黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第21話

 

 獣ーラシア動物園。

 川神から海を挟んだ場所にある七浜、そこからさらに少し移動したところにある大規模動物園だ。『動物のそのままの姿を見せる』ことをモットーにいくつかの生態環境を出来るだけ現実に近い形で作り出し、迫力満点な肉食獣に悠然と植物は食む草食獣の姿を見ることが出来る。そんな獣ーラシアがここまで人気になったのは数年前、九鬼の末娘がたまたま訪れて気に入ったことが要因だ。年々来園者が細くなっていたが、末娘が動物園周辺にいくつか店を作り、その後経営を買い取ってからはすべて自身で出資を行って指導している。そのおかげで今や日本有史の動物園となり、今日も遠来からの客と常連客の二種類で賑わっている。

 

「うわ、可愛いなぁ。見てくれ水明君。ジャイアントラビット君だ」

 

「……」

 

 そして、義経に誘われて獣ーラシアに来ていた水明も早速その凄さに驚かされていた。

 義経が抱えて見えてくるのはウサギ……なのだが、そのサイズが普通のウサギとはまったく違う。彼女は脇腹に手を入れて抱えているわけだが、伸びている脚まで足すと義経の三分の二くらいのサイズがあった。

 

「それ、本当にウサギか? ジャイアントなんて言葉では片付けられないような……」

 

「それほどこの動物園の飼育環境が良いということだな! 義経もこんな大きさのウサギは初めてだぞ!」

 

 かつて恐竜が跋扈していた時代は大型サイズが当たり前だと聞くが、このウサギもその類なのではないかと水明は感じた。明らかに生態系の頂点側の生き物だ。

 

「おぉ!? ははっ、もう、くすぐったいぞ!」

 

 ウサギが義経に跳び乗ろうとしている。もはや捕食シーンに見える。

 

「……ほら、君を待っている人はたくさんいるんだ。義経は十分堪能させてもらったから、別の人のところに行ってあげてくれ。あの人は丸々ニンジンを持っているぞ」

 

 ウサギはそう言われるとニンジンを持った人に向かって走って行った。そのことに気付いたニンジンを持った人はひっくり返って逃げようとしているが、やがて追いつかれ、腕ごと食べられている。水明はそれを見なかったことにした。

 

「ふぅ。元気いっぱいな子だ」

 

「好かれていたな」

 

「島にもたくさんウサギはいた。撫でられて嬉しいところは熟知しているぞ!」

 

「さすがだ」

 

 未だにアレをただのウサギと認知してい良いのか迷っている水明だが、近寄って来たアルマジロに手を伸ばして忘れることにする。

 

「義経。アルマジロは実は日本でもペットとして飼育することが出来ると知っていたか?」

 

「え、えぇっ!? そうなのか!?」

 

「自分もいつかの記事で散見した程度だが、かつてアフリカ大陸固有種だったアルマジロが他大陸に持ち出されて爆発的に繁殖。いまやアメリカでは食用で狩猟することも許可されているらしい」

 

「食用か……さすがにこの愛くるしい目を見て食べようとは思えないな」

 

「次は牛、豚、鶏コーナーに行ってみるか」

 

「――い、いじわるだぞ! 水明君!」

 

「悪い悪い。少しからかってみたくてな」

 

「もう……義経たちの力になってくれている動物たちにはもちろん感謝しているが、それでも見た目で食べられるか食べられないか考えてしまうのはダメなのだろうか」

 

「昆虫を食べられない人が多いように、それは人それぞれじゃないか? 結局のところ、食べるたびにしっかり手を合わせて感謝することが出来ているか。深いところまで考えすぎると、それこそ博愛主義の命題だ」

 

「むむ、それもそうか」

 

 動物園でそのようなことを話し続けるのも無粋だろう。水明は膝を付いている義経の上にアルマジロを乗せ、興味深そうに二人を見ていた子ヤギの頭を撫でる。

 

「ヤギどうして紙を食べるんだろうな」

 

「んー……美味しそうに見えるのだろうか?」

 

「そうなると、目で判断しているのかも気になる――悪い。こうやって普段接しないものがあると、無駄に気になってしまう性格なんだ」

 

「ううん。水明君は普段、義経たちの話を聞いてくれてるばかりだけど、こうやって積極的に話しかけてくれるのは嬉しいぞ! 新しい、君を見つけられた気分だ」

 

「恥ずかしい言い方だな……」

 

「そう、だろうか?」

 

 直情的な義経の言葉に珍しく水明が肩を竦める。手はヤギを撫でるため忙しなく動いているが、それはまるで自身の感情を誤魔化すような気さえした。

 顎下を二、三度擦ると甲高くヤギは鳴いた。

 

「そろそろ別のところに向かうか?」

 

「水明君はどこか気になっているところはあるのか?」

 

「馬だな。乗馬体験なるものがあるらしい」

 

「へぇ、乗馬体験か! 最近馬には乗れてないから、楽しみだなぁ」

 

「乗ったことがあるのか?」

 

「流鏑馬体験をしたときと、九鬼で飼われている馬にはよく乗ってたんだ」

 

 そこで水明は源義経は鵯越の伝説があったことを思い出す。幾つもの戦場を乗り越えてきた義経伝説の数々は常に馬とあり、人馬一体の奇襲を持って敵を討ったという。

 

「そこまで楽しみだと絶対に行かないといけないな。人も多いだろうし、先に予約しておかないか?」

 

「うん。それは良い考えだ」

 

 二人は先に乗馬コーナーへと向かった。案の定、予約は端まで埋まっており、急遽キャンセルが出たという一人だけ空きがあったが、それは断って一時間半後に二人で予約した。

 普段、源義経などということは意識しない水明であったが、それでも義経がどのような乗馬をするのか気になるのは仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「キリンさんだ。可愛いらしい毛並みだな」

 

「ああ。二匹で首を擦りあっている。番いだろうか」

 

 

 

「こんな小さなワニもいるんだ」

 

「コビトカイマンという種類らしいぞ。最近は小ワニを飼育する人もいるのか」

 

「カイマンっていうのはアリゲーターと何が違うのだろう」

 

「アリゲーターガーは尖った口が特徴で名付けられているみたいだから、口の形などに差があるのかもしれないな」

 

「なるほど。もしかしたらカイマンガーという生き物もいるかもしれない」

 

 

 

「知っているか、水明君。フラミンゴはエビやカニを食べ過ぎてピンク色になるんだぞ」

 

「義経。そんな単純な理由、さすがに騙されないぞ」

 

「嘘じゃない! 本当だぞ――えっと、ほら。ここの説明を読んでみてくれ」

 

「……本当なのか? 食べ物で身体の色が変わるのか。不思議だ」

 

「ふふん、嘘じゃなかっただろう? 小さい頃、何故フラミンゴがピンク色なのか気になって調べたことを今でも覚えているんだ」

 

「しかし、フラミンゴが食べ物でピンク色になるのならば、孔雀とかカラフルな動物は何故ああいう色になることが出来るのか気になるな」

 

「たしかに! 何か青色のものを沢山食べているのだろうか……」

 

 

 

「い、意外とハイエナは大きいんだな」

 

「テレビとかでもハイエナが出てくると大体ライオンやサイがセットだからな。それで小さく感じるのはあると思う」

 

「あの鋭い牙につぶらな瞳。ギャップ萌えというやつだろうか」

 

「んー……それとは、また違うんじゃないか?」

 

 

 

「ふっさふさだ。ふっさふさ!」

 

「あんな大きなライオンは初めて見たな」

 

「群れの数もかなりのもの。やはりライオンは鬣の立派な雄がモテるんだな」

 

「正しく強さの象徴というわけか」

 

「義経もあのライオンのように凛々しく在りたいものだ」

 

「義経があそこまで迫力があったら付き合い辛いな」

 

「むむ、じゃああの子ライオンくらいにしておくべきだろうか」

 

「他の子に伸し掛かられている方だけどな」

 

「せめてあっちの子が良いぞ」

 

 

 

 

 

「――立派な牙だったなぁ」

 

 一通り園内を周り終え、ベンチで水分補給する。

 最後に見たのはアフリカゾウの親子であり、親はもちろんのこと、子供の方も立派な牙を持っていた。ちょうど間食の時間だったため飼育員が大量の果物を持って現れ、リンゴ一つを義経に渡すと餌やり体験が出来るというイベントもあった。

 

「そろそろ乗馬コーナーに行こうか」

 

「うんっ。今度はお馬さんが義経たちを待っているぞ!」

 

 二人が乗馬コーナーの方に行くと、ちょうど入れ替わりの時間帯だったらしく少し汗ばんだ人々とすれ違った。

受付に名前を伝えると簡単な質問票を渡される。乗馬の体験があるか無いかを尋ねるもので、水明は『いいえ』、義経は『はい』に丸をして持って行く。

 

「山紫様は未体験で、そちらの方は体験したことがあるのですね。かしこまりました。馬の方を選んでもらいますので、そのままお進みください」

 

 受付が義経の名前を確認した瞬間、驚いたような表情をしたがすぐに平静を保つ。敢えて義経の名前を呼ばなかったのも気遣いなのだろう。水明はこの動物園に九鬼の経営だったことを思い出し、従業員も一流だなと思っていた。

 二人は広場になっているところで馬たちと対面した。

 

「私がお二人の担当となる大林です。本日は山紫様が未体験ということですが、源様はどういたしましょう。一先ず乗ってもらって、問題なければ個人で常歩していただいても大丈夫ですが……」

 

「む、どうしようか?」

 

「水明君が――えっと、山紫君が乗れるまで隣で待ってても大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。乗馬はそう難しいものではありません。この子たちも非常に大人しい性格の子ばかりなので、三十分ほどすれば歩けるようになるでしょう」

 

「そうですか。よろしくお願いします」

 

「では、まずはお二人の乗る馬から選んでいきましょう。しっかりと目を合わせて、鼻先を撫でててあげてください。その反応で――」

 

 水明が選んだのは芦毛が手触りの良いツワブキという名前の馬だった。担当員に言われた通り、彼が鼻先を撫でると自ら擦り付けるように顔を寄せて来たのでこの馬に決めたのだ。義経は黒より黒い漆黒の毛を持つ体躯の良い馬のドラセナ。どうやらこの馬、本名はドラセナバスターと言い、一昨年まで関東G1を戦い抜いて来た競走馬だったらしい。重賞を連勝した記録もあり、一部ファンはこの馬だけを目的に獣ーラシアに来園するとのこと。大人しい性格ではあるものの自分からは乗られようとはしないため、義経が前に立った瞬間、彼女を乗せるのは自分だと言わんばかりに一歩前に出たのは担当員も珍しがっていた。

 

「馬に乗るのはそう難しいことではありません。彼らは頭もよく、人間のやりたいことを理解してくれます。乗馬では歩くことを常歩と言い、馬の内腹を撫でるように左右の足で押してあげてください。そうすると、合わせて馬も一歩ずつ踏み出してくれます」

 

 水明が安定して常歩出来るようになった頃、義経は小走りしてドラセナと息を合わせていた。巧みに手綱を操り、小回りも披露している。

 

「次は手綱の使い方を説明しますね。手綱は車のハンドルよりも、自転車のハンドルを想像してもらったほうが良いです。車はハンドルを回すだけで曲がれますが、自転車はハンドルを回すだけだと上手く曲がり切れません。なので、しっかり足腰の体重移動で曲がりたい方向へ馬を誘導してあげるのです。競走馬を乗る方や、よほど乗馬慣れした方は手綱を必要とせず、足腰だけで馬を操って見せるんですよ」

 

「そうなんですか。馬は手綱が必須だと思っていました」

 

「もちろん。いざというときの急停止や急カーブの合図が必要になりますから、乗るときは必須です」

 

 山育ちということもあって足腰に自信のあった水明は時間少なく曲がり方を習得する。自由に八の字に回れるようになる頃にはリズム良く常歩も出来るようになっていた。

 

「山紫様は初めてとは思えないほどの上達です。源様が先行してくだされば、森林コースの方も行けそうですね」

 

「おぉ、ぜひ行ってみよう! 水明君!」

 

「歩くくらいならば問題ない。行ってみようか」

 

「小型トランシーバーをお渡しします。終了時間五分前にご連絡しますので、間に合いそうになかった場合はこちらのボタンを押しながら道なりにある目印の数字をお伝えください。一番奥の場合は私か他の担当が迎えに行くこともありますので、ご自身の体力や体調と相談したお楽しみください」

 

 担当員の説明を聞き、二人は広場から馬を歩かせる。三分ほど進むと横合いに『森林コース』と書かれた看板が立てられており、水明は義経に付いて行くようにその道へ入ったのであった。

 

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