬貨袋を提げているけどそれすらも盗まれていない。

 

「スリが多いのか?」

「そういうワケじゃねえけどよ、すぐそこの角に入るため走ってたとはいえそこまで人の多くない場所でぶつかるモンかね? って思っただけのことよ」

「それはそうだな。けど安心しろよ、何一つなくなってないぜ?」

「なら良いが」

 

 もしかして背中に変なコト書かれた紙が貼られてるとか?

 ……大丈夫だ、ないない。

 

 古典的嫌がらせがふと脳内を駆け抜けていき、思わず背に手を向けるが特に何もない。

 

「それはそれとして、気に入ったからもっとくれ」

「いくつだい?」

「一〇」

「一〇? へえ、そりゃあまたよく食べるねえ。首に見えてるその細い鎖、アンタもしかして開拓兵か?」

「その通りだ」

「通りでよく食べる。食べて強くなって世界を広げてくれよ?」

「いつになるかはわからねえけどわかったよ。俺はヒイラギ、いつか世界に名を轟かせる男だ」

 

 やっぱり大分心境が変化している。

 前の俺ならこんなカッコつけたセリフ、恥ずかしくて言えなかっただろうに。

 これはカッコつけても平気なくらい精神的に強くなったってことか?

 それともカッコつけるのが平気なくらいナルシストになったってこと?

 ナルシは嫌だなぁ?

 まあ相手は気にしてないみたいだし平気か……。

 ああ、そういうことか。

 前に比べて周囲の視線が気にならなくなったのか。

 

 気にされたら嫌、ということは眼差されることが嫌ということ。

 俺の言動が他人に否定されることが減ったから周囲が怖くなくなったのだろう。

 

「憶えてるうちに名を上げてくれよ?」

「……頑張るぜ」

「不安だねえ」

 

 正直短期間でクアークのような次元まで上り詰めれる自信は全くない。

 クアークはまだ実力を隠しているだろうし、何よりクアークはただの一般開拓兵だ。

 遠征開拓兵じゃない。

 となるとクアークを上回らなければならないわけで。

 飯を売った買ったの浅い関係性で憶えていられるだけの僅かな期間でそこまでできるかと言われたら、思い上がれない。

 

「ま、ありがとな。これからも買いに来るかもしれねえからよろしく」

「ああ、待ってるよ」

 

 一〇のアラミナを両手に積んだ俺は人気のない場所に行ってこっそりと収納する。

 そして一つを食べながら深く息を吐いた。

 

「さて……見に行ってみますか」

 

 さっきからちょっと離れたところでキョロキョロしてるオッサン二人。

 視線を感じさせなきゃ平気だと思ってんのかね?

 微妙に殺気を孕んだ気配が鬱陶しいっての。

 

 探しているのは恐らくさっきの少年だろう。

 少年は二人から逃げていた。

 そこの関係性は知らないし関わる理由も特にはないけど犯罪行為だったら少し気になるので軽く手を出してみることした。

 

「ふぅ……【鏡面生成】」

 

 少年がそう唱えると微かに周囲の魔力が変化するが視覚的には何も起こらない。

 

 失敗した?

 ……いや、本人以外には不可視の鏡を作り出してるのか。

 となると屋根の上とはいえ迂闊に顔は出せない。

 まあこの距離で気づいてないってことは素人だろうし、魔力探知だけで問題ないだろ。

 

 自分の辿ってきた道の方へ意識を向ける少年。

 雰囲気的には意識が向いているのは道の方だけで上の方には意識が向いていない。

 

「誰も来てない。…………怖かったぁ」

 

 能力を解除したであろう魔力の反応を感じ、上から見下ろす形で眺める。

 恐らく元は綺麗であろう淡い緑の髪はくすんで薄汚い。

 服もかなり古びていて黄ばみ、黒くなっている。

 浮浪児だろうけれども王都で見たものよりも全然違っていた。

 

「なんでボクの時だけ……」

 

 そう呟いた少年の手には何やらティッシュ箱ほどの木箱があり、恐らく盗品なのだろう。

 盗みをしてなんとか一日一日を辛うじて生きている、そんな子どもたちの一人。

 口ぶりからして仲間内で盗みの方針が始まり、仲間が問題なく成功したからと今回盗みに手を出したら失敗してしまったということか。

 

 警戒は雑だし初めてか?

 ……まあ初めてとはいえ犯罪は犯罪。

 衛兵辺りに引き渡せば……子どもの犯罪ってこの国だとどうなんだ?

 

「やあ、少年。悪い子はしまっちゃおうねぇ」

「!?」

 

 おや、このセリフにトラウマが?

 

「な、なんだ変な奴ッ」

「変とは失礼だなぁ」

「気色の悪い仮面を着けてるじゃないか!」

 

 え?

 普通のチベットスナギツネの仮面だけど……ああ、薄暗くてわかりにくいのか。

 

「まあまあ、それは置いといて。盗みは犯罪だぞ?」

「それは……」

 

 悪いことしてる自覚はあるんだね。

 これで『盗まれる方が悪い』とか言われたら俺も反応に困るし。

 確かに生物的な、そもそもの大前提としてはその理屈は正しいけど人間的な、社会的には間違った理屈だから主義者にそれを理解させられる手腕は持ってない。

 社会で生きるなら最低限社会のルールは守れって理屈が通じれば話が早いんだけど、正しい正しくないを無視して自分の中に解がある人間に違うことを教えて理解させるのは難しいからな。

 子どもだからそういう主義者的思考凍結がなくてイイネ。

 

「そもそもなんでこんなことしてるワケよ。盗みなんて普通に考えて得られるモノより失うモンの方が多いぞ? 盗んで得られる小銭と盗んで失う一生の時間。もうね、アホかと」

「ボクの気も知らないでッ」

「知、る、か、よ。その古典的捨て台詞の代表例、人の気も知らないで(・・・・・・・・・)はある程度親交のある人間に対して使うことだから、少なくとも初対面の人間に使うなよ」

 

 てかそれって要するに『自分のこと聞いてください』ってアピール?

 超メンドクセエじゃんよ。

 こっちは完全に無責任な野次馬根性だっての。

 お前のことなんて一切合切興味ないわ。

 聞いてと頼まれても素粒子レベルで嫌で~す。

 

「ボクはこうするしかないんだ。アイツらに従わないとボクは……ボクたちはッ……」

 

 だから聞いてないって。

 まあ仕方ない、聞いてやるか……あ、無理だわ。

 

「『しばらくそこでジッとして静かにしてろ』」

 

 胸を軽く押して突き飛ばし、体勢が崩れて動揺している隙に木箱を回収。

 そして物陰に隠して動きを封じ、左手で魔術を使って地面を軽く荒らす。

 

「ちょっといいか?」

「ん゙ん゙ッ。ああ、もしかしてコイツぁアンタらの持ち物かい?」

「そうだ」

 

 声をかけてきたのはキョロキョロとして殺気の鬱陶しかったオッサン二人だった。

 




 ラズラミは異世界語で、ざっくり訳すと『地母神の恵み』や『大地の実り』となります
 人類史の中で長年親しまれて来た穀物のため、降星歴以前の属性信仰における属性神の名を直接関することのできた存在の一つです

 アラミナはざっくり『太陽の恵みを巻いたもの』です
 ラズラミの粉に限った食べ物ではなく、穀物の粉をこねて焼いて肉や野菜を巻いた食べ物の総称なのでこうなりました
 属性信仰において太陽神は地母神の子どもという扱いなので

 ちなみにこれらは固有名詞ですが、元の単語を反映させて区切るとラズ・ラミとア・ラミ・ナになります(どうでもいいですね)


使い道のないであろう異世界情報
 この世界では黒は縁起のいい色とされています
 言い伝えなので理屈的な理由はあまりありませんが、その経緯としては黒が太陽光を多く吸収して温かくなるということから『太陽神の恵みを多く受ける存在』として神聖視されたという経緯です
 龍やモンスターの体内から出る魔石に関しては『殺した後放たれる邪気を太陽神が恐縮して浄化してくれている』として魔除けの象徴として扱われ、現在もその風潮が残っていたりいなかったり
 なので結婚の際に新婚夫婦には不幸が訪れないようにと魔除けの意味で黒い贈り物がされたりします
 葬式の際も死してその御霊が邪気に支配されぬようにと参列者は黒い服を着たり墓に黒いモノを備えたり
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