頑張ります。
ここで、更識簪に関する詳細な情報を開示しよう。
更識簪。性別女。髪、水色。光に反射して輝くその様を見ると、クリアブルーシルバーと形容してもいいかもしれない。性格は極めて内向的。緩くカーブのかかった髪型と、眼鏡の奥の垂れ下がった瞳が気の弱さを表現しているように見える。人見知りのきらいがあり、初対面の人物に心を開くなどもってのほか。そもそも身内とそれ以外とで口調も語気も態度も違う。
《更識家》次女。僕とは数十分の差で誕生したため、所謂僕の双子の妹に当たる。破天荒かつ大胆な姉と、大概の場合において考えなしの僕と、この二人の傍で育ったからか、堅実で慎重な意見を持ち、確実な選択肢を選ぶことが多々ある。つくづく共通点のないキョウダイだ。
といった感じで記号的な特徴を並べたところであのいろいろな意味で難しい簪を表現できるなどとは微塵も思っていない。
百聞は一見にしかず。である。
思ったより早く簪は見つかった、らしい。らしいというのは、放浪癖を持つあの妹を見つけることなど至難の業だと経験則から判断した僕は、放課後に簪に
今では些か改善された放浪癖で、おそらくこの学園から出ることはまずないのだろうけど、ふわりふわりと僕らの手のひらからすり抜けるように移動を続ける簪を見つけるのには苦労するだろう。最悪、今日は見つからないかもしれない、とまで考えていたが、ほーきちゃんが偶然簪を補足したらしい。グッジョブ、ほーきちゃん。
カフェスペース(そんなものまであるのかこの学園は)で待っている、とのことなので、未だに背中に引っ付いたままの本音とそのぬくもりと共に、カフェスペースに向かった。
カフェスペースに入り視界内に簪を補足するや否や本音はぴょんと僕の背中から飛び降りて「かんちゃーん!」と抱きつきに行った。黙って鬱陶しそうな顔をして本音からの愛撫を享受していたが、僕にはわかる。あれはかなり喜んでいる。表情こそ無愛想そのものだが、拒絶しないところを見ると、本音に構われるのが嬉しくてたまらない、と言ったところか。さすがに仲が良い主従コンビだ。本音はほとんど仕事してないけど。
僕の思考を読み取ったのか、簪が僕を睨んでくる。はいはい、そんなに照れるな妹よ。
とりあえず楽しんでいる二人は放置して、周りを見渡す。簪を確保したほーきちゃんはいるが、一夏がいないし、ついでに人もほとんどいない。連絡を受け取ったのがカフェスペースから割と遠く、かつ本音を背負っていたのでずいぶんとゆっくりここに着いたはずだったんだけど……何をしているのだろうか。
「大方、女生徒にでも捕まっているのだろう。一夏は優しいからな、声をかけられると無視できない」
ほーきちゃんが言う。その声には待たされて少しイラついている雰囲気と、それ以上にやさしい一夏に対する自信のようなものがみて取れた。昔なら「軟弱者!」と言って問答無用で竹刀を振っていただろうほーきちゃんも、今は大人な女性になっているようだった。ほーきちゃんは正妻ポジ。これは決定事項。
「……それで、用事ってなに」
私服姿の簪が言う。なんてことはない白が下地のTシャツに、制服を模したような明るい色のチェックのスカート。こう言ってしまっては何だけど、年頃の女の子らしいオシャレ感0(ゼロ)の服装だった。特筆すべきは、そのTシャツ。『見敵必殺』と達筆な字体ででかでかと書かれていた。物騒である。
「ちょっと待って――って、来たか」
そしてちょうど、一夏が到着する。
何やら疲れたようで、汗をかいている一夏。その服装は私服でラフなものだが、見るともみくちゃにされたような感じにも見える。
「いやー、悪い。よく分かんないけどいろんな人に絡まれてさ」
本気で困ったように言う一夏。
このIS学園では『いろんな人=全員女子』なので、羨まし事この上ない。それを本気で困っているとは、一夏、お前にはいつか天罰が下るだろう。僕だってできることならそんな風にモテ――おっと、なんでもない。なんでもないよ本音。だからそんなに睨まないで。
「ふむ、そうだな一夏。首輪なんてどうだ」
「は? なにがだ箒?」
「だから、そんな風に絡まれたくないなら首輪をつけようと言っているんだ。『私は犬です。ご主人様以外にはなびきません』と書かれた首輪を、な?」
「な? じゃねーよ。誰が付けるかそんなもの」
「ほら、ここに偶然それがあるのだが、な?」
「計画的犯行だろお前!」
「冗談だ。そんな怖い顔をするな」
一夏が立ち上がり、箒から距離を取る。いつも通りの夫婦漫才だ。ちなみに、首輪を取り出した瞬間のほーきちゃんの野鳥のような鋭い眼光を僕はきっと忘れることはない。彼女はいつか必ず一夏に首輪をつける。
そんな二人を見て、漫才見せられるなら帰るけど……、と簪が呆れた顔をする。ああ、悪い、と一夏が手近な席に座り話し始める。
「簪にお願いがあるんだけどな――」
「試合のことを手伝ってっていうんなら、嫌」
「ぐはっ」
撃沈だった。
一も二もないようなきっぱりとした拒絶だった。
思いの外ショックを受けて倒れた一夏の代わりに、本音が簪に聞く。
「かんちゃん、なんでー?」
「面倒だし、私に得がない」
更識簪は、こういう人間だ。不真面目、態度不良。そんな風に悪く言えばきりのない性格をこの妹はしている。慎重で堅実なその意識は確実に内々に向いており、損得の感情が年齢にしてはシビアだ。他人に流されない、と兄である僕としては擁護したいところではあるけれど、それ以上にこの簪は自由だ。なまじ賢く、なまじ実力があるだけに、簪のことを止められる外部の人はいない。
さらに、猫を被っているのも問題だ。3つの顔を持つ簪。一番辛辣なのが今の簪なのだけど、それだけ気を許してくれている――と判断するには少し時間がかかるほど、辛辣だ。
辛辣で、自由。説得には当たりたくない性格だ。
「得ならあるぞ!」と簪に反論するように起き上がる一夏。「ほら、教えることは自分の確認になるって言うだろ? 俺とセンに教えることで、俺たちは技術が上がる。簪は自分の確認ができる。ほら、どうだ」
「初心者の中の初心者に教えることくらい確認するまでもなく出来なきゃ代表候補生は務まらない。却下」
「ぐふっ」
二度目の撃沈だった。
簪のにべもないという態度に、今度はほーきちゃんが説得にあたる。
「簪。昔の好というやつで受けてはくれないのか?」
「んー、それでもやっぱり、私に得がない。初心者に教えるだけならともかく、最悪外交問題に発展しそうなものだから、リスクが大きすぎる」
なるほど、と頷きたい意見だった。ほーきちゃんも納得したように目を閉じて腕を組んだ。
相手はイギリス代表候補生。一夏が日本人だから、日本の代表候補生である簪に頼んだらいいのじゃないかと思ったが、そう簡単ではないらしい。きっと、『織斑一夏とセシリア・オルコットの試合』という側面と『イギリス対日本』という側面を、うまく使いこなされることへの怪訝だろう。正直ずるいというか、やりかたがこすいが、そんなものなのかもしれない。
自分の評価は他人が決める。盛大なブーメランだったか。
「なら、仕方ないか」
僕は立ち上がる。
簪側の事情を少なからず理解してしまったから、これ以上の深い説得はできないだろうと諦めようとしたのだけど――「待って」と簪に腕を掴まれた。
「協力してあげるのに、条件がある」
「え、だって今お前」
「だから、それなりの条件を提示させてもらうよ。嫌なら交渉は決裂」
簪の言葉に僕は座り直す。下手すると自分の立場が危うくなるかもしれないというのに、協力してくれるらしい。妹が優しい子に育ってお兄ちゃんは感激です。
「条件は二つ。これは、二人に関すること」
そう言って簪は人差し指を立てて、うなだれている一夏と僕を順に指さした。
「必ず勝つこと。もしくは、誰が見ても善戦したと言えるような試合をすること。無論、そのレベルまで私が引き上げるけど」
とのこと。まあ、男としてはこんな風に発破をかけられると燃えるものだけど、残された時間と相手との戦力差を考えると、そう単純にも受け取れない条件だった。そもそも時間があったところで、代表候補生に善戦以上を出来るのは代表候補生以上なので、どちらにしろ厳しい条件だ。
簪の言葉に、一夏は難しそうな表情で頷く。
「二つ目」
今度は、僕だけを指さす。
「二つ目の条件は――」
僕は自室が鬼門なのだと言ったが、その言葉は寸分違わず正確であって、事実であって、針の筵状態の僕や一夏にとって安らげるはずの自室が、なぜこうも僕を苛めるのだろうと、疑問に思えて仕方がない。
放課後、と言っても確かに現在も放課後と言えば放課後なんだけど、現時刻は7時ジャストになろうかというところ。簪と協力を要請したのがほとんど終業と変わらない時刻だったため、あれから大体3時間ほど経過している。
IS学園に来て三日目だ。初日はなぜか部外者であるはずのクロエが自室で僕が入るより先に待機しており、二日目は姉さんが全裸待機しており、そして今だ。前日までの事件と違うのは、今日は誰がこの部屋の中で待っているのかを僕が把握していること。僕がそうなるように依頼した、のだ。僕が。他人に教唆されてはいるけれど。この事実が僕に現実から逃避させることを妨げている。
以下、回想。
「えっと、姉さん?」
「ん? なにかしらセン君。何かお願いがあるって聞いたけど」
「そうなんだけど……」
「なんでも言ってみなさい。お姉ちゃんが9割9分9厘のお願い事を何としても叶えてあげるわ。《更識》の名誉をかけて」
「そ、そっか……こほん。お姉ちゃん」
「……お、お姉ちゃん?」
「お姉ちゃんにお願いがあってここまで来たの。あのね、僕、どうしても簪と同室になりたいんだ。できる……かな?」
「お姉ちゃん呼びの真意はさて置いて――簪ちゃんと同室になりたいのね? できないことはないけど、えっと、理由を聞いてもいいかしら」
「うん、あのね。この学校って女の人がいっぱいだから、アウェー感が半端なくて、心細いんだ。だから、なんだけど……」
「なるほどね……ん? 待って。それだったらお姉ちゃんと同じ部屋でもいいんじゃない? ほら、お姉ちゃんならセン君と一緒にお風呂入ってあげられるし、一緒の布団で寝てあげることもできるわよ? 私と同じ部屋のほうがいい気がするわよね? うん、そんな気しかしないわ」
「なんていうか、お姉ちゃんは、僕の憧れだから。だから、近くにいるというよりはお姉ちゃんの背中を追いかけたいんだ。って話を前簪と――」
「分かったわ! 今日このときたった今からセン君と簪ちゃんが同じ部屋で過ごせるようにいろいろと手回ししてくるわね! セン君! 仕事をしていてかっこいいお姉ちゃんの姿見ててね!」
以上、回想。姉さんがちょろすぎる。弟として心配だ。
これが事の顛末である。簪の提示した時二つ目の条件は言うなれば単純で、だからこそ難解だった。
簪が口にした言葉を一字一句違わず書き記すと、『更識兄妹が寮で同室になれるように、生徒会長に掛け合うこと。その時に、必ず甘えた口調で「お姉ちゃん」という語句を用いて、その一部始終をこのボイスレコーダーに記録して私に渡すこと』。正直なところ、こいつ何言ってんだと思わなくもなかったが、簡単そうな条件だと思ったので承諾してしまった。要は姉さんに僕と簪を同室にしろと頼みに行けとそういうことなんだろうと、単純化して咀嚼してしまった。
この結果が上記の通りである。後半は僕も興が乗ってきて、姉さんを持ち上げることが楽しくなってきていた――なんてのは秘密だ。しかも、今手に持っている、会話の一部始終を録音したボイスレコーダーを提出しなきゃいけないらしい。生き恥だ。というか、そんなに同じ部屋が良かったのなら素直に言えよと思わないこともない。
すべて終わった後に、これを僕がやらなければならない道理はないことに気付いた。一夏に押し付ければよかったか。くそ。
ま、とにかくこれでいいのだろう。自室前についた僕はカードキーを差し込む前に一つため息を吐いた。
「ただいまー」
昨日までなら確実に返事の返ってこない言葉に、おかえりーとやる気のないような返事があった。声から判断するまでもなく簪だろう。
「おつかれさまー。あれ、その辺に置いといて」
部屋の中まで入り、ベッドに横たわりながら雑誌のようなものを読んでいる簪の姿を確認する。あれ、とは言わずもがな僕の痴態(声だけど)の入ったボイスレコーダーだろう。これを渡したくない気持ちは山々あるが、まあ約束なので仕方ないとする。
ベッドのそばにあるサイドテーブルにボイスレコーダーを置き、僕に一瞥もくれない簪に手近にあったクッションを投げつける。僕の腕から離れ水平投射の軌道をとったクッション――(´・ω・`)の顔文字が縫われているやつ――は見事簪にヒットした。
「なんだよー」
体に当たったクッションを僕に投げ返してくる。読んでいた雑誌に暇つぶし以上の意味はなかったのか、寝転がったまま仰向けがちになって僕の方に顔を向けた。
「そんなだらしない格好してないで、この状況を説明しろ。そして、女の子としてその格好はどうなんだ」
「だらしなくないでしょ。これ」
そう言って自身の格好を見る。
その姿、下着。上下白で揃えられたブラとパンツだけを身にまとった妹の姿である。
下着、真っ白。今時珍しいんじゃないか、これ。
「女の子に幻想抱きすぎなんだよねー」
「そんなことはないぞ」僕はすぐさま反論する。「というか、そういうことじゃないよ。間違ってもそんな姿で出歩くなよ」
「そんなことするわけないでしょ。お姉ちゃんじゃないんだし」
呆れた顔で僕を見る簪の言葉に、確かになと納得――してしまいかけたけど、身内に一人痴女がいることを僕は簡単には認めたくはなかった。いや、流石に姉さんでも下着姿で公衆の面前を闊歩するなんて、しないか。
――とも、言い切れないなあ。
「あー、話が逸れた。この状況は何だと聞いてるんだ愚妹」
「この状況って何よ駄兄。部屋ならまだ綺麗でしょ。一週間後には汚くする自信あるけど」
「そんな自信持ってもらっても困る」
投げ捨ててしまえ、そんなもの。
とは言いつつ、既に室内には簪の私物が複数散乱している。脱いだ制服と、室内着と思しき衣類だ。脱いだなら畳め、着ようと思ったなら着ろ。
なんて小言、去年一年間の間に言い飽きてしまったほどだし、簪も聞き飽きていることだろう。
簪は思ったより、思った以上にだらしない。気弱そうに見える瞳と幸薄く儚げに見える雰囲気を纏っているのは、フェイクだ。掃除片付けの出来ない女、それが更識簪というものだ。
しかし、料理だけはできる。それはもううまい。うまいしおいしい。そこら辺のプロ(そこら辺にプロがいるのかという疑問は受け付けない)より格段にうまい腕を持っているのだけど、いかんせんずぼらでやる気がないので、振る舞われる回数はそう多くない。なんでそんな性格で料理ができるのかと、雑さと料理の腕は関係ないのだろうか。
今でこそ主夫とまで言われる我が親友織斑一夏なのだけど――その原点は簪にある。小学校のいつだったか覚えていないが、簪に料理を作ってもらった一夏は、衝撃を受けたらしい。当時先進的シスコン軍曹であった彼は決意した。こんな料理を自分の姉にも振る舞ってあげなければ、と。加えて、簪の部屋に立ち入り魔窟と呼ばれるそれを発見した一夏はまた決意した。こうはならんぞ、と。言ってしまうと、今の一夏の家庭スキル満載っぷりは全て簪に起因するものなのだった。良くも悪くも。
「お前の来た服くらいは僕が片してやるから、せめて下着は自分で管理しろよ」
下着。下着。白の下着。
簪の部屋に下着が散らばっているなんて日常茶飯事だ。今は僕の部屋でもあるのでどうにかして欲しいところではある。けど、期待はしない。無駄だから。
「なんでよー。下着も一緒に片付けてくれれば――あ、わかった」他力本願な言葉を吐いた簪は、にやにやとこちらに詰め寄る。「興奮しちゃうんでしょ。妹の下着で興奮しちゃうんでしょ。いやー姉も兄も変態な私はどうすればいいんだろーなー」
さらりとここにいない姉さんも変態扱いされている。事実だけど。
「欲情するわけないだろうが。もっとスタイルよくなってから出直せ」
「今死にたいって聞こえたんだけど、気のせい?」
「気のせいだ。僕は妹の起伏のない体型を神に嘆いただけだからね」
「この兄死ねばいいのに」
さらりと死を願われた。酷い妹だ。
じゃなくて、じゃないよ。そんなもうどうしようもない簪のスタイルについて言及している暇なんかないんだよ。
と言ったところでそろそろ簪の視線が僕を射殺せそうなほどまでにはきつくなってきたので、今度こそは脱線しないうちに問う。
「ベッドの話をしたかったんだよ。昨日までこのベッドじゃなかったよな? もっと言えば、つい数時間前までこの部屋には簡素なシングルベッドが二つのみ、だった気がするのだけど」
先ほどから簪の寝転がっているベッドを見やる。大きかった。少なくともこの部屋に備え付けられていたベッドではなく、なんだろうこの大きさは。俗に言うセミダブル、なのだろうか。寝具に対して造詣の深くない僕にはよく分からなかったけれど、とりあえず大きかった。
大きいベッドが、それも僕と簪に寄り添って寝てくださいねとでも言わんばかりに、一つのみ置かれていた。
「正確にはワイドダブルだね」簪が言う。「家で使ってたやつがダブルベッドのロングサイズだから、幅があれよりも15.4cm長くて、縦が10cm短い。幅に関しては広くなってるから問題ないけど、縦もまあ、問題ないよね」
説明口調というか、すらすらとサイズの差まで出てくる簪はどうやらベッドのサイズに一家言あるようだった。そういえばこいつは小さいころから睡眠に重きを置いていたか。
ちなみに、たった数センチでも眠り心地には歴然たる差が生まれる――というのがいつだか販売員のお姉さんから聞いた話なのだけど、確かに簪の言うとおり実家で使っているベッドは縦幅が余り気味だったので、足がはみ出なければ別に問題は――
「いや、そうじゃねえだろ」自分に言い聞かせるように言った。簪は不思議な目で見ている。「なんでこの部屋にはベッドが一つしかないんだ。これをやった犯人――というか実行犯は見当がついてるからいいけど」
どうせ姉さんだし、という言葉は飲み込んだ。
「てかなんだ、僕は床で寝ろということか?」「え? 一緒に寝るんでしょ?」
僕が少々雑に投げた質問は、多少のタイムラグもなく打ち返された。
こんな気はしていたのだけど、と僕は内心でため息を吐く。この学園に来てからため息ばかりだなあ。本当にため息一つで幸せが逃げていくなら、今頃僕から逃げて行った幸福で億万長者が量産されていることだろう。
誤解を恐れずに言うなら、僕は簪と寝たことがある。――って言うといかがわしく聞こえるけれどそうではなく、単純に添い寝をしたことがあるという意味だ。
実家では言うまでもなく、家が無駄にだだっ広く部屋も多数余っていたこともあり、思春期で多感な僕たちには自室が与えられていた。のだけど、ズボラ・オブ・ズボラな簪の部屋はほとんどが物置と化していて、一方私物をほとんど持たない僕の部屋は小奇麗としすぎて生活感のない部屋になってしまっていて、寝るだけの部屋だった。それを埋めるためにさっき簪の言っていたダブルベッドのロングサイズとやらを部屋にポン、と置いてみたのだけど、逆に空しさが募った。
『部屋が汚すぎて寝れない』と『寝るだけの部屋』がうまいこと重なった結果、簪は僕の部屋を寝室として使い始めるようになった、という訳である。そろそろ思春期だからという理由で部屋を与えられたのが小学5年生にもなろうかというとき、簪が僕の部屋で寝泊まりするようになったのがその一週間後のことだった。いつだかこのことを簪は「利害の一致だよ」なんて言っていたけど、僕に利があるのか未だに悩む。
今まで散々一緒に寝ていたのだし、特に思うところはないのだけど、ここは寮。ついさっき他人に評価されるということを改めて実感したばかりなので、多くの他人の眼がある
「じゃあ床で寝る?」
挑発的な笑みを浮かべる簪。
普段なら頷いていたところだけど、流石に心身ともに疲労の蓄積する
だから。
「まあ、いいか」
簪と寝ることを決めた僕だった。
これは決して妹に甘いわけではなく僕自身の健康を損なわないための必要措置である、とここに強く明記しておく。
『クリアブルーシルバー』
→そんな色あるのか知らない。キラキラ輝いている髪、程度の認識。
『堅実で慎重で確実性を重視する態度不良で不真面目な簪ちゃん』
→一次・二次・三次……に関わらず物語の登場人物というのはその性格なり所作に統一性があるものですが、現実にはそうそうそんな人なんかいないと思っています。だからこの簪ちゃんに限らずこの話の登場人物には、キャラ立てというか、確立された芯のようなものが見えないかもしれませんが、それはリアルさを追求しているということにしてもらえませんかね(震え声)。
『カフェスペース』
→そんなものあるんですかね。
『簪ちゃんのTシャツ』
→刀奈さんで言うところの扇子ポジション。書いてある文字は基本的に物騒か辛辣。
『二人のお部屋』
→物語の展開としては少しどころか大いに無理矢理感がありますが、一応意味があります。
『ボイスレコーダー』
→ネットオークションで『たっちゃん』という名の人に高額で落札された模様。
『ベッド』
→染○家具店様(名前を出していいのかわからなかったので伏字で)のホームページによりますと、ダブルベッドのロングサイズが、幅1400mm×長さ2050mm。ワイドダブルのベッドが幅1540mm×1950mm。だそうで。
『主夫一夏君』
→全部簪ちゃんのせい。
『展開の遅さ』
→遅いです。意図的に遅くしております。セッシー戦まであと最短で4話最長で6話といったところかもしれないです。テーマは『これをISでやる必要はあったのか』です。
14/6/17
細々と気になったところの修正