ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第九四話 冷徹な絶望と非情な希望

「怪しい……はぁ」

「だから怪しい奴のいうことなんて信じられるかって言ってんだよ!」

「それって要は本当のこと言おうが嘘言おうが聞く耳持たないってことじゃねえか。文字通り話にならんぞ……無理ゲーじゃん」

「煽らないのっ」

「煽ったつもりはない」

 

 別に思ったことを言っただけだから煽ったつもりもふざけたつもりもない。

 もしそう感じられているとしたら俺はふざけるのが染みつきすぎているのだろう。

 

「アタシたちはただの調査のつもりで来てるけどね、この子にとってはお友達が被害に遭ったっていう真面目な話なの。遊びに例えるなんて絶対にダメ」

「そうか。それはたしかにそうだな。……スマン、いや、申し訳ない」

 

 礼儀を欠きすぎていた。

 本気の話にふざけた態度に思える軽い調子で返してはいけない。

 この少女が俺たちを、俺を疑った理由の一端はそこだろう。

 

「俺たちは君たちに危害を加えるつもりはない。……君たちのことを教えてくれないか? 君とちゃんと話がしたい。そのために、教えて欲しい」

「…………手、出せ。右」

「? これで良いか?」

 

 手を開いて差し出すと掌に白い針のような何かが僅かに刺さっていることに気づいた。

 それには透明な液体が付着していて、今自覚したが僅かに腕が痺れている。

 

「一応それなりに強いんだ……」

「どういうことだ?」

「……わっしの毒牙」

「お、おう……」

 

 毒で麻痺している。

 強いという単語が出たあたり弱いと毒にやられるのだろう、と考えていると少女は俺の手を取って傷口に唇を当てた。

 そして音が出ないまま静かに吸われる。

 

「これで毒は平気になった」

「そうか、わざわざありがとうな」

 

 感覚的に多分魔術で治せただろうし。

 

「それで、教えてくれるのか?」

「わっしが教える代わりにテメェも教えるなら」

「ん~……他の誰にも漏らさないっていうなら、まあ、辛うじて? 教えるのも君一人だけ、それで良いなら……それで良いよな、クアーク」

「仕方ないしそれで良いと思うわよ。子ども全員は絶対に止めるけど、賢そうなこの子にだけなら大丈夫なはず」

「賢そう? 言っちゃなんだけど事実だけで言えば子どもだぞ?」

「大丈夫」

「……信じるぞ?」

「信じて良いわよ」

 

 不安だけどクアークの見る目を信じるしかないな。

 多分言葉にできない類の根拠なんだろう。

 

「とりあえず安全なところに場所を移すか」

「そうね。防音はどっちかが魔術ですればいいから、場所はあなたに任せるわね」

「……わかった。けど文句は言うなよ、スラムなんだからな」

「あ~、そうだ。まず先に、俺はヒイラギ、よろしくな」

「自己紹介? ならアタシも、クアークよ」

「……ロザリンド」

「そうか、よろしくロザリンド」

 

 握手を差し出すが怪しむ一方で応じてくれない。

 仲良くしろとまではいわないがせめて普通にはできないのだろうか。

 ……恐らく彼女にしてみれば俺たちは仲間に危害を加えた奴かその仲間なのだろうからそれは難しい。

 

「先にそっちから、って言いたいところだけどそれじゃあ君が俺たちを信じられないだろうから先に俺たちの経緯と要件から」

「ふん……」

「きっかけは昨日、坑道に本来出るはずのないモンスターが出たということで向かった調査依頼。人気のない坑道のさらに奥、そこには毛髪や角を切断する際に出たであろう角の欠片や粉末、そして大量の出血の跡があった。その犯人を見つけるべく俺たちは独自に調査を行っている。要求としてはこのあたりでの行方不明者および不審人物に関する情報提供……だったんだが、発言と態度で実際いなくなった奴がいるのと不審人物のことをほとんど知らないという事はわかった。だから聞きたいこととしては被害位置がおおよそ断定できる場合のその場所を教えてくれってことだな」

「ちッ……」

 

 あからさまに顔を顰めるロザリンド。

 表情から読み取れることとしては『損をした』といったところ。

 察するに、俺たちに対してあれこれ言ったせいで手持ちの武器、つまり対価として出せる情報(カード)が減ったということを理解しているのだろう。

 

 なるほど、確かにこれは賢い。

 自分のカードをちゃんと把握したうえで自分が損をしたことを理解し、そのうえで自分に有利にするためにはどうすればいいのかを理解してる。

 その点に関しちゃ大人でもできない奴はいる、というか俺もそこをできる自信はあまりない。

 全部が全部そうってワケじゃないだろうけど……これは一部演技の可能性があるな。

 

 ロザリンドの賢さを垣間見た俺はいよいよ大人を相手にするつもりで接さないといけないことを理解する。

 

「……わっしは少し前から姿を見せなくなった仲間たちの行方が知りたい。アンタが言うようにその仲間は共通して生え変わらん種類の角を持ってた。見えなくなったのは短い奴で四日、長い奴だと二月は見てない……わっしらの持ってる情報は少ねえ。けど出せる限りは出す。だから仲間のことを知ってるならほかの情報よりもまず先に教えてくれ」

 

 深く息をして、自らに落ち着けと言い聞かせるように話すロザリンド。

 その表情は心を無理やり鎮める、いや、まるで心を殺すようだ。

 

「楽観的に考えず、そのまま話すと……恐らく死んでいるだろう」

「ッ!」

「俺たちが見た場所にはさっき言ったヤツが残っていて、そこから更に進むと角を奪われた者たちの死体が山になっていた。だから恐らくはもう既に死んでいる」

「……そう、か」

 

 大切な仲間だったのだろう。

 酷く辛そうだ。

 だからといってなんと声をかければ良いのかもわからない。

 多分何を言ってもロザリンドにとっては逆効果だろう。

 

「ねえ……ヒイラギはなんでそんなに冷たいの?」

「あ?」

「もう少し、何か、あると思う……。ボク、そういうのキライ」

「はっ。じゃあ何か? 同情でもしてまだ生きているはずだ、諦めちゃダメだよ! なんて言えってか?」

「辛い人にそんな……優しくしてあげないと」

「アイヴィ」

「馬鹿馬鹿しい」

 

 アイヴィは俺が気に入らないのかそんなことを言ってくる。

 俺がそんなアホな言動とは縁遠いのは短い付き合いでもわかるだろうに。

 そしてロザリンドはアイヴィの名前を呼び、そのまま黙ってしまう。

 

「ガキにゃわからんだろうがな、お前みたいなのが社会をダメにするんだよ」

「……どういうこと?」

「第一な、本当に辛い奴に優しい言葉掛けて何になるよ? 根拠があるならともかく無意味に、無神経に、無根拠に希望を与えて? それで? 結局現実に裏切られて傷口を広げるだけだぜ?」

「でも……」

「アイヴィ……」

「そういう無邪気で無意識の邪悪を自覚しないバカになる気はねぇよ。ガキ相手に正論でぶっ叩く趣味はねぇがあえて言ってやる。それをして恨まれんのは言った本人だ。その場限りの八方美人を見せつけたいなら俺のいない場所でやれ、恨まれる覚悟がないなら二度とやるな。俺はロザリンドに恨まれてやる義理がねえからこう言うし、その方がためになると思ってるから言ってんだ」

「だからって――」

「アイヴィッ! ……それ以上はやめろ」

「ご、ごめん……」

「……」

「……」

「……」

「ま、そういうことだ。君の仲間はとっくに死んでいるだろうし、億が一に生きていても奴隷だ。諦めろ」

 

 アイヴィ、お前は無垢が過ぎるな。

 そして自分を理解していなさすぎる。

 お前はお前が思っているほど綺麗じゃないぞ。

 優しくしてあげないと。

 その言葉にロザリンドへの軽視が入っているのを自覚していない。

 汚れろ、なんて言いはしないが。

 汚れを知らないのは一桁までだぞ、普通は。

 せめてこれを機会に学んでくれ。

 

「アイツらはどんな顔で……いや、アンタが知るワケないな。すまない、忘れてくれ」

「……これをやるよ」

 

 声をかけることで俯いた顔を上げさせ、胸の高さに向けて数度、銀を弾く。

 

「俺はお前らのことを知らない。文化の違いってヤツだ。けど弔う(・・)って概念があるなら……それで弔ってやれ。身元の不明な孤児だ、死体は戻らないだろうからな」

「……ありがとう。いつか返す」

「別に気にしなくて良い」

「いや、あくまで借りるだけだ。……せめてわっしらの金で弔ってやりたいんだよ」

「そうか。ならいつか返しに来い」

「ああ」

 

 貰えるモノを貰わないなんて馬鹿だ、とは思わない。

 ロザリンドにやりたいことは充分理解できる。

 絆とプライドを天秤にかけて、バランスを取ったのだ。

 本当ならば自分たちだけで弔えれば良かったのだろうが、死んだ仲間たちにロクに何もできないのはもっと嫌なのだろう。

 

「……アンタら、犯人を捜してどうするつもりなんだ?」

「しかるべき相手に引き渡す。俺らでどうこうするつもりは毛頭ねぇよ」

「そう……。地図、ある?」

「おう」

「被害の場所が確定してるのは――――で、ハッキリとはしないから手掛かりになるかはわからんが不審な野郎を見かけたって場所がここと、ここだ」

「そうか。……信じて話してくれてありがとう」

「別に……アンタを信じたワケじゃねえ。ただ――」

「ただ?」

「なんでもねえ」

「?」

 

 言おうとしてたけど何言おうとしたか忘れたとか、何言えば良いのかわかんなくなったとか?

 あるよな、そういうの。

 ……流石に違うか。

 

「んじゃ、行きますか」

「そうね」

「あ、アイヴィも案内ありがとな。要件はもう済んだから良いぞ~」

「……うん」

 

 あれま、臍曲げちゃった?

 寝ると良いぞ、起きたら大体忘れてるから。

 感情なんて長続きはしないし。

 

「いきなり毒吐いて悪い。……じゃあな」

「文字通りな。んじゃまた会おう」

「ケンカを売る相手はちゃんと見極めなさいよね」

 

 ロザリンドに見送られながら外に出る。

 外に出ると待機していたらしいスラムの孤児たちの視線が一斉に俺たちに向けられて鬱陶しい。

 

「あ、イカン、中に地図忘れた。ちょっと待ててくれ」

「それ忘れちゃダメでしょ」

「ごめんごめん」

 

 再び中に入るとさっきの体勢から動かず、涙を流しているロザリンドと目が合う。

 

 あちゃ~、他意はあったがそういうつもりじゃなかったんだけどなぁ。

 ……スッゲー気まずい。

 

「……はぁ。…………俺らが犯人見つけて捕まえっから、信じて『大人しくしてろ』。暴走されたら何もできねえからな」

「……うっせえ、頭触んなし」




ロザリンド:角蛇種(リビュア)の少女
      スラムの中ではそこそこ歴が長く、一般的には大人と認識されることもある年齢(一一歳)
      今回犠牲になった仲間には彼女が拾った子どももおり、家族同然だったため見るからに怪しいヒイラギを見て犯人と断定して殺意MAXで襲い掛かった
      毒は体内に入れば常人ならば死ぬため普通に殺人未遂である
      本人の戦闘力が低いため開拓兵としてちょっと経験を積めば毒はあまり効果がない


角蛇種(リビュア):蛇の特徴を有する種族
    龍や竜に似ているという理由によって亜人の中では最も差別を受けている
    亜人の中では特徴がはっきりわかれやすく、多くの場合は下半身が蛇のようになり、稀に二本足を有することがありその場合は上半身に鱗が生えるなどの特徴が出て、また二本足の場合は上半身が普人種よりも長くなることが多い
    種族全体として耳を持たず、頭部から生えた角から音を集めて聞くという特徴がある
    毒を有する場合がある
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