ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第八六話 一周回って怖い

「今はどの依頼が終わってる?」

「え~っと、ゴーレム系二種の魔石および体表鉱石片納品がさっきの戦いでそれぞれ三〇集まって、ハードロックリザードの鱗と皮も一〇集まった。オブシディアンスコーピオンの鋏と針と殻と尻尾も。だから三つね」

「そうか。……あと二つはイケるか?」

「……やってるのはヒイラギよ。自分で考えて決めなさい」

「よしっ、やるぞ!」

 

 戦闘の効率化がより高まって体力にはかなり余裕がある。

 最低でも倍は戦えるはずだ。

 

「何が達成できそうだ?」

「調査は自動で達成できるから……その範囲内で達成できそうなのは二つね」

「オーケー、行きますか」

 

 現在達成度が高いのはトリップバットとスティールスコーピオンの素材納品。

 が、達成度はあまりアテにならない。

 スティールスコーピオンはその名の通り通常のアイアンスコーピオン以上の硬度を誇る装甲を有し、それでいて俊敏に動くから坑道内ではかなり倒しにくいモンスター上位だ。

 

「あ、なあ……アレってさ……」

「え? ……カッ、カーバンッ――!?」

「声デカいッ」

 

 視界端に映った小さな影。

 炭のように黒いそれは。

 ごく稀にしか発見できず、発見できても中々倒すことができないという開拓兵の中でも幻扱いされることが多々ある『カーバンクル』。

 影で見えづらいそのカーバンクルはこれまでのモンスターとは異なり硬そうな装甲は見当たらず体毛に覆われた獣だ。

 姿形は黒いカピバラのようであり、よく見れば背には鳥の翼のような器官が備わっていて、首のあたりには丸みを帯びた角のような僅かな突起が見える。

 そして額にはその名を表す燃える石炭のような深紅の石がついている。

 

「どうやって倒す?」

「アタシも見るの初めてよ。倒し方なんて知らないし一度逃げられたら索敵に掛からないから追いかけることもできない……慎重に動くべきよ」

「慎重に、ってどうやって?」

「それは……」

 

 相手の特性が一切わからない。

 発見報告の少なさから考えても高い索敵能力と、隠密能力があるだろう。

 が、それ以外の情報が幻獣扱いゆえにない。

 身体能力は高いのか、魔術は使えるのか、また使えたとしてどれくらいのモノなのか。

 索敵に掛からない、つまり魔力の偽装に関しては常時発動している種族特性のようなモノで魔術を視覚的隠密に使われた場合再発見の可能性はどれほどなのか。

 カーバンクルが現状俺たち二人に倒せる相手なのかすらも不明。

 とはいえ、幻の存在を相手に何もしないという選択肢は開拓兵として存在しないだろう。

 開拓兵が未知に対して臆した挙句逃げてどうするのか。

 

「幸い気づかれてないがいつ気づかれるかがわからない。時間はあまりない」

「そうね。……来た道を引き返せば反対側近くに繋がってる場所に迎えるからアタシが急いで行くわ」

「軽装の俺が行った方が良いんじゃないか?」

「経験の浅いアナタに任せたら迷うでしょ。……アタシはそのまま突撃するけど、もしアタシが辿り着く前にカーバンクルが動いたら大きな音を発して知らせて頂戴」

「わかった。できる限り早くしてくれ」

「もちろん」

 

 話し合いの終わりと同時にクアークが来た道を引き返す。

 音はなく、カーバンクルが気づいた様子もない。

 幸い周囲に他のモンスターの反応はなく、遠く離れた位置からクアークの到着を待つ。

 すると不意にカーバンクルの顔がこっちに向いた。

 

 バレた?!

 いや、普通に顔の向きを変えただけ。

 心配し過ぎ。

 心を落ち着かせて、魔力を周囲と同化させるように、存在感を消せ。

 ……というかずっとあそこで何をしてるんだ?

 

 気になって見たくなるがそれで姿を見られたら意味がないと壁に身を潜めたまま聴覚を強化する。

 すると届くゴリッ、ゴリッという硬いモノ同士がぶつかり合い、砕ける音が耳に入った。

 ――ゴリッ、ガチッ、バキッ、ボリッ。

 重ねる都度音は変化し、徐々に曇った音へ、そして小さく。

 その音が鉱石を噛み砕く音だと気づいたのは大きな音が小さくなるのを三度繰り返した辺りだった。

 

 石を喰ってる?

 どんな顎だよ。

 物によって硬度は変わるけど……それでも石を噛み砕くって噛まれたらマズいな。

 

 もしかしたらそういう攻撃もあるかもしれないと警戒していると、大きな租借音が不意に止まり。

 そしてカーバンクルが少し動く気配がした。

 様子を窺ってみるとカーバンクルは俺に背を向けていて、その向く先にはクアークが来るであろう通路があり、俺は静かに武器を構える。

 

『ゴッゴッゴッゴッ!』

「!?」

 

 明らかな威嚇の声。

 そして姿を現すクアーク。

 カーバンクルの探知範囲に入ってしまったのだろう。

 が、それは仕方のないことだ。

 通路を通れば探知される。

 そういう位置関係にいるのだから。

 

「はァァアアアアアァァァッ!」

 

 見つかっていると、敵意を向けられていると理解したクアークは思考時間がないのではないかと思うほど即座に襲い掛かった。

 振り下ろされる直剣。

 けれど想像以上にカーバンクルは早く、踏み込んだ足に対して突進を仕掛け、そのまま噛みつこうとする。

 予想外の攻撃ゆえか、それとも踏み込みか完全になる前に突進を仕掛けられたのか、クアークの足は強く押し弾かれたことで強制的に曲げられて膝が前に進んでいた。

 このままでは足が砕かれる。

 そう予感して飛び出そうとした瞬間、目でそれを制止され、クアークは回避行動を取った。

 自ら強く前に重心を傾けることで倒れ、そして同時に剣を地面に突き立て、残った片脚のみで身体を浮き上がらせて剣を中心に縦回転することで噛みつきを避けた。

 

「はァッ!!」

 

 瞬時に身体を反転させつつ再びカーバンクルに飛びかかり、それを避けられるが元居た地点に近い場所へと戻る。

 つまり位置関係としてはクアークと俺で挟み込む状態だ。

 

 足の速さじゃ勝てないッ。

 だったら魔術で勝ってやる!

 

 いた場所から跳びかかり、構築待機させていた【凍壊(フリーズ)】を一気に奔らせた。

 ピッ、と稲妻のように宙を駆けた魔術はカーバンクルの下へと瞬時に辿り着く。

 

『ゴッ!』

 

 が、ギリギリで気づかれてしまい。

 避けられる。

 

「バッチリッ!」

 

 けれどクアークのアシストによってカーバンクルの進路は塞がれ、直撃ではないが魔術の影響はカーバンクルへと確かに及んだ。

 凍り付く脚。

 力技で氷を破壊するも氷に足を取られたことでカーバンクルは転倒。

 すぐに立て直そうとするカーバンクルだったが、それよりも早くクアークが圧し掛かり、連撃を加える。

 体勢的に剣を振るうのは難しく、クアークはひたすら柄頭で頭を殴りつけていた。

 

「ッ!?」

 

 しかし不意にカーバンクルの額の紅い石が輝き出したのだった。

 はっきりとわかる魔力の高まり。

 魔術を行使しようとしているのだろう。

 

「マズい!?」

「逃げろッ!」

 

 俺が逃げろというよりも早く状況を理解して離脱しようとしていたクアークは、俺の言葉が終わることには既に後退していた。

 そして――。

 シュッ、と軽い音が聞こえた。

 緊張感とは裏腹にその場には俺とクアークの足音だけ。

 ――かと思いきや直後に近くの壁から異音が鳴った。

 なんだと一瞬目を向けると、壁面が広く溶けているのが見えた。

 

「ッ!」

 

 速射。

 不充分な【凍壊(フリーズ)】は魔力の高ぶりで生まれた領域を進むにつれて威力を減衰し、カーバンクルの体表を凍てつかせる。

 氷は一瞬だけカーバンクルの動きを鈍らせるものの身動ぎ一つで砕け、弾かれた。

 そしてそのまま突進を仕掛けてくる。

 すぐ指輪でナイフを生み出して投げるとその突進は止まり、俺は眼を動かさないままクアークに近寄る。

 

「平気か」

「少し掠めた。身体の調子が悪い」

「毒か? それともそういう魔術か?」

「感覚的からして多分魔術。それに傷も治らない……というか魔術が使い辛いわね」

「そうか」

 

 ほんの少しの間だけ視線をクアークに向けた。

 左頬がさっきの熱線で焼けたのか切れるように真っすぐ線が走っている。

 すぐに魔術をかけて状態異常を消しながら回復薬(ポーション)を取り出し、中身を魔術で操作してクアークにぶっかける。

 

「すまんッ!」

 

 視線を戻し、カーバンクルとの距離を詰めるため踏み出した。

 警戒するカーバンクルは姿勢を低く構え、さっきほどではないが僅かに魔力が額の石に集まる。

 

 さっきのか!?

 予兆が魔力の高ぶりだけで動作がねえからタイミングが掴みづらいッ。

 

 魔力が高ぶったかと思えばそれ以外ノーモーションで熱線を放つから回避の難易度が高い。

 どの方向にも避けられるようにと下半身に力を込めつつ、反対に上半身を限界まで脱力させる。

 その時嫌な予感がして右膝を抜いて右へ倒れつつバリアを張った。

 すると顔が動かないまま額の石が光り、俺の方へと熱線が放たれる。

 

 それ正面だけじゃないのかよッ!

 

「ッぶねえッ!」

 

 熱線はバリアに阻まれて上へ逸れ。

 体勢を立て直すためにワンテンポ遅れながらも攻撃に入る。

 

「大丈夫!?」

「ああ!」

 

 頬の傷はそのままだが動けるようにはなったらしいクアークが攻撃に回り、カーバンクルの逃亡を防ぐ。

 猛攻がカーバンクルを襲うものの低位置という戦いにくさや素早さが原因でほとんど攻撃は当たっていなかった。

 

「やァッ!」

 

 切りからの蹴り。

 予想外かつ素早い動きにカーバンクルも反応しきれず、鋭い蹴りが腹に突き刺さる。

 けれどその身体は吹き飛ばずに僅かに浮く程度。

 が、その僅かな瞬間に一気に片を付ける。

 回避も防御も逃走も、一切ができない滞空時間に【凍壊(フリーズ)】を放った。

 直撃。

 だが抵抗力が強く中まで凍らすことはできず、表面を凍らせて一時的に身動きを縛るだけ。

 それを手ごたえで理解した俺は動きを止めることなく魔術から続けて短剣を抜き、首に突き立てる。

 

「オラァアアアアァァッッ!!」

 

 硬い毛皮と骨に阻まれて刃が止まった。

 これを逃せば逃げられるかもしれない。

 全身に力が籠り、切っ先に体重を預ける。

 

「伸びろ! 黒鍵!」

 

 柄を起点に伸びる黒鍵。

 突然剣身が現れるワケではなく元々ある剣身が伸びるためそのままでは突き刺さらずに意味がない。

 けれど全力で押さえつけることで全身の力と体重に剣の伸びる力が加わり、さらに剣として強化範囲が増えたことで武器強化による威力向上が強化されて剣は深く突き刺さった。

 

「ぐッ……」

 

 最期の瞬間、石に魔力が一瞬だけ集まったが死んだことによりその魔力はそのまま元に戻る。

 

「だぁッ! 戦闘時間ちょっとなのにスッゲー疲れた! カーバンクル強ッ!」

「お疲れ様。アタシほとんど役に立たなかったわね」

「そうか? クアークいなけりゃ勝てなかったろ。助かった」

「その死体はヒイラギに譲るわ」

「え、半々じゃねえのか? もしくは俺三のクアーク七とか」

「一〇〇歩譲って逆はあってもアタシの方が多いのはありえないわよ。索敵を過信してあのままじゃ逃げられてただろうし……決め手は全部ヒイラギだったじゃないの」

「ええぇ……」

 

 頑なだな……。

 開拓兵としてのプライド的な感じか?

 それだったら俺もそのプライド的なヤツ発動させちゃうぞ。

 

「って、あれ?」

「どうしたの?」

「死体が消えん。てっきり魔石だけ残すか額の石をいくつかもしくは一つ、あとは毛皮とかその辺落とすと思ってたんだけど……もしかしてモンスターじゃなくて動物から特殊変異したヤツ?」

「……アナタ、どれだけ運が良いの!?」

「はぇん?」

「たしかに長生きした個体は多く残すとか言われてるけどッ、全身残す場合もあるけどッ……幻獣扱いのモンスターよ!?」

「へ、へ~」

 

 俺、明日死ぬんかな?

 もしくは調査が黒鉄の墓にバレて暗殺される?

 怖ッ!?

 嬉しいとかそういうの通り越して怖いわッ!

 

「……ま、いっか。お土産ゲットだぜ!」

 

 マユゲとエリナ喜ぶかな~。

 喜ぶと良いな~。




 カーバンクル:額に紅い石を持つモンスター
        石の数は個体によって異なり、またその形状も個体によって大きく異なる
        今回の個体は比較的丸い石が複数(多くは体毛に覆われて見えない)
        鉱物を食べることによる成長で額の石は肥大化する
        また、甲殻類における胃石のように体内に紅い石の蓄えがある
        額から撃ち出す熱線は炎の特性を持った光
        そのため通常の開拓兵はほとんどがその攻撃に対する耐性を持たず、バリアで防げたのはマユゲが光を用いた攻撃や状態異常の魔術の存在を知っていてそれに対する防御力を付与したため
        一般的なバリアの魔道具では防げない
        今回は飛ばなかったが逃げる際に飛ぶことがあり、その場合は魔術で地面を叩いて相手を惑わせる狡猾さを持つ
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