ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「これは……中には何もいない、入って来ても大丈夫だ」
「わかった」
「臭いが酷いわね」
その言葉通り、扉を開けてすぐに濃密な臭いが漂ってきた。
鉄の臭い、錆の臭い。
鼻を抑えたくなるほどの悪臭だ。
「……」
照らされた室内。
魔術で均された地面や壁と同化するような朱殷。
「なぁ……」
「……なんだ?」
「俺さぁ、この世界来て一ヶ月でこの国のこと詳しくないワケ。だから常識の違いかもしれねえけどさぁ……ここに拘束用の鎖やらなんやらがあるのは鉱山として、普通なのか?」
「んなワケねえだろうがッ!」
「だよなぁ……」
地面には髪の毛が大量に散乱していて、色から察するにそれは一〇はくだらない。
また、髪の毛の近くには正体不明の粉と欠片が降り積もっている。
硬く、細かく、さらさらとした手触りの粉末。
同じ色の欠片は見た目こそ鉱物のようだが、明らかに鉱物とは異なる感覚が手に伝わってくる。
「流石にこの大きさだと……」
剥離したかのような薄さの欠片は小指の爪ほどの大きさ。
それだけでは見ても良くわからない。
なんとなくわかりそうだが恐らく馴染みのないものだから答えにたどり着けないままだ。
「なあ、これってやっぱ……そういうことだよな?」
「多分な」
「あ~ヤダヤダ、何が楽しくてこんなことするのやら」
「馬鹿馬鹿しいってか?」
「つーより一般人でしかない俺にゃわざわざこんなことする理由がわからんのでね。それに俺には関係ない話。ただ……不愉快ではある」
「……そうか」
言語化できない不快感。
ただ現状でいえることはこれ以上厄介事を持ち込むな、ということ。
そして俺や俺の周囲を巻き込んだら俺の目標なんて関係なく、罪を裁くのは俺じゃないという正論を理解したうえで全力で捻り潰す、ということ。
「こっちの部屋にも同じようなのが広がってやがる」
「そうスか……」
「こっちも同じよ」
左右の部屋にも同じ、拷問か快楽殺人としての利用の跡が見られた。
軽く覗いてみると右の部屋は中央の部屋や左の部屋よりも広く、二ヶ所で行われていることがわかる。
もちろん都合よく二つ分のスペースがある、などということはなく、他に比べて多少広い程度。
入って左奥の方に焼けた跡が見られることから係員の中でも偉い人間が使っていたか、もしくは物置きとして作られた部屋の残りを消去したのだろう。
「……ん?」
左奥、つまり左斜めの方からスッと左へ視線を向けると部屋の隅に燃えカスではない何かが積もっているのが見えた。
近づき、照らすとその積もった何かの正体がさっきと同じ粉末と欠片だということがわかる。
ゴミとして出たこの粉末と欠片を掃除として部屋の隅へと追いやったというゴミを押し込んで片づけた気になったような対処法。
杜撰な状況と、部屋に広がる行為の証拠に思考がどんどん苛立ちに染まっているのがわかった。
「これはデカいな――これは……角?」
滑らかな曲線。
そして外側の緻密な部分と内側には穴の多い部分。
それはまるで骨のよう――実際角の種類によっては組織的に骨であったり骨を中心に確執で覆っていたりするからモノによっては骨で、だがその欠片が骨ではなく角であることになんとなく自信があった。
「なあクアーク……」
「どうしたの?」
「獣人とかの角ってさ、昔研究とか迷信とかで取引されてたことってある?」
「なるほど、違法なモノの取引は犯罪組織には関係ないってこと。……質問の答えは
「そうなのか……」
「もっと言えば、今もある、ね」
「そうなのか?」
「もちろんよ。研究的価値があることに違いはないし定期的に角が抜け落ちる種族もいるもの」
「ああ……」
鹿みたいな感じか。
たしかに種族的にそういうのがいるのも当然ではある。
「けどね、そうじゃない種族のは禁止されてるわ」
「……だろうな。じゃなかったらこんなところでこんなことしてねーわ」
ふとクアークに目を向ける。
わかっていたことだがそこに角はない。
種族はわからないが基本的な造形は普人種と変わらないから、もし仮にこいつらの目的が角だとしたらクアークが狙われることはないはずだ。
あくまで思いつきの範疇でしかないが、少し安心した。
「結局証拠になりそうなモンは一切なかったな。死体もねえからギルドに報告してもどうなるか」
未だに臭いが鼻を強く刺激するのかオッサンは鼻を抑えている。
恐らく俺はコープスたちとの戦闘で腐臭に慣れて血の臭いにも早く慣れたのだろう。
クアークが普通にしているのを見ると種族的にクアークの鼻が鈍いか適応が早いか、オッサンの鼻が敏感か適応が遅いか。
入る前はクアークも顔を顰めていたから多分鈍いという線はない。
「ヒイラギはそんな隅で蹲ってどうしたんだ?」
「被害者のモノと思しき角の欠片をいくつか見つけた」
「どれどれ……確かに角っぽいな」
「ちなみに向こうの炭はどうだったんだ?」
「どうってのは?」
「や、だから、燃やされた肉とか骨とかそういう」
「角盗られちまった後は奴隷だろ」
「?」
奴隷落ち?
ふむ……。
一度整理だ。
まず角を切り取られる前後、先に前。
角を取るためにここに連れてくる、それにあたって考えられる可能性は二つ。
買った奴隷か拉致してきた一般人か。
費用的にも多分拉致だろう。
街で拉致した人間をここまで連れてきて……わざわざなんのために?
角を取るだけならアジトとかでやれば良い……後処理のしやすさ?
ダメだ、わかんねぇ。
そもそも角を売るためなら
同じ角じゃ意味がない?
それとも
……違う、思考を逸らすな、そこは今重要じゃない。
拉致した人間をここまで連れてきてここで角を取って、その後どうするか。
わざわざここまで運ぶのは相当難しいはず。
坑道を所有してる鉱業の監視の目も、衛兵の監視の目もあるのにここで。
他の目的がある、ここでやらなきゃダメな理由が。
角を取って奴隷にする?
どうやって?
「角がある種族、普通にしてたら角は取れない、そんな種族で奴隷って多い?」
「借金とかで奴隷になった元開拓兵とかならいるんじゃないか?」
「開拓兵以外の一般人は?」
「ほぼいないだろ」
「拉致しやすいのは戦闘力の低い一般人、それが角、恐らく両方を取られた状態で奴隷になってたら目立つよな?」
「……目立つな」
「奴隷とはいえ全ての言動は縛れない、そうだよな?」
「売買で所有権が移れば主人によっちゃ普通に喋る」
「特定の記憶もしくは一定時間内の記憶を消す魔道具って、ある?」
「ねえよ、んなモン」
んじゃあ固有能力か?
都合よく?
……いや、都合よく、じゃあねえな。
そういう能力を手に入れたからこその必然とも考えられる。
記憶を消す……そもそもそれだけだったらここに連れてくる理由……。
そういう魔術の研究がされてて完成して、それを行うためには準備が必要?
準備なら街でできるか。
ホントわからん、いっそのこといかにもな設備とかあったらわかりやすかったのに。
人が入るサイズの培養槽的なヤツとか。
「人間燃やすとしてどこだ? 近場の奴隷の寝床? ……地味に距離が離れてるんだよなぁ」
「とりあえずその物騒な思考をやめろよ……。てかもう一方も調べねえといけねえんだから」
「もう一方……ああ、来たのってレイスの方だもんな……コープスも……」
脳内地図を遡って辿り着いたさっきの場所。
そこから向かった方向に広がっている道。
位置から考えると――。
「ここだ」
剣の柄頭で壁を叩くと奥から空洞音が鳴る。
「トンファーキ~ック!」
蹴破ると奥から強烈な腐臭が漂ってきた。
そこには通路が伸びていて、進むと大量のコープスがいて、大量の死体が放置されていた。
「やるならやるって言え!?」
「あ~、ごめん」
こちらに気づいて襲い掛かって来るコープスたちだが、全てを凍らせて殺すと一気に静かになる。
「てかアンデッドって死体から生まれんの?」
「そんなことはないと思うけど……死者の魂に引き寄せられて生まれたとかが考えられなくないからなんとも言えないわね」
「ふ~ん。……で、どうすんの?」
「状態がマシな死体をいくつか持って帰ってギルドに報告する、残りはギルドに任せりゃ良いだろ。死体回収の依頼が出るかもな」
全部は持って帰らないのか。
まあそりゃそうか。
あくまで依頼はアンデッドが出た坑道の調査、死体の回収は依頼に含まれてないし。
無駄にあれこれ考える必要はないな。
死はありふれたものだけどもそれを許容できるというワケではないし、開拓兵じゃない人間を殺されれば守っている立場としては怒ります
それに人間同士で争ってる場合じゃないしそんなことをすれば英雄たちに申し訳ないという認識があるため人間に人間が殺されるのはモンスターに殺される以上に怒りが強いのですね
喪失した部位再生はなかなか高度なことです
できなくはないけどするとして角の売り値と釣り合いが取れません