黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第12話

「……すぅ……すぅ……」

 

 水明と源氏主従コンビは決闘がない放課後は水明の部屋で過ごしていた。最近ではこうして三人で集まると勉強会をすることもあり、弁慶は授業中に理解すればあとは遊べるというスタンスのため軽く、水明と義経は一日の復習を一時間ほどここに持ってくることもあった。

 

「珍しいな。義経が眠るとは」

 

「今日は衣川の合戦で一応私と義経が死んだ日だから。この時期になると毎年気疲れして眠る」

 

 普段は義経を揶揄って遊んでいる弁慶だが、このときばかりは慈しみの表情で自身の膝で眠る義経の頭を撫でている。

 

「さすがにそこで眠るのは起きたときに辛いだろう。自分の寝ている場所で申し訳ないが上げよう」

 

 義経を持ち上げようとした水明は弁慶の方を見た。軽々しく触れて良いのかという確認だったが、頷いたので横抱きにする。そのままベッドへ寝かせると寝冷えしないようにタオルケットを被せた。

 

「英雄も寝顔は可愛らしいんだな」

 

「普段は凛々しい顔をしようと努めるけど、こうやってたまに見せるあどけなさが川神水に合うんだよねぇ」

 

「主人の寝顔を肴に吞むなんてとんだ家臣だな」

 

「家臣だからこそ、ね」

 

 弁慶は二杯目を注いだ。

 

「弁慶は自分の命日でも気疲れすることはあるのか?」

 

「私はそういうのを考えないようにしてるから。正しくあろうとするのは義経に任せて、私と与一は割と自由にやらせてもらってます」

 

 そんなことを言うが、弁慶も与一も義経のために動いていることを水明は知っていた。普段から一緒にいる弁慶はともかく、水明は義経と話していると注意深く与一から見られていることに気付いている。また、教室で百代と対峙したときも条件反射のような速さで義経の前に出て構えていた姿も覚えている。武器のある義経と弁慶と違って、自身の得意武器が無い状況でそんなことが出来るのは主従として義経を大切に思っている証左だろう。

 

「与一は思春期だからね。義経に優しくされると照れ臭くてああいう態度を取っちゃうの」

 

 ちなみに、現在与一は大和とゲームの話題で話すようになったFクラスの大串スグル、師岡とともにゲームセンターへ遊びに行っている。水明と与一はあまり話すことはないが、与一は水明を義経と弁慶――主にプロレス技をかけてくる弁慶――の相手をしてくれる人間だと内心ありがたく思っている。

 

「それを与一に言ってやるなよ。男は思春期と指摘されるのが一番恥ずかしいからな」

 

「水明も?」

 

「自分は割と自然体で生きてきたような気がするから、思春期だった、という自覚はないな」

 

「たしかに。水明が与一と同じ感じは想像できないかも」

 

「だろう?」

 

「両親も真っすぐに育って嬉しいだろうさ」

 

「だと良いな」

 

 水明の両親は物心着くより前に亡くなっていたが、あえてそれを言って空気を壊すこともないと彼は同意した。

 多感な高校生より落ち着いている雰囲気を持つ水明だが、それは祖父と暮らしていたことが大きく影響しているのだろう。母親、父親代わりの祖父は今よりもっと無邪気だった幼年の頃の水明を受け止めて育ててきた。離れすぎた年齢に時代錯誤な考えもあったかもしれないが、祖父は水明の親を育ててきたのだから概ね問題なかったのだ。住んでいた地域も子供が少なく、川神と同じ、いや、それ以上に子供たちを見守ってきた経験のある老人たちから優しくされていたのもあるのだろう。

 

「……よいしょ」

 

 水明が自身の境遇を顧みていると、弁慶が義経の座っていた座布団を取った。そのまま水明の横に置くと先ほどの義経と同じように――水明の膝を枕に寝転んだ。

 

「……眠いなら、義経の隣で寝てて良いぞ」

 

「枕高くないと眠れないの。昔の人だから」

 

 箱枕のことを言っているのだろう。あれは江戸時代に髪を男女ともに髷を結うようになってから出来たのものなので、弁慶の生きた時代には関係ないはずだ。

 

「それに、主の寝顔を肴にする忠臣には隣で寝るなんて畏れ多くて」

 

「お前な……」

 

 それでも、仕方ないと水明は受け入れることにした。

 弁慶は英雄然と意識していないと言うものの、やはり前世に死んだ日というものは本人にとってどこか心痛を与えるはずだ。安逸を貪っているつもりでも彼女は義経と同じ気疲れを感じているのだろう。しかし、これは水明の憶測に過ぎないので弁慶の本意がどこにあるのかは定かではない。

 

「んー」

 

 猫のように間延びして弁慶が何かを催促する。

 

「どうした?」

 

「んんー」

 

 弁慶は水明の手のひらを掴む。ほんのりとした暖かさに水明は驚くも、ふんわりとした感触にさらに驚くこととなった。

 

「撫でて欲しいのか?」

 

「武蔵坊弁慶の頭を撫でる権利を進呈しよう」

 

「いや、それは……」

 

「……あぁっ、いきなり裸を見られた記憶が」

 

「――頂戴された」

 

 水明は波巻きになった弁慶の髪を梳くようにして撫でた。

 それから足が痺れるまで穏やかな時間を過ごすのだが、義経が跳び起きたことで終わりが来る。彼女が枕に涎を垂らすまでにうたた寝をしてしまったことを謝り、水明は二人の前で枕カバーを洗濯機に入れたのであった。弁慶は義経が寝たベッドは「源氏ベッドになる」と言っていたが、就寝するときたしかに源氏ベッドとなっていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

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