ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

96 / 183
第九六話 眼差される自覚

「おっすおっす。オッサン、結局なんか進展あった?」

「なかったっちゃなかったし、あったっちゃあったな」

「わかるように話してくれよ」

「単純な話、ギルドが一日坑道ン中見回って様子見たがなぁんも起こらなかったんだとさ。死体は山のようにあったから俺らが嘘扱いされたワケじゃねえしコープスなんかのドロップがあったし俺ら以外にそもそも目撃証言があったから何かしらが起こってるってのは理解のうえだがどうしようもないってよ」

「ほ~ん……や、わかった。ありがとな」

「探索するなら頑張れよ~」

「そっちもな~」

 

 なるほど、進展なしか。

 何も起こらなかったのは良いが手掛かりなしはちょっと……。

 

「ヘルベルト、調子はどうだ」

「ヒイラギか……マシにはなったと言えよう。だがやはり本調子とは言えないな。以前が腐り、カビた肉を眼前に吊るされているようなものだとしたら今はそこから腐敗が失われたに過ぎない」

「カビ肉か……不快なのは魔力だっけ?」

「そうだ。流れが酷く淀んでいる。……ああ、そうだ、良い例えが思いついたぞ。この状況は締め切った部屋で長時間過ごす時のような息苦しさだ」

「俄然わかりやすくなった!」

 

 たしかにそんな環境は嫌なものだ。

 実体験でなら『冬場の教室』であろう。

 寒いからと常に窓を閉め切って、それがずっと続くものだから息苦しくて仕方がない。

 

 くそ、思い出したら腹立ってきた。

 窓開けさせろよッ。

 なんで一日中閉めきんだよッ。

 せめて一時間に一回は、休憩時間くらいは開けさせろォッ!

 暖房が当たり前な現代に生まれて甘やかされたお子様共めッ。

 アレで息苦しく感じないとかお前らの感覚どうなってんだよッ。

 しかも耐え切れずに俺が開けたら一分も持たずにヒソヒソ陰口叩きやがって……。

 言いたいことがあるならハッキリ言えよッ、面と向かって言えないってことは自分に責があるって自白してるじゃねえか!

 だったら大人しくしてろォッ!

 

 思い出しムカつきに襲われた俺は意識を切り替えるために無表情のまま腕の肉を引き千切らんばかりに強く抓った。

 筋トレと戦闘経験がなかったら実際引き千切ってるんじゃないかというくらいには強くやっている。

 

「本当に外の世界というのは……これが普通なのかね?」

「んん~、違うと思うぞ? ……多分」

「曖昧ではないか」

「や~、ノースミナスで色んな事件起こってるしさ。完全には否定できないワケよ」

「なるほどな。愚かとしか思えぬが……魔術種(われわれ)とは興味を向ける方向性や数が異なるゆえにそういうことが起きるのだろうから簡単には否定できぬ」

 

 あ~ね、うん。

 特定の方向に限った興味と寿命を持ったら魔術種(エルフ)みたいな感じになるし、器用貧乏的な感じで色んな方向に対して中途半端に興味を持たせたら普人種とかみたいな感じになる、と。

 中途半端かつ複雑な状態だから傍から見たら愚かに映るし、中から見たらそれがいっそ楽しく思える。

 ははっ、笑える。

 

「ちなみにだが、さっき他の開拓兵に聞いていたのはその事件のことか?」

「そうそう。事件のことをざっくり言えば角付き亜人が攫われてその角奪われて殺されてたって感じだ」

「ふむ……」

「死体は年齢さまざま、数は五〇以上。その影響かはわからんがアンデッドの大量発生」

「この魔力の不快さはそれが理由か」

「そうなの?」

「ああ。魔にはさまざまな形、性質がある。僕たち人間が利用できるのは少し小さい魔を吸収して、体内で大きくして、といったこと。植物はまた異なった魔の利用を行うし、モンスターもそれらとは違った利用の形態をしている。魔術種(われわれ)はその性質を感じ取りやすく、今は憎悪や死によって引き起こされた身の毛立つ魔が留まっている。……死体の回収によって過去形にはなっているがね」

 

 普人種(おれ)とはまた異なる第六感――魔覚か。

 そもそも完全に異なった第七感なのか、魔覚がより高性能になっただけなのか。

 恐らくは魔覚の強化ではあろう。

 

「じゃあ、えっとなんだっけ? 魔力の流れが……詰まってる? 状態はどういう感じなんだ?」

「そうだな。……ハッキリ言ってわからないな。少なくとも僕の知る限りでも、魔術種(エルフ)の知る限りでもこのようなことはなかったのだよ。結界内の世界にある魔力は全て流れを管理されていてそれが淀むことも滞ることもなかった」

「は~、物流制御が完璧なら渋滞は起こらないってか。便利ではあるだろうけど大変そうだ、流石魔術種(エルフ)の魔道技術は世界一ィィィ」

「ははは、可能性はあるけど言いすぎじゃないかね?」

「おっ、否定しない辺り高技術の自負はあるな」

 

 流石に疑似的とはいえ世界を創った種族は違うな。

 マユゲには命救われてるし、この世界屈指のチート種族じゃね?

 

「話を元に戻すと、今の状態は正直良くはないだろうね」

「そうなのか」

「そもそもどうして放置してても基本は問題のないことを魔術種(エルフ)は結界内でわざわざ行っているのかといえば、もし仮にそういうことが起きれば環境に良くないからだ」

「環境に? 魔力とかと環境って関係あるのか?」

「もちろんだとも。直接的にも間接的にも、ね」

「わかりやすい範囲で教えてくれ」

「例えば地形。魔の状態や性質によっては地形が脆くなったり、逆に強固になったりする。他にも特殊な環境が生まれやすくなる」

「特殊な環境って言うと?」

「有名なもので言えば逆巻く滝だな。この街で文献を調べてわかったが恐らくそれには魔が強く関わっている」

「ほ~、そうなのか」

 

 世界の不思議の答えを知ったかのような話にかなりの衝撃を受けた。

 いつか見に行こうと思っていたからちょっと残念ではあるが、そのことを知ったこれからなら知らなかった今までよりも違う角度で逆巻く滝や他の地形を見れる。

 一番初めは普通に楽しめるだろうし、新しい視点が手に入ったってことで喜ぼう。

 

「他にも植生に関わったり、モンスターが生まれることでその土地の状態が大きく変わることだってあるのだ。魔と地形が関係ないなどとは口が裂けても言えないとも」

「なるほどなるほど、理解した。つまりはそういう魔が異常な状態だと特殊な環境になりやすいってことね。オーケー、確かにそりゃヤベーや」

「おお、てっきり普人種は頭が固いと思っていたがすんなり受け入れてくれて安心したぞ。理解力の低い奴とは付き合いたくないものでね」

「流石魔術種(エルフ)。他人に求めるのはまず理解力か」

「そりゃそうだとも。むしろヒイラギは他者に何を求めるというのだね」

「俺か? 俺は……一緒にいて利点があるか、だな。新鮮さ、心の落ち着き、楽しさ、色々だ」

「キミも変わらんではないか」

「人間関係なんてそんなもんだろ。一緒にいて不快なら遠ざける、関係性が心地よいなら一緒にいる。人間なんて所詮は快不快の二進数だぜ?」

「まったく……その通りだ」

 

 どれだけ言い繕ったところでその事実は変わらない。

 生物である以上は(あんぜん)不快(きけん)かで判断する。

 それを無視して判断できるのは生死を超越したロボットか、神か。

 もしも『自分はそんな打算的な判断で人付き合いを決めたりなんかしない!』という奴がいたとすれば、そいつはほぼ確実に自分を神かそれに類する神聖なモノだと勘違いをした『低能(カルト)バカ』だから俺は多分近づかない。

 露骨な地雷原でタップダンスをする奴は自殺志願者以外いないだろう。

 

「アナタたちねぇ……そういう皆理解してるけどあえて言わない事実をこんなところでいうモノじゃないわよ?」

「いや~、つい」

「そうなのか? 僕はてっきり外の世界はそういうことに気づけていないものだとばかり」

「そういうことは生きてる中で、しっかりとした人生経験の中で気づくモノ、教えられて理解することじゃないの。口で言ったら子どもの教育に良くないのよ」

「だったら子どものいるところだけで気をつければ良いんじゃねえの?」

「ヒイラギ……アナタいつどこにどんな人間がいるか把握できてる? できてないでしょ? いつ聞かれるかわからないんだからいつでも気をつけるのよ」

「常在戦場みたいな感じか……」

「それに普段からできていないことが必要な時にできるワケがないでしょう?」

「正論だな」

「ぐうの音も出ねえド正論だ」

 

 なるほど。

 常に気をつける、か。

 

 これまであまり考えたことがなかった。

 考えてみれば当然ではある。

 子どもとは親や教員だけではなく、周囲全てを教育者として育つ。

 例えば、保育園や小学校で交通ルールを学んだにもかかわらず信号無視をする大人がいるのはなぜか。

 それは単にルールを守らない愚か者以外にも、その愚か者を見て信号(ルール)など無視しても問題ないと考えてしまったからである。

 一〇〇人の大人の中で一人の親が正しいことを教えても、残りの九九人が間違ったことを見せてしまえば子どもは間違うモノで。

 逆に一人の愚かな親が間違ったことを教えても、残り九九人が正しいことを見せてやれば子どもは正しく育つ。

 

 大人は、年上は常に教育者、だな。

 よりよい社会のためには年上がまずよりよい姿を見せなきゃダメ。

 ははっ、自覚しちまった以上これから大変だ。

 

 理解したからにはこれまでと同じにはいかない。

 間違いを自覚したうえで間違い続ける、というのは俺には難しいモノだ。




 ふと中高生時代を思い出しました
 通学路に小学生の通学路があり、毎朝その姿を見ていたのですが、ふと思い出した拍子に「自分は教育上よろしくない年上だったのではないか」と思ったワケですよ
 アホな大人を反面教師にしたつもりではあるものの、自分もアホな年上として年下の目には映っていたのではないか
 学校においても自分は先輩として過ごせていたのか
 基本的は過去に戻りたいなどとは思わない自分ですが、今回ばかりはちょっと戻りたい気分になったのでした、まる


 一応補足
 以前の話でマユゲが言った属性は無い的な話と今回の話
 属性と状態や性質は異なった概念で
 マユゲが解説した属性云々は火の魔術を使うのには火の属性の魔術が必要か、というような質問に対してそもそも火属性の魔力とかねェよ、というモノで
 今回の状態や性質は濃度や大きさなどの話です
 大きさ、というと語弊があるのですが、まあ今はそういう認識をしていただければ問題ないかと
 要約すると別に矛盾したことは言ってないですよ、ってことです、はい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。