黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第44話

 

 

 デュエルアカデミアは優秀なデュエリストの育成を主とした機関だが、世間一般的な授業も当然入ってくる。

 LPの素早い計算には数学が必要で、カード効果の理解には現代語が役に立つ。社会も世に出るなら間違いなく必須科目で、その他の教科も根本的に思考力を培う為の重要な要素だ。とはいえ、デュエルの授業はともかく、普通の授業は一度大学まで進学したことのある自分にとって退屈なことは間違いなかった。

 

「十代君。いくら君がデュエルで強くとも社会に出たらそれだけでは通用しないのです。退屈な授業かも知れませんが、せめて顔を伏せて寝ないでくれませんか?」

 

「うっ……ごめん先生。昨日は遅くまでカード見てたら寝不足でさ」

 

「体調管理もまたデュエリストの嗜みですよ」

 

 茶髪のオシリスレッドの生徒が叱られている。どうやら自分と同じように退屈と感じて眠ってしまったらしい。

 自分は側に立つハスキーと会話しているので眠ることはない。会話に集中して唐突に質問されても質問内容は彼女から教えて貰えるためハスキー様々である。

 そして、どうやら彼も精霊が見えるようだ。

 彼の周りには時々《ハネクリボー》が飛んでおり、何か話しているような素振りも見せる。言葉は発せないようなのでジェスチャーか意思疎通のようなものがあるのだろう。余談だが、向こうからハスキーたちが見えることはないらしい。見えるようにすることも出来るのが、実体化していないときは自分にだけ波長を合わせて精霊化しているとか何とか。小難しいことはよく分からない。

 

「——では、今日の授業はこれで終わりです。質問がある方はこの後時間を取りますのでお気軽にお越し下さい」

 

 チャイムが終わると同時に佐藤先生がそう言った。

 今日の授業はこれで終わりだ。

 ラーイエローの生徒が佐藤先生の下へ行っている。

 

「竜胤」

 

 自分の名前が呼ばれる。

 振り向くと歓迎会以来に仲良くなった海野幸子がいた。

 

「どうしたんだ? 幸子」

 

 名前で呼ぶ許可は以前に貰っており、そのときから彼女も自分のことは名前で呼ぶようになった。アカデミアの授業は座る席が学生番号で振り分けられているため隣り合うことは無いが、休憩時間は割と一緒にいることが多い。

 

「いえ、お昼ですから一緒にどうかと思いましてよ」

 

「分かった。自分は弁当だから食堂に移動しよう」

 

 弁当は毎朝ティルルに持たされている。自分としては適当にドローパンを買えば良いのだが「栄養が偏るから」など「私が居るんだから」など「お願いだから食べてよ」など色々あって任せている。まぁ、小等分と中等部も彼女に作って貰っていたのであまり変わらないのだが。

 前回幸子が来たときに出した茶菓子も好評で、恐らく相当高級な菓子を食べて来た彼女も唸るほどの美味しさだったらしい。直ぐに何処で何を買ったのか聞かれたが、「保存の効く物を適当に持って来たので分からない」としか答えられなかった。まさか「君の隣にいるメイドが作った」とは言えないだろう。

 

「そう言えば聞きました?」

 

「何をだ?」

 

「万丈目というブルー生が先ほど騒がれてたレッドの遊城とデュエルをしたらしいですわ」

 

「万丈目って言うとあの万丈目か?」

 

「ええ、そうですわ」

 

 万丈目という名前はCMやテレビ番組のスポンサー欄でよく見る名前だ。要するに世界的大企業なのだが、ブルー生の万丈目はまさしくその万丈目グループの三男だと言う。

 天上院と同じ南関東アカデミア出身で、自分たちの学年では男女で双璧を成すほど強いようだ。ただ、歓迎会の日にデュエルしているところを見たが地獄デッキとやらは思ったほど強くはなく、《地獄の暴走召喚》で展開したモンスターに装備カードを付けてLPを削っただけなので勝つのは容易だろう。

 まさにブルー生と言ったところ。

 ジュニアチャンピオンではあるらしいので本人のスキルが高いのは間違いない。より自らに当て嵌まるカードと出会えば化けるタイプだろうか。

 

「レッドは極端な生徒が多いと聞く。学力で優秀だったり、デュエルで優秀だったりと。デッキも面白いものが多いらしいぞ」

 

「そうですの? よく知ってらっしゃいますわね」

 

 これもまた噂話を拾ってくるメイドたちの言だ。食材調達と言い、いつの間にか綺麗にされている洗濯物と言い、本当にどうしてるのやら。

 それらの雑事は「メイドの嗜みです」の一言で片付けられる。

 食堂に到着すると自分たちはブルー寮に当て嵌められた席へと移動する。席によって格付けされているなどではなく、混雑を避ける為の措置だ。もちろん空席や知り合いが居れば他寮の席も座れるが……ラーイエローならともかく、オシリスレッドが座っていれば直ぐに野次が向く。

 

「相変わらず美味しそうなお弁当ですわ」

 

「ありがとう」

 

 さすがに弁当は買ったとは言えず、毎朝自分で作っていると言っている。

 

「もう直ぐ中間試験がありますけど問題はなくて?」

 

「今のところ授業も付いていけてるし、実技も問題は無いだろう」

 

「庶民と言えどあなたは頭の回転が良いですものね。デュエルは私に勝利するほどの腕もありますし」

 

 アカデミアの中間試験は途中経過を計るようなものだ。そのため、この試験で不甲斐無い結果を残しても直ぐ退学やカラー落ちすることはない。ただ、期末試験は中間試験も考慮されるため二つ合わせて一定の成績を残せない場合は容赦無い処置が待っている。

 

「知ってます? 中間試験の実技で勝った生徒は期末試験の実技相手が選べるそうですよ」

 

「ただ楽な相手は選べないんだろう?」

 

「ええ、そこはアカデミアも実力精査をして平等に行うらしいですわ」

 

 相手が選べる、か。上級生から選べるならまだしも自分が戦ってみたいと思える生徒は特にいない。

 そもそも月一のデュエルテスト以外は幸子と戦っただけなのでどんな生徒がいるのかも詳しくない。メイドネットワークに助けて貰おうか。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「——よいしょ、よいしょ」

 

 中間試験が明日に迫った前夜。自分はナサリーにマッサージされていた。精神年齢はともかく肉体は若く、気になるほどの凝りを感じることはないが日頃のケアが大事とのこと。

 

「……っ」

 

 うつ伏せになって枕代わりにラドリーの膝を借りている。彼女もマッサージのつもりか頭皮を指圧してくれており、中々気持ちが良い。たまにゴリっ、と音を立てるがまだまだ未熟なので仕方ない。痛みは何とか耐えている。

 

「ほら、クッキー焼けたわよ」

 

 キッチンからティルルが焼き立てのクッキーを持って来る。動けないため口を開けると、それを分かっていた彼女も口に運んでくれる。

 

「……美味いな」

 

「ご主人様のために作ったんだから当たり前じゃない」

 

「紅茶もくれ」

 

「さすがにその態勢では飲ませられないわよ」

 

「溢せないように飲ませる方法があるだろう?」

 

 彼女はサイドテーブルに置かれた紅茶のカップを見ると、持ち上げる。髪色に負けないほど頬を染めていそいそと顔を寄せて来た。

 本当に分かりやすい娘である。

 やはりクッキーはコーヒーより紅茶の方が合うな。

 

「本当一番の変態っすよね。ティルルって」

 

「な、何よっ!」

 

 パルラとティルルの言い合いが始まる。いつものことだ。

 

「明日も私たちは使わないのかしらぁ? ご主人様ぁ?」

 

「ああ。魔導書で行く」

 

「んもぅ、私たちも戦いたいのにぃ」

 

「わがまま言ったらダメよ、チェイム。アカデミアの子たちのデュエルを見てると、私たちが出るには若い子が多いもの」

 

 ナサリーの言う若い子とは年齢的な意味もあるだろうが、まだまだ青いデュエルが多いということだ。プレミが多かったり、デッキ構築が甘かったりと。

 この点に関しては自分も精進しなければならない。

 ドラゴンメイドは強いデッキではあるが、彼女たちのカードパワーに依るのも大きい。そういうデッキに限って相性の悪い相手とデュエルしたときに何も出来ず敗北したりするので、構築は常に見直しておくべきだろう。現に、ドラゴンメイドのデッキは使用しないものの、毎晩机に広げている。

 

「ハスキー。この島に面白い場所はあったか?」

 

「ご興味を抱かれそうな箇所は幾つか。さらに三つほど絞っております」

 

「頼む」

 

「はい。では、まずこの島についてですが、どうやらデュエルによって生じた霊的な力がある一点へと流れ込むような造りになっております」

 

「霊的な力……?」

 

「デュエルモンスターズが古代エジプト発祥ということはご存知でしょうが、我々——いわゆるモンスター(・)は元々この世界とは異なる生物になります。それらを模したのがデュエルモンスターズですが、遊戯といえど異世界の現実と繋がったことは真実であり、微量ですが科学では説明の出来ないエネルギーを生み出す力があるのです」

 

 そう言ったモノが存在していることは知っている。そもそもドラゴンメイドたちがその筆頭で、眉唾だと否定する要素は何処にも無い。自分は体験主義者なのだ。

 

「山や川、人工物……一見造作も無く建てられたかのように見えますがそれらは上手く合わさりエネルギーの流れを生み出しています。こちらで言う風水(・)、でしょうか。特に校舎がある周辺はデュエルが盛んなこともあって顕著ですね」

 

「何となく理解はした。だが、何を目的にそんなことをしている?」

 

「——三枚のカードです」

 

「三枚のカード……?」

 

「現在は石板に封印されているようで、生半可な力で解くことは叶いません。そのため、石板自体に力を与え、そのカードに宿る魔に中から破壊させようとしているみたいですね」

 

「なるほど。ちなみにハスキーなら解くことは出来るか?」

 

「可能でしょう。ただ、おすすめは致しません。かつてご主人様がお母様の職場に訪れた際、会社最奥に安置されていた《ラーの翼神竜》に匹敵する力を感じました」

 

「それはダメだな」

 

「ご主人様ならばその力に圧される心配はありませんが、一般生徒やアカデミア員は生命力が枯渇し、やがて死に至ります」

 

「本当にダメなやつじゃないか。ご尊顔を拝むのは無理そうだな」

 

「正体自体は分かっています——《三幻魔》。我々の世界でも天災と同一視されていた存在です」

 

 無闇矢鱈と復活させるべきではないことは分かる。

 

「三つのうち一つがそれらの石板が鎮められている場所です」

 

 興味はあるが今は行っても意味が無さそうだ。

 

「そうか、他には?」

 

「密かに動物をデュエリストにする研究所があるようです」

 

「動物を?」

 

「犬、猫、鳥……様々な動物が対象ですが、結果が出ているのは猿です。特殊な装置を頭に取り付けて電波を送ることで独立してデュエルが出来るそうです。そして——」

 

 と、ハスキーは一拍置いて言った。

 

「カードの精霊についても研究しています」

 

「成果は出ているのか?」

 

「短時間、目視することは成功したそうですがコミュニケーションを取るまでは行かなかったようですね。研究員が寝不足で殴り書きを残していました」

 

「そこは自分が行っても門前払いされそうだな」

 

「恐らくアカデミアの上層部肝入りの研究所ですから、見つけただけで何らかのペナルティが下される可能性もあります」

 

「面倒だ。次は?」

 

「中心の火口にデュエルステージがあるようです。そこでデュエルをするときっと特別な感じがするのではないのでしょうか?」

 

「……それだけ?」

 

「メイドジョークです。ドラゴンメイドジョーク」

 

「腕を上げたな。《アームド・ドラゴン LV7》はあったぞ」

 

「LV10に至れるよう精進致します。それで三つ目ですが——今は無人の廃棄された寮があります。アカデミアの怪奇伝説にもなっており、過去に何人かの生徒が行方不明になったとも。これくらいならば何処にでもある噂話に過ぎないのですが……実際に闇の気配がありました」

 

「気になるな」

 

「遠目から認識するだけで留めておいたので私の気配は悟られていないでしょう。ご主人様が出向かれるのならばお供します」

 

「明日……いや、明後日の夜にするか。確認しに行くとしよう」

 

「了解致しました」

 

 しかし、闇の気配か。アカデミアの創設には様々な思惑が関わっていることは想像に難くないが、島自体がそうなっていたとは。ただでさえ外部と行き来出来ない不自由さ。退屈すると思っていたが思いの外楽しめそうだ。

 

「ナサリー、マッサージはもう良い」

 

「そう? もう少しで全身だったのだけれど」

 

 腰を上げたナサリーの下で今度は仰向けになる。そのまま彼女の手を取って抱き締める。

 

「今日は全員だ」

 

 何がとは言わない、何が。明日は中間試験。英気を養わなければならないのだ。うん。

 エプロンドレスの紐を緩める他のメイドたちを見ながら、ナサリーの頬を撫でた。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 翌日、学術試験を終えた自分は実技試験のある会場にいた。自分の順番はもう少し先なので現在は観客席にて他生徒のデュエルを見ている。

 

「《前線基地》! このカードは1ターンに一度、レベル4以下のユニオンモンスターを特殊召喚することが出来る! 俺は《V—タイガー・ジェット》を特殊召喚!」

 

 そして、一番近いフィールドでは昨日幸子の言っていた万丈目VS遊城の試合が行われていた。

 

「《V—タイガー・ジェット》と《W—ウィング・カタパルト》を融合! 起動せよ、《VW—タイガー・カタパルト》!」

 

「へっ、格好良いモンスターだけどオレの《E・HERO フレイム・ウィングマン》の攻撃力は越せないぜ!」

 

「フン、俺が見せびらかすためだけに召喚したと思っているのか! 《VW—タイガー・カタパルト》の効果発動! 手札を一枚捨てることで相手モンスターの表示形式を変更する。よって、貴様の《E・HERO フレイム・ウィングマン》は守備力1200! バトルフェイズ!」

 

 どうやら万丈目はデッキを再構築したらしく、地獄要素が減ってユニオンモンスターが主力となっている。

 ユニオンモンスターは使い勝手が悪く見える反面、コンボが繋がると一気に場を巻き返せるカードが多い。継戦能力で言えば自分フィールド上に機械族がいるだけでデッキからユニオンモンスターを呼べる《無許可の再奇動(メイルファクターズ・コマンド)》や、機械族の蘇生魔法《アイアンコール》で手札一枚からでも展開が可能だ。そうなると融合カードが必要無い為いつの間にか高火力の融合モンスターが召喚されたりと戦術に隙が無い。

 

「くっ……罠カード発動! 《ヒーロー・シグナル》。場のモンスターが破壊されたとき、手札・デッキからレベル4以下のE・HEROを呼ぶぜ。オレはデッキから《E・HERO スパークマン》を特殊召喚!」

 

「ちょこまかと雑魚が現れやがって! 俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 対する遊城も負けていない。クロノス教諭を倒したという噂は真実なようで、度々彼に突っかかるブルー生にも一度も負けていないらしい。

 E・HEROは手札が枯渇し易いイメージもあるが、そこは上手く手札補充のカードを入れており、また本人のドロー運も相まって本当に強い実力を持っているようだ。現に、初手から《E・HERO フレイム・ウィングマン》の素材と《融合》を持っているのはさすがとしか言えない。

 

「オレのターン! 《天使の施し》を発動! 三枚引いて二枚捨てるぜ。そして、《ホープ・オブ・フィフス》!」

 

 言った側からとんでもないことになっているな。

 ……さて、二人のデュエルを尻目に懐へ手を入れる。そこから取り出したのはカードパックである。どうやら今日は最新弾の発売だったらしく、万丈目が使用しているユニオンモンスターもピックアップカードだと言う。本来なら自分は買うつもりは無かったのだが、幸子が以前渡したカードの借りだと言って五パックほどくれたのだ。

 即完売だったのだがそこはご令嬢。本島で買った分を超高速便で運ばせたとか何とか。相変わらず金持ちは凄いことをするものだ。

 正直言って今更補填するようなカードが出るとは思えないが、そこは運試し。暇潰しに剥いてみるのも良いだろう。

 一パック目を開ける。

 

《威嚇する咆哮》

《青天の霹靂》

《暗黒ステゴ》

《運命の発掘》

《神聖魔導王 エンディミオン》

 

 《威嚇する咆哮》は汎用性が高いが、それ以外は微妙だろう。《青天の霹靂》も使い易い効果ではあるがそもそも召喚条件の強過ぎるモンスターは使わない。ならば《神聖魔導王 エンディミオン》は魔導書デッキに良いと思いがちも、何のシナジーも生まない。そもそも既に持っている。

 一気に三パックを開ける。

 

《比翼レンリン》

《竜魂の石像(ドラゴン・ソウル・スタチュー)》

《眠れる獅子》

《ONiサンダー》

《天よりの宝札》

 

《真炎の爆発》

《氷水》

《スクラップ・リサイクラー》

《走魔灯》

《剣竜(ソード・ドラゴン)》

 

《コート・オブ・ジャスティス》

《戦士ダイ・グレファー》

《ケンタウルミナ》

《パクバグ》

《硫酸のたまった落とし穴》

 

 こちらも汎用はちらほらとあるが……《真炎の爆発》はティルルに譲ろうか。

 余談だが、ドラゴンメイドたちは各々自分で作ったデッキを所持している。それは自分が試しに作ったデッキを直ぐに試したかったからで、大体夜中まで掛かる新デッキを試すにはそうするしかなかったのだ。

 ハスキーはドラゴン族、チェイムは闇属性、ティルルは炎属性、パメラは風属性、ナサリーは光属性、ラドリーは水属性などタイプも分けさせている。

 そんなこんなで最後の一パックだ。せめて目新しいものが出てくれると嬉しいが……。

 

《さまようミイラ》

《岩の精霊 タイタン》

《ポイズン・ファング》

《死の罪宝—ルシエラ》

 

「——む」

 

 知らないカードが来た。

 テキストを確認する。

 

「…………強いな」

 

 それに自分のデッキに当て嵌り過ぎている。三枚欲しいくらいだ。これは早速入れるべきだろう。

 運試しなどと言ったが思わぬ収穫だ。

 五枚目のカードを見ようと思って——指を止める。そして、他のカードを重ねて周りから見えないようにした。

 一瞬見えた青い鎧。間違いないだろう。

 この場で見せれば暴動が起きるレベルのカードだ。

 

「ま、これも縁か。次のデュエルくらいはデッキに入れてみよう」

 

 フィールドに目を遣るとLPが0になった万丈目が膝を付いている。どうやら遊城に負けたらしい。会場はレッドでありながらブルーに勝った遊城への賞賛と敗北した万丈目への批判で盛り上がっている。

 そんな彼らの隙間を縫うようにフィールドに降りるための階段へと向かった。

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

『では、フィールド番号5番の一月竜胤さんとメイ喜多嬉さん。デュエルを開始して下さい』

 

 アナウンスが告げられる。

 正面に立つのは何処となく欧米人の顔立ちを持つ女生徒だ。

 

「ずっと前から庶民のあなたとはデュエルがしたいと思ってましたのよ」

 

 それは庶民とやりたいのか自分のやりたいのかもはや分からない。そして、また庶民呼ばわりである。

 

「あの海野幸子と仲良くしているのもそうですが……何より私も魔法使い族デッキ使いですのよ。なら、白黒付けてみたくなるのがデュエリストですわ」

 

 互いにデュエルディスクを構える。

 モニターの部分にコイントスが出て、自分の後攻を告げる。

 

「「——デュエル」」

 

「私のターン、ドロー!」

 

 手札を確認する。いつも通り初動から動ける手札ではある。

 

「私は《ディメンション・コンジュラー》を召喚ですわ! そして効果発動! デッキから《ディメンション・マジック》を加えますの」

 

 最初の流れは取られてしまった。

 

「カードを二枚セット。ターンエンド」

 

【メイ喜多嬉の手札:四枚】

 

「自分のターン」

 

 さて、どちらか一枚は確実に《ディメンション・マジック》だろう。つまり、こちらがモンスターを出そうが必ずリリースされることになる。たとえ破壊耐性を持っていようが墓地行きだ。

 

「自分は手札の《魔導書廊エトワール》《魔導書院ラメイソン》《グリモの魔導書》の三枚を見せて、《魔導法士ジュノン》を特殊召喚」

 

 魔法陣が現れるとそこから桃髪の魔導士が現れる。

 

「いきなり上級モンスターが出て来ましたわね……ただ、あなたのデッキがそういうものであることは既に知っていますわ! 速攻魔法発動、《ディメンション・マジック》! 《ディメンション・コンジュラー》をリリースして《魔導法士ジュノン》を破壊!」

 

 二体のモンスターが人型の拷問具のようなもので囲まれる。

 まさに生贄のようになってしまったが働きは大きい。

 

「そして手札から魔法使い族を特殊召喚ですわ! 私が召喚するのは————《ブラック・マジシャン》!」

 

 会場が湧いた。とてつもない歓声だ。

 あの伝説のデュエリスト——武藤遊戯のエースカードにして最上級モンスター。希少価値の高いカードとも知られ、売りに出されたら金持ちやコレクターが大枚を叩いて取引をする。

 かつて、病弱な妹を持った兄が偶然当たった《ブラック・マジシャン》をオークションに出した。直ぐに入札価格は跳ね上がり、最終的には医療費どころか向こう数十年は何もしないで暮らせる現金と落札した資産家から高級邸宅がプレゼントされたらしい。

 一先ず言えるのはそれ程まで影響力のあるカードということだ。

 

「フィールドから墓地に送られた《ディメンション・コンジュラー》の効果発動。魔法使い族のモンスターの数だけドローして、その後その枚数だけデッキの一番上に戻す」

 

 《ブラック・マジシャン》……アレのみならばただの通常モンスターだ。だが、近年愛好家たちの突き上げでも喰らったのかサポートカードが豊富に出されている。もちろんそれも高価なため、超成金か最上位クラスのプロデュエリストくらいしか作らないと思っていたがまさかのアカデミアにいたとは。

 

「《魔導書廊エトワール》を発動。このカードは魔導書と名の付く魔法カードをプレイするたびに魔力カウンターが乗り、自分の場の魔法使い族の攻撃力を×100上げる。

 《グリモの魔導書》を発動。《セフェルの魔導書》をサーチ。そのまま手札の魔導書を見せて効果発動」

 

 魔力カウンターが二枚乗る。

 最後に持って来たのは《ゲーテの魔導書》だ。

 

「【魔導書院ラメイソン】をセット。モンスターをセットしてターンエンドだ」

 

【一月竜胤の手札:三枚】

 

「随分消極的なのですね。私のターン、即ちドロー!」

 

 引いたの先ほど戻した一枚だ。

 

「永続魔法《黒の魔導陣》を発動ですわ! デッキトップから三枚めくり、その内に《ブラック・マジシャン》と記された魔法・罠を手札に加える」

 

 めくられたのは《永遠の魂》《イリュージョン・マジック》《騎士の称号》。

 

「《騎士の称号》を加え、発動! 《ブラック・マジシャン》をリリースしてデッキから《ブラック・マジシャンズ・ナイト》を特殊召喚!」

 

 何処からともなく剣と盾が飛んでくる。それを手に取った《ブラック・マジシャン》が光り輝くと騎士鎧を纏った戦士がいた。

 

「効果発動ですの! 《魔導書院ラメイソン》を破壊!」

 

 手札補充を潰されたか。

 

「バトルですわ! 《ブラック・マジシャンズ・ナイト》で裏守備モンスター攻撃!」

 

「破壊されるのは《魔導書士バテル》だ。リバース効果発動。デッキから《魔導書庫クレッセン》を手札に加える」

 

「私はこのままターンエンド」

 

【メイ喜多嬉の手札:三枚】

 

「ドロー……手札より《ゲーテの魔導書》を発動。墓地の三枚の魔導書を除外してセットカードを除外する」

 

「……除外されるのは《黒魔族復活の棺》ですわ」

 

 しっかりモンスター対策もしていたわけだ。

 

「《魔導書庫クレッセン》を発動。デッキから三枚の魔導書カードを選び、相手に見せる。その後相手が選んだ一枚を手札に加えて残りはデッキに戻す」

 

 自分が選ぶのは《グリモの魔導書》、《アルマの魔導書》、《ネクロの魔導書》だ。

 

「《ネクロの魔導書》を選びますの」

 

「分かった。手札に加え、《マジシャンズ・ソウル》の効果を発動。デッキから《混沌の黒魔術師》を墓地へ送り、特殊召喚」

 

 青い魔法使いが現れる。

 

「《ルドラの魔導書》を発動。今特殊召喚した魔法使い族を墓地に送って二枚ドロー」

 

 お、良いカードが来た。

 

「手札の《アルマの魔導書》を見せて《ネクロの魔導書》を発動。《マジシャンズ・ソウル》を除外——」

 

「く、来るのですわね! 私が持っていない黒魔術師!」

 

 む、そうなのか。良いことを聞いた気がする。

 

「蘇れ《混沌の黒魔術師》」

 

【《混沌の黒魔術師》ATK2800→3500(魔導書廊エトワールの効果)

 

 ソリッドヴィジョンが空間の歪みを作り出す。その隙間からは杖、特徴的な頭の飾り、真っ黒な鎧……喜多嬉が言った通り、黒魔術師が召喚された。

 

「すげぇ、《ブラック・マジシャン》と《混沌の黒魔術師》だって!」

 

「さすがオベリスクブルー。良いカード持ってるなぁ」

 

「ブルーは天上院と万丈目が目立ちだが、やはり他の生徒もレベルが高い」

 

 残念ながら《黒の魔導陣》を破壊する手が今は無い。

 

「バトルだ。《混沌の黒魔術師》でモンスターに攻撃」

 

【メイ喜多嬉のLP:8000→7000】

 

「そして、【混沌の黒魔術師】に破壊されたモンスターは墓地に送られずに除外される」

 

 本当ならば《ブラック・マジシャン》を除外したかったのだが。

 そして、メインフェイズ2に移行して《アルマの魔導書》を発動する。加えたのは《魔導書院ラメイソン》でそのままセットしてエンドフェイズ。《混沌の黒魔術師》によって再び《ルドラの魔導書》を回収した。

 

【一月竜胤の手札:二枚】

 

「地味に攻撃力アップが痛いですわ……私のターン!」

 

 彼女はドローカードを確認する。そして小さく口角を上げるとそのまま発動した。

 

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを墓地に送ることで儀式モンスターを儀式召喚する。《ブラック・マジシャン》と《千眼の邪教神》を墓地に送ることで——《マジシャン・オブ・ブラックカオス》を召喚!」

 

 おいおい、それはロマン枠ではないのか。だが、嫌いではない。

 似てるようで似ていない二体のモンスターが向かい合う。

 両者共に最上級モンスターであり、言い知れぬ迫力を醸し出している。

 

「そちらが強化されているなら、こちらも強化ですのよ! 《黒魔導強化》を発動! 墓地に《ブラック・マジシャン》がいることにより、攻撃力を1000アップですわ!」

 

【《マジシャン・オブ・ブラックカオス》ATK2800→3800】

 

「このままバトルフェイズ、即ち攻撃! 『デス・アルテマ』!」

 

 こちらの《混沌の黒魔術師》も同じ技を繰り出すが、向こうの魔術に呑まれてしまう。

 

【一月竜胤のLP:8000→7700】

 

「ターンエンド、ですわ」

 

【メイ喜多嬉の手札:0枚】

 

 さて、次のターンでどこまで削れるのかが勝敗の分かれ目になりそうだ。

 

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