こんな風に生活しています   作:眠り足りない

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続きましたね
タイトルは毎回なにも考えておりませぬ


更識楯無の場合

 翌日。朝。

 兎に毒されたクロエをどうにか帰したのち倒れるように眠った僕は、十分に睡眠がとれたのか、爽快な気分での目覚めを迎えていた。

 身支度をして、ふらふらと食堂に向かう。

 と、向けられるのは好奇の視線。まあ、それもここにおける僕の希少性を考えれば仕方ないだろうと思う。希少性なんて言っておきながら、実際はそこにプラスの意味はほとんど含まれていなく、こうしてIS学園に入学したからいいものを、そうでなければ実験動物になってる自分の姿が目に浮かぶから嫌になる。

 今だって、遠巻きに僕を見つめるのはあまり好印象とは言えない目が大量に、である。女の花園に単身(もう一人いるけど)乗り込んだ男なんて、こんな扱いなのかな、なんて。

 券売機で食券を買い食堂のおばちゃんに渡す。おばちゃんは僕やもう一人、一夏のことを快くというか、不快に思っていないようで、「男の子だからね! 少し多めにしといてあげるよ!」なんて快活な笑顔を向けてくれた。厚意は嬉しいのだけど、朝に弱い僕としては大量に盛られた白米を見ると少し重かった。

 運が良かったのか、周りが避けてくれたのか、混み合っていたのにも拘らず偶然空いていた近くの席に座り、食事を開始する。

 こんなことならば一夏でも誘えばよかったか。いやでも、確か一夏の同室は彼に恋するほーきちゃんだった気がするから、邪魔になるだけかもしれないな。ということはこれから先朝食はずっとこうか。

 なぜ朝から陰鬱な気持ちを抱えなければならないのか。いやむしろ朝だからか。

 咀嚼を繰り返し、些か僕には多い朝食に立ち向かっていると、隣に人が座ってきたのが分かった。

「朝からそんな暗い表情してると暗い一日になっちゃうぞ☆」

「すいません人違いです」

「ちょっと待ってまだ何も言ってない」

 席を立とうとすると、腕を掴みとめられた。

 手元に『非道』と書かれた扇子を広げた女生徒。

 再会を望んでいなかったと言えば嘘になるが、関わると大抵面倒に巻き込まれるのであまり積極的に会いたくはなかった。特に朝は。

 というよりは、よくよく考えてみると僕の周りにはそんな人しかいない気がしてきた。退屈はしない。と言うとすごく聞こえがよくなるけど、事実波乱万丈と言える人生をたった15年で送ってきているのは、周りの人たちが破天荒だからに他ならないと僕は思う。類は友を呼ぶというけれど、本当にそうなら僕の責任と言うことになるのか。なんてこった。

「ちょっと酷いんじゃない?」彼女は不満げに言う。「会えない間に私がどれだけ寂しい想いをしたと思ってるのよ」

「たった一ヶ月じゃんか……」

「一日が千秋になるぐらいなんだから一ヶ月なんてその30倍よ。つまり私は30000年もセンくんに待たされたことになるの。分かる?」

 こいつなに言ってんだろう。正直よく分からなかったけれど、「そっか……ごめん」と謝っておいた。謝罪は日本人の美学である。

 僕のことをセンくんと呼ぶこの人は、更識楯無。正直見た感じだと女の子に付ける名前じゃねーだろと思ってしまうが、まあそこは彼女にもちょっとした事情があるのである。

 今はここで生徒会長なんてものをやっているほか、自由国籍をもっていてロシアのIS国家代表まで務めあげている超人である。その上、街行く人が10人中9人以上は振り返る程度の美少女。天は二物も三物も与えるいい例である。

 ちなみに僕の実姉。

「おねーちゃんであるという事実がさらっと流された気がするわ……」

「何言ってんのさ」何気なく心が読まれた動揺を見せないように僕は言う。「早く食べないと遅刻するよ。僕はもう食べ終わったから行くね」

 「ちょ、ちょっと待ってよ!」という言葉を僕は無視して、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 そもそも誇りってなんなのだろうかと思考したところで、僕のような人間に答えが出るわけもなかった。

 思えば昔から僕に誇れるようなことなどなかったようだ。『誇りって何?』という答えが出せないと自分で言っている以上、その認識もまた間違いなのかもしれないけれど、おそらく世間から見ても僕に誇りがあるとは到底見えないのだろうと、それくらいは想像がつく。

 人は誇りを傷つけられることをひどく嫌う。それは家柄だったり友情だったり時には物体だったりするけれど、自分の誇りという領域に他人が無遠慮に足を踏み入れることを拒絶したがる。それはもちろん目に見えないもので、意識のしようはあるけれど認識のしようがない。

 故に、『誇りを傷つけた』と言えるのである。

「うあー。よーわからんなこれは」

「右に同じだ。どうしてこう科学者様はもっと簡潔に物を述べられないかね」

「全く同感だ」

 授業が終わった放課後の教室。隣り合わせの席で僕とその親友織斑一夏は教科書を手にうなだれていた。

 教科書と言っても侮るなかれ。その厚さ大きさ共にタウンページを軽く凌駕する。その程度の知識を身につけなければ『兵器』たるISを扱ううえで不具合が生じるのだとは分かっているけれど、これはどうにも勉強意欲を削ぐものだった。

 さて、まずはなぜ僕と一夏がこんな苦労をしているのかから説明せねばなるまい。

 IS。正式名称を《インフィニット・ストラトス》という、元来宇宙開発用に開発されたマルチフォームスーツである。宇宙開発用ではあったのだけど、《白騎士事件》により露わになった過大も過大すぎる兵器としての価値に、現在世界中に拡散しているISだが本来の使用目的ではなく大抵の国が戦力として軍事的に保有しているのが現状である。

 けれどそんなことをしたら世界中に戦争が起きるに決まっているので、表面的には《競技用》としてISは使用されている。その《競技用》ISの操縦者や技術士を育成するのが、この僕や一夏の在籍するIS学園なのである。

 《競技用》なんて、ほんとに建前だけだけど。

「『集団の中で生きるのが人間だから、それが嫌なら人間をやめろ』って千冬姉に言われたけどさあ、俺別にIS学園の受験をした訳じゃあないからここにいる必要ないと思うんだよ」

「それには確かに同感だけど、一夏。現実逃避にしかならない字句を並べてもやはり現実は変わらないよ。それに、君の場合高校の受験が出来てない訳だから、良くて高校浪人になる訳だけど」

「千冬姉の安定した収入源が分かったことだし、働きながら勉強してー、かな。大学いかないことには就職もきついしな」

 僕の場合、ここに来なければならないと分かったのは高校の合格通知をもらってからなので、まあなんとかごり押してもらおう。それに、高校浪人と言ったけど、高等学校相当のIS学園に通っているわけだから、転入と言う形になって編入試験に受かれば高校には入れる。はずだ。

 しかしまあ、諸問題を抱えている僕たちとしては、うだうだ言ってもやはりここ(IS学園)から離れるわけにはいかないのだった。

「あ、そうだ」うなだれていた一夏が、立ち上がり僕を指さし言う。「あれだ、刀奈さん。頼ろう。センを溺愛してるあの人ならセンが涙で潤んだ上目づかいでもすれば一発で落ちるだろ。んで、俺もご相判にあずからせてもらう」

「姉さん、ねえ」

 僕の姉。更識刀奈。日本の名家更識家(僕もこの家の子なので、自分でこう言うのは少し気が引ける)の当主であり、その名、十七代目《楯無》を襲名しているので表向きには更識楯無となる。朝も僕に絡んできたあの変人である。文武両道才色兼備を地でいくような人で、昔から周囲の羨望を集めていたがこの学園でも生徒会長をやっていることから見ると、昔とそう変わってないらしい。

 人はあまりある才能を持つ人に嫉妬する。自分にできないことをできるあの人に嫉妬をする。自分が苦労したことを容易に達成するあの子に嫉妬する。しかし、僕の姉はそれに限らず、ゼロとは言わずともその身が嫉妬の炎に囲まれたことはないと言っても差し支えない。皆が皆「彼女の人柄ゆえだろう」といい、それ故に《人誑し》と揶揄する。

 純日本人の癖にロシアの国家代表まで務めてしまっている彼女にISに関しての教えを乞おうというのは決して間違っていなく、むしろ褒められる発想なのだけど、今回に限りそれは少しまずい理由があった。

「あー、でもだな一夏。僕らが今回戦う相手はイギリスの代表候補生なんだよ。それは少しまずくないか?」

「……ん? なんでだ?」

 わからない、と言った風に首をかしげる一夏。

 だからだな、と、僕も一夏につられて立ち上がる。男子にして平均的な172cmという身長を持つ一夏と、それより少し低めの169cmの僕。僕も決して低すぎるわけではないけど、男なのだからもう少し身長が欲しかったと一夏の隣に立つたびに気が沈んでいたのを今思い出した。立ち上がらなきゃよかった。

「これは言ってしまえば、日本対イギリスの試合なんだよ。そこに、ロシアの、それも国家代表様が手を出したらあかんだろ、ってことだ」

「でもそれってあんまり関係なくないか? 俺は単にあのオルコットさんとの試合を、って感覚だったんだが」一夏は眉をひそめる。「それに、刀奈さんはセンの姉だろ? 姉に弟が教えを乞うことがそんなに悪いか?」

「確かに姉さんは僕の姉だけど、それ以上に国家代表なんだよ。一夏、良くも悪くも僕らの立ち位置を決めるのは僕らじゃない、周りなんだ」

 評価と価値は絶対にはなり得なくて、いつだって相対的なものだ。

 自分の価値は、他人が決めるのだ。

「んー、そんなものか」僕の言葉に納得いってないような顔で一夏は座る。「でもやっぱり、さっき言ったようにセンが頼めばあの人ならやってくれる気がするぞ?」

「だから怖いんだよ……」僕は顔をしかめた。

 唐突だけど、ここに断言しよう。更識楯無はブラコンである。それも重度の。

 姉さんの僕に対する態度は姉弟間のそれとは大きくかけ離れていて、甘やかすとか仲が良いとかそんな言葉じゃとてもじゃないが語れないほどのものである。恋人のそれともとれるのである。僕だってこんなこと言いたくないが、朝、起きたら隣に裸の姉が寝ていた時の衝撃は今でも思い出すと体が震えるほどのものである。

 そんなわけで、姉さんは僕に甘々なので頼めばやってくれるというのは間違いではない、きっと。そのあとのことがいろいろと怖いのでそんなことはしないけど。

 それに、姉さんじゃなくても頼るあてはある。最初から頼るのを前提に話を進めているのは少々情けない気もするが、僕たちはISに関して全くの初心者で、相手は超の付く上級者。出発したばかりの職業のない勇者とラスボス前のほとんどの職業をマスターし終えた勇者ぐらい差がある。そのぐらいのことは許されるだろう。ちなみにどちらも勇者である。

 まあ他にあてはあるよ、並々ならぬ勢いで扉が開かれたのは僕がそう言おうとするのと同時だった。

「話は聞かせてもらったわ!」

「うわ、来た……」

 ぎらぎらと輝く瞳を引っ提げて登場したのは件の人、更識楯無その人だ。いつも手に持っている扇子には『颯爽登場!』と書かれていた。

「偶然、ええ偶然この教室から漏れ聞こえていた音声を私の耳が拾ってしまったんだけど。そう、これは偶然よ。計らずも思いがけず私の耳に飛び込んできてしまったのよ。センくんと一夏君の会話が。あ、ちなみに一夏君私の名前は《更識楯無》だから、そこんとこよろしく」

「あ、はい……」

 突然現れてなにかを必死に捲し立てる姉さんに一夏は圧倒されていた。

 てか引いていた。

「何度も繰り返し言うようだけど、これは偶然にして偶発的なことだったのよ。だってそうでしょ? 私は二年生、君たちは一年生。まさかまさか二人の会話が私の耳に届くはずないもの。ならどうして届いたのかって話だけど、それもまた偶然なのよ。まず、この教室の廊下側の扉がすべて閉まっていて、なおかつ窓が一か所だけ開いていたこと。加えて、この教室にあなたたちの他にはあまり人がいないことね。窓から適度に離れた距離に二人ほどいるわね。どうも、お邪魔しているわ。生徒会長の更識楯無よ。すこし騒がしくなるけど許してね」

 言葉と共に教室の端にいた女子生徒二人にウィンクを飛ばし、撃沈させた。相変わらずカリスマと言うか、変な魅力を持っている姉さんであった。

「それでどこまで話したっけ。ああ、そうそう、あとはこの教室の作りもそうね。机や教卓の配置も起因しているかもしれないわね。とにかく、そんなもろもろの諸条件をクリアした二人の会話は教室内を反射し、そして窓から出て行ったという訳なの。さながらスピーカーのように何倍にも増幅されてね。そして、これも偶然なのだけど、そんな増幅された音が飛ぶ方向に私がいたの。偶然でしょ? 偶然に他ならないわよね。だって、今ここであなたたちが会話していることも教室が巨大なスピーカーの役割をしていたことも、私がたまたまそこを歩いていたことも、確かに狙ってできることだけど示し合わせていたことじゃないもの、ね? それでここからは事実確認なのだけど、私の耳に入った衝撃の事実を会話していた当の本人たちに確認するだけの簡単な作業なのだけど――センくんが私に『涙目で』『上目遣いで』『お願い』するってホント?」

 そこまで一息に話し終えた姉さん。実に気持ち悪いとしか表現のしようがなかった。ほら、隣の一夏だってめちゃくちゃ引いてる。さっき気絶させられた二人は運が良かったかもしれない。尊敬する生徒会長が()()()()だったら、さぞ嫌だろう。

 息継ぎがなかったせいなのか興奮しているせいなのか全体的に呼吸の荒い姉さんが肩で息をしながら瞳を怪しく光らせてじりじりとにじり寄ってくる。やめて。

「ほら、早くお姉ちゃんに言ってごらん? 『涙目で』『上目遣いで』!!」

「うわぁ……」

 思わず声に出してしまった。きもい。

 去年一年間の話だけど、この姉はロシア国家代表に就任したり1年生にして生徒会長の座に付いたりとそれなりに多忙な日々を送っていた。対して僕はと言うと、そんな劇的な日々がある訳もなく、平和に一中学生としての日常を謳歌していたので、家で姉さんに会うことはあれど()()()姉さんを見るのはずいぶんと久しぶりだ。別に見たかったわけではない。

 目つきやら何やらがここだけを切り取ると犯罪者にも見えなくない姉を目の前に弟の僕はどうすればいいのだろうか。非常に対処に困る。

 そこから先に繰り広げられた姉の独壇場というべき、僕にとっては地獄絵図にも等しいような光景についてはできることなら口を閉じたいけれど、せっかくなので一言だけ言っておくとする。

 一夏の中での姉さんのイメージがストップ安だそうだ。

 

 

 

 

 

 寮に向かうまでの間、少し恥ずかしい独白をします。

 更識楯無こと更識刀奈のことを一番よく知っているのは言わずもがな本人であり、そこにもしかしたら生みの親である更識厳一・美鈴夫妻も入るのかもしれない。

 何が言いたいかと言うと、僕が姉さんのことを語るのは少しだけ筋違いというものだけど、僕も一応、他人より接する時間の長い親族な訳でもっと言えば姉さんからしたら弟というのは僕一人だけだから、僕の、弟の視点から更識刀奈について少しだけ話したいと思う。

 既にご存知かとは思うが、更識刀奈は僕の姉である。実姉。実は義理でした! だからセーフなんだよ!(なにが?)みたいな安物のエロゲのような展開は今後一切ないことを了承いただきたい。

 はっきりとした自我の芽生えた小学校時代から姉さんは僕の憧れだった。代々世襲式の《更識家》は特に男女のしがらみなく一番に生まれた子が《楯無》の名を継ぐことになっている。優秀な姉は一族からの期待ももちろん大きく、僕が小学校に上がるころには既にISが世に知れ渡っていたこともあって指数関数並みに姉さんへの重圧とも呼ぶべきそれは増加していった。

 しかし、それに潰されることもなく、僕や妹が外で遊んでいるときにも家で勉強をしていたような姉はむしろ周囲の期待を力に変えたようにめきめきと成長していった。決められたように育ったからと言ってその性格が鬱屈することもなく、《人誑し》の異名からも分かるように人望も集めていった。

 それに僕が嫉妬していなかったと言えば嘘になるが、いつだってまっすぐと前を向ける姉さんに僕は憧れていた。僕にはない()()()()を、ただただ純粋に羨望の眼差しで見ていたのを覚えている。

 思えばこれが『誇り』かと、懐古することもある。今はちょっと残念系美人である姉さんだけど、確かにその身に宿す能力と魅力は目を見張るものがあるのを僕は他の人よりは知っている自信があるし、なんだかんだ言っても僕は姉さんのことを嫌いになれない。

 僕とその他の間の空白期たる中学二年の一年間を除いて、姉さんは姉として僕と妹をちゃんと見守ってくれていた。それを実感している今、照れくさい気持ちをどうにか持て余しているのである。

 恥ずかしい独白終わり。

「お帰りなさい、あ・な・た。私にします? 私にします? それとも……わ」

 ばたんっ! 僕は自分の持ちうる力の限りに扉を閉めた。

 ここはIS学園寮。夕飯時少し前と言うこともあってある程度の人が帰ってきているらしく、僕のたてた音に何事かとざわざわし始めている廊下だが、そんなことがあまり気にならないくらいに僕は動揺していた。

 襲撃してきた更識楯無という異物を除去したのちに、一夏はほーきちゃんと剣道のけいこがあるらしく、剣道場へと向かった。来週に備えて鈍った体を動かす、と言う名目のことらしいが、一夏を呼び出しているほーきちゃんは一夏にぞっこんラブ(古い)なので、それ以外にも目的があったりするのだろう。一夏に来るかと僕も誘われたが、恋路を邪魔するものは翌日から陽の光を浴びれなくなるらしいので(姉さんが言っていた)遠慮しておいた。

 んで、今。

 そのぞっこんラブなほーきちゃんのために朝は一人で寂しく食べることを決めたけど晩飯ぐらいは一夏と食べようかと思い、まず部屋に戻って着替えようと思っていたところのこれである。

 ドアノブを持ち扉の向こうの光景に恐怖していると流石に視線が集まってきた。居心地が悪いので、さっと開けてさっと中に入る。自分の部屋に入るのにこんなに周囲を気にしなければならないのか、僕には解せない。

 僕の部屋に何故だかいたのは僕の姉、更識楯無なのだけど、そもそもなぜここにいるのかということもそうだが(昨日のクロエもそうだがここの鍵は変えたほうがよさそうだ)、それ以上に解せないことが一つあった。

「もう、いきなり閉めておねーちゃん驚いちゃったわよ」

 腰に手を当てて、唇をとがらせている。擬音をあてるとしたらぷんすかだろうか。ここは僕の部屋なので先に侵入していた姉さんに怒られる意味が分からないけど。

 さて。ここで突然だけど、色おにをしよう。鬼が指定した色に触っていればタッチされても鬼が変わらないという、あれ。あれって子供が原色に近い色しか名称を知らないという前提で作られている気がする。例えば、かの500色の色鉛筆にある“ポンパドゥール夫人の笑顔”(薄めのピンク)なんて言われたらそもそもその色があるのか分からないし、認識できる人なんていないんじゃなかろうか。最早色おにの体をなしていない。無色おにである。ただの鬼ごっこじゃねーか。

 話がずれた上にひとりツッコミをしてしまった。

 例えば、僕は今IS学園の制服を着ているのだけど、白を基調に赤のラインが入っていて一部に黒が使われている。もっと言えば僕の水色がかった髪とあとは肌の色があるので、この五色を言われても僕は鬼になる必要はないということだ。

 同じ基準で姉さんを見てみる。

 肌色。肌色肌色肌色肌色肌色。そして肌色。

 圧倒的肌色だった。

 有り体に言えば全裸であった。

 なんと僕の姉は僕の部屋で全裸だったのだ!

「そ、そんなに見つめられるとお姉ちゃんでもこ、困っちゃうかも……」

 僕の視線を受けて顔どころか首筋まで赤く染めて、もじもじと視線を虚空に彷徨わせる。なにやってんだこの姉。

 すらりと伸びた肢体に、女性らしい丸みを維持しつつ細やかな線を持った体躯。客観的に見れば確かに魅力的なのだろうけど、僕は弟でこの人は姉。そこに性的興奮を覚えるはずもなく(だったらやばい)、

「とりあえず服を着よう。話はそれからだ」

 姉さんを部屋の奥に押し込む作業に取り掛かった。

 姉さんの肩に触れる。「っんぁ……」なんて色っぽい声出しやがって。そんなのに騙されんぞ。騙されたら人としてどうなんだという気もするが。

 少し力を込めると、思いの外姉さんが軽くて、二人して体勢を崩してしまった。

「うわ――」「きゃ――」

 ほとんど同時に発された声。一度ずれた重心は決して戻ることはなく重力に従って僕らのバランスを崩していった。そのまま崩れるように倒れる僕と姉さん。幸いにもそんなに速度もつかなかったため音を立てることなく倒れた。

 が、どうしても姉さんに覆いかぶさるような形になってしまう。

 こんなところを誰かに見られでもしたら――

「おーいセンー。飯いこうぜ――いやなんでもないです失礼しました」

「…………」

「…………」

 姉さんを押し倒している僕。

 全裸の姉さん。

 ノックもせず部屋に入ってきた一夏(鍵をかけていなかった僕も悪いけど)。そのまま何かを察したように出て行った一夏。

 もう、だめかもしれんね。

 目の前でにやにやと笑う姉さんが鬱陶しかったので、とりあえず、ぺしりとおでこを叩いておいた。

 




来週に続くといいなぁ

あ、書き方を変えてみました
そのうち前話も手直しします
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