黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第43話

 

 午前七時——早起きの鳥たちは囀り、陽射しが起床を知らせてくる。

 誰かに起こされるよりも自然と起きるのが好きな自分は今日も暖かい陽射しによって起きることが出来た。

 

「おはようございます。ご主人様」

 

「ああ、おはようハスキー」

 

「うーん……」

 

 と、一名。真っ赤な髪を持つティルルは自分の隣で眠っている。いつものメイド服は着ておらず、シーツの下は真っ裸である。それは自分も同じなのだが。

 

「お召されますか?」

 

「いや、その前に——」

 

 転生前も含めると精神年齢はすっかりエロ親父だ。それに思春期の肉体が合わさるととんでもないことになるのは自分で確認済み。

 自分の言いたいことに気が付いたハスキーが膝を付くのを見ると、いつも通りの朝を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 朝食を食べ、昨日ナサリーに用意して貰ったカードプールと睨めっこすること暫く。半日休を得た母親が訪ねて来たのでリビングルームで話していた。

 

「ほーぅ、強い強いと思ってたが現役プロデュエリストにも勝ったか! 八雲翼と言やぁ、Bリーグトーナメントの優勝者で、その後のエキシビションでAリーグトップランカーに勝った猛者デュエリストだねぇ」

 

 明朗快活さを隠さず、「面白い」と笑う目の前の人物こそが自分の今世の母親である。

 旧姓を十六夜春。結婚してから一月春となり、今はI2社ゲームバランス部門副統括を担っている。

 

「んじゃ、快挙を祝していっちょ息子を揉んでやるかね。ハスキーちゃん、私のディスクはいつもの場所にあるんだろう?」

 

「いつでも使えるように管理しております。お持ち致しますか?」

 

「頼めるかい?」

 

 いつの間にかデュエルをする流れになっているが——。

 

「いや、今日は出来ない。新しいデッキを作っている最中なんだ」

 

「何だとぅ? ハスキーちゃんらもいて、アンタがどっかから拾って来た魔導書もあるのにまたデッキを作る気かい? あんまり使い回してると肝心な時に肝心なカードが引けなくなるよ」

 

「別に良いだろう?」

 

 ドラゴンメイドは言わずもがな魔導書も完成が近い。後一つ、高火力で戦えるようなタイプのデッキが欲しいのだ。

 

「まぁ、そういうことなら諦めるさね。ハスキーちゃんも大変だねえ、こんな息子をご主人様と慕って。私もカードの精霊(・)なんてものを知るまでは色んなデッキを使い回してたけど、意思があると知ってからはそんなことは出来なくなったし」

 

 そう、自分の母親はハスキーたちがドラゴンメイドというカードであること、そして精霊であることを知っている。元々父親がカードデザインをしていることからそういったオカルト的要素があるのじゃないかと感じていたようで、母親もあるときからカードの精霊が見えるようになったらしい。それから一つのデッキを極めるようになり、やがて大州チャンピオンまで勝ち上がったとのこと。

 ちなみに、母親の植物姫デッキに宿る精霊は《ギガプラント》である。

 そっちなのか、とはもちろん思った。

 悪くはないけど。

 

「いえ、ご主人様はデュエル以外の面でも私たちを使って下さりますので、ご奉仕のやり甲斐のある素晴らしいご主人様です」

 

「かぁ〜、何をしてるのかは聞かんがとんだエロ坊主に育ったねぇ」

 

 それはもはや言っているだろう。何のことか知らないが。

 やれやれ、と首を振る母親を見ているとハスキーが耳打ちをして来る。

 

「ご主人様。高等部に進まれてからのことを伝えた方がよろしいかと」

 

「そうだな……母。高等部からだが、知っての通り自分は離島へと行く。ハスキーたちも付いて来るため家の管理は出来ないが大丈夫なのか?」

 

「ん、ああ。そのことは私も考えていたからね。ハスキーちゃんたちがいれば頼りになるが、元は自分の家。アンタの進学に合わせて暫くこっちの支社で勤めるよう、ペガサス会長からもアイツ共々辞令を貰ったからね。卒業後、どこかに旅立とうが大丈夫さね」

 

 アイツとは父親のことだ。別に仲が悪くて名前を呼ばないなどではなく、むしろ逆で夫婦であり幼馴染の関係であるからこそ気慣れた呼び方なのだ。

 

「分かった。家にあるカードは持って行っても大丈夫か?」

 

「構わないよ。ただ、枚数が多いから使う頻度の少ないカードは汎用だけにした方が良いね。必要なカードは連絡してくれれば私たちが送るし、アカデミアでも購入したり購買部で取り寄せが出来る。小遣いは残ってるんだろう?」

 

 幸いにして自分のデッキの殆どはパックから出たものと拾ったものだ。

 パックはともかく、拾ったとはどういうことなのだと思うかも知れないが、本当に道端にあったカードを拾っただけである。ドラゴンメイドはハスキーのカードがいつの間にか机の上にあったし、その後I2社が入れていないにも関わらずパックから出て来た。両親を通じてペガサス会長にも伝えているようだが、ディスクが反応しているなら問題無いとのこと。

 そして、実は魔導書はもっと奇怪で父親がカードデザインのためのインスピレーションを受けるため、家族旅行でイスラエルの遺跡巡りをしていたときの行く先々で拾い集めたデッキでもある。そのとき、真鍮と鉄で出来た妙な指輪も拾った。やけにしっくり来るため今も右手の中指に装着しているが、ヤンキーではない。

 まぁ、話も逸れたがともかく自分のデッキはわざわざ高額カードを買って作ったものではないのだ。

 

「入学祝いでまた追加で入れておくから、必要な時に使うと良い……あぁ、向こうでは特にDPが顕著なのか」

 

 小遣いは前世の両親が見れば目が飛び出るくらいの額は貰っている。これはカード単体に掛かる金額が違うので仕方ないだろう。ちなみに、DP自体もアカデミア生以外の(主に母親)とデュエルをしているので溜まっている。

 DPは第二の通貨とはよく言ったもので、電子マネーを想像すると分かりやすいだろう。

 審判の居ないデュエルなら八百長も横行しそうだが、そこはKC社が作るデュエルディスク。名前は忘れたがとんでもないデュエルAIで全てのデュエルを監視しているらしい。中にはディスクをオフラインにして改造を施す者もいるので、一概に全ての不正が徹底的に洗われているわけでもないため偽札と同じような手順で随時技術競争が行われている。

 

「昔っから良い子ちゃんだったには違いないけど、それでも離れてくのは心配でね。ハスキーちゃんや他の子も向こうでもちゃんと育ってくれるように頼むよ」

 

「はい。ご主人様の安寧は私たちドラゴンメイドが必ずやお守り致しますので、どうかご安心を」

 

「うん、うん。それは安心さね……さぁ、じゃあデッキを作るなら私も見るよ。たまには親子でデッキ作りも良いだろう」

 

「それはありがたい。まだ主軸すら決まっていないんだ。別に高等部入学に合わせているわけでもないが、メインカードくらいは決めたい」

 

「なら、カードの保管部屋にも行くとするかね」

 

 そう言うと自分と母親はハスキーを伴って別室へと移動する。

 精神年齢は高めで、前世の記憶もあるにも関わらず自分は母親は母親と認識している。どこの世界でも『母親は強し』と言うが、何があっても頼りになるものである。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 中等部の卒業試験兼高等部への試験を終えて二ヶ月が経った。

 エスカレーター式のアカデミア中等部は外部中等部と異なってある程度高等部とカリキュラムが連携しており、二月終わりからアカデミア本校の存在する島へと移り住むことが出来る。離島暮らしになるということで、ある程度慣れることも必要だと判断した自分も三月初旬からはオベリスクブルーの寮にいた。

 オベリスクブルーは一番上のランクということもあって、外見は城を彷彿とさせるような外装と室内もそれに相応しかった。

 自分の部屋は運が良かったのか一番上から一つ下の端部屋で、そのおかげかほんの少し広いようだ。

 他学年と合同の寮生活のため食堂に行けば人数は多いが、美味しい食事を楽しめる。給餌担当に言えば部屋にも持って来てくれるので現在まで毎日そうしている。これからもそうなる予定だ。

 集団での食事が苦手……というわけではなく、どうやっているのかティルルがそれを回収してさらに美味しい食事に変えてくれるのだ。いくらキッチンがあるとは言えそこまで出来るのは彼女あってこその技だろう。

 

「結局新しいデッキは決められなかったわねぇ、ご主人様ぁ」

 

「しっくり来るカードが無かったからな」

 

 まぁ、そんなこんなで自由に過ごしている自分は自室でチェイムに耳掻きをされていた。隔週代わりでされているため汚くはないだろうが、適度な強さで掃除をされるのは気持ち良いものだ。

 

「思えば自分のデッキは両方とも選んで作ったわけではないからな。三つ目のデッキもそういうカードが来てくれると信じるさ」

 

「この島はデュエリスト育成機関なだけあってか、精霊の気配は相当するわぁ。そういう出会いはあるかもしれないわねぇ」

 

 チェイムの言う通りこの島はかなり特殊だ。自分が住んでいた街では自分が持っているカードの精霊、母親の《ギガプラント》の精霊を除き殆ど見ることが無かったにも関わらず、裏山を散歩しているだけでも精霊を見ることがある。

 ハスキー曰く、自分は元々精霊を近付けやすい体質をしているためそれも作用しているのだろうが、それでも二、三日に一回精霊を見るのは珍しいことだった。

 

「あっ、もぅ。どこを触ってるのかしらぁ」

 

 目の前にあった太ももに埃が付いていたので払ったているだけだ。おかしいな、全然取れない。

 

「そんなことするご主人様はぁ……」

 

 チェイムは耳掻きを置くと胸元のボタンを外す。

 

「こうしちゃうんだからぁ!」

 

 そうして自分は真っ暗に包まれた。

 1500DPをどこかに落としてしまったようだ。

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

 四月一日になった。つまり、入学式の日だ。入学式は寮ごとにするわけでなく、全校生徒三学年が集まって盛大に行われる。

 在校生からの挨拶は成績・実践共に一位の丸藤亮という生徒が行っていた。当然オベリスクブルーだ。

 周囲の同級生の会話に聞き耳を立てるとどうやら帝王(カイザー)と呼ばれるほどの腕前らしく、かつて進学試験では中等部にしてAリーグ下位ランカーを追い詰めるほどのデュエルを見せたようだ。惜しくも勝てなかったようが、それでもAリーグのプロだ。彼の名前は瞬く間に広まり、次世代のデュエリストを取り上げた雑誌では必ず上がる名前らしい。

 

「——これにて新入生代表の挨拶を締めさせていただきます。新入生代表、天上院明日香」

 

 端正な顔立ちをした女生徒が舞台を去る。背筋が引き締まっており、生真面目な雰囲気が感じられた。

 どこかで見たような気もするが思い出せない。

 

『綺麗な子っすねー、ご主人様。食指が動いちゃいました? ——うがっ』

 

 横から囁いて来るパメラを腕を組むフリをして突いた。

 もう一人、ついて来ていたハスキーが言う。

 

『かつて中等部のアカデミア交流戦でご主人様とデュエルした生徒ですね』

 

 通りで。

 高等部のアカデミアは各国規模の単位でしか存在しないが、小等部と中等部は別だ。小等部は各都道府県に一つ、中等部は北海道・東北・関東・中部・近畿・中国と四国・九州の七地域に一つが基本だ。しかし、関東だけは人口のせいか二校に分かれており、自分は北関東のアカデミアに所属していたのだ。

 

「(そんなものがあったような無かったような気がするな……)」

 

『まぁ、あのときはご主人様も早く終わらせるために私たちを使ってましたから。普通に先行ワンキルで終わらせてましたよ。まったく、そんな理由で使われるなんて、ぞんざいな扱いされて喜ぶのはティルルくらいなんすから!』

 

「(あのデュエルか。たしかパルラが一番活躍していたな)」

 

『そうっすよね! もうっ、ご主人様はそういうことはしっかり覚えてるんすから! 大好きっす!』

 

 チョロ過ぎである。

 

『どのような扱いでもご主人様の隣にいることこそが私の喜びでございます』

 

 二人の会話で少し思い出したような気がする。北関東のアカデミアには特出したデュエリストはいなかったが、南関東には何人か世代代表みたいなデュエリストがいたはずだ。恐らく、丸藤先輩もその一人なのだろう。同級生だとあの天上院明日香もそうで、他に探せば存在しているのかもしれない。

 そんなことを考えていると他の挨拶も終わり、奇抜な顔をした教師がマイクを持っている。

 

「私の名はクロノス・デ・メディチ。このアカデミアでは実技担当最高責任者デスーノ。新入生はこの顔をよく覚えておくノーネ。私から言うのは新入生とて今日からは誇り高きアカデミア生。中等部からの進学者は数少ない高等部生なノーネ。その制服に恥じない精進をしていくノーネ! 以上、この後は各寮長の指示に従いなサイ」

 

 カードの精霊と同じくらいキャラの濃い教師だったな。

 どうやらこの後は歓迎会があるらしく、さすがに欠席は駄目だろう。

 既に各寮ごとには分かれているので、自分たちブルーの新入生ゾーンには丸藤先輩が立っていた。

 

「俺の名前は丸藤亮だ。オベリスクブルー寮の代表を任されている。君たち現在のオベリスクブルー一年は進学試験を乗り越えて高等部にやって来たが、アカデミアは高等部からが本番だとも言われている。外部生も含め、油断せずに切磋琢磨して欲しい」

 

 自尊心の高い者が多いブルー生も彼の言葉には深く頷いている。やはりそれだけブルー寮最強の名は伊達じゃ無いということだ。

 

「とはいえ、今日は小難しいことを考えるのは辞めよう。既に寮にはビュッフェが用意されている。余興としてデュエルも行うので是非参加して欲しい」

 

 

 

 

 

四、

 

 

 

 

 

「——私のターン、ドローですわ!」

 

 ビュッフェを楽しんでいたのも束の間、自分はブルー寮一階の宴会場にてデュエルをしていた。

 正面に立つのは海野幸子という女生徒だ。

 

「私は《鰤っ子姫(ブリンセス)》を召喚!」

 

 当初、歓迎会は丸藤先輩が言う通りビュッフェを楽しんでいた。自分も久しぶりにティルルの手が入っていない食事を楽しんでいたのだが、一定時間が経つといつの間にかデュエル大会が始まっていた。ビンゴ形式で数字を選出し、それと同じ学生番号を持つ者が戦う。片方は必ず一年が選ばれてもう片方は三学年ランダムとなるのだ。

 そうして他人のデュエル眺めながら粛々と箸を進めていると自分と彼女が選ばれたのである。

 

「そのまま効果発動ですの! 《鰤っ子姫》を除外してデッキから魚族レベル4以下を特殊召喚することが出来る。私が召喚するのは《カッター・シャーク》。来なさい!」

 

 どこか機械的なサメが現れる。

 

「《カッター・シャーク》の効果で自分自身を対象として、デッキから《ランタン・シャーク》を特殊召喚ですわ!」

 

 レベル4のモンスターが二体。攻撃力は高く無いが……。

 

「魔法カード《カード・アドバンス》! デッキの上から五枚を好きな順番で戻し、このターンのアドバンス召喚権を一度増やしますの。場の二体をリリースして——」

 

 魚属性でアドバンス召喚と言えばアイツしかいない。

 

「《超古深海王シーラカンス》を召喚!」

 

 一ターン目から攻撃力2800のモンスターが出て来た。

 会場が騒めき、海野の実力に驚愕している者もいる。

 それもそのはずで、やはりブルー内でも実力の差はあり、今の今まで通常モンスターに《デーモンの斧》を付けた肉弾戦デュエルが行われていた。そんな中一年生の海野が見事なコンボを見せたので拍手さえ起こっている。

 しかし、《超古深海王シーラカンス》の強さは決して攻撃力ではない。

 

「《超古深海王シーラカンス》の効果を発動ですわ。手札の《揺海魚デッドリーフ》を墓地に送り、デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する。来るのですわ! 《深海王デビルシャーク》と《スペースマンボウ》!」

 

 シーラカンスの周りに二種類二体ずつ、攻撃力1700のモンスターが揃う。

 

「一気にモンスターが揃った!」

 

「下級モンスターも高火力だわ」

 

「これは決まったか?」

 

 さすがの展開力だ。墓地発動の出来る《揺海魚デッドリーフ》も落としているあたり相当上手いな。

 

「カードを一枚セットしてターンエンドですわ」

 

「自分のターン、ドロー」

 

 中々厄介な布陣だ。手札もそこまで良いとは言えないが。

 

「《魔導書士バテル》を召喚」

 

「魔導書……?」

 

 初めて戦う者のこの反応はもう見慣れた反応だ。会場も首を傾げている。

 

「召喚時の効果により、デッキから魔導書カードをサーチする」

 

 手札に加えるのは《ヒュグロの魔導書》。

 

「そして《グリモの魔導書》を発動する。デッキから《セフェルの魔導書》をサーチして、そのまま《ヒュグロの魔導書》を見せて発動。《グリモの魔導書》と同じ効果を得る」

 

 《魔導書院ラメイソン》を持って来た。次のターンも考えるならば必須カードだ。

 

「手札の《マジシャンズ・ソウル》の効果により、デッキからレベル5以上の魔法使い族を墓地に送り特殊召喚。そして《死者蘇生》を発動。今送った——《妖眼の相剣士》を特殊召喚」

 

 風と炎が吹き荒び、鈴の音が鳴り響く。風が去るように彼女は降り立つと剣を構えた。

 

『主(あるじ)よ。ようやく呼んでいただけたか』

 

「(そんな前だったか?)」

 

『前回の進学デュエルとやら、初めから私が居たにも関わらず召喚されませんでした。その後のクソトカゲ共との調整デュエルもしかり』

 

 彼女こそが自分の持つ——ドラゴンメイド、サイレント・マジシャンに次ぐ精霊のカードだ。

 前者と違って名前を持たないためそのまま『アヤメ』と呼ばせて貰っている。アヤメは言葉の通りドラゴンメイドたちとの折り合いが悪い。ハスキーとナサリー、ラドリーとは別にそうでも無いのだがティルル、パメラ、チェイムと顔を合わせたらあー言えばこう言うの繰り返しだ。

 曰く口が悪いだの、飄々とし過ぎだの、淫ら過ぎるだの、色々と。

 自分は気にしていないと言っているのだがどうにも彼女はお堅い。それでも最近は緩和され、手押し相撲の範疇に収まっているのが何よりである。

 

『相手は魚ですか。三枚に下ろしてやりますとも』

 

「上級モンスターですわね! 罠カード発動《フィッシャーチャージ》! 妙な効果を発揮される前に破壊させていただきますわ!」

 

 《スペースマンボウ》の身体が弓矢のように引き締まる。勢いよく射出されるとアヤメに迫る。

 

「速攻魔法《トーラの魔術書》。対象は《妖眼の相剣士》」

 

『自ら飛んでくるとは都合の良い』

 

 《トーラの魔導書》は魔法使い族モンスターに対する魔法及び罠のどちらかの効果を無効にするカードだ。

 

「何ですって!?」

 

 《フィッシャーチャージ》はリリースして発動するカードだ。無効にしたことにより実質二枚を除去したことになる。

 

「《ヒュグロの魔導書》を発動。《妖眼の相剣士》の攻撃力をこのターンのみ1000上げる」

 

「3500……っ」

 

「バトルフェイズ。《超古深海王シーラカンス》を攻撃」

 

『斬り甲斐のある獲物だ——「天断螺軼(テトラス)」』

 

 ただ振り上げ、下ろしただけだ。

 その一太刀で巨大魚は真っ二つになって消えて行った。

 

【海野幸子のLP:8000→7300】

 

「《妖眼の相剣士》が相手モンスターを倒したことにより《ヒュグロの魔導書》の効果が適用される。デッキから魔導書をサーチする。自分が持ってくるのは《グリモの魔導書》だ。

 《魔導書院ラメイソン》を発動してターンエンド」

 

 魔導書は除去効果を持つカード自体は多いのだが、全体除去は少ない。《ブラックホール》や《サンダーボルト》などのシングルで強いカードを入れても良いのだが、何となくアレらは入れていない。一応今のままでも勝てているし、どうしても辛くなって来たと感じたらそこはサイドデッキも含めて考えたい。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 《カード・アドバンス》の効果により彼女は自分自身の引くカードが分かっているはずだ。

 こちらの手札は一枚。相手は手札二枚の状況だ。

 僅かな思考——海野は目を細め、口を開く。

 

「全てのモンスターを守備表示にしてターンエンドですわ」

 

 一転攻勢したような雰囲気だが、状況はあまり変わっていない。魚族は手札が揃えば厄介なデッキ。先に場を作りたいが……。

 

「ドロー……《魔導書院ラメイソン》の効果を発動。《セフェルの魔導書》をデッキの一番下に戻して一枚ドローする」

 

 と、随分強力なカードが来たな。

 

「《グリモの魔導書》を発動。《セフェルの魔導書》をサーチ。そして、《強欲な壺》で二枚ドロー」

 

 デッキ圧縮、逆転へ通ずる神様のカードだ。

 

「《マジシャンズ・ソウル》と《深海王デビルシャーク》を対象とし、《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》を特殊召喚」

 

「攻撃力2900ですってぇ!?」

 

 守備力は0だが、《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》の2900という攻撃力は本当に頼もしいものだ。

 《青眼の白龍》や《カオス・ソルジャー》には及ばないものの、この世界のデュエリストが出す上級モンスターは大体攻撃力が《超古深海王シーラカンス》のように2800だ。そのため、僅かに100を超えている彼女はエースアタッカーになれるのだ。

 それに特殊召喚時の効果も強い。

 

「効果により選択した二体のモンスターを破壊する」

 

 《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》が現れた瞬間、互いのモンスターに荊のようなものが巻き付く。そのまま締め上げられると破壊されていった。

 

「自身のモンスターも破壊しなければならないというデメリットはあるが、それ故に強力なカードだ。召喚時効果は強いが攻撃力は低く、場に立たせるのが不安なモンスターも活かせる」

 

「ええ。それに持ち前の攻撃力で大抵のモンスターも倒せるでしょうね」

 

 いつの間にか近くで丸藤先輩と天上院も観戦している。

 

「《深海王デビルシャーク》は対象を取る効果には破壊されるのですわっ」

 

 あのモンスターは地味に有能で、先ほど考えていた全体除去カードには耐性を持っているのだ。《超古深海王シーラカンス》で展開したは良いが、全体除去で一掃されてるということを防ぎたいのだろう。

 

「バトルフェイズ。《深海王デビルシャーク》と《スペースマンボウ》を攻撃。 

 メインフェイズ2。カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「私のターン……ドロー!」

 

 一切諦観を感じさせない声音と共にカードが引かれる。彼女は自身の引いたカードを確認すると眉根を上げた。

 

「墓地の《揺海魚デッドリーフ》の効果発動ですの! 墓地からこのカードを除外して《深海王デビルシャーク》二体と《ランタン・シャーク》をデッキに戻して一枚ドロー!」

 

 手札が三枚になった。

 

「そして《白の水鏡(ホワイトミラー》を発動! 墓地の《カッター・シャーク》を蘇生ですわ! その後、もう一枚の《カッター・シャーク》をデッキから手札に加えますの。効果発動! 《カッター・シャーク》の効果によりデッキから《ランタン・シャーク》を特殊召喚!」

 

 場に守備表示で二体のモンスターが揃った。再びアドバンス召喚を可能にさせる魔法カードを使う可能性もある。

 

「デッキからモンスターが特殊召喚されたとき、《妖眼の相剣士》の効果を発動。カードを二枚ドローする」

 

「ぅっ、また強い効果ですわね……でも、恐れるに足りませんわ! 私は手札の《カッター・シャーク》《シャーク・サッカー》《ダブルフィン・シャーク》を除外して融合召喚!」

 

 おっと、これは——。

 

「《融合》カードを使わない融合召喚だと!?」

 

「一体何が出てくるんだ?」

 

「一年生とは思えないデュエルだわ」

 

 海野は手を掲げ、高らかにモンスターの名前を呼ぶ。

 

「——《氷獄龍トリシューラ》!」

 

 フィールドは《魔導書院ラメイソン》なのだが、その一部が凍っていく。雪も降っていないにも関わらず不思議なものだが、それだけこのカードが力を持っているということなのだろう。

 

「本当は特殊召喚時の効果があるのですが、今回は条件を満たせていないので発動致しませんわ。さらに私は《氷獄龍トリシューラ》に《サイコ・ブレイド》を装備。支払うLPは2000!」

 

【海野幸子のLP:8000→6000】

 

【《氷獄龍トリシューラ》:ATK2700→4700】

 

「攻撃力2900を上回ったぞ!」

 

 ライフポイントが8000になったからこそ、気軽に使えるようになった装備カードの一枚だ。

 

「バトル! 《氷獄龍トリシューラ》で《妖眼の相剣士》を攻撃! 『ヴァラク・シャクティ』!」

 

『……っく、主よ。面目ない!』

 

【一月竜胤のLP:8000→5800】

 

「どうしてそっちを攻撃したんだ!」

 

「2900の方を残していて大丈夫なのか?」

 

 観客たちはそう言うが、この場においてアヤメを倒したの最善だ。

 高火力の《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》は目に見えて分かりやすい脅威だが、その実アヤメはフィールドにいるだけで厄介になる。先ほど自分が二枚ドローしたとき、海野はデュエルディスクで効果を確認していた。《時花の賢者—フルール・ド・サージュ—》は破壊されたときにレベル1植物族モンスターを出す効果はあるが、より速く処理すべきはやはりアヤメの方だろう。

 

「デュエルは目先に囚われるのではなく二手三手読まなければ勝利するのは難しい。火力だけでは勝てないのがデュエルモンスターズの難しいところだ」

 

「それをサイバー・ドラゴンデッキのあなたが言うのね」

 

「過信は最も敗北へと繋がる行為だ。俺も学ぶことはまだまだ多い」

 

 丸藤先輩がそう言うと他のブルー生たちは納得したようだ。

 自分も《氷獄龍トリシューラ》のときにアヤメの効果を発動すれば良かったのかもしれないが……まぁ、大きく変わるのかは微妙なところだ。

 

「ダメージを受けたとき、トラップ発動。《ダーク・ホライズン》」

 

 このカードは受けたダメージ以下の攻撃力を持つ魔法使い族・闇属性を特殊召喚出来るカードだ。

 フィールドに魔法陣が浮かび上がると、自分が選択したモンスターが降り立つ。

 

「《ウィッチクラフト・ハイネ》を特殊召喚」

 

 本当なら大迫力の殴り合いが出来れば盛り上がるのだろうが、残念ながら攻撃力4700を殴り倒せるほどの火力は出せない。

 

「またモンスターが増えた……ターンエンド、ですわ」

 

「ターンエンド時、相手のターンでも発動出来る《ウィッチクラフト・ハイネ》の効果を発動。手札から魔法カードを一枚捨てることで相手のカードを破壊する。自分が捨てるのは《アルマの魔導書》で破壊対象は《氷獄龍トリシューラ》だ」

 

 《ウィッチクラフト・ハイネ》の手によって《アルマの魔導書》が開かれた。空間の歪みが生み出されると抵抗をするまでもなく《氷獄龍トリシューラ》が吸い込まれていく。

 

「———っっっ!」

 

「自分のターンだ」

 

 《サイコ・ブレイド》は対象のモンスターが破壊されたため墓地にある。墓地効果も特に無い。

 

「《魔導書院ラメイソン》の効果により、《グリモの魔導書》を戻して一枚ドロー。《魔導召喚士テンペル》を通常召喚。そして、リリース。デッキより《魔導法士ジュノン》を特殊召喚——バトルフェイズ」

 

「……くっ」

 

「三体のモンスターでダイレクトアタック」

 

【海野幸子のLP:6000→3100→700→-1800】

 

 ソリッドヴィジョンが消え、デュエルディスクには自分の勝利を表す『WIN』と表示されている。DPが入って来たことを確認すると腕を下ろした。

 

「二人とも素晴らしいデュエルだった。海野の展開力はもちろん、危機を打破する一点火力。対する一月の柔軟な対応力も既にブルー寮を含めたトップクラスだろう。俺もデュエルをしたくなった。みんな、二人に拍手を」

 

 丸藤先輩がそう纏めると最初は疎らに、やがて大きな拍手が自分たちを覆った。中には丸藤先輩が称賛したことに面白くない顔をしている者もいるが、いつも通りのオベリスクブルーと言ったところだろう。

 相手の海野に会釈をして舞台を降りる。既に次のブルー生二人が控えていた。

 終わったばかりでほんの少し注目されているが、適当なドリンクを手に取る。人気の少ない壁際に移動した頃、ちょうど舞台を挟んで逆位置から海野がやって来た。

 

「悔しいですけれど今日は私の負けですわ。でも、次は必ず勝つので覚悟をしておくように」

 

「良いデュエルだった。トリシューラの効果が発動されていればまた変わっただろうな」

 

「う、あのカードですか……」

 

「持て余しているのか?」

 

「そういうつもりは無いですわ。召喚条件自体は簡単ですし、何度もフィニッシャーを任せたこともあります。除外は私とのデッキとも相性が悪くありませんもの」

 

 《フィッシュアンドバックス》などと合わせればシナジーは生まれやすいだろう。

 

「でも、そもそもドラゴン族が入ってないのですわ」

 

「なるほど……」

 

 海野のデッキは《超古深海王シーラカンス》が主軸の魚族デッキだ。水属性に影響を与える汎用カードも入っているだろうが、ドラゴン族とは相性が悪過ぎる。

 

「自分も海野のデッキに合わせられるようなドラゴン族は知らないな。単体で役に立ちそうなカードならあるが、《超古深海王シーラカンス》の動きに影響を与えそうだ」

 

「ですわよねぇ」

 

「ただ、より除外ゾーンを活用出来るカードなら知っている。《フィッシュアンドバックス》は入っているんだろう?」

 

「もちろんですわ。ただ、それ以外は微妙ですわね。《D・D・R(ディファレント・ディメンション・リバイバル》も一時期入れてたのですが、地味にコストの一枚が大変で……」

 

「《竜嵐還帰》は入れてないのか?」

 

「何ですの? それ」

 

 PDAを取り出して検索をする。

 

「これだ」

 

 《竜嵐還帰》は罠カードになるため一ターンの猶予は必要だが非常に強力なカードだ。伏せるだけでコストは無いし、何より相手の除外ゾーンからでも引っ張って来ることが出来る。その代わりエンドフェイズ時に自壊というデメリットはあるが、海野のデッキなら上手く活用出来るだろう。

 

「こんなカードがあるんですわね……購買にあると良いのですが」

 

「いや、余りも含めて持っているから海野に渡そう」

 

「まぁ、本当ですの? 庶民にしては太っ腹ですのね。施しを受けるのは恥ずべき行いですが、今日の敗北を噛み締めるにはそれも必要なことなのでしょう。ありがたく頂戴致しますわ!」

 

「ああ、そうしてくれ。ただ探すのに少し時間が掛かるから後日になるがな」

 

「それには及びませんわ。明日の放課後に私も手伝いますので、お伺いしても良いかしら?」

 

「構わないぞ。茶菓子の一つでも用意しておこう」

 

「私の舌を喜ばせるような物が用意出来るとは思ってませんことよ。おーほっほっほ!」

 

 愉快な同級生である。ただ、茶菓子を用意するのはティルルなので舌は喜ぶだろう。

 

「連絡先を渡しておこう」

 

 PDAを操作すると海野に向ける。彼女もPDAを取り出して受け取ると登録を済ませた。

 

「高等部で一番最初に私の連絡先を受け取ったのですから、光栄に思うと良いですわ」

 

 その後も海野とはデュエルを観覧しながら話をした。

 聞けば彼女は中国・四国地方のアカデミア中等部出身で、両親は西日本と海外を船舶貿易で牛耳るとんでもない社長夫妻らしい。オベリスクブルーの中でもトップクラスのご令嬢なのではないかと思った。

 魚族、水属性のデッキを好むのもその関係だろう。

 初日から良い知己を得られたと喜びながら、オベリスクブルーの歓迎会はさらに進んでいくのであった。

 

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