こんな風に生活しています   作:眠り足りない

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とりあえず勢いで書いてみました。
続くかは未定。


変わったような日常
「わふっ」


「やっほーい。みんな大好きクーちゃんだよー。すごくすごく寂しかったから会いに来ちゃったー。さあハグしようハグ。今まで会えなかった分のぬくもりを私にちょーだーい」

「わふっ」

 

 入学式及び初日の授業を終え、疲労困憊の中ようやっと寮の自室に辿り着いた僕を出迎えたのは感情のこもってないような平坦な長台詞とぬくもりと柔らかさだった。

 初日から授業があるなんて恐れ入ったが、まあさすがエリート学校と言ったところだろうか。

 

「…………」

「……ふぇ、ふぁ」

 

 なんて冷静に考え事をしている僕だけど、突然起こったこの出来事に対応しなくてはならない。

 おそらく僕の顔を覆っている柔らかな感触と背中に回されている手のようなものから推察するに、僕は抱き締められているのだろう。それも女の子に。

 しかしそれはおかしい。なぜなら、先ほど僕は山田副担任から一人部屋ですよと言われて鍵を渡されたのだ。この部屋には、僕以外に誰かがいるはずもないのだ。

 でもまあ、自分で名前言ってたから分かるんだけど。

 そして、こうしている間にも僕の窒息は進んでいるので、早々に引きはがしにかかることにする。

 

「…………」

「…………」

 

 取れねぇ! 力強っ!

 

「ふぁ、ふぉ」

「……? ああ、息ができないの」

 

 いい加減やばくなってきたところで背中をタップすると、女の子はぱっと離してくれた。

 ぜえはあぜえはあと言いつつ、息を整える。

 

「大丈夫?」

 

 誰のせいだ誰の、と文句の一つでも言いたかったところだが、まあ正面から抱き締められていたということは、つまりそういうことで、役得だったのでそれに免じて黙っておくことにした。

 

「はあ、はあ……。んで、クロエはなんでこんなところにいるの?」

 

 ここはIS学園の学園寮であり、ということは生徒が使う場所である。まさか目の前のクロエは生徒でもあるまいし、なんで、というかどうやってこのセキュリティまみれの場所に潜入したのだろうか。

 

「束様の命令。きっと大変なことになってるだろうセンを見て来てって。ついでに、あの女狐から守ってって」

「女狐って……束さん……」

 

 女狐なんて呼ばれてるのは僕の姉のことなんだけど――それは一度おいておくことにする。

 ちょっと複雑な事情を持った目の前の少女。クロエ・クロニクル。年齢不詳。容姿は僕とそう変わらない。一見色素が薄めの儚い少女だが、先ほど僕が振りほどけなかったように力が尋常じゃなく強く、さらにはその頭脳も折り紙つき。

 なんせ、あの篠ノ之束の弟子なのだから。

 

「それで、どうやって入ったのか教えてほしいんだけど」

「ここのセキュリティと、ついでにこの部屋の鍵なんて私の前では無力」

「ああ、それもそうか……」

 

 無表情に手でブイ、なんてやっているけどそれ犯罪ですからねクロエさん。

 クロエにも束さんにも甘々だと自覚のある僕は、別に咎めはしない。クロエも、それに束さんもこんなことをするなんていつものことだし、まあ他の人に迷惑をかけなければ問題ないだろう。

 僕は部屋の奥へとクロエを促す。

 

「とにかくお茶くらい出すよ、好きなとこ座って――っても、あんまりないけど」

 

 言わずもがな、さっきこの部屋の鍵をもらったばかりで、この部屋の鍵を開けたのはさっきが初めてで、つまりこの部屋にはほとんど何もない。

 備え付けられた家具たち(見える範囲で言うと、ベッドがなぜか二つとクローゼット。丸いテーブルが一つと椅子が二つ)と、ベッドの上に乱暴に置かれた僕のカバンくらいなものである。

 まあしかし。

 お茶を出すからと言ったものの、今言った通りこの部屋に入るのは初めてである。つまり、お茶はない。僕が常日頃から持ち歩いていれば別なのだけど、そんなやつはいないだろう。

 仕方ないと、台所へ向かう。ここも綺麗に整備されていた。流行りの(?)システムキッチン。多少料理はするけれど、作れればいい精神なので、あまりそういうことには詳しくない。基調が白で跳ねたりしたら汚れそうだなぁと、そんな感想だ。

 予測の通りにいくつかあったコップの一つを棚から取り出し、蛇口を捻りーー実際には蛇口じゃないけれどーー水を入れ、椅子に座っていたクロエの前に置く。

 『お茶を出す』と言った手前、適当に取り繕った水道水でいいものかと思ったが、クロエは特に気にした様子もなく飲んだ。

 「それでーー」クロエは言う。

 

「友達はできた? いじめられてない?」

「お前は僕の母親か」

 

 律儀にツッコミを入れた僕は、続く言葉を待つ。

 

「それが今回の目的だもん。本当は束様に頼んでこの学校に入れてもらおうとしたんだけど、だめって言われたから」

「あー、まあそりゃあそうだろうな」

 

 生活力皆無の束さんは、そのほとんどをクロエに依存して生きている。つまり、クロエがいなくなると困るのだ。食事を栄養摂取ついでぐらいにしか考えてないような人だけど、それでもそのうち死んでしまう。世界一の天才科学者が餓死とか笑えない。

 もしそうでないとしても、猫可愛がりしている子をこんなところに送り込むような人ではない。今おつかいを頼んでるけど。

 

「私だってセンと一緒に学校行きたかったもん」

 

 口を尖らせて抗議の意を示す。

 

「って言われてもなあ」

 

 先ほども言った通り、ちょいと複雑な事情を抱えてしまっているクロエが学校に通うというのは、まあ容易いことではない。クロエもそれを分かっていて束さんにそう懇願したということは、相当に学校に行きたいのだろう。

 僕にはどうすることも出来ないのが歯がゆいものである。

 一瞬の間停滞した空気が流れたが、「あ、そうだ」の声でかき消された。

 

「これ、お土産。ご近所の美人なお姉さん系天災の束様から」

 

 と、テーブルに置かれたのは、『近所のお姉さんとボクの背徳的な日常』と書かれた、一冊の雑誌。

 いわゆるエロ本であった。

 

「……これを?」

「『大変でしょ?』って」

「あいつはバカなのか」

 

 天才はどこかおかしいとよく言うが、僕は束さんのおかしくないところを見たことがないので、その説には同意できない。

 天才は寸分の狂いなくおかしい。

 9割9分が女の子の学校に、女の子にエロ本を持ってこさせる程度には。

 しかもクロエに『ご近所の美人なお姉さん』とか言わせてるあたり、作為的なものを感じるしよりおかしい。おかしいer。

 

「クロエもこんな世迷いごと真に受けなくても」

「それは見立てが甘いよセン」

 

 いつも通りの無表情で、僕に指をさしぴしりと言ってくる。

 

「大変なんだよセン。ここはほとんど女の子。偶然にセンは一人部屋だけど、一人部屋じゃない可能性だってあったの」

「ほうほう」

「しかし思春期男子であるセンの欲望はそんなこと関係なく溜まりゆくばかり。つまり」

「つまり――?」

 

「――この小説が学園凌辱ものになってしまうということ」

「帰れよお前」

 

 無表情で何を言い出すかと思えば、こんなことであった。

 昔のピュアピュアなクロエはどこへ行ってしまったんだろうか……。言い終わった後に少し頬を染めているのが救いか。かわいい。

 あれもこれも束さんのせいである。僕のクロエをこんな風に染め上げやがって。この世界のキーワードは『大体篠ノ之束のせい』。

 

「凌辱対象には事欠かない。幼馴染・姉・妹・担任教師・メガネ巨乳教師・なんてことはないクラスメイト・委員長気質のあの子」

「それはまあ、否定しない」

「否定しない……!? それはつまり、私が言うまでもなく学園凌辱ものにする計画がセンの中にあったということ……。恐ろしい子……」

「うるせえよ」

 

 何故だかは分からないけど、この学園の子にはかわいい子が多い。顔が入試選抜の基準になってるんじゃないかというぐらい、女の子がかわいい。

 クロエの言葉を否定しないというのは、そういうことである。エロゲとかでよくある、『なぜか超絶にかわいい子しかいない』というのが、現実にありえてしまっているということだ。

 ……違うよ? 学園凌辱ものがいいなとか、思ってないよ?

 「とにかく」とクロエは言う。「そのために、これを持ってきた」

 したり顔でエロ本を指さすクロエ。やめろ、持ち上げるんじゃない。嬉しそうに眼前でそれを振るな。

 

「『これがあればセン学園凌辱ものの主人公とはならない。そしてご近所の美人なお姉さん系の束さんにメロメロ』って、束様が」

「捨てなさい。今すぐ」

 

 篠ノ之束の存在は基本的に害にしかならないのである。

 

「……確かに、束様にセンがメロメロになるのは、少し癪」

「いや、ならないからな。なる前提で話を進めるんじゃない」

 

 篠ノ之束(あれ)に惚れるということは、人生を海に投げ捨てるに同義である。僕はまだ生きたい。

 ということで、とクロエがまた何かを取り出す。

 エロ本の上に置かれたのは、DVDだった。『無表情な彼女の淫らな裏の顔』とパッケージに書かれたそれ。

 AVであった。

 

「無表情系美少女の私が」

「お前もか!」

 

 この後クロエを帰すのにとても苦労した。

 エロ本とDVDは置いてかれた。

 ……どうしよう、これ。

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