ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第九七話 第五五坑道

「今度は他のところでモンスターが異常発生したってよ」

 

 探索を何事もなく終え、休憩がてら勉強をしていると遠くの方からそんなことが聞こえてきた。

 今日はいつもよりも静かで、普段なら掻き消される程度のその声量はギルド内にハッキリと通り、内容を聞くために周囲の開拓兵たちは一斉に静まる。

 そして聞かれていることを理解したその開拓兵もさっきより大きな声で話した。

 

「場所は第五五坑道八分岐左、前と違ってアンデッドじゃなく系統は普段出る奴と大差はないが強さが半端なく上がってるらしい。しかも数も普段より多いって話だ」

「具体的に言うとどんなもん?」

「力は大体倍、けど前は対処できた行動が対処できなくなるからかなり厄介。数は三倍以上、しかも前と違って若干ではあるが連携もしてくるからさらに厄介だとよ」

 

 力だけでも二倍、総合力じゃかなり跳ね上がっていると考えた方が良い。

 魔術に対する防御力が俺の突破可能な範囲なら倒せはする。

 だがそれをすれば魔力消費は加速するし、数も多いワケだから魔力消費は爆発的に増える。

 さらに厄介なのはその異常事態が長期化した場合だ。

 必然的にモンスター素材は軒並み高騰、開拓兵の死亡数増加、開拓兵による生産性の低下、開拓兵及びギルドへの一般市民からの不信感。

 俺たちが今どうにかしようとしている問題が悪化しかねない。

 

 偶然とはいえこれは笑えねぇぞ、オイ。

 なんでよりによってこのタイミングでこんなこと起こるんだよ。

 おかしいだろッ。

 ……どうする、どうするどうするどうする。

 取れる手段は俺が全滅させるか、誰かに任せるか。

 俺にそんな力はない。

 誰かに託すにしても解決策が見つからないから問題が問題として問題になってるんだ。

 簡単に倒す方法を見つける?

 無理だ、そんなの俺が見つけられるモンじゃねえ。

 新種ならともかく既存種の強化種。

 いってしまえば今までの相手と大して変わらない。

 これまで千も万も倒されてきたモンスターを相手に俺が即座に対処法を見つけるなんて――。

 

「落ち着きなさい。焦ったらダメよ」

「そうだとも。ヒイラギ、問題が起これば必死に考えるのはキミの美徳だがその必死さゆえにすぐ冷静さを欠いてしまうのがキミの欠点だ」

「あ…………。スマン、一緒に考えてくれ」

「もちろんよ」

「当然だとも」

 

 沈んだ時に引っ張ってくれる仲間。

 ありがたいものだ。

 

「大丈夫、現状くらいは理解できてるから。モンスターの大量発生と強化の件で常に気をつけなきゃいけないのは開拓兵への信用低下」

「ああ、僕たちが気にしていた部分と重なるな。かといってこれまで考えていたようにただ活動すれば良いというワケではない」

「そうだな。それが通用したのは経済崩壊という馴染みがなく視覚的ではない薄い危機感だったから。モンスターによる危機というこの国で最も馴染みのある危機に対してただ普通に、普通以上の活躍をしても安心感を得ることはできない」

 

 これまでは開拓兵が強い、という前提の上に全員の安心感が乗っていた。

 それはこの程度の揺れならこの建物は崩れないという耐震に対する安心のようなモノ。

 開拓兵が弱くなったワケではなく、その力量は変わらない。

 だがその変わらないという事実が問題で、耐震性能が変わらないまま普段以上の規模の揺れが起こればそこに対する恐怖は必要以上に肥大化する。

 つまり地震を止めるか耐震性能を向上させないと普段と同じ耐震性能を見せても安心感など得られないのだ。

 

「ヘルベルト、魔とモンスターは深い繋がりがある、そうだな?」

「もちろん。根拠などはほとんどわかっていないが統計的にまず間違いないだろうな」

「そうか……。不快な魔がある場所はわかるか?」

「大まかな方向なら」

「――地図で言うとどの方向だ? ちなみにギルドはここだ」

「ふむ。大体……この方向だ」

「第五五坑道……なるほど」

 

 地図を広げ見せ、ヘルベルトはトントンとギルドの位置を指で叩いてから真っすぐ一方向に線を引く。

 正確には複数の坑道が重なっているのだが、まず間違いない。

 

「なるほど、原因の特定ってワケね?」

「ああ。そしてそれをするにはヘルベルト、アンタの助力が必要だ。アンタにとって不快な場所に近づくのを承知で、頼めないか?」

「ふッ、愚問だな。いつまでも付き合ってやろうとも」

「クアークも頼めるか?」

「ええ、もちろん。仲間(パーティ)だもの」

「二人とも感謝する。……さて、早く片付くことに越したことはない。今から、行けるか?」

「望むところよ」

「構わん」

 

 長期化はさせたくないのだが、どれだけ時間が掛かるのかわからない。

 一日で終わるのか、一週間で終わるのか、一ヶ月で終わるのか、そもそも終わるのかすら不明だ。

 けれどやるしかない。

 終わらないなら終わらないなりに、少しでも早く開拓兵がちゃんと戦えることを証明して一般市民に安心してもらい社会を安定させてもらう。

 多少の無茶が付きまとうだろうが、無茶すべき案件だ。

 

「あ、それだったら物資調達しない?」

「物資調達? なんで?」

「なんでって、どうせ調査するならこの機会に探索先で過ごす訓練もさせておこうと思って」

「今?! この時期に?」

「こんな状況だからこそよ。成長は危機に瀕した状態の時の方がしやすいんだから」

「ふむ、良いではないか。僕も賛成だ。外の世界で長期間過ごすにあたって僕も体験しておきたいから僕に遠慮することはない」

「ならいいや」

 

 ピンチは自分の殻を押し潰す。

 それをどうにか切り抜けて、自分じゃ破れなかった殻をピンチで破ることで脱皮するのか、そのまま押し潰されて死ぬのかは俺次第。

 必要な時にピンチから切り抜けるためにピンチ慣れは必要だし、それ以外の時のためにも色々な経験は必要だ。

 だったら却下する理由はない。

 

「何が必要になる?」

「やっぱり食糧が主ね。あとは光源用の魔道具、回復薬全般。それとあればちょっと便利なのが乱音魔道具かしら」

「なんぞそれ」

「バット系モンスターの攻撃を乱す魔道具」

「それ、ちょっと便利って範疇か?」

「困ったことに効果時間は少しだし、自分たちの魔術も乱れる時が多いから」

「ああ、それはたしかにちょっと、だな」

 

 イメージ的には煙幕が近いか。

 相手の視界を奪えるが自分の視界も煙で覆われる。

 何かあった時のための保険で、決して普段使いするようなモノではない。

 

「まあとりあえず買いつつ何がいるか教えてくれ」

「わかったわ」

魔術種(われわれ)以外の魔道具か、そういえばまだ見ていなかったな」

 

 指輪のことは二人とも知っているから荷物は全て指輪の中に入れ、俺たちは第五五坑道に入った。

 普段行っている場所とは違って人通りが多いからか入り口からしばらくは地面がかなり平らになっている。

 だがしばらく進むと人の移動が分散するからか馴染みのある感触に戻った。

 

「こっちの道で良いのか?」

「僕の感覚が狂ってなければしばらくはこのまま真っすぐ進めば問題ない」

「そっか。……やっぱ気持ち悪さは強くなる?」

「街にいる時よりも悪化している」

 

 その表情は街にいた時よりも遥かに険しい。

 吐き気を必死にこらえているときのような表情だ。

 

「気分悪くなったら遠慮なく言えよ? ヘルベルトがいないとどうにもならんのだから」

「ああ、すまないな」

「こっちこそ。……ちなみにクアークはヘルベルトみたいに何か感じたりする? 俺は鈍いのか全くわからんのだが」

「アタシ? アタシも全くわからないわ」

「やっぱ魔術種(エルフ)が特別なのか……」

「今ばかりは……君らの鈍さが心底羨ましいよ」

「本当に感謝しております……」

 

 こう、スッゲー辛そうなのを見てると本当に申し訳が無くなって来る。

 

「!? モンスターがいきなり出現した?」

「え、マジで? どのくらいの距離で?」

「大体五〇メートルくらいね」

「え、俺全くなんだけど……」

「……それがこの高濃度魔の弊害だ。このような環境下では索敵能力が低下するのだ」

「マジか……よし、とりあえず俺が戦ってみる」

 

 クアークに判断を任せると少し考えてから許可が下り、俺は少し進んだ先で敵を待ち構えた。

 来たのは直線のルート。

 けれど異常なことに探知よりも先に視界に映ったし、その視界も異常。

 気のせいなどでは決してなく、現れたゴーレムの姿は僅かに揺らいでいた。

 

「遠くのモノはこのように姿がおかしく映ることがある。近づけば起こらないから気にすることはない」

「え、じゃあそっちから見て俺も変に見えるってこと?」

「この距離なら普通に見えているぞ」

「ふ~ん、なるほどね」

 

 気にすることはない。

 とは言うが、いってしまえばこの距離からの遠距離攻撃ができないということ。

 当てる方法があったらそれは爆発などの広域魔術。

 【槍穿ち(ショット)】を生み出して貫く、などの攻撃は当たりそうにない。

 

「ったく、つくづく面倒なッ!」

 

 相手はクレイゴーレム三体。

 身体能力はともかく、それ以外は相手にしたことはある。

 厄介なのは強化された能力と連携。

 

 とりあえず、一発!

 

「はぁッ!」

 

 剣を握る手に力を込め、魔力を流し、強化をし――。

 だが普段よりも重苦しさがあった。

 まるで水飴のプールで動くような抵抗感。

 魔力が押し戻されるような圧迫感。

 

 猪口才なッ!

 大人しくッ、くたばれぇッ!!

 

「なんかスッゲーやり辛いんだけど?! こいつらって強化されて妨害魔術とかそういうの憶えたりしたワケ!?」

「それもこの環境の弊害だな。強化や魔術は基本的に体内魔力(オド)を外部に放出し、それによって効果を発動させる。つまり普段から体内の魔と大気中の魔との押し合いが起こっているのだ。今は相手の抵抗力が強まって普段通りの力が出せないのだよ」

「そういうことは先に言ってくれませんかねぇッ!?」

 

 ワザとなんじゃないかと思うような情報の後出しに俺は文句を言いながらゴーレムの首に目掛けて剣を振るう。

 その硬度は以前よりも圧倒的に硬い。

 半分までなら切れた首も全体の三割まで落ちていた。

 

「力押しならなんとかッ!」

 

 もう一体のゴーレムの拳が襲い掛かって来る。

 その拳を俺は宙に飛ぶことで避けるが、拳は躊躇なく俺がさっきまで相手していたゴーレムの胸を強打し、砕いた。

 

「自爆乙」

 

 拳と胸の隙間に見えた罅。

 そこに向かって魔術を放ち、中の魔石を【凍壊(フリーズ)】させる。

 

「クッソやりづれぇ……」

 

 水飴プールでやる蹴り技の威力など一体何割の力が落ちているのかわからない。

 それでも何とか魔術を発動させることができたのは【凍壊(フリーズ)】が広域ではなく局所に対する線のような魔術であることと、夜遅くまで魔術の訓練に付き合ってくれたマユゲのお陰だろう。

 

「脳筋ゴリ押し戦法万歳!」

 

 一体を胸から直接の最短距離【凍壊(フリーズ)】で倒し、最後の一体を武器強化で倒した。

 

「っあ~、キッツ。何コレキッツ?!」

「それで? どうだったの?」

「多分俺でこれだし、他の人ならもっと上手くやれる」

「へえ」

「戦うとしたら近接の人が主戦力だな。弓とか魔術だと結構キツイんじゃね? 弓は使ったことないからわからんが」

「それにしては魔術で倒してたけど?」

「狙いを捨てて範囲攻撃に振った系統の魔術を使ってる人だと魔力の無駄がデカすぎて魔力量がよっぽどじゃないとすぐ魔力切れになるぞ。俺は至近距離から範囲を絞ったからなんとかイケた。……まあ俺以上の魔術使いなんていくらでもいるだろうからな、あくまで私見だが」

 

 断言できることは爆発みたいな広域魔術はやめた方が良いということだろう。

 というよりも、やっていて気づいたが。

 制御が不完全になりやすいそういう類の魔術は暴発しやすそうだし、遠距離は俺の技術じゃ暴発は確実だった。

 至近距離でしか魔術に自信と安心感が持てない。




 魔探知機・ヘルベルト型
 精度は高いが弱音を吐くことを嫌がる性格のため定期的に様子を窺わないとすぐ壊れる可能性有
 現状を知る場合は尋ねるか顔色を窺う(物理)のが良いだろう

 乱音魔道具
 利点だけを見れば非常に有用だが欠点に目を向ければ利点がかなり霞んでしまう
 乱音、という名称だが動作は特殊な音を発するだけではなく魔力の波も発しているためバットの扱う魔術も妨害できる
 ただしそれはバットが複数に限った話で、バットが一体の状況で乱音魔道具を使用するとごく稀に乱音魔道具がバットの代わりになって予期せぬ魔術効果をもたらしてしまう
 基本は害はないが、さらに稀を重ねた場合は自爆となる場合がある
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