ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第九二話 問題の山

「なるほど、了解しました」

 

 ざわめくギルドの中、報告を済ませた俺たちは解散した。

 職員曰く調査依頼は一時保留。

 急ぎ死体の回収を行って様子を見るらしい。

 職員を坑道内に待機させつつ問題の坑道周囲一帯を調べる、と。

 

「なぁ……この街物騒すぎねぇ?」

「そんなことない、って言いたいけど……流石にここまでだと何も言えないわね」

「これが普通ってのはないよな……」

「当たり前でしょ」

「だよなぁ。社会が崩壊する」

 

 こんな世界だからだろうか、あの場所は酷く居心地が悪かった。

 魂が実在し、それが残留していたのだろう。

 怨嗟の声が聞こえた気がした。

 自分に向けられたモノではないはずなのに感情が強すぎて寒気がして、今も少しその感覚が残っている。

 赤の他人の死。

 だからといって能天気に笑う気にはなれなかった。

 出せて空元気。

 そんなことをすればクアークにすぐ見抜かれ、かえって心配されるだろうからひたすら無言が続く。

 恐らくクアークも同じなのだろう。

 俺たちは揃って逃げるように酒を飲んでいた。

 

「……」

「……」

「なあ――」

「ねえ――」

「……」

「……」

「なんて言おうとしたの?」

「クアークにとってこれは一刻も片付いて欲しいことか? って聞こうとした。……そっちは?」

「元気がないけど平気? って言おうと思ってた。長い間住んでそれなりに愛着も湧いてるからあまり楽しい気分じゃないわね」

「あまり気分は良くないかもな、流石にあの怨嗟の空間は……きつかった。……ごめん、あまり気の利いたこと言えそうにねーや」

「気にしなくて良いわよ。……慣れろとは言わないけど、忘れちゃいなさい」

「そうか。……そうか」

 

 今日は全然酔えそうな気がしない。

 クアークが言うように忘れてしまいたくて強い酒を飲んでいるのに酩酊感も、味も、何もない。

 指も重く、倦怠感がただひたすらに圧し掛かってきていた。

 怨嗟が重力と化したかのように、グッと。

 

 笑えよ。

 いつもみたいに。

 無理笑いが染みついて、張りついて、素になったみたいな笑顔を。

 ホント……調子が狂うんだよ。

 俺ってこんなに弱い野郎だったのか。

 力はなくても心くらいはって思ってたのに、これじゃ背伸びしてただけみてぇじゃねえか。

 ……くだらねぇ。

 

「あ~、ムカつくぅ、ヤケ食いだオラァ」

「……ちょっと元気になった?」

「苛立ちで無理やり活力引き出してるだけだ。……ったく、胸糞ワリィ」

 

 愛着、楽しい気分じゃない、か。

 俺は寝て起きりゃ平気だろうけど、放置すりゃクアークはテンション駄々下がりで約束した経験も知識も教えて貰えねぇだろうし……。

 つーか無視すりゃ肥大化して俺に対する実害も出るし。

 どうにかするかぁ。

 

 そう決めたはいいものの具体的方針が一切ない。

 そもそも黒鉄の墓の問題で手いっぱいだというのにこれ以上仕事を増やしたら脳が疲れる。

 いや、正直それはいい。

 疲れる程度で済むなら寝て起きれば問題ないし、仕事量に関しても最悪ポーションでも使えば解消可能だ。

 何が問題かといえば……こうして考えてみるとそこまで問題がないように思える。

 黒鉄の墓の問題も最重要課題であるザフィーアとの接触ができていない以上は難しいし、それさえ叶えば最悪強行突破で問題解決する。

 

「ところで殺されたのはどこの人なのかしらね?」

「そぉいえばそぉだなぁ。……そぉいや子どもが多かったっけ」

「たしかに……子どもの方が多かったような……」

「明日あの子に聞いてみる?」

「あの子?」

「アイヴィ」

「なんで?」

「子どもの失踪が多いなんて聞かないの。つまりいなくなっても問題ない、悟られにくい存在を、ってことでしょ? その条件に合致するのは普通に考えてあの子たちだから」

「ふむ、なるほど。たしかに……」

 

 そこまで頭が回らなかったけど言われてみれば確かにその通りだ。

 普通に考えて攫ってすぐバレるような人間は攫わない。

 俺も攫う立場だったらまず先に避けるタイプだ。

 

「じゃあそうするか」

「全く……ホントやんなっちゃうわね」

「それな」

「全てが全てアタシやアタシたちのお陰だなんて言うつもりはないけど……ヒトがせっかく守ってる平和を無駄にされるって言うのは凄く腹が立つわ」

「そうだな……俺は有象無象がどうなろうとそこまで興味はないが……それで仲間(クアーク)が傷つくなら俺もムカつく」

「……何それ、アタシのことがそんなに大事?」

「仲間だからな」

「ヒイラギって騙されやすそうな性格よね」

「まぁ、自覚はある」

「他人を疑うけど憎めない。経験則で他人を信じるのを恐れてるくせに少し触れあうとすぐ信じちゃう」

「こえーよ、なんで俺のことそんなに把握してるワケ? 俺のこと好きかよ」

 

 知り合って一〇日ほど。

 たったそれだけの時間で理解されてしまったということに心底驚いた。

 どれだけ底が浅いのだろう。

 

「好きには違いないけど。……見てればわかるわよ」

「マジかよ。でもまあ、その通りだよ。世界がもっと生きやすければって、心底そう思う。平和じゃなくていい、ただ一つ、同じ人間同士だけでいいから争いのない優しい世界が欲しい。……まあ、そんなたった一つの願いすら人間にとっちゃ高望みってのはわかってるけどな」

「能天気で何も知らない子どもみたい」

「うっせー、わかってるよ。……だから俺は選ぶんだよ、一緒にいてく――」

「昔のアタシを見てるみたい」

「……被せんな」

 

 昔のアタシを見てるみたい、か。

 ……昔、か。

 

「言いたくなけりゃ答えなくていい」

「うん」

「なんで望まなくなったんだ?」

「……」

「……」

「別に望まなくなったワケじゃないわよ? ヒイラギがそうなようにアタシだって人が好きで嫌いだし、他の皆だってそう。アタシはアタシの好きと嫌いを理解して、一番欲しいモノだけ見ることにしたの」

 

 それは俺も同じなのだろうか。

 一番を欲した結果が今の俺なのだろうか。

 成長できているのかがわからない。

 多分それは自覚できることではないだろう。

 少なくとも、固執している限りは。

 

「真実の愛か?」

「ええ。まだ手探りだからこの人、っていうのは見つかってないけどね」

「すぐ見つかるだろ」

「だと良いわね。できれば戦えるうちに見つけたいし」

ルビーガーネット(プレゼント)の力を信じやがれ」

「たしかに、すっごい高いものね」

 

 お守り的な気休めだけど。

 こんな世界だしちょっとくらい効果あっても良いだろ。

 

「で、なんの話してたっけ?」

「……忘れたわね」

「……良くわからんが、まあ、俺はクアークのこと大切な仲間だと思ってるよ」

「そ。ありがと」

「あと三週間くらい、よろしく頼むわ」

「三週間?」

「忘れたのか? 俺一ヶ月の予定だぞ」

「あ~……そういえばそうだったわね。アタシの中で結構馴染んでたから」

「そりゃ光栄の至り」

 

 それだけ受け入れて貰えているっていうのは本当にありがたいし、嬉しい。

 それこそ今から別れが惜しくなるほど。

 だが人生で別れなどありふれている。

 今生の別れじゃない。

 もしかしたら別れた結果そのまま会えなくなるかもしれない。

 けれどそんなことは前の世界でもありえたことだ。

 この世界だからじゃない。

 だったら泣くのは死んでからだろう。

 

「……そういえばカーバンクルで思い出したけど、クアークって料理上手いんだよな?」

「……スゴイ繋がり方したわね、ちょっとわからなかったじゃない。……まあ、そうね。自慢じゃないけど、いえ、自慢しようかしら? お店を開ける程度には自信があるわ」

「おお、謙遜かと思いきや自慢に決めてからの自信がスゲエ」

「それがどうかしたの?」

「あ~、ふとクアークって店で出されるような料理と家庭料理、どっちの腕が良いんだろうなって思ってさ」

「食事の時にさらに食事のこと考えてたの? ……どっちもできるけど慣れとかの関係で家庭料理の方がある程度上ね。上手い中でのそこそこか、上手い中でのかなり上手いか」

「だからその自信よ……。だったらさ、俺が街離れる時に一回で良いから食わせてくんね?」

「一回で良いの?」

「流石に何回も頼んだらクアークが面倒だろ。だから一回で充分」

 

 あ~、腹減ってきた。

 おかわりおかわり。

 

「そ。なら普通に食べさせてあげるのと、街を出る時に何か持たせてあげる」

「マジか。ありがとうな」

「気にしない気にしない」




 以前の、独りのヒイラギならきっと同じ場面の遭遇した時に悶々とマイナスなことを考えていたでしょう
 クアークが演技を続けた結果口調が混ざったように、ヒイラギも強がりを続けているうちにそれが染みついていつしか本心が本人でさえわからないように
 自分を見失うのはメンタルケアには致命的で、そんな状況で他愛ない会話を弾ませて忘れることができるというのは実にヒイラギにはありがたいでしょうね
 また程度はともかくクアークも同様で、ヒイラギと話した結果ある程度心が軽くなっています
 二人ともお通夜状態で帰ってそのまま寝てたら翌日のコンディションが最悪でした


 ちなみに程度は軽微ですがヒイラギも酔っています
 マイナス方面に転換する思考が少し削れ、また僅かに理性も削れています
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