ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第八七話 青魔の月

「モンスターの解体を頼む」

「解体のみでしょうか? そうなると料金が必要になりますが」

「そうなのか。問題ない、いくらだ?」

「解体するモンスターの種類と大きさによります。猪でしょうか?」

 

 やっぱりたまに全身残すヤツがいるだけあって解体はできるらしい。

 存在自体は知っていたが王都でもゼーフルスでも全身を残すモンスターと遭遇しなかったから狩竜人時代の名残だと思っていた。

 

「これだ。いくらかかる?」

「こ、これはカーバンクル!? 本物ですか!?」

「知らん。遭遇して倒した、俗にいうカーバンクルと同一のモンスターかはそっちで判断してくれ」

「しょ、少々お待ちください!」

 

 幻扱いとはいえギルドの人間が慌てるほどなのか?

 というか一体何をしに行ったんだ。

 普通に考えたらギルドの造ったモンスター図鑑を確認しに行ったか、もしくはカーバンクルを知っている人間がいてその人を呼びに行ったかだろうけど。

 いやぁ、ナイス驚きだったね。

 普段なら注目されたくなくてやめろよ、とか思ってたんだろうけど今は状況的に少しでも多くの人間に注目してもらって噂を広めてもらいたいから……ありがとう新人っぽい受付嬢さん!

 ただ一つ、開拓兵としての経験があるはずなのにそこまで慌てるなよ、可愛いじゃねえか。

 

「お待たせしました! こっ、この方がカーバンクルを持ってきたんですけど、本物ですか?!」

「ふむ。少々触れてもよろしいですかな?」

「え、ああ、どうぞ?」

 

 髭が似合っている筋骨隆々の老人少し手前ほどの見た目の男の人がカーバンクルの脚を持ち上げたり、口を開けたり、象徴である紅い石を指で叩いたりなどをして確認をする。

 

 ……俺も髭を伸ばしたら似合うか?

 いや、そもそも俺髭全然生えてないんだよ。

 処理が面倒だしそれは助かるけど……他の奴らはみんな髭とか脛毛とか生えてきてるし、俺の成長が遅いみたいで地味にイヤなんだよなぁ。

 

 いまだに産毛程度の脛を思い浮かべ、目の前の髭を見つつ自分の顎を触り、少し落ち込む。

 とはいえ顔つき的に恐らく自分には髭が似合わないのはわかっているから生えなくて良いという気持ちもあり、結局は複雑だ。

 

「たしかにこれは以前買い取ったカーバンクルと同じモンスターに違いありません。なのでこちら、カーバンクルとして買い取らせていただきます」

「え? 違う違う、買取希望じゃなくて解体希望」

「おや?」

「あっ……」

「……伝達ミスのようですね、申し訳ございません」

 

 おいおい、報連相は社会人の基本だぜ?

 伝達ミスはいかんでしょ。

 実害ないから今後は気をつけたまえ~。

 

「では改めて、カーバンクルとして扱わせていただきます。こちらの解体に掛かる費用は四〇〇〇〇アスターです」

「……高いな」

「カーバンクルの皮や肉は硬く、また解体経験のある者が私以外にいないためです」

「なるほど、適正価格か。これで良いか?」

 

 四枚の金貨をテーブルに置き、それが本物か確認した髭男性は「一時間ほどで終了いたします」と言い残してカーバンクルを奥へと運んでいく。

 

「え、ええと、間違えてしまって申し訳ございませんでした」

「別に良いよ。次も同じミスしちゃダメだけど」

 

 謝罪してきた受付嬢に適当な笑顔を振りまきつつクアークの待つテーブルへと向かい、腰を下ろすと偶然近くにいた開拓兵が声をかけてきて、それをきっかけに崩壊したダムのように一斉に開拓兵たちが声をかけてきて情報の洪水が起きた。

 

「待て待て待て! 一斉に来過ぎだ! 一体なんなんだ!?」

「そんなの決まってるだろ! こんなめでたいことがあったんだ、宴会に決まってるだろう?」

「え?」

 

 宴会?

 何で……って俺に押しかけてるんだからカーバンクルか。

 カーバンクル倒したのがめでたいの?

 そりゃ幻獣扱いだったから凄いのはわかるが……お前らに対する関係性イズどこ?!

 

「もしかして開拓兵歴浅いの?」

「あとちょっとで一ヶ月だな」

「あら~、それは知るワケないかぁ。おっきいことしたのなんて初めてでしょ?」

「大きい……前とっ――特になんかあったって記憶はないなぁ~?」

 

 アブねぇッ!?

 盗賊のこと漏らしかけた!

 おもらし厳禁だよ。

 アデルの名誉のためにも言っちゃいかん。

 気づいてよかったぁ。

 それに盗賊退治自体は別に大きなことじゃないし。

 

「なんかスゲーことやったり困難に立ち向かったりしたら皆で祝うモンなんだよ。費用は周囲持ち、おめぇも将来そういう機会があったらちゃんと出してやれよ」

「なるほど。そういうことか」

 

 知り合いでの祝いならともかくほとんど知らないただ同じ職業だからという理由で祝うのは前の世界で経験がなく、新鮮で面白い。

 開拓兵としての助け合い精神を培うためだろうと考え、了解だとニイッと笑ってみせる。

 

「アナタたち、今日は青魔の月(・・・・)よ」

「……お前、せっかくいいことあったのに運悪いな! よし、宴は後日だ!」

「!?」

 

 アルエェェェェ!?

 宴じゃなかったの?!

 結局俺の運は良いってこと? 悪いってこと?

 どっちだよ。

 

「……そのセイマノツキって何?」

「言葉通り青い魔の月よ。ひと月に一度起こる満月――つまり魔力が最も高まる時期、それが昼なら問題ないんだけど夜に月の魔力を浴びると具合が悪くなるの。少しだけなら大丈夫なんだけどね」

「へ~不っ思議~」

「月の色によってある程度変わるんだけどね」

「そうなのか。ちなみに何色があるんだ?」

「……それは自分で見た方が楽しいと思うわよ? その口ぶりからしてヒイラギの世界じゃ月の色は変わらないんでしょ?」

「そうだな。基本は変わらん。大気の状態、月の位置によって光が反射して色が変わるけど」

 

 月の色なんてほとんど気にしてなかったな。

 来たばかりの頃に一度見た記憶はあるけど正直そこまで大して色が違うって感じはしなかったし。

 序盤の方は見る暇というか気分にならなかったし、二週間目過ぎた辺りになるとその頃はほぼ新月で突き見えなかったし。

 でも言われてみればたしかに青かったような……そう言われたからそう感じるだけか。

 

「影響の少ない時だと月が綺麗だから見ると良いわよ。もっと言えばその時に月見酒とかすると最高ね」

「そうなのか。楽しみだ」

「月の魔力に当てられて気分も上がるし」

「……それは影響少ないと言っていいのか?」

「平気よ。害はないし」

「そっか」

 

 酒の影響と、あとはプラシーボ効果的な感じだと思っておけばいいだろう。

 そう信じれば実現するとか。

 実際、高揚も思い込みも気分の一種でしかないし。

 

「ちなみに依頼の報告はしたの? してないなら行ってくるけど」

「アナタが受付のところにいる時に終わらせたわよ」

「そうか。なら飯でも食うか」

「珍しく疲れたから今日はアタシもいっぱい食べちゃおうかな」

「俺も今味の濃いモノと脂っこいモノを身体が求めてるわ」

 

 酒が好きなら多分仕事終わりの一杯がさぞかし美味かったんだろうなぁ。

 俺はジュースでも十分美味いと感じるから良いけど。

 

「ッあ~! ウメェ……全身に沁みるぅ」

「……ふと思ったんだけど、ヒイラギは受け取った素材をどうするつもり?」

「知り合いの研究者に渡して研究してもらう。んでその研究結果でなんかよさげな魔道具ができたらそれを貰うか借りる」

「お肉は?」

「……適当に役立ててもらう?」

「研究材料のためにお肉を使うって言うのは聞いたことがないわ。そもそも普通はお肉なんて残らないし」

「使わないのか……珍しいから使えるかと思ったけど。たしかに珍しいが有用と結びつくかと言われたらそうじゃないよなぁ……」

 

 足の裏に目がある生物が突然変異で生まれたとして、それは珍しくはあるけどその目は一切役に立たないだろうし。

 肉を何に使うのか正直想像もできない。

 

「たしかに、食うしか思い浮かばんわ」

「いっぱいお肉は出るだろうからちょっとだけ使って料理作ってあげても良いわよ?」

「あ~、じゃあ頼もうかな。俺も料理はできるけど雑だし、特別腕が良いってワケじゃないし」

「ならそのうち作ってあげる。ヒイラギが持ってたら大丈夫だろうから?」

「そうだな」

 

 ありがとう、マユゲ。

 時間の概念がない空間だからいくらでも放置できる。

 

「あ~、食った食った」

「もう時間も経ったでしょうし、見に行ってみる?」

「そうだな」

 

 少しの間だけ視線を感じ、受付に目を向けると解体された色々が置かれている。

 偶然他の人と重なってない限りは恐らくあれが俺たちの倒したカーバンクルだろう。

 

「これで全部?」

「はい。残っていた血液は複数に分けて容器に、魔石はこちらに、額および体内に生成されていたルビーガーネットはこちらに、その他毛皮は魔術で高速加工、骨や肉は部位ごとに梱包いたしました」

「そうか……。改めてこうして見ると石多いな」

 

 親指の末節骨ほどの大きさの紅い石が一〇個以上。

 荒い形の石だから宝石として加工(カット)すればもう少し小さくなるのだろうが、それでも大きく見える。

 そしてふと以前の世界の知識を思い出した。

 

「クアーク。これ、あげる」

「だから取り分はいらないって言ったでしょ? ほとんどヒイラギがやったんだから」

「それは聞いた。仕方ないから納得したし。んで、これは俺からのプレゼント」

「石を?」

「うん」

 

 この世界における宝石の立ち位置を俺は知らない。

 金同様に資産的価値すら激減しているのか、それとも何かしらの魔術的なモノや工業的なモノを理由にそれなりの用途があるのか。

 少なくとも魔道具以外でその類のモノを見た記憶はない。

 もっとも、俺の行動範囲が仕事に関係あるところくらいだから知らないだけかもしれないが。

 

「俺のいたところだとルビーもガーネットも勝利とか真実とか純愛とかの意味が込められてたし、お守り的な? いらなかったら売ればいいし、気に入れば宝飾品にでもすればいいよ」

 

 その辺の意味は商業的なのを理由につけられたんだろうけど。

 ……あ、違うか?

 勝利とかの意味って見た目からの連想で大昔からの迷信的な感じだった記憶があるし。

 

「そう……なら貰おうかな」

「気休めでしかないだろうけど、まぁ気分だ気分」

 

 あ、ホントだ、月が青い。

 結構綺麗だけど街にはもうほとんど人がいないし、ホントにヤバい感じなんだなぁ。




 魔の月:魔月(まげつ)とも
     日中は太陽の魔力によって弱体化される月の魔力が夜になって完全なモノとなる現象
     色には周期があり、連続して有害な満月があれば連続して無害な満月の時もある
     青魔の月は浴びると体内の魔力が放出させられる脱魔状態になり、魔力の少ない者が浴び続けると魔力欠乏によって最悪死に至る。この影響はモンスターにもあり、青魔の月の日には地上でのモンスター被害がないという

 ルビーガーネット:カーバンクルの生成する魔術的価値の高い宝石
          その名の由来はカーバンクルの額の石が魔力の貯蓄によって成長することから『赤い種子』として名付けられた
          売れば屋敷が建つ


宝石について
 この世界における宝石の用途は主に魔道具である
 風習によっては宝石を使う場合もあるが、何の効果もない宝石は基本的に無価値
 魔道具になるなどの用途が存在する宝石の場合は高価になるため資産的価値も生まれ、貴族が装飾および防衛としての実益も兼ねて装身具として使う場合が多い
 
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