黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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『ドラゴンメイドのご主人様の退廃的なアカデミア生活』(原作:『遊戯王』)
第42話


 

 デュエルモンスターズ。

 

 それはインダストリアル・イリュージョン社(通称I2)社長ペガサス・J・クロフォードが古代エジプトの石板から発想を得て、世に浸透させたカードゲームである。

 初めは子供向けのゲームに過ぎなかったが、その面白さから大人たちもプレイするようになり、今やかつて一世を風靡していたサッカーや野球よりも有名な競技となった。

 デュエルモンスターズが持つ力は強力で、国家間のやり取りですらデュエルで決定し、各国は挙って優秀なデュエリストを求めている。

 そのため、いち早く優秀なデュエリストを育成するために行動したのが海馬コーポレーション(通称KC社)だった。

 KC社は莫大な資金と各国政府中枢の要人とも繋がれる縁を辿って、広大な敷地を購入。その場所に『デュエリスト育成専門のアカデミア』を建設した。小・中学校と義務教育の期間ですら入学出来るように調整をして、成績が優秀な者は進学試験を経て高等部アカデミアの特権階級——オベリスクブルーへと進学することが出来る。

 余談だが、高等部には外部生も入学可能で、毎年秀でた才を持つ者たちが発掘されている。

 高等部を卒業出来たものは、特に優秀な者のさらに上澄みはプロデュエリストへ、多くはデュエルに関する上場企業への就職が確約されている。とはいえ、アカデミア自体は両親のどちらかが裕福な者も多く、現在は『アカデミア卒業生』という一種のステイタス的付加価値を狙って入学させる親も少なくない。

 

「——自分のターン、ドロー」

 

 さて、小難しいことを考えていたが今はデュエルの時間だ。

 

「緊張しているかもしれないが、今回のデュエルは高等部への進学試験だ。勝敗に関わらず、内容によって評価するのでそれを忘れないように」

 

「了解です」

 

 短く返事をする。

 一体どういう内容が評価されるのか分からないが、取り敢えず勝てば問題ないだろう。

 試験前の説明では、自分の前に立つこの教官はいわゆる外部協力者であり、関東地区プロデュエリストBリーグのランカーであるという。前いた世界(・)で言う、サッカーの地方チームと言ったところか。それでも一般デュエリストとは隔絶した実力を持ち、少し前のマッチ戦ではAリーグのデュエリストに勝利した注目株らしい。そんな人物が何故ここにいるのかとも思うが、そこはこの人も卒業生ということで協力してくれたようだ。性別は恐らく女性だろう。コートの下にはスカートを履いており、鼻筋の通った中性的な顔だが間違いなく女性の気配がする。

 

『——ご主人様。どうして私たちを使ってくださらないのですか?』

 

 手札を確認しようとして、背後からそう投げ掛けられる。

 恐らく、この声の主は会場の誰にも姿を捉えられていないだろう。仮に自分以外に見え、聞き、認識されると騒動になっているに違いない。

 

『そうっすよー。あんなデュエリスト、ウチらがちょいちょいっと一捻りなんすから!』

 

『ちょっとご主人様! 私たちを使わないで負けるなんてダメなんだからねっ』

 

『……っ、……っ』

 

『あぁ、ラドリーちゃん。これ以上近付くとご主人様のお邪魔になるからここで応援しましょうねー』

 

『ティルルも素直じゃないですわね。正直に使って欲しいと言えば良いものの』

 

 大袈裟らしくドローカードを引き、そのついでに背後に目を遣る。

 そこにはメイド服を纏った、年齢層もバラバラの六人の女たちがいた。

 一人一人が見目麗しく、例えば女性の良い所を挙げれば全て当て嵌まってしまうような集団だ。だが、彼女たちが見える者がいるならば、その顔貌よりも——角や尻尾、時折一部に見える鱗など、異形的な部位に目を見張るであろう。

 

「……連れて来なきゃ良かったな」

 

 教官に聞こえないように呟き、六枚の手札に視線を戻す。

 どうせいつものことだ。

 一々付き合うような関係は当に過ぎているので、無視で良い。

 

「では、行きます」

 

「ああ。来なさい」

 

『頑張ってくださいませ、ご主人様』

 

 記念すべき進学試験の一枚目のカードをデュエルディスクに置く。

 

「自分は手札から——《グリモの魔導書》を発動」

 

「《グリモの魔導書》? 聞いたことの無いカードだ……」

 

「《グリモの魔導書》の効果により、デッキから魔導書と名の付くカードをサーチ。自分は《セフェルの魔導書》を選び、そのまま発動。手札の魔導書を見せることで墓地の魔導書と同じ効果を得る」

 

「つまり、今使った《グリモの魔導書》ということかい?」

 

「ええ」

 

 《ネクロの魔導書》を見せると、今度はモンスターカードである《バテルの魔導書士》を手札に持ってくる。

 そして、そのまま通常召喚。

 

「《バテルの魔導書士》が召喚に成功したとき、《魔導書》と名の付く魔法カードをサーチ。自分はフィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を選び、発動」

 

 数多あるフィールド魔法だが、ソリッドヴィジョンはその一つ一つを再現してくれる。

 プロデュエリストが見たことがない魔導書のカードも同じで、自分の背後にはどこか未来的さえ感じさせる巨大な建物が現れる。

 

「カードを一枚セット。ターンエンド」

 

「ふむ……連続サーチ効果によるデッキ圧縮と、フィールド魔法の展開。上級モンスターが出ていれば完璧な布陣だったが……僕のターン、ドロー。

 僕は手札から《トレード・イン》を発動する。《鉄鋼装甲虫》を墓地に送り、二枚ドロー! さらに《強欲な壺》を発動!」

 

 いきなりとんでもない手札補充だ。それに《鉄鋼装甲虫》……また妙なカードの入ったデッキだ。

 

「——《高等儀式術》を発動! デッキから《ネオバグ》二枚を墓地に……《終焉の王デミス》を儀式召喚!」

 

 デミス……LP2000を払えば場を一掃出来るカードだ。

 LP4000の時代は使用に難しいカードだったのだが、近年LPが8000に変更されてからは強力なカードとして改めて評価されていたはず。

 コイツ一枚くらいならば対処はいくらでも出来るが、デミスと墓地に送った昆虫族が合わさると面倒臭いことが起きるので退場してもらおう。

 

「デミスの儀式召喚時、罠カード発動。《黒魔族復活の棺》。召喚されたモンスターと自分の場のバテルをリリースして、デッキから闇属性・魔法使い族を呼ぶ——来い、《混沌の黒魔術師》」

 

「なっ、《混沌の黒魔術師》だと!?」

 

 デミスとバテルの背後に棺の蓋と器が現れ、閉じられていく。黒い闇のような靄が漏れてくるとそこにはどこか部族めいた軽鎧を纏う上級モンスターがいた。

 

「……プロになって何枚もの上級モンスターは見て来たが初めて見たな」

 

 そう。この世界では上級モンスターなだけで数十万円、数百万円を超え、入手がし辛い。そのため、多くのデュエリストたちはパックで高火力のモンスターを手に入れるか、装備カードで対応していくしかないのだ。

 そのため、召喚制限も無く、魔法カードを墓地から釣り上げられるこのカードは相当高い。その上枚数も無いのでプロリーグといえど使用者は一握りだろう。

 

「とはいえ、負けはしないけどね——手札の《デビルドーザー》の効果により、墓地の《ネオバグ》二枚を除外。特殊召喚!」

 

 やはり、デビルドーザーを持っていたか。

 

「モンスターを一枚、伏せカードを三枚セットしてターンエンド」

 

 攻撃はして来なかったか。

 自分の使っているデッキの動きを見ているのだろう。

 デビルドーザーで混沌の黒魔術師を倒したところで、相手は壁が下級モンスターのみになってしまう。こちら側にデビルドーザーを倒す為の選択を与えるように見せて、その実デビルドーザーは処理しなければならないという状況に追い込まれている。それに、三枚の伏せカードも警戒しなければならないのでプレミも誘発されるのだろう。

 

「エンドフェイズ時に《混沌の黒魔術師》の効果が発動される」

 

「一度使用した《死者蘇生》すら回収出来る効果か……」

 

 自分が回収するのはグリモの魔導書である。

 

「ドロー」

 

 悪くないカードが来た。

 

「《魔導書院ラメイソン》の効果を発動。墓地の《セフェルの魔導書》をデッキの一番下に戻し、ドロー」

 

「チェーンして罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地の《鉄鋼装甲虫》を特殊召喚!」

 

 と、攻撃力2800のモンスターが並んだ。厄介だが、手札は六枚の現状だと問題は無い。

 

「《マジシャンズ・ソウル》の効果を手札から発動。デッキから《魔導法士ジュノン》を墓地に送り、特殊召喚」

 

 この世界で一番有名な魔法使いのような姿をした青い人形が現れる。しかし、彼の出番はここまでである。

 

「速攻魔法《ディメンション・マジック》。《マジシャンズ・ソウル》をリリースし、《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》を特殊召喚」

 

「攻撃力2900!」

 

「《ディメンション・マジック》の効果により《鉄鋼装甲虫》を破壊。さらに《ネクロの魔導書》を手札の《グリモの魔導書》を見せて発動。墓地の《魔導書士バテル》を除外して、《魔導法士ジュノン》を特殊召喚」

 

 これで場には攻撃力2800、2900、2500が三体だ。

 ここまで見るに相手の伏せカードは召喚時に発動するようなものじゃないらしい。ならば、一番最悪なバトルフェイズに発動するカードだと思っておくべきか。

 

「《グリモの魔導書》を発動。サーチするのは《ルドラの魔導書》。そのまま《ルドラの魔導書》発動して、《ネクロの魔導書》を墓地に送る。二枚ドロー」

 

「《ネクロの魔導書》が場から離れたら、《魔導法士ジュノン》は破壊されないのかい?」

 

「破壊されません」

 

「《リビングデッドの呼び声》と違うのは魔法使い族専用ということと、墓地の除外も必要な点か……」

 

「二枚目の《魔導書士バテル》を通常召喚。効果により《ヒュグロの魔導書》を持って来ます。そして、《魔導書士バテル》をリリース——《沈黙の魔術師—サイレント・マジシャン》を特殊召喚」

 

 バテル君二度目のリリースである。

 光り輝く白帯から現れるのは少女期は超え、女性としては妙齢であるもその静謐性から永年を生きる魔女が如く雰囲気を持つ沈黙の魔術師だ。

 本来、召喚してからは指示をするまでは動かないソリッドヴィジョンがこちらを向く。

 彼女は小さく会釈をすると、刃先の付いた魔法杖を構えた。

 

「……君は本当に驚かせてくれるね。《混沌の黒魔術師》だけじゃなく、《サイレント・マジシャン》も見られるとは。レベルアップモンスターでは無いようだが……」

 

「《ヒュグロの魔導書》を発動。対象は《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》」

 

【《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》ATK:2900→ATK:3900】

 

「《青眼の白龍》を超えるか……!」

 

「《魔導法士ジュノン》の効果を発動。墓地の《グリモの魔導書》を除外して、左の伏せカードを破壊」

 

 《魔導法士ジュノン》の手に《グリモの魔導書》が現れると、彼女の指先には魔法陣のようなものが浮かび上がる。それを伏せカードに射出すると、ガラスの割れるような音と共に消えて行った。

 

「くっ、《正統なる血統》が」

 

 蘇生カードか。

 《高等儀式術》との合わせ技なら、《リビングデッドの呼び声》など墓地蘇生もたくさん入れているのだろう。

 

「バトルフェイズ。《混沌の黒魔術師》で伏せモンスターを攻撃」

 

「破壊されるのは《ゴキポール》だ。《ゴキポール》は墓地へ送られたとき、デッキからレベル4昆虫モンスターを手札に加えて——」

 

「《混沌の黒魔術師》の効果発動。相手モンスターを破壊したとき、墓地へは送らず除外する」

 

「……そう言えばそんな効果があったね。第一の効果に目を奪われがちだが、相手の蘇生や《ゴキポール》のような墓地で効果を発揮するモンスターには特効になる」

 

「その代わり《混沌の黒魔術師》もフィールドから離れると除外されるんですが」

 

「それでも有り余る性能のカードだよ」

 

「バトル続行——《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》で《デビルドーザー》に攻撃」

 

「速攻魔法《収縮》! そのモンスターの元々の攻撃力を半分にする!」

 

 《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》の元々の攻撃力は2900。半分になると1450になり、《ヒュグロの魔導書》を合わせても2450だ。攻撃力2800の《デビルドーザー》は倒せないが……。

 

「《沈黙の魔術師—サイレント・マジシャン》の効果発動。相手が魔法を発動したとき、無効にする。『沈黙のディスペイド』」

 

 サイレント・マジシャンが杖を振るうと、《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》の力を吸おうとしていた《収縮》が停止する。そのまま自分自身を吸うように消えていく。

 

「バトル続行。《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》で攻撃」

 

「っ——」

 

【教官のLP:8000→6900】

 

「《ヒュグロの魔導書》の効果により、デッキから《アルマの魔導書》を加える。《魔導法士ジュノン》、そして効果により攻撃力2000に上がった《沈黙の魔術師—サイレント・マジシャン》でダイレクトアタック」

 

【教官のLP:6900→4500→2500】

 

「メインフェイズ2に移り、《アルマの魔導書》を発動。除外されている《グリモの魔導書》を回収してターンエンド」

 

 こちらの場には上級モンスターが二体とサイレント・マジシャンがいる。教官の場にカードは無く、手札は一枚。ドロー次第では巻き返されるだろうが、LPが削られるほどではないはず。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 さぁ、一体何が飛び出して来るか。

 

「僕は二枚目の《ゴキポール》を攻撃表示で召喚!」

 

 先ほど《混沌の黒魔術師》によって不発したカードだ。

 

「バトルフェイズ! 《沈黙の魔術師—サイレント・マジシャン》へ攻撃!」

 

 一見すると自棄になったのか——そう思う者もいるだろう。

 自分は中等部のオベリスクブルーに所属しているのだが、同級生の多くはそう思うはず。エリートを名乗っている割には金に合わせたパワーカードを振り翳してる奴らも多いからな……。

 

【教官のLP:2500→1500】

 

「《ゴキポール》の効果発動。このカードが墓地に送られたとき、レベル4昆虫族モンスターをデッキから手札に加える。僕が加えるのは《G戦隊 シャインブラック》! このモンスターは通常モンスターのため、特殊召喚!」

 

 擬人化したゴキブリ……の、はずなのだが格好良い。

 黒いスーツに纏ったそのモンスターの攻撃力は2000。

 

「バトル! 《G戦隊 シャインブラック》でサイレント・マジシャンに攻撃!」

 

 《G戦隊 シャインブラック》のライダーキックとサイレント・マジシャンの杖がぶつかり合う。

 魔法使いのサイレント・マジシャンが戦隊員と戦っているのは面白いが、残念ながら攻撃力は同じなため両モンスターは相打ちになる。

 《沈黙の魔術師—サイレント・マジシャン》には破壊されたとき、召喚条件を無視してサイレント・マジシャンモンスターを召喚出来る効果があるのだが、残念ながらこのデッキには彼女以外のサイレント・マジシャンは入れていない。

 

「メインフェイズ2へ移行。サイレント・マジシャンがいたおかげで回りくどくなってしまったがようやく魔法を使えるよ。《天使の施し》を発動! 三枚ドローして、二枚を捨てる」

 

 おっと、ここで強過ぎるカードの登場だ。

 

「手札から永続魔法《G・ボール・シュート》を発動! このターンのみ、墓地のレベル6以下モンスターを特殊召喚! 僕が召喚するのは《分裂するマザースパイダー》だ!」

 

 中々迫力ある姿をしたモンスターだ。

 

「そして、効果発動! このカードをリリースすることでデッキ・手札から《ベビー・スパイダー》を三体まで特殊召喚することが出来る」

 

 《分裂するマザースパイダー》の腹部が膨れ上がるとそこから三体の《ベビー・スパイダー》が守備表示で現れた。

 どうやら、このターンで巻き返すことは諦めて今は場を固めることに決めたようだ。

 

「先ほど《天使の施し》で墓地に送った《超進化の繭》を除外。《デビルドーザー》をデッキに戻して一枚ドロー……僕は引いた《寄生虫パラノイド》を効果により君の《魔導法士ジュノン》に装備! 昆虫族に対する攻撃、効果を無効化する。ターンエンド」

 

 昆虫族のデッキはアカデミアでも見たことがないため、ここまでしっかり展開出来るとは思っていなかった。

 《デビルドーザー》のような召喚条件の軽い上級モンスターだけではなく、防御面にもバランスが取れているらしい。まぁ、これも使用者が上手いからなのだろうが。

 

「自分のターン、ドロー」

 

『さぁ、あなたたち。帰宅の準備をしなさい。ご主人様のデュエルが終わりますよ』

 

『はーい、ハスキー様』

 

『チェイム、ティルル。あなたたちは前に車を回して来なさい』

 

『了解』

 

『分かったわ』

 

 と、後ろの喧しメイドたちも帰宅の準備に入っている。

 彼女たちの言う通り、このターンで終わらせてもらおう。

 

「《魔導書院ラメイソン》の効果発動。《ヒュグロの魔導書》をデッキの一番下に戻して一枚ドロー。そして、《グリモの魔導書》を発動。《ヒュグロの魔導書》を再びサーチ。そして、《魔導召喚士テンペル》を通常召喚」

 

「新しい魔導書モンスターか!」

 

「効果発動。このカードをリリースすることで闇属性・レベル5以上のモンスターを特殊召喚。来い、《ウィッチクラフト・ハイネ》」

 

「上級モンスター……」

 

「《ウィッチクラフト・ハイネ》の効果により、手札の魔法カードを一枚捨てて相手のカードを破壊する。《寄生虫パラノイド》を破壊」

 

「しまったっ。パラノイドには装備状態のこのカードが墓地に送られたとき、手札の昆虫族を特殊召喚する効果があるが僕の手札には無い……」

 

「《魔導法士ジュノン》の効果発動、墓地の《グリモの魔導書》を除外して《ベビー・スパイダー》を一体破壊」

 

 これで自分の場には《混沌の黒魔術師》、《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》、《魔導法士ジュノン》、《ウィッチクラフト・ハイネ》の四体。相手は守備表示の《ベビー・スパイダー》が二体に伏せカードは無しである。墓地誘発も確認していない。

 つまり、

 

「《混沌の黒魔術師》と《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》でモンスターを攻撃。《魔導法士ジュノン》と《ウィッチクラフト・ハイネ》でダイレクトアタック」

 

「——っっっ!」

 

【教官のLP:1500→-3400】

 

 問題無く勝てたか。アカデミアの教師ならばもっと簡単に勝てただろう。流石に現役プロデュエリストはデッキ構築からカードの使い方までが上手かった。

 ソリッドヴィジョンが薄くなっていき、元のデュエルルームへと変わる。

 デュエルディスクからデッキを取り出して、ディスクもオフにして縮小させると教官が近づいて来た。

 

「負けたよ。まさかまだ中等部のアカデミア生に負けるとはね」

 

「いえ、こちらもギリギリでした。《超進化の繭》が墓地ではない方で使用されていたら、手札に《樹冠の甲帝ベアグラム》が居たらと」

 

「はははっ。たしかにそうかもしれないね。ただ《超進化の繭》がちゃんと使えなかったのは僕の実力不足だし、《樹冠の甲帝ベアグラム》はまだ手に入ってないんだ。昆虫族使いなら一度は夢に見るカードだから探してはいるんだけど」

 

 比較的召喚し易く昆虫族最強のカードはやはり希少価値が高いらしい。

 

「僕の名前は八雲翼。試験前にも説明があったけど、関東地区のBリーグでプロデュエリストをやっている」

 

「一月竜胤(いつつき・りゅういん)です。一月(いちがつ)と書いていつつき(・)と読みます」

 

「……もしかしてだけど、一月プロの親戚かい?」

 

「親戚というか母ですね」

 

「そうなのかい!? 通りでプレイングが年不相応思ったよ。幼い頃からプロデュエリストが近くにいればプレイングも変わるからね!」

 

 八雲プロが言うように自分の母親は元プロデュエリストだ。どれくらい強いかというと、アジア大会を優勝して大州チャンピオンだった時期がある。

 あの海馬瀬人とも戦ったことがあり、負けてしまったが終わったときには互いにLP1000以下だったようだ。

 やはり女性デュエリストということもあって今でも人気は高く、目の前の八雲プロのように現在の若手女性プロデュエリストは必ず一度は憧れを抱く存在であるらしい——ちなみに、全部本人談。

 

「良ければ連絡先を交換しないかい? リベンジはもちろん、プレイングについても君と話し合えたら面白そうだ」

 

 特に問題は無いので了承。スマホ……もといPDAを取り出して連絡先を交換した。

 

「試験の結果は追々発表されるはずだよ。君はオベリスクブルーだから、筆記の方も酷過ぎることはないんだろう? 実技の方は文句無しだから、高等部もオベリスクブルーだね」

 

 自分としてはラーイエローの方が気楽だ。オシリスレッドは複数人の寮生活なので論外。ラーイエローもオベリスクブルーに比べると寮のランクは落ちるが十分だ。

 オベリスクブルーの場合、金持ちが多いせいかグループ企業同士で集まって友人関係になっている。自分の母親はプロ引退後I2社ゲームバランス部門副統括、父親も同じI2社所属のカードデザイン担当だ。決して見劣りするわけでも無いのだが、だからと言って群れたいかと問われれば全くそう思わない。

 

「でも、事前に強いアカデミア生の話は聞かされてたんだけど竜胤君のことは知らなかったな」

 

「小等部からアカデミアではそんなにデュエルをしてないので」

 

「そうなのかい?」

 

 自分が最後の試験生だったのだろう。デュエルスペースを出て、八雲プロとKC社の建てたドームを出入り口に向かって歩いている。

 

「小等部も入学当初は積極的にデュエルをしてましたが、中等部は試験期間中くらいですね。必要なDP(デュエルポイント)が無いと単位が貰えないので」

 

「あったなぁ、そんなこと。なるほど、たしかに一月プロが練習相手だとアカデミア生は物足りなく感じるだろうね」

 

 別に母親だけが原因ではないのだが、それも少しある。

 母親の愛用デッキは『植物姫』と言われるものだ。

 《ギガプラント》や《ローンファイア・ブロッサム》で植物族の上級モンスターを呼び、攻撃は《棘の壁(ソーンウォール)》で受けて場を更地にして来る。かく言う自分も魔導書デッキでは普通に負け越している。偶然パックから出た《混沌の黒魔術師》や拾ったウィッチクラフトがあるからこそ、最近の勝率だけ言えば同等か少し下といったところか。そんなこともあって《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》は母親から頂いたものである。

 

『あの女完全にご主人様のこと狙ってるっすよ。デュエルで負けたから雌顔晒してやがります』

 

『パルラ。下品なことは言わないように。八雲翼様はご主人様のお母様が憧れのデュエリストだから気になっているのでしょう』

 

『いや、でもハスキー様。あの距離感が続けばいつか絶対ご主人様に抱かれるっすよ。ウチ分かるっすから』

 

『……っ、っ』

 

『あ、ラドリーちゃん。そっちに用は無いのでこっちに来ましょうねぇ』

 

 と、背後で好き勝手言っている者たちがいるが、これもいつも通りだ。

 出入り口に辿り着くと一台の車が停まっている。中型のリムジンだ。

 運転席と後部座席の扉のすぐ側には異形的な部位を隠したメイドたちが立っており、自分を見るなり慇懃に頭を下げた。

 

「もしかして迎えかい?」

 

「はい」

 

「じゃあ、僕のお見送りはここまでだね。また連絡するから、君も何かあったら連絡してくれ……あと、一月プロによろしくと」

 

 少し照れながら最後にそう付け足すと、八雲プロはドーム内へと戻って行った。この後も総括みたいなのがあるのだろう。

 

「ほら、早く乗りなさいよ」

 

 扉の開けられた車に乗り込むと、そのまま真ん中に座り込む。直ぐに軽食代わりのクッキーと飲み物が準備され、一息吐く頃には他の四人も実体化して自分のことを見ていた。

 

「本日のデュエルはお楽しみいただかれました?」

 

「面白かったな。昆虫族デッキは初めて当たったが、しっかりとした構築だった」

 

「ねぇ、何で私たちのことを使わなかったのよ?」

 

「何度も言ってるだろう。お前たちのデッキは今の時代には強過ぎて面白くないんだ。気が向いたとき以外にしか使ってやらない」

 

「何よ、それ。もうっ」

 

 不機嫌に口を膨らませているが、強いと言われて嬉しいのだろう。狭い車内で尻尾が振られている。

 

「……っ」

 

 いつの間にか一番小さいメイドが膝の上に乗っている。頭を撫でてやれば気持ち良さそうに目を細めた。

 

「ナサリー。先に帰って地下室からカードを出しておいてくれないか? そろそろ三つ目のデッキが欲しい」

 

「分かりました。ご主人様もラドリーちゃんも怪我に注意しながら帰って来てくださいね」

 

「頼んだ」

 

 彼女は霧が晴れるように姿を消した。

 

「三つ目って。もういっそ私たちと魔導書も合わせちゃえば良いのに」

 

「じゃあティルルは真っ先に抜かれるっすねー」

 

「抜かれるわけないでしょ! アンタの方が……」

 

 まぁ、汎用性の高さで言えば勝負出来ないだろう。

 

「ぐるるるる」

 

「ご主人様。主軸となるカードは決まっているのですか?」

 

「いや。特には決まっていない。まぁドラゴン・魔法と来て偶然ファンタジー要素が並んでるから剣とかをモチーフにしようかと思っているが……」

 

「……そうですか」

 

「悪いな、ハスキー。もう少しお前たちを使い熟せれば良いんだが」

 

「いえ、そのようなことは。むしろ、私たちを使い熟せるからこそ、ご主人様はデュエルに退屈を抱かれるのです。鯉は龍の真似事を出来るかもしれませんが、龍に鯉の真似事は出来ないもの。我々にも原因があります」

 

 それはひとえに——自分たちは強過ぎる、という自信の現れだ。

 謹厳なメイド足らんとする彼女も本来の姿はこうではない。かの三幻神と同レベルの超級モンスターなのだから、そもそもが立っている位階が違う。自然と見下げるような口調が漏れても仕方ないのだろう。

 彼女と目が合うと身を寄せて来る。

 別にそんな気は無かったのだが。

 

「我ら——ドラゴンメイド一同。ご主人様たる一月竜胤様に奉仕することこそが喜びなのです。しかしこそ、精霊も宿らぬ紙束に嫉妬することをお許し下さい。他を握るならば我らを握って欲しい、ただそれだけなのです」

 

 うーん。相変わらずドラゴンメイド(彼女たち)は重い。まぁ、こうして仕えてくれているので有難いのだが。

 この世界へ転生してから十五年は経つ。

 記憶を思い出したのは五歳になってからなので、十年だろうか。

 前の世界とは全く違う法律やルールに支配されてはいるが、案外生きていけるものである。

 

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