ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第七九話 起こりうる危機

「……」

 

 結局ほぼほぼ客として店を見ただけだった……。

 アイヴィに役に立たないとか言ったけど、俺も同じだ、これ。

 他人のこと言えねえ……。

 

「くそ、こうなったらヤケ食いだ」

 

 ああ、今日も今日とて飯が上手い。

 食事ってのは一日の中で一番であるときが多い心のオアシスだ。

 俺は独りでも何人でも食べるのは別に構わないが、モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。

 休みたい時に休めないってのは心の健康に悪い。

 

「あ~、太りそう。美味くて食いすぎて太りそう」

 

 素晴らしきかな異世界飯。

 地理的に痩せた土地であるとかそういうのじゃない限り食事ってのは美味くなるモンだ。

 これでもかというほど土地が痩せていて、とか。

 宗教的な問題が、とか。

 味的感覚が極端に違うとか。

 そういう理由でもない限り人に欲があれば飯が美味くなる。

 美味いモンを食って寝たいってのが人間として当然だ。

 わざわざマズ飯を食べたいという奴はいないだろうし、どうせならもっと美味くしたいって思うのが知恵と工夫で生き延びてきた脆い存在である人間の本質だ。

 

「要約して、人間の欲ウメェ~」

「ははは、何やら面白いことを言っているね」

「?」

 

 主に肉を貪っていると不意に斜め前に座っていた怪しげなフードの男に声をかけられる。

 フードを深く被っているから顔はわからず、けれど声音から男とわかった。

 そして次に男の食事に目が向く。

 隙間から僅かに見えるそれは開拓兵を示すアクセサリー。

 けれど男の食事量はやけに少ない。

 正確には少なくはない。

 一般の範囲だ。

 けれど開拓兵をして、その運動で失ったエネルギーや負ったダメージなどを治すために大量に食うのが普通な開拓兵としては少なく、それが少し気にかかった。

 一枚のステーキ肉とそこにかかったチーズ、普通サイズのパン、そして飲み物はワイン。

 

「ああ、すまない。僕はヘルベルト・ホルシュタイン、見ての通り魔術種(エルフ)だ」

「おお、これはこれはご丁寧にどうも。俺はヒイラギです、よろしくお願いします」

 

 フードを脱いで現れた長い耳と赤い髪。

 赤い髪といってもベアトリクスのような鮮やかな赤ではなく、夕焼けのような赤だ。

 

「うん? ヘルベルト……ホルシュタイン?」

「僕の名前がどうかしたのかね? 確かに魔術種(エルフ)は珍しいがいないワケではない。それとも他に何かあったのか?」

「いや……その名前どこかで……気のせいか?」

「もし知り合いに魔術種(エルフ)がいるならその者に聞いたんじゃないのかね?」

「ナイナイ。アイツから他人のことなんてほとんど聞かんし、聞いてりゃ流石に憶えてる。――ああ! 思い出した! 本だよ、本。色んな系統の研究書出してる人の名前にホルシュタインって名前の人がいたはずなんだよ――」

「なるほど。ちなみにホルシュタインというのは僕のいた結界(しゅうらく)のこと――」

「――確かフーベルタ・ホルシュタイン!」

 

 いやぁ、スッキリした。

 名前が甲状腺の辺りまで出てきてたのに出し切れてなかったからすっごい気持ち悪かったし。

 

「それは本当か?!」

「お、おう……知り合い? もしかして元嫁とか元彼女とか?」

「そのような畏れお……いや、僕が一方的に知っているだけだ。そして探している。詳しいことは言えなくてすまないね」

 

 種族、というか集落的な問題かね?

 もしかして集落の秘密を表に出してしまったとか?

 ……よぅし、今度マユゲの持ってない本見つけたら買って読も。

 企業秘密的な魔術の秘密覚えてみたいし。

 

「もしも本人に出会うことがあればその情報を教えてくれたまえ」

「お、おう。つってもそっちと会ってもヘルベルトと会わなきゃ意味ないけどな」

「会った時にその街のギルドの伝言板に伝言を残してくれればいい。わかるように書いてくれれば君の名前、僕の名前、彼女と出会った日付だけでいい」

「なるほど。機会があればやっとこう」

 

 伝言を残したい相手とかいないから使ったことねえ。

 てかなんなら使われてるところ見たことほとんどないし。

 まあ王都みたいな定住しやすい街だとわざわざ伝言残す必要もないか。

 

「ちなみにヘルベルトはフーベルタさんを探すために集落から来たのか?」

「その通り。探して来いと言われてね、つい二週間ほど前に集落を出たんだけど、見つかるまでに一体何十年かかるやら」

「気がなげぇ……流石長命種」

「本気で隠れられたら魔術種(エルフ)でも見つけにくいのでね。それくらいは引き受けた時から覚悟をしているともさ」

 

 うへぇ、俺だったら体のいい追放かって思いそうだ。

 やっぱ寿命が違うと価値観も変わるのか……。

 別に何世代も長命種ってワケじゃないのに。

 面白いな。

 

「本当に、君と出会えてよかったよ。そうしているということは俗世に顔を出すこともあるのだろうからね。希望も持てるというものだ。そのお礼といっては何だが聞きたいこと、手伝えることがあればいつでも言ってくれたまえよ。こんなことでは役に立たないかもしれないがね」

「ん~。ん~……。ん~? ……二週間だし知ってるかわからないけど一応。この街で最近何かおかしなこととか怒らなかったか? もしくは鉱石が足りないって噂に関する情報でも構わないけど」

 

 ノースミナスにいる期間が短いから知ってることは少ないだろうけど、それがメリットに働きもする。

 期間が短いということは黒鉄の墓関係者である可能性は限りなく低いということでもあるから。

 安心して話を聞くことができる。

 

「この街でおかしなこと……やけに魔力が淀んでいること、いつまで経っても一切街が休まないこと、多種族が比較的平和に暮らしていること、などだね。正直言って僕には魔術種(エルフ)たち以外が住む街がおかしく感じてしまうのだが」

「はは、そりゃそうか。てか多種族が平和なのの何がおかしいのさ。平和で良いじゃん」

「種族分化、つまり多数の異種族が生まれた頃に僕たちは結界に閉じこもったからね。僕たち、といっても僕はその頃生まれてないんだけど」

「……あ~。差別意識が半端なかった時代に生まれた奴らが閉じた世界を創ってそのままだから外の情報がほとんどなくてそういう異種族間での意識変化が起きてることを理解してない、ってことか」

 

 つまりずっとオフラインで遊んでたから久々のネット接続で大量のアップデートが来てビックリ、的な感じなんだな。

 確かに久々にゲームやってアプデしたらUIがガッツリ変わってました、ってなったら驚く。

 実際そんな感じの経験多々あるし。

 

「そうそう。君も僕を見ても嫌な顔一つせず、聞いてたのよりも技術などが発達していて。食事も実に美味い! 結構なことだ」

「楽しそうで何よりだ」

 

 とはいえ魔境を想像して、覚悟を決めてきたらこれだった、ってなったらそりゃそうなるか。

 まあ俺は当時の差別とかを全く知らない。

 多少聞いた程度、その程度の情報で容易くは語るまい。

 

「それと鉱石が足りない、か」

「色々気になってな、調べてるんだ」

 

 黒鉄の墓と近年の物価上昇とやらに関係性があるのかはわからない。

 けれど採掘物の横流し、それによる不足はあるはずだ。

 一定量を王都などに回さなければいけないが絶対数が減らされている。

 となると市場――個人に回せる量が減るワケで。

 そこから不安感が生まれ、それによって景気とは関係なしに物価が上がる。

 

 ……。

 ――。

 まさか、だよ、な?

 需要と供給の均衡崩れ、つまり需給逼迫。

 そんで値上がり。

 ……オイルショックだ。

 このまま放置したらインフレで経済が壊れかねないぞ。

 

 今この時ほど教科書を読んでいてよかったと思ったことはない。

 

「そのことについては知らないが……ふむ、人手は必要か?」

「あ~……」

 

 正直こういうのってやってることは正しくても行為自体は犯罪行為だし。

 ……どうしよ。

 断った方が良いよなぁ。

 でも人では欲しいんだよなぁ。

 

「場合によっては危ないこともするぞ?」

「構わんさ。こちらの法に興味はないものでな」

「わぁ、ワリと危ない発言。……具体的には何ができる?」

「そうだね。人並程度の剣と弓の腕、魔術は全般的に、固有能力は許可を受けた相手と感覚などを接続するモノだからあまり役に立たないと思ってくれたまえ」

「なるほど」

 

 肉体戦も魔術戦もどっちもできるというのはなかなか心強い。

 いざという時の戦力になるのは助かる。

 何ができるかと聞いて返すのがちょっと脳筋の気配がして不安要素ではあるが、まあ開拓兵(おれ)に合わせてくれたということだろう。

 

「その感覚の接続は共有なのか? それとも一方的な受信?」

「どちらも、だね。相互に送受信が可能だし一方的に送信することも受信することもできる。試してみるかね?」

「やるやる~」

 

 そんな面白そ……重要な事、把握せずに放置などできまい。

 

「じゃあ、君の魂の性質を見せてもらうよ?」

「いいですとも」

 

 魂の性質ってなんぞ?

 善人悪人とかか?

 なら俺は悪人寄りかね。

 使う時は【洗脳】普通に使うし。

 

「なるほど。ヒイラギは面白い魂をしているな」

「え~、何それ? 実は超純粋な少年みたいとか?」

 

 男はいつまで経っても心のどこかに少年が潜んでるものだぜ。

 ……ね~わ。

 いや、少年心はあるけど、純粋はね~わ。

 

「濁っているんだ」

「うぇっ」

 

 はい、クソみたいな魂認定されました。

 正解だよ。

 というか普通に流しかけてたけど、魂普通にあるのか。

 面白いね。

 

「けれど同時に澄んだ色が見える」

「? 魂が二つある的な?」

「違う。魂は一つだよ。だが普通なら混ざるはずのモノが混ざり合わずに両立している」

「おん? どゆこっちゃ?」

「それにこの雰囲気……普通じゃない。なるほど、異界の民か」

「正解。魂ってそこまでわかるんだ、スゲー」

 

 なんだろ、形が違うとか?

 それとも色?

 でも雰囲気って言ってたし曖昧な何か?

 形容しがたい要素か。

 

「そして……わかりやすく視覚でやろうか」

「オッケー。おおっ、俺が見える。しかも重なって見えるとかじゃなくて、脳に直接くる感じで、二つの景色が同時に見える。おもしれえ」

「僕もヒイラギの視界が伝わってきている。斜め後ろ、ヒイラギから見て右奥の茶色のコートの開拓兵、飲み物を……今、飲んだ。そして肉を……今食べた、すぐにもう一切れ」

「面白いな」

「うわぁっ、ビックリした。いきなり視力を強化しないでくれ」

「あっはっはっはっは」

 

 いたずらでちょっと視界を弄ってみると大袈裟なほど面白い反応をして、本当にこっちの視界も向こうに伝わっているのだと理解した。

 

「で、どうかね?」

「協力、頼む」




 赤毛の魔術種(エルフ)、ヘルベルト・ホルシュタインくん(73)
 命令でフーベルタ・ホルシュタインを探しに来た見た目年齢二〇ほどのイケメン
 ローブで体格はわからないが実はかなり筋肉質
 種族的に筋肉が付きにくいものの豊かに創られた土地で育ち、並々ならぬ修練でかなり強い
 魔術種(エルフ)の結界内にはモンスターが存在しないためレベル一ではあるものの、ヒイラギと一〇回戦えば実はヘルベルトが二戦負け三度目の戦いで引き分けそれ以降は七回勝つほど強い
 
 人並み程度の剣と弓の腕?
 うん、戦闘技術って意味じゃ魔術種(エルフ)の里は魔境ですよ
 剣は素で強いのに魔術と複合して置き斬撃とか多重斬撃とか使う、弓は魔術使わず高速機動中にヘッドショットできるうえに魔術使ったら矢の分裂で指数関数的に矢の雨が降るし、矢に広域魔術込めるし
 その中じゃヘルベルトは遠く及ばず未熟もいいトコ、けど開拓兵じゃ平凡の範疇でしょって認識です 
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