黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第38話

 

 

 

「いないじゃないか大和ぉ!」

 

「いや、そんなこと言われても……」

 

大和と百代、そして風間ファミリーの数人は学園を歩いていた。目的は今回の模擬戦で露わになった一年生の宮本武蔵。彼のクラスである一年Dクラスに顔を出すが休み時間には必ずといって姿はない。同じクラスの後輩にも聞くが、話したことは入学式と四月くらいで、いつのまにか気にしなくなっていたので普段なにをしているのかは知らないとのこと。百代の気による探知も捉えられず、以前似たことをしていた旭に聞いたがここまでの強者が集う川神で隠れるのは余程のこと。ましてや観察眼が優れる燕と、直感すら極振りな項羽に悟られないのは信じられないと言っていた。

 

「だって、あの義経ちゃんやマルさんも汗一つ掻かず倒した相手だぞ。絶対戦いたいじゃないか!」

 

「姉さんの性格はわかるけど。別に次戦えるから良いんじゃない?」

 

「わかってないなぁ〜弟よ。私の学年には清楚ちゃんもいるんだぞ。何だかんだ私より好戦的な項羽だ。一対一にはもってかれない」

 

現在項羽は何とか清楚によって抑えられており、莫大な気を散らつかすことないようにされている。項羽単体ならば授業時間など関係なく教室を飛び出し走って行くだろう。そうならないのもひとえに一人で覇王と戦う花好き少女のおかげなのだ。

 

「まゆまゆのところに行くかぁ」

 

「それが一番良さそう」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「——え、僕ぁ参加しませんよ」

 

予め使用申請していた空き教室には一年生の幹部ともいえるメンバーが一つの机を囲んでいた。長机に置かれているのは次の模擬戦相手である三年生の主力陣たち。特に川神百代、松永燕、葉桜清楚、最上旭他、京極に矢場、生徒会長南條の名前が見える。

 

「どういうことだ、宮本よ」

 

そう聞いたのは次戦の大将である——九鬼紋白だ。

九鬼の用事から帰って来た紋白はそれは大変喜んだ。下に見ていたわけではないが力の差はよく見ても負けている。勝負は''勝つ方法''を考えるのではなく''負けない方法''を考える方が良かったほどだ。そして来た吉報、一年生の中に武神に匹敵するほどの人物が発掘されたと。

週末に迫った模擬戦の作戦を立てるため、こうやって放課後に幹部を呼び、話を聞いた紋白だが武蔵から返って来た言葉は何とも突飛押しなものだった。

 

「紋白さんだから、というわけではなく先はたまたま小杉さんから頼まれたものですぁ。ご生憎と今回は何も言われてないので参加する予定はありません」

 

「な、な、なんと——!?我に力を貸してはくれなんだか、宮本よ!」

 

「え、ええ……」

 

小さな手のひらをピタと机に付けて紋白は固まった。

武士娘相手に大立ち回りを決めた武蔵だ。今回も参加するだろうと決めつけていたがまさかの不参加表明。口を開けて驚くのも仕方ないだろう。

そんな紋白を横目に口を開いたのは隣に居たのはその武蔵小杉であった。

 

「——参加しなさい、武蔵」

「——御意」

 

「ええっ、今のは何だ小杉よっ」

 

「大丈夫です紋様。あいつは私の言うことは聞くので上手く乗りこなしてみせましょう」

 

「はぇー、すごい家臣がいるものだな小杉」

 

と、茶番劇があったのは20分前の出来事だ。

紋白は作戦をいくつか組み立てていくが、それでもやはり力ある者の前では無に還る。籠城するにしても城ごと砕く兵士がいればなんの意味もない。やはり正面から兵をぶつかり合わすのではなく、大将を後ろから狙ったほうが勝つ可能性は高いと議論に決着が付いた。

 

「ときに宮本。もしお前を正面から大将の首級を挙げろと命じれば可能であるか?」

 

「……難しい、ですねぇ。やはり向こうも壁越え、ましてやマスタークラスの方々です。一人や二人なら立ち回れますが囲まれて気爆でもされれば僕も自信はありません」

 

難しい、と断言するがそれでも二人まで何とかなるという言葉は頼もしいものだ。

 

「黛。お前がこの中から勝てるとすれば、誰が一番良い」

 

「わ、私ですか……」

 

教室の隅で様子を見ていた黛は肩を大きく揺らした。問われた質問に答えるべく小さな歩幅で真ん中まで来ると、少し考えたあと一枚のカードを取る。

 

「松永先輩、でしょうか」

 

「ふむ」

 

「彼女は私と同じ技巧派の武術家。速さはモモ先輩に匹敵しますが、そこは私も剣術家としての自負があります。今回は若獅子タッグマッチトーナメントで見せた兵器の使用は無しと聞きます。抑え、討つ可能性をあげるならば彼女です」

 

普段の引いた様子の彼女はなく、そこにいるのは間違いなくマスタークラスの黛由紀江。一年生の中で武蔵に並ぶ二大戦力。彼女もまたいなければ勝つことはできない。

 

「そういえば、助っ人枠はどうするんですか?」

 

B組の参謀担当が聞いた。

 

「うむ、そちらのほうとも顔合わせしてもらおうと来てもらっている。三人とも入ってくるがよい」

 

紋白が廊下に声をかけると「失礼する」の一声とともに扉が開いた。誰が来るのかと全員そちらに目を向け、入って来たのはチャイナ服の三人娘であった。

 

「誰しもが全員、向こうの将を討てる力を持つ者だ」

 

右より順に、

鮮やかな空色の髪を持つ少女——''天暗星''の楊志。

猛る炎を彷彿とさせる少女——''天傷星''の武松。

何だか守ってくれそうな少女——''天雄星''の林冲。

 

「''梁山泊''から来た林冲、楊志、武松だ。一日のみの関係になるがよろしく頼む」

 

「何だか我の周りでこそこそ嗅ぎ回っていたから雇い返してきた」

 

「ええっ、大丈夫なんでしょうか紋様!」

 

「当たり前だろう。雇い返し返しされないように雇用条件もしっかり付けておるわ、戯け!」

 

「紋白からは当分の間、衣食住の保証含めた条件の下九鬼に力を貸すよう雇われた。今回の件もそれに入る。紋白が出るならば、私は守ってみせよう」

 

「梁山泊は中国の傭兵組織だ。あまり詳しくは学生であるお前らに言えんが、異能と呼ばれる力を使って戦う。これはまあ、武神が火を出したり氷を出したりブラックホールを産んだりすることに似ていると考えたらよい」

 

『なるほど』

 

「今ので納得するものなのか……」

 

「ブラックホール、欲しい」

 

「やめておけ楊志。武神は稀に見る気の多さと聞く。ブラックホールもそれがあるから出来ることなのだろう」

 

「林冲には本陣の守護を、楊志には大将を討ち取る部隊を、武松には松永燕を除いた三人の誰かを相手取ってもらいたい」

 

「武神、覇王、陽光を冠した東の将軍か——」

 

ならば、と武松は一枚取った。

 

「私は葉桜清楚を取ろう。世に聞く抜山蓋世(・)、私の力が及ぶかはわからないが時間いっぱい足止めくらいは成す」

 

「ふははっ、やはり中国の者は清楚を取るか。よかろう、お前の力を存分に見せて来るがよいわ!」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「ということは、僕の相手は武神と源義仲先輩二人ですかぁ」

 

いつものような軽い口調で二人のカードを手にした。

 

「お前が武蔵か。紋白から聞いていた、よろしく頼む」

 

「ああ、武松さんでしたか?僕ぁあなたたちのことを知らなかったんですがよろしくお願いしますねえ」

 

隣にいた武松と握手をした。

武蔵は暖かい、というよりは熱い体温を感じる。対し武松は本当に剣士なのかと疑うほどの柔らかい手に目を丸くさせるが、先の戦いもある。日本に入国する際の機内で見た動画の光景は目に新しい。

 

「その、一つ良いだろうか紋白」

 

「なんだ、林冲」

 

「武神が感知できないほどの隠形ができる男ならば、それを利用して大将首を獲れないのだろうか」

 

林冲の言葉は最もだ。

相手が武神に並ぶ強者、そしてこちらは彼女らが感知できないほどの隠形術がある。あるならばそれを利用し、大将を獲るのが先決。

 

「——無理、でしょうなぁ」

 

誰が早くよりも武蔵が言った。

 

「あの武神さん、僕の隠形を破るべく学舎全てに自分の気を流してきました。おそらく跳ね返った気で探知するエコーなようなものでしょう。途中で学園長(誰か)に止められたようですが、あのままされたら見つかってましたねえ」

 

「なるほど。つまり闇討ちを企んでも失敗する可能性が高いと」

 

「あんな芸当、できるのは武神さんだけでしょう。ですが、見つかるまでの間僕が抑える二人に暴れられたほうが被害は大きい。勝つならば、初めから出張ったほうが確率は高い」

 

武神のみが注意するべき者ではない。剣気と呼ばれる、極めし剣術家のみが出す刀身が見えない剣。それを使い熟す最上旭も一人いれば数部隊を容易く下す。

 

「では、改めて作戦を伝えるぞ——

 

松永燕は黛由紀江が抑え、もしくは討つ。

武神、川神百代と最上旭は宮本武蔵が抑えよ。

葉桜清楚は武松に任せる。

本陣は林冲、大将は楊志に頼んだぞ!」

 

およその目標を伝え、机に視線を戻す。

 

「黛は足軽20を引き連れ松永燕を捕捉次第戦闘開始。出来れば丁酉(ひのととり)にある竹藪が好ましい。足が速い松永だ、中心でかち合うであろう宮本らの背後を取られぬよう気をつけよ。

宮本は中心の河原(戊午)にて二人を誘え。最上旭はともかく、武神ならば確実に寄ってくる。最上旭のほうだが……これを使う」

 

紋白は紋付袴の胸元から和紙を取り出す。白地だが金箔がちらつくそれには達筆な字で''果たし状''と書かれている。

 

「そ、そりゃあなんですかい?」

 

「これは果たし状だ!」

 

「見ればわかりましょうが……」

 

「最上旭は大人しそうな雰囲気だが、ああ見えて義経らより好戦的だ。ファントム・サンの前例もあり、武士らしく果たし合いならば間違いなく来る」

 

「つまり僕にそれを渡せと……?」

 

「そうだ。勝つため(・)に、頼めるか」

 

教室が静まり返る。

紋白の真剣な声音が武蔵に放たれ、武蔵はゆらりと瞼を閉じて口角を上げた。

 

「——やははは。ええ、よろしいでしょう。最上旭、源義仲。相手を拘る性格じゃないですが、面白そうだ」

 

「うむ。中はお前に任せる。最高の果たし状を書いてくれ!」

 

紋白から和紙を貰うと武蔵は丁寧に、曲げぬよう鞄に仕舞う。

 

「武松は項羽を中心から少し本陣に寄ったところで迎え打て。あれはおそらく最初の武勲に拘る。で、あるならばいち早く前線に行き項羽の気を外(そ)らせ。お前ほどの実力ならば必ず食いつくてくる」

 

「わかった」

 

「一つ懸念点があるとすれば、清楚だ。あやつも項羽の主人格で、二人で一人の参謀でもある。将となる武松が出ればそのまま戦闘に入るだろうが、なにか策を考えるやもしれん。退いた場合はくれぐれも深追いしてくれるな」

 

「ある程度の罠なら焼き尽くせるが、水を使われては元も子もない。その忠告を胸に刻んでおこう」

 

「楊志、お前には一年の中でも精鋭を付ける。直接戦闘には及ばぬかも知れんが、足の速さではお前にも負けぬ者たちだ。囮に使っても構わない。大将を討つことだけを考えて行動してくれ」

 

「りょーかい。報酬はたんまりもらう」

 

「ふはは、なんでも申してみよ。無事に勝利を収めたら我が用意できるもの何でも出そう!」

 

「やった……ふひっ、脱ぎたて……」

 

涎を垂らしそうな楊志を隣にいた林冲が小声で叱責している。なにを考えているのか「えへへ」と声を漏らす姿はいくら美少女といっても引くものがある。

だいたいの方針が決まったところで、紋白は書記に今言ったことを書きとらせる。携帯でのやり取りは普段持ち歩くツールであるから、どこからか流出する可能性がある。紙媒体ならば持ち主の心にも留めることができる。ちなみに持ち主とは紋白、そして武蔵小杉だけだ。

 

「週末が決戦だ。皆の者、それまで頼んだぞっ!」

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

「じゃあ、結局モモちゃんはあの一年生に会えなかったんだね」

 

「らしいわ。私も探してみたのだけれど、どこにもいなかったわ」

 

「旭ちゃんも見つけられないなんてすごいなぁ」

 

「清楚はともかく、項羽はどうなの?今にも暴れ出したり……」

 

「最近はだいぶ落ち着いたかな。明後日に模擬戦があるから、そのときまでになにかやらかしたら出れなくなるかもって言ったら『我慢する』って言ってね」

 

「手綱を握るのが上手いのね」

 

「もう、やめてよ旭ちゃん。項羽も私なんだから、その言い方はなんか変だよ」

 

「あらあら」

 

三年Sクラスの教室で最上旭と葉桜清楚は話していた。現在は六限目、教室に担当教師はおらず生徒たちはみな話すか真面目に勉強をしている。明後日に行う模擬戦の準備により木曜日の六限目は数人の教師が不在、そのため一年生と三年生はすべて自習となっている。

テスト期間前ならば勉強もしたが、模擬戦の手前二人は次戦のことについて話していた。

 

「宮本武蔵。かの剣豪、宮本家の麒麟——」

 

「麒麟……?麒麟児とはまた違うの?」

 

「児(・)じゃないのよ、きっと。すでに成熟しきった神獣。完成された技を持っている」

 

「その、私はいまいちわからないんだけど……旭ちゃんはどれくらいの強さだとみてるの?」

 

「強さ、ねえ。奥義を解放しなかったといえ、義経や弁慶を無傷で倒した。それどころか実際の戦場に出ていた猟犬(・)を剣圧一つで倒すその技術。並大抵じゃないわ」

 

「やっぱり。相当強いんだよね」

 

「ええ。清楚も次の模擬戦は頼むわね。あの一年生を抑えるにはあなたの力も必要だわ」

 

「項羽も猛ってる。『たまに見る武人だ』って興奮してるみたい」

 

「ふふ、じゃあ——」

 

 

 

「——源義仲先輩、ですかい?」

 

 

 

「……ツ」

 

「あ、君は……」

 

いきなり現れた気配。教室が彼に注目する。各々が別のことをしていたといえ全く気付かなかった。背後に立たれた旭は思わず下げた刀に手を掛けてしまう。

 

「遅いですぁ。僕が闇討ちしたら容易く討てそうだ」

 

「あら、そんなつもりはないんでしょう?」

 

「ええ。勝ち負けは、週末の模擬戦に」

 

「——宮本武蔵くん。今、川神学園で一番人気なあなたが、私に一体何の用かしら」

 

「やはは、ただの戦線布告です。といっても、今の様子を見るにあてが外れた(・)ですかねぇ」

 

にやにやと意地汚い笑顔の武蔵に、旭は絵に描いたような表情で返した。

 

「これは……」

 

「''果たし状''ですぁ。聞いてみれば、剣はあの源義経先輩より上との……ならば僕が気に入らんことないでしょう」

 

「熱烈な歓迎だわ。まるでデートのお誘いのよう……場所は——模擬戦の真っ最中、なんてずいぶんと激しいことをするつもりなのね」

 

「来るも、逃げるも(・)あなた次第です。僕に勝てないと(・)受けていれば来なくて結構。そのときは——」

 

「武人の私が死ぬだけね」

「武人のあなたが死ぬだけですぁ」

 

「旭ちゃん……」

 

「果たし状、受け取ったわ」

 

「良かったです。この場で破られたら僕も立つ瀬ないですからねぇ」

 

「そうすればあなたは模擬戦に参加しなかったのかしら?」

 

「まさか。小杉さんに頼まれれば断れませんからねえ。あなたは僕にとって一兵士(・)として切られてただけですぁ」

 

「言うじゃない。良いわ、行ってあげる。そのかわり、条件があるわ」

 

「ほぅ——」

 

旭は自身より大きい武蔵に、上目遣いながらに言い放つ。

 

「私が勝てばあなたは私のものになりなさい。剣豪武蔵、それが私のものになれば……ふふっ」

 

「やれやれ。あなたもまた面倒くさそうなお人だ」

 

「これだけ魅惑的なラブレター。答えないのが悪趣味というもの——」

 

『''果たし状''

 

貴殿との決闘を望む。模擬戦時、河原にて待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

負けた場合、貴殿はブルマになって私のあれやこれやを叶えてもらう』

 

 

 

 

 

第三巻『彼は動く』

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