黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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『二刀使いの一年生。』(原作:『真剣で私に恋しなさい!』)
第36話


「——帯刀……!まさかあなた黛さんと同じ……」

 

「——んん? 君ゃ誰ですか」

 

「わ、私の名前は武蔵小杉よ!この一年を治めにきたの、喜んで私の配下になりなさい!」

 

「武蔵、ですかい。配下……ええ、面白そうだ。構いませんよ」

 

「嘘ほんと!? やった、強そうな奴二人もゲット!」

 

「やはは、楽しそうな方だ」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

今年の川神学園はいつもより喧騒に溢れていた。武神がいてからさらに勇名が馳せ、地域からは風間ファミリーらの活躍によって慕われる学校であったが、九鬼財閥からの接触もあり騒動の中心で渦を巻いた。

世間的にも驚くべきことは二つ。

 

 

''クローン技術による過去の偉人の復活''

 

 

源義経、武蔵坊弁慶、那須与一、そして葉桜清楚こと覇王・項羽の四人。倫理的に危ういとされた技術を発表し、九鬼は世間の批判に晒されるかと各報道が先を案じたが予め手を回していたこともあり批判的な組織は瞬時に鎮静されていった。さらに、源義経らが発表されて一月後、もう一人のクローン——最上旭こと源義仲が公表された。その父、最上幽斎曰く世界にはさらに超えるべき試練が必要だと考え密かに育て上げていた愛娘だと。

そして二つ目、

 

 

''若獅子タッグマッチトーナメントの開催''

 

 

武の聖地川神、その源流である川神院総代・川神鉄心が世界に向けて発表した次世代の強者(つわもの)を決めるトーナメント形式の大会。優勝者は武神である川神百代と仕合え、それ以下の入賞者たちもスポンサーである九鬼から豪華な景品も出た。結果、優勝者は復活した偉人や覇王・項羽、九鬼の比較的若い従者をも下し勝利をもぎ取った西の納豆小町——松永燕であった。彼女は同じ技量派である最上旭と手を組み優勝台に上がり、最終的には二人で武神に挑んだ。平蜘蛛という最終決戦武装を使い、最上旭のほうも奥義を繰り出すが僅かながらに武神には敵わず両者共倒れ、秒の差で武神の勝ちとなった。結果、当初の武神を倒し家名をあげる目的は果たされ松永の名は世界に広がることになった。

 

ここまでが、夏休みが終わった頃までの出来事である。

英雄達の復活、武神に並ぶ者の出現……常人ならばどれ一つとっても驚くことだがここは川神の地(・・・・)。祭り付きのこの地は未だ彼ら彼女らを休めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一巻「その名」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20xx年9月16日、その日川神学園に生徒の姿はなかった。幾らか見えるが、彼らがいつものように教科書を広げている様子はなく特別にフィルムスクリーンに投影された生放送を見ていた。

映し出されているのは川神院が管理している霊峰・川神山。樹齢一〇〇年を超える木々が鬱蒼と生え、川沿いに並ぶ岸壁は目を凝らせば化石と化した植物や昆虫の姿も見える。

そんな国立公園になってもおかしくないこの地で何が起きているのか——。

それは、

 

「——弓矢部隊、ぎりぎりまで引きつけて!一年の近接部隊に確実に当てて!」

 

「遊撃部隊、敵を横腹から噛み付きます。私について来なさい!」

 

「伝令、西の天狗岩にて黛が率いる部隊影!」

 

——''模擬戦''を行なっていた。

若獅子タッグマッチトーナメントを終え、一ヶ月ほど何もない期間があった。学生身分からすれば学校が始まるだけであったのだが、夏休みが終わる数日前、学園より新たな発表があった。

 

『今年の秋季体育祭は、通常のスポーツ対決ではなく各学年対抗の''模擬戦''とする。外部助っ人は三人まで。なお、勝敗に関わらず成績は下がることはない。だが優勝学年から最下位までのポイント争奪戦とする』

 

つまり、下がることはないが順位が高ければ成績に反映されるので頑張ってくれ、ということだ。

 

「直江の糞坊主、一年の連中は東側に迂回しつつ中央に攻めて来てるぞ」

 

「ありがとう、あずみさん。予想通りだ」

 

メイド服姿の女が、今回の模擬戦軍師の片割れ——直江大和にそう言った。女の名はあずみ、九鬼財閥の御曹司九鬼英雄の専属従者である。

 

「ふふ、さすがですね大和くん。一年生の戦力は一点突破。片方に最高戦力を寄らせ、数で押すつもりだったみたいですがそれを読んでいたようで」

 

もう一人の軍師、葵冬馬が卓上に目を向けた。

 

「半年もあればどの学年に戦力があるのかは把握できる。まゆっちには悪いけど、一年と二年じゃあ戦力の差がありすぎる。それに今年は源氏組もいるから余計にその差は開いた」

 

櫓を建て、置いた卓上には川神山全体の地形が描かれた地図がある。これは学園側から配布されたものであり、事前に作戦を決めるための配慮である。

 

「西の天狗岩にまゆっちがいるなら、本陣に控えていた義経と与一、それとC組の部隊で確実に対処。中央は戦力差を考えれば挟撃を計画して高確率で攻めてくることはない。ならばこっちは強い駒の差でそこもとってしまえば良い」

 

大和は西に義経と与一、中央の川辺にマルギッテ、クリス、一子、弁慶の駒を移動させた。

 

「そして敵の主力は東の身を隠せる岩場から狙ってくると」

 

「一回戦目である今回は試してみたかったんだ。予想、というよりは俺が敵の動きを誘導し思い通りにできるか。次は姉さん達清楚先輩や最上先輩、それに姉さんに匹敵する松永先輩もいる。それくらいの気概じゃなければ、いくら戦力がある二年でも勝てない」

 

故に、今回の一年生に対する模擬戦で大和は三人の助っ人枠をすべては切らなかった。助けっ人枠は一人が怪我をすればまた別の人というわけにはいかず、その穴を埋めることはできないからだ。ならば即戦力にもなるそこは三年生との模擬戦まで温存しておくことに決めた。

 

「主力を迎え撃つ面々は誰を残しているのですか?」

 

「F組みを中心に身軽な人たちを置いている。キャップはもちろん、そっちの榊原さんや井上。不死川さんに集団戦が得意な源さん」

 

「で、本陣はあずみさん率いる精鋭部隊というわけですか」

 

「横腹から奇襲できるよう、東寄りにマルさんを出陣させた。逆位置に弁慶がいればかなりのプレッシャーになる」

 

それに、と付け加える。

 

「もし義経たちがまゆっちを撃ち漏らしてもそのまま三人で対処が可能だ」

 

「ふむ、各々のリカバリーも完璧と……さすがですね、大和くん。私もなにかお手伝いできるかと思えば、こう言った戦いごとでは悔しいながら敵わないようです」

 

「Sクラスの軍師にそう言ってもらえて嬉しいよ。でも、次の姉さん達相手はしっかり手を貸してもらうからな」

 

「もちろんです。手取り足取り腰取り協力しましょう」

 

「やめてくれ」

 

時刻は13時過ぎ。模擬戦が始まってすでに一時間は経つ。実際に部隊が衝突し始めたのは移動開始してから30分だが、それでも前日から作戦を練っていた大和はほんの少し疲労を感じる。

 

「大和大和、疲れが見えるようだからジュースでも飲むかい?」

 

「ああ、頼むクッキー。できるだけ冷えた奴が良い」

 

後ろにいた、一応助けっ人枠であるクッキーは機械の腕にコップを出すと体内で冷やされたスポーツドリンクを大和に渡した。

クッキーは最初、助っ人枠にいれる気はなかったのだが作戦を組んでいくうちに長期戦化を見越して補給部隊の主力として入れたのだ。彼がいれば川の水すら完璧にろ過し冷えた状態にしてくれ、腹拵えと言えばどこからか魚を獲って川魚をご馳走してくれる。幅広く補給を任せられるならその枠を一つでも消費すべくと参加させたのだ。

 

「西の伝令()より報告、義経・与一のコンビが黛の部隊と接敵。すぐには決着付かず、未だ戦闘中とのこと」

 

「わかった。随時連絡はしてくれ。特にまゆっちを討つか討たないかは勝敗に関係してくる。本陣の予備伝令()から二人連れて交互で最新の情報を頼む」

 

「了解」

 

去った伝令を見送り、すぐに大和は義経らと黛の駒に赤丸を付けた。

 

「中央の伝令()より報告、マルギッテ・弁慶の前線が(つちのと)に上がりました」

 

「そっちも十分だな。引き続き頼んだ」

 

地図の横線を青でなぞる。(つちのと)は自分がいる本陣を(きのえ)を一とし六の数字。つまり戦場の支配率は二年の方が上回り、形勢は確実に向いている。

 

「中央は上手くいき、義経と与一がまゆっちと交戦。敵主戦力にはまだ動きは無し、か……」

 

「主戦力は崖の上に潜んでいます。無理に上がらず、時を待つのが得策でしょうか」

 

「だな。次に戦場が動くとすればまゆっちを討って、完全にこちらが戦力を上回ったとき」

 

「ええ。良い報告を待ちましょう」

 

青い空には西と中央から煙が上がっている。接敵した合図だろう。戦力的には余裕があるといえど、考えられる相手の勝ち筋はすべて潰すように動いた方が良い。

大和はもう一度地図と睨み合うと、ペンを持って自身の戦いに望んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、西の天狗岩にて。

 

「——やはり巧いか。剣聖黛大成が娘、黛由紀江!」

 

「その名で呼ばれたのはいつぶりでしょうか。剣客として、お相手仕ります!」

 

音を置き去りに(くろがね)が煌めいた。

刃引きされているといえど、担い手は世界に名を轟かせる過去の英雄と現代の英雄がその娘。血を受け継ぐだけではなく、その技量もすべて受け継ぎ昇華させた黛の剣に鈍さは微塵たりともない。

 

「与一っ、無理に援護はするな!義経が黛さんを抑えている間に後ろの部隊は頼んだ!」

 

「っち、めんどくさいけどやるしかねえか」

 

那須与一、ある程度近接格闘も(こな)せるが本領は弓術。弓において藤原秀郷に匹敵するその腕は数里先の鳥すら落とす。

 

「源義経、剣の冴えは父に劣らず——はぁっ!」

 

「くっ……地に不利は義経か!」

 

天狗の岩と言われる巨岩。その段差を利用し、黛はヒットアンドアウェイで攻めて行くが見事な体勢で義経それを防ぐ。

小さな振りで、されどこちらを断ち切る勢いの一刀を義経は受け流す。合気道にも似た完璧に威を殺されたそれは、黛の態勢を崩すのに十分な技量だった。

 

「……!」

 

かつて京の鞍馬山にて鬼一法源に教わった歩法。木の小さな根をかけ木を登った古の記憶を呼び覚ます姿で義経は岩を登った。

自身が硬直したのも束の間。すぐに後ろを振り返る黛だが、目にしたのは木漏れ日を背に岩の頂点から居合の要領で落ちてくる義経であった。

 

「避けるのは不可能……!! ならば」

 

自身も最高の構えで、心で受けるべく刀を出す。

 

「義経は外さない——」

 

現世に生きる剣客の勝負はその一撃で方が付いた。

 

「——''逆落とし''ッ!!」

 

強烈な横薙ぎが黛の胴体を捉えた。重力に則った一撃は黛の速さを僅かに上回り痛烈な攻撃を加えた。

 

「黛さん、討ち取った!」

 

明滅しながら黛は地面へと倒れ込んだ。

義経は納刀すると、背後に倒れた黛の半身を起こした。

 

「大丈夫か、黛さん」

 

「うぅ……さすがです、義経さん」

 

「ううん。義経も義経じゃなければ負けていた。次はどうかわからない」

 

「ふふ、謙虚な方ですね」

 

「立てそうか?」

 

「ええ、数分すれば立てるでしょう。義経さんは先に。私はもう戦線離脱なので回復次第帰陣致します」

 

「そうか、それは良かった。黛さんには申し訳ないが、義経たちは勝たせてもらうからな」

 

「それはどうでしょうか」

 

「……?」

 

「たしかに私たち一年生は二年生と比べれば名だたる戦力はいないかも知れません。力が無いならば知で。ですがその知すらそちらには大和さんや葵先輩といった方がいます」

 

「……」

 

「ですが。私たち一年生には真の意味で能ある鷹が爪を隠した人(・・・・・・・・・・・・・)が一人、いらっしゃいました」

 

「能ある、鷹?」

 

「若獅子にこそ出ていませんでしたが、彼は間違いなく私よりも、剣聖と謳われた父の剣を超えています。まだ、勝負はわかりません」

 

「まさか、そんな——」

 

義経の首筋。木々を縫うように、中央から鋭い気配が彼女を指した。

 

「彼の名前は——」

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

「西の伝令()より、義経が黛を討ちました。部隊の取り残しはありますが概ね問題はないと」

 

「よし!さすが源義経、やってくれた!」

 

伝令からの報告に大和は思はずガッツポーズして答えた。隣に立つ冬馬はそんな彼を嬉しそうに見ている。次の指示を待っているのか、まだ腰を下げ続ける伝令に指示をしようとすると伝令役が口籠った。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「その……義経からまだ敵には黛に匹敵する戦力があると……」

 

「なに?」

 

大和は思考を巡らし、一年生の顔ぶれをピックアップして行く。敵の大将は一年生を一日でまとめたとされる''武蔵小杉''。本来、九鬼紋白であったが少女はどうしても外せない九鬼関係の用事があり今回は見送ることになったのだ。紋白で登録していたため、一回戦は臨時対象である小杉。二回戦には参加するとのことなので紋白が大将となる。

 

「情報元は黛本人からと」

 

「まゆっちから、か……まゆっちはいちいちそんな嘘をつく人間じゃない。揺さぶりを掛けるにしろもっとうまい方法があるはず……」

 

卓上に置いた予測できる一年の駒を見るが黛に匹敵する戦力など思いつかない。相手の助っ人枠は、こちらと同じで今回は使用していないと事前に連絡はあった。

つまり、元から黛のように百代が手をつける実力に値すべく人物がいたことになる。数日前に、それとなく一年の武道家について百代に聞いたが黛以外の返答はなかった。

思案の最中、中央に繋がる道から走ってくる伝令役が見えた大和は思考を中断した。

そして、彼が伝えた言葉はおよそ大和が信じられないことであった。

 

 

 

「——で、伝令!!中央より、中央主力クリス、一子、遊撃部隊マルギッテ軒並み壊滅級の被害を受けましたっ!武蔵坊弁慶が応戦中とのこと!」

 

 

 

目を見開き大和の意識は白くなる。

戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

それは数十分前にまで遡る。

 

「これで終わりか。敵の主力にしては軟弱過ぎないか」

 

「お嬢様、おそらく陽動部隊でございます。敵は東の地形有利から攻めるべくこちらに主力に見せた部隊を置いたのかと。盾が多かったのも時間を稼ぐためでしょう」

 

「なるほど……さすがマルさんだな!」

 

「クリ、あんたの部隊はこのまま真っ直ぐに行くの?」

 

薙刀を立てた川神百代の妹、一子は自身の部隊を並べた状態でクリスに聞いた。

 

「ああ。マルさんの部隊は少し奥に迂回して東に行くのだろう?残党にさらに背を取られては厄介だ。念には念を、私たちの部隊は少しずらして進軍させる」

 

「そ、わかったわ。じゃあ私たちは先に敵の主力がいるであろう東の岩場に行ってるわ。先に首級を上げるのは私なんだから!」

 

「む、私も負けないからな!」

 

一子、クリス、マルギッテが次の目的地を決める中、川を挟んで対岸にいた武蔵坊弁慶は自分はどうするか決めあぐねていた。大和から言われたのは出来るだけ大きな立ち回りを決めること。甚だ遺憾でもないが、自身の力を見れば技量で押す一子・クリス側に敵がより最高戦力である黛の部隊と簡単に合流させないためであった。

 

「さて、どうしよっかな。このまま主人(あるじ)のとこに行っても良いけど……」

 

と、川を渡ろうか逡巡していると自身がいた先の森から人影が現れた。

 

 

 

「——いやぁまったく。小杉さんは地図でも渡してくれりゃあ良いものを。これじゃどこ行けば良いのかわからんのも当然。ちょいと合流に遅れましたが……——これだけいれば十分(・・)ですかねぇ」

 

 

 

ずいぶんと独り言が多い奴だと弁慶は思った。

声の主は青年であった。

姿は川神学園の白い学生服に、珍しく二刀を腰にぶら下げている。剣士だろうか。しかし弁慶の目には男子生徒が武道家には見えなかった。表情は緩んだかのようなにこやからな目をしており、姿勢はおまけに猫背だろうか。猫背であるが体躯と身長があるため不自然な圧迫感を弁慶でなければ感じていただろう。髪は僅かながら紺色が見え、長髪なのだろうか金色の花弁がついた簪で止めている。

 

「弁慶、どうしますか」

 

「ん、いいや。私がやる」

 

「では私たちは奥へ進み東へと向かいます。遅れとることはないと思いますがご武運を。お嬢さま」

 

「ああ」

 

マルギッテに言うと錫杖を構えた。一撃で、掠りもすれば意識を失わせる弁慶の攻撃は世に噂の怪力無双である。

 

一歩、マルギッテたちが踏み出した。

 

位置は対岸の男と並行に下がった位置。一歩で直線につながるやとしたところで——男の簪に付いていた鈴が優しく鳴った。

 

「ああ、ごめんなさい。ここの線抜けたらやります。抜けなくともやります」

 

「——お嬢さま!!」

 

「ま、マルさ……」

 

砂利を切り裂き川の水が飛沫をあげる。さらに声再び砂利を巻き上げ、草土を散らしながら男から左手に数十メートル。

 

左手に持った刀、一本によって底深い亀裂が出来た。

 

「やはは、さあさあ。お立ち会いの時間ですぁ」

 

 

 

 

 

四、

 

 

 

 

 

一歩、二歩と足を早める。

義経は自身の部隊を置いて、自らが先行して中央へと向かっていた。

 

「まさか——」

 

黛が言っていた、自身よりも強いと言わせた相手。最後に黛が語った名前が本当ならば。

 

「間に合ってくれ!」

 

根を足の裏に義経はかける。覚えてはいないが、鞍馬山をかけたかつての義経はこんな感覚なのだったのかと現実逃避さが勝手に出てくる。

木々が少しずら拓けて行く。木漏れ日が浅くなり、一際足に力を入れて飛び込んだ——。

 

 

 

「——弁慶!」

 

 

 

「まじでナイスタイミング主人(あるじ)!一匹とんでもないのが混じって——たぁぁ!」

 

車がぶつかり合ったような鈍い音が響いた。それは弁慶が持つ錫杖と、その相手が持つ刀が合わさった音。

瞬時に周りに目をやると、倒れているのはマルギッテ、クリス、一子とその部隊たち。目立った外傷はないが完全に意識を失っているらしい。

 

「義経、先走りすぎなんだよ!」

 

「与一、来たのか!」

 

「ああ、ってまじかよ……」

 

後ろから飛び出して来た与一もその状況に息を飲む。

 

「今の奥義を使えない私じゃ、悔しいけど敵わない。主人(あるじ)、陣取るよ!」

 

「わかった、与一!」

 

「また働かないといけないのか……!」

 

ぼやきつつも与一は鍔ぜりあった二人の横につく。義経は抉れた地面を超え、弁慶とかち合う青年の後ろについた。

 

「行くよ——そらぁ!」

 

錫杖に込められる力が増えた。それは今の武蔵坊弁慶として出せる最高の力。力だけならば武神すら越えるとする金剛の力は、うまく青年の鍔に錫杖をひっかける形で宙に飛ばした。

 

「——合わせろ、与一!……''八艘飛び''」

 

空を走る義経に青年が向き合った。互いにバランスは取れぬが、重力に身をまかせるだけの青年の方が少し不利か。

 

「南無八幡大菩薩——」

 

渾身の力を込めて弓を引く。片目を瞑った姿は名に聞く那須与一。

 

「——''源氏式・屋島居合の一刀''……!!」

 

「——''星堕つ天明の囁き(スターブレイカー)''!!」

 

それは両名にとって主力の奥義。

前者は鞘に収めた刀を、自身の最高の速度で打ち出す居合。

後者は気を最大限に纏わせた、弓聖の思考の一撃。

当たればマスタークラスといえど戦闘復帰できぬ威力が待っている。隙なく編み出された決戦陣形を青年は慣れた手つきでもう一本の刀を抜くことで対処する。

 

「いやはや、なかなかに速い」

 

義経が抜くより早く、青年はその柄に長刀の切っ先を刺すことでそもそも技を繰り出せぬ状態に持って行く。

与一が放った弓は少し短い刀で標的をずらした。

 

「——がっ!」

 

その標的は見事に義経のこめかみであった。

 

「バカ与一!」

 

「す、すまねぇ!」

 

予想しない角度からの一矢に義経は気を失う。青年は容赦なく首根っこを掴むと自身に迫る弁慶に向かって投げた。

 

主人(あるじ)!」

 

「二人はやらせんぞ!」

 

受け止める弁慶に近づく青年を速射で援護する与一だが、その悉くを弾いていく。

 

「これで、四人目ですぁ」

 

斬ってくる——身構えた弁慶だが杞憂に終わる。背後に着地した音、そして、

 

「——ぐっ」

 

首に響く確かな一撃。柄で殴ったのだろう。意識をおとしかけるがその頑丈さから中途半端に残ってしまう。

 

「ありゃ、もう一回」

 

「……覚え、とけよ……顔、覚……」

 

二撃目でようやく倒れた弁慶を、義経が重ならないように腹から掴んで青年は柔らかい土の上に寝かした。

 

「さ、那須与一さん。あとはあなただけですな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼の名前は——」

 

 

 

 

 

——宮本武蔵

 

 

 

 

 

「剣豪・宮本家で数十代振りに現れた''武蔵''の名を継ぐ剣術家です」

 

 

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