ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第九話 逃げて問題ないなら逃げればいい

「てことで、力を貸してくれベアトリクス」

「へぇ……良いぞ、貸してやる。その代わりいつか私が困ったらそんときゃお前が力を貸せ」

「了解、出世払いだ。たんまり利子付けて返してやんよ」

 

 ひゅ~、カッコい~。

 そんなあっさり了承してくれるとかマジで懐が広い。

 そこに痺れるッ憧れるッッ。

 

「んで、そいつら全員か?」

「……スマンな」

「謝んな」

 

 結局呼びかけに応じたのは一三人。

 間近で香月を見ていたから予想外に多いことに驚いた。

 さらに驚いたのはその香月が訓練に参加することを決めたこと。

 まだ自信は全然だし、戦うことを怖がってはいるがそれでも勇気を出している姿は素直に感心した。

 

「じゃあとりあえずこういうことするってのを見せるから、ヒイラギ、来い」

「あいよ。……言っとくが今から見せんのは俺が頼んだ難易度であってお前らに強制するワケじゃないからな?」

「え?」

 

 ドン引かれた上に逃げられでもしたらかなわないからあらかじめ説明をしたが話を理解できていない奴らはそんな風に声を漏らし、間抜けな顔をしていた。

 

「さて……」

「やるか……」

 

 五メートルくらいの間隔を取って向かう合う俺たち。

 余裕そうなベアトリクスに比べて俺はいつどんな攻撃が来るのかと緊張が心を支配する。

 ほんの少し指先が動くだけで昨日の訓練が脳裏を過ぎって過剰反応してしまうのだ。

 

「今日は見せるためにも普通の組手だ」

「んなら容赦なくやらせてもらうぜ」

 

 虚勢であることは周囲から見ても明らかだろう。

 けれどこうでもしないと戦意を保つのが難しい。

 

「……おらァッ!」

「重ッッ」

 

 放たれた回し蹴りを両腕を挟んで止める。

 折れるんじゃないかと思うほど強烈な一撃は浮かせはしなかったものの俺を数メートルほど動かした。

 

 同郷の奴らの前でちょっとは華を持たせるとかそういうのはないんですか、そうですか。

 確かに来たばっかの俺が勝つってのは戦闘を嘗めかねないからさせる気がないのはわかってたけどこうも暴力的だとビビっちまうだろうがよ!

 

「ぬらぁッッ!!」

「格上相手に単発で動き止めてんじゃねえッ!」

 

 こっちは連撃とかやったことねえんだよ!

 てか下手な連撃したらそれはそれでダメ出しだろうが!!

 

 素人丸出しのスマッシュ。

 ギリギリまで予備動作をせずに直前で一気に下から殴りかかったにもかかわらずあっさり避けられた。

 ほぼ動かずに避けられたことで俺の戦意がどんどん削られる。

 それと同時に本能が昂るのがわかった。

 俺の知っている人間(・・)の枠を大きく超えた能力。

 この世界ではそれが可能だと。

 好奇が突沸した。

 突沸した今の俺は自制が効きそうにない。

 

「はっはぁッ!!」

「なんだいきなりッ」

 

 防御なんてどうでもいいッ。

 全身を加速させろ。

 防ぎきれるワケないんだからするべきは捨て身だ。

 あははははっ、ダメだ、楽しいッ!

 肺が耐え切れずに胸が苦しいのに、それすら生の実感で心地よく感じちまうッ!!

 

 もはやこの時の俺に記憶などほとんどなかった。

 正確には認識力が著しく低下していた。

 戦っているのはわかるが自分がどんな攻撃をしているのかが全くわからない。

 そんな状態だ。

 

「急に動き良くなったな、テメェッ」

 

 獰猛な表情を向けられている。

 それはまるで鏡を見ているような気がした。

 ベアトリクスのように強くなりたいという想いと鏡を見ているような気分が低下した思考力と組み合わさり、意識のどこかでベアトリクスは自分だなどという壊れた思考に行きつく。

 

「おッらぁッ!!」

 

 そんなおかしな頭の状態で俺はさっき受けた回し蹴りとほとんど同じ軌道を描いた。

 だがベアトリクスの能力で行われた回し蹴りを貧弱な俺がやるというのは無謀極まりない。

 そもそも体格が違うし、俺では回し蹴りに耐えられるだけの体幹を持っていない。

 見よう見まねで技を使ったところで威力はたかがしれている。

 

「バカが……」

 

 脚を掴まれた感触で意識が戻った。

 呟くような罵倒の言葉はその大きさに反比例するように俺の耳にハッキリと残り、瞬間俺は地面に叩きつけられる。

 

「がッ」

 

 視界が一瞬白み、そして直後に暗んだ。

 ほんの僅かな時間ではあるが意識が途絶え、気が付いた時には喉元に手刀が添えられていた。

 

「は~、クッソ、呆気ねえ……」

「ま、日数にしちゃ良い線言ってたんじゃねーの?」

「そーゆー慰めはやめれ」

 

 負けた相手に慰められるってスッゲーイヤ。

 イヤってか、よくわからない違和感がある。

 

「あ~、まあ、こんな感じだ。ぶっちゃけ俺みたいな貧弱素人の戦いなんて見ごたえ皆無だったろうけど訓練のノリは大体わかったと思う」

「……マジ?」

「マジ」

 

 代表するように呟かれた霜村の言葉を頷きとともに肯定すると多くの表情が苦々しいものに変わった。

 

「ま、まあ? やってみれば意外となるぜ? 強くなるぞって感じのやる気さえあれば、うん」

「……」

 

 そんな変な奴を見るような目で見るなよ。

 事実変な奴ではあるけどさぁ。

 つーか楽しんだ方が良いと思うぞ、ホント。

 別にドMになれとかの無茶ぶりはしないけど痛みを楽しむというか……続けていくうちに同じ量をこなしても感じる痛みの量が減ったことで成長を感じる、とかさ。

 どうせ戦うしかないんだったら楽しんだ方が良いと思うんだが。

 

「まあ、さっさとやるぞ」

「ベアトリクス……俺、戦ったばっかなんだけど?」

「お前は……適当に走ってろ」

「あ~い」

 

 走りはするのね。

 まあそこまで激しく動かない分楽だから良いけど。




 逃げていい状況なら逃げて良いと思いますが生きたいならそうもいきませんよね
 生きたいなら戦え、戦わないなら生きるな、というのは極論に聞こえるかもしれませんがこの世界で異世界人が生きるにはほとんどその選択肢しかないのもまた事実
 身元どころか思想も不明、我々の世界とは異なり実力が見た目じゃ中々判断できないのも相まって異世界人はこの世界では就職先皆無っていう
 全くない、ゼロ、というワケではないのですが、そのごくわずかな就職先を探すのは至難の業、それも支援ありきで一週間しか生きられない
 可能性の高い相手を見つけて、信頼度を稼いで、雇ってもらう
 書いてて改めて「クソゲーかよ……」と思いました

 まあ誰かに依存するような生き方を良しと思えて、それを受け入れてくれる相手がいるのなら戦わなくても良いんですよ
 とはいえそんな奴中々いませんよね
 見ず知らずのなんのメリットもない奴を養い続ける、なんて仏でも往復ビンタです
 千手観音呼び出して千手往復ビンタです
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