黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第47話

 

「ふふん。デュエル♫ デュエル♫」

 

 機嫌良さそうにキッチンに立つのはティルルだ。尻尾もゆらゆらと揺れ、余程なのか肩でもリズムを取っている。

 

「やっとウチの出番なんすねぇ。ズバッと格好良いとこ見せちゃいますからねー!」

 

「っ! っ!」

 

 パルラとラドリーもテンションが上がっているが、それ以外の面面はいつも通りだ。

 あの日、自分は天上院からの挑戦を受けた。

 デュエリストなら一度負けた相手に勝とうと試行錯誤するのは当たり前で、八雲プロや幸子、メイも自分とデュエルした後は「リベンジ」という言葉を持ち出した。

 負けたい相手に勝ちたいという気持ちは分かる。

 だが、その後の言葉が問題だ。

 

『あのときのデッキでデュエルして欲しいの』

 

 つまり——ドラゴンメイドだ。

 魔導書ならば良かった。

 だが、白いカードも黒いカードも青いカードも、手札誘発も万全でないこの世界で使うには強過ぎるのだ。むろん、自分とて驕るつもりはないのだが、少なくとも大州チャンピオン引退直後の母親にも無敗と言えばその強さが分かるだろう。

 

「どうかされましたか?」

 

 膝を貸りていたハスキーを下から眺めていると尋ねられる。ちなみに顔は見えていない。透視していたのだ。

 改めてドラゴンメイドの強みを思い出したわけだが、それでも油断は出来ない。相手が《ブラックホール》三積み、《サンダーボルト》三積みのようなとんでもデッキ、バスターブレイダーデッキならば彼女たちにも敗北があり得るのだから。

 敗北の可能性は無限にある。

 だが、その無限にある敗北の中で確実に勝利を掬うのがデュエリストだ。掬われてはいけない。

 

「ちなみにハスキーは久しぶりのデュエルでどう思っている?」

 

「胸が躍る気分でございます」

 

 うーむ、それは確認してみなければならないな。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「聞きましたわよ、竜胤。期末試験は天上院さんが相手になるそうですね」

 

 昼食時(どき)。自分は幸子に誘われて食堂にいた。自分は弁当を食べており、彼女たち(・)は食堂を利用している。

 

「みたいですわね。女子で一番とされている天上院さんとあなた。良いデュエルになりそうですわ」

 

 そしてもう一人、中間試験で戦ったメイも昼食のメンバーに入ることとなった。

 

「一応、リベンジマッチになるようだ」

 

「それも聞きましたわ。中等部の頃に負けた、と。クールな印象を受けましたが意外と熱い人ですのね、彼女」

 

「みたいだ。その噂はどこまで広がっているんだ?」

 

「さぁ、私が聞いたのは寮での点呼のときですから……ブルー生は知っているんじゃないかしら」

 

 変な噂になるのは避けたい。変に注目されるのも苦手だからだ。

 

「露骨に面倒臭さそうな顔をしていますわね。まぁ、私たちといれば変な絡み方はされないでしょうから大丈夫ですわ」

 

 時折忘れてしまうが、幸子もメイも大企業のご令嬢だ。

 幸子の両親は西日本全海域の海運業を司る貿易会社で、最近ではインド洋の方まで手を伸ばし始めたらしい。その影響力は「海運は取り敢えず海野に任せておけば問題ない」と言われるほどで、政府御用達の荷運びなんかも通されるとのこと。

 対してメイは父親が元々欧州で陸運業を立ち上げ、日本で母親と出会ってからはあっという間に大企業まで伸し上げた実力者だという。かつて中国が掲げた一路一体構想というものを欧州〜北アフリカで成し遂げ、宝飾業界も含め幅広い分野で活躍している。

 広さ的な規模感はメイの方があるが、日本は島国。入ってくる物も多ければ出ていく物も多いということで両社の資産価値的なものは互いに変動しているようだ。

 そのため、比較的良家の出が多いブルー生でも二人に比べると見劣りしてしまう。

 下手に嫌われるとどうなるか分からないため、メイも自分と幸子に関わるまでは一人の時間の方が多かったようだ。

 

「天上院さんはブルー女子で一番強いと言われるだけあって、強敵ですわよ? デッキ調整は出来ているんでしょうね?」

 

「問題ない。デッキ調整自体は毎晩寝る前にしているからな」

 

「竜胤、マメな人! ですが、だからこそ強いのでしょうね」

 

 毎晩カードを入れ替えているわけではないが、広げて考えることは欠かさないようにしている。

 

「彼女のデッキは縦横無尽さが売りのサイバー・エンジェルデッキ。一度でも体勢を崩されれば竜胤の魔導書デッキでは立て直しが難しいかも知れませんわね」

 

 サイバー・エンジェルは儀式モンスターを主軸としたカテゴリだ。儀式魔法も豊富で、儀式モンスターもそれぞれが強力な効果を持つ。メイの言った通り厄介なのは縦横無尽なところ。バトルフェイズ中の二回攻撃、効果破壊、守備貫通、強制墓地送りにより破壊耐性のあるモンスターも処理出来たりと全方面で強い。

 癖も強いデッキなので、それをしっかり操る天上院のスキルも相当なものだろう。

 

「今回は魔導書デッキは使わない。天上院から交流戦のときに使用したデッキを使って欲しいと頼まれたからな」

 

「えっ? ——竜胤! あなた二種類のデッキを持ってるんですの?」

 

「てっきり魔導書デッキだけだと思ってましたのに……」

 

「ああ。そちらは滅多に使わないデッキだがな」

 

 幸子とメイが口をパクパクとさせている。淑女足らんとしている彼女たちからすれば珍しい表情だ。

 

「先に言っておくがどちらの方が強いとかは無いぞ。昔は魔導書デッキの完成度的に次に使うデッキの方が強かったが、今はそう変わらない」

 

「うーん、安心したような微妙な感じですわ。リベンジしようとするデッキが二軍と言われたら恥ずかしいですもの」

 

 継戦力は間違いなく魔導書デッキにある。ドラゴンメイドは初ターンから制圧する短期決戦型デッキのため、耐え切られたら割と厳しいものがある。まぁ、そうさせないのが自分の役割なのだが。

 

「そんなに使ってないのでしたら私たちとやっておきます?」

 

「ありがたいが、大丈夫だ」

 

「そうですか。ただ、いつかそちらでもデュエルしてみたいですわね」

 

「機会があれば出来るだろうさ」

 

 そう言ったものの、メイドたちには相手をして貰う予定だ。

 

「面白いデュエルになりそうですわねぇ」

 

 面白いデュエル、か。面白くなれば良いのだが。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 期末試験がやって来た。例の通り学力試験は問題無く、復習する程度なので上から十番位に入っているか入っていないかくらいだろう。頑張れば一位を狙えるか……は怪しいか。

 前の世界で大学を卒業してはいるが、この世界の学習範囲と僅かなズレが存在する。特にそれが顕著なのは歴史で、度々デュエルモンスターズに関する問題が出てくるのだ。後はその起源であるエジプトのカード文化など。そういった部分は小等部の頃、武藤遊戯について書かれた本や、穿った見方をした面白いコラムを利用して学んでいた。

 学力試験の一位は総合でラーイエローの三沢という生徒で、二位が天上院だ。

 一位に至っては殆どの教科が満点、そして天上院もそれに追随するほどなのでトップを狙うなら本腰を入れて勉強しなければならないだろう。

 

『少々見物客が多いようですね』

 

「相手の天上院は人気だ。精々、勝者特権を用いてまで戦いたい相手を見に来たんだろうさ」

 

 自分の順番が来るまで観客席に居たが、生徒たちはそれぞれ自身の試験が終わっても帰る様子が無かった。時たまに向けられる視線から自分と天上院のデュエルが気になるのだろう。

 そこには天上院が選ぶほどの男、という勘違いした好奇心もありそうだが。

 それに噂になっているのは自分だけではない。

 

「自分たちの後に退学を賭けたデュエルもあるらしいからな」

 

 もちろんこれも背後にいるメイドたち調べだ。本当にいつ収集して来ているのか。

 まぁ、ともかく。今は天上院のことだけを考えよう。

 

『フィールド番号11番。一月竜胤さんと天上院明日香さんは前に出て下さい。なお、このデュエルはお互いにオベリスクブルーであるため、昇格に関する事項はありません。ただ、内容によっては降格もありますので全力を尽くしたデュエルをするように——セット』

 

 デュエルディスクを構える。

 正面に立つ天上院の瞳は闘志に揺れている。

 

『デュエル開始』

 

 と、同時。ディスクに先行・後攻を決める機械音が鳴る。

 赤いランプが点いたのは……天上院だ。

 

「私のターン、ドロー! 私は手札から《強欲な壺》を発動!」

 

 初ターンから流れを取りに来たな。

 

「二枚ドローして、《宣告者の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)》を召喚」

 

 あのモンスターは天使族の儀式デッキには必須のカードだろう。デッキから自由に天使族を墓地に落とすことが出来るかつ、その分レベルも上がるため儀式要員として場に残ることもない。

 

「私がデッキから墓地に送るのは《サイバー・エンジェル—荼吉尼—》。よって、レベルは10になるわ」

 

 これで儀式召喚の準備が整ったか。

 

「《機械天使の儀式》を発動! 場の《宣告者の神巫》をリリースし、《サイバー・エンジェル—伊舎那—》を儀式召喚!」

 

 フィールドに祭壇が現れると、そこに《宣告者の神巫》が歩いて行く。燃えていた炎が強くなり、陽射しが差すように光り輝くと青肌の武女神が立っていた。

 

「まだ終わらないわ! 手札より《儀式の下準備》を発動。デッキから加えるのは《サイバー・エンジェル—那沙帝弥—》。その後、墓地の《機械天使の儀式》も加える。そして発動! 手札の《サイバー・チュチュボン》を墓地に。召喚するのは《サイバー・エンジェル—那沙帝弥—》!」

 

 今度は上半身が女神、下半身が馬になったモンスターが現れる。こちらは守備表示だ。

 

「《サイバー・エンジェル—那沙帝弥—》の効果発動。自分フィールドのモンスター一体を選択して、その攻撃力の半分の数値を回復する。私が選択するのは《サイバー・エンジェル—伊舎那—》」

 

【天上院明日香のLP:8000→9250】

 

「永続魔法《応身の機械天使》の発動、そしてカードを一枚セットしてターンエンドよ」

 

【天上院明日香の手札:〇枚】

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

「最初から飛ばしているようだな、明日香君は」

 

「へへ、リベンジなんだろ? じゃ、臆さずこうこなくっちゃ」

 

「でも手札が〇枚っすけど、大丈夫なんすか?」

 

「それは問題無いだろう。元々儀式召喚を多用するデッキは手札が枯渇しがちだ。だからこそドローカードを豊富に入れているだろうし、一枚から動けるようなサポートカードも揃っている」

 

「そういえば兄貴とやったときもカード一枚から儀式モンスターが二体出て来ましたよね」

 

 とある一件により十代と明日香はデュエルしている。そのときは十代が勝利したものの、サイバー・エンジェルに苦しめられたようで、最後のターンが凌ぎ切られると逆転もあったような攻防の激しいデュエルになった。

 

「だが、そんな彼女が挑む相手なんだ。生半可な相手じゃないんだろう……」

 

 三沢は明日香の対戦相手を見る。仏頂面さえも感じる顔立ちだが、その表情の中に怯えは無い。十代のように分かりやすく楽しんでいるわけでもなければ、淡々と向かい合っているような印象だ。

 未知のカードを使うデュエリスト。

 他の人も使っていないのならば、その構築は一から組み立てたものだろう。デッキ構築が趣味の一つである三沢はいつか話してみたいと思っている。ただ、よく居る二人のひととなりが分からぬため尻込みしている状況なのだ。

 どこからか彼を睨む激情の視線に気付かぬまま、三沢は目の前のデュエルに集中するのだった。

 

 

 

 

 

四、

 

 

 

 

 

「自分のターン、ドロー」

 

 初手は悪くない。むしろ、完璧だろう。

 

「手札から《天使の施し》を発動。三枚ドローして二枚を墓地に捨てる」

 

 捨てたのは《ドラゴンメイド・チェイム》と《ドラゴンメイド・ルフト》だ。

 

「待って! 《天使の施し》にチェーンして発動! ——《ドラゴン族・封印の壺》!」

 

 おっと、メタ過ぎるカードが来てしまった。このタイミングで発動したということはあのカードの効果を覚えているのだろう。

 しかし、

 

「自分の場に表側のカードが無いため、《ライトニング・ストーム》を発動。魔法・罠とモンスターが選べるが、自分が選択するのは魔法・罠だ」

 

 普通に強カードである。

 

「……っ」

 

 雷が天上院のカードを破壊する。

 正直、《ドラゴン族・封印の壺》より《応身の機械天使》の方が面倒だった。

 

「手札から《ドラゴンメイドのお召し替え》を発動。手札の《ドラゴンメイド・パルラ》と《ドラゴンメイド・ティルル》を融合」

 

『ちょっ、ちょっと何でよりによってコイツなのよ!』

 

『コレもしかしてウチ素材にしかならない奴じゃないっすか!』

 

 喧しい二人の足元に渦が開き、吸い込まれていく。やがてそこから紫色の光が生まれると淑と立つメイドがいた。

 

『こういった場に出るのは久しぶりですね』

 

「頼むぞ。ハスキー」

 

『お任せ下さい』

 

 次のカードを使おうとしたとき、観客席で騒いでいる生徒が見えた。オシリスレッドの制服に茶髪のあの生徒は以前話していた遊城だ。彼も精霊が見えるらしいので今のやり取りに気付いたのだろう。《ハネクリボー》と一緒にこちらへ指を差していた。

 

「手札から《ドラゴンメイド・ナサリー》を通常召喚」

 

『頑張るわね』

 

「召喚時の効果により墓地からレベル4以下のドラゴンメイドモンスターを特殊召喚出来る。来い、《ドラゴンメイド・チェイム》」

 

『可愛い子が相手だわぁ』

 

「チェイムの効果によりデッキから《ドラゴンメイドのお出迎え》を手札に加え、そのまま発動」

 

 このカードの効果はフィールドのドラゴンメイドの数×100、自分フィールドのモンスターの攻守が上がる。さらに一ターンに一度、ドラゴンメイドモンスターが二体以上いる場合はこのカード以外のドラゴンメイドカードを墓地から手札に加えることが出来る。

 

「手札より《ドラゴンメイドのお心づくし》を発動。墓地から《ドラゴンメイド・ティルル》を特殊召喚し、デッキから《ドラゴンメイド・フランメ》を墓地に送る。続けて墓地の《ドラゴンメイドのお召し替え》の効果発動。場のナサリーを手札に戻して回収する」

 

 たとえ手札が〇枚になろうとも、自己バウンスでメイドたちは帰ってくる。これが彼女たちの強みの一つだ。

 ナサリーはフィールドから自分の横に移動する。

 

「そして、ナサリーが手札に戻って来たことによりハスキーの効果発動。フィールドのモンスターを一体破壊する。対象は《サイバー・エンジェル—那沙帝弥—》」

 

「墓地の《機械天使の儀式》の効果発動! このカードを除外することで破壊を免れるわ!」

 

 ハスキーの尻尾が伸びて相手のモンスターを襲うが、白いオーラを纏って跳ね返した。

 

「む……」

 

 次に出すつもりだったカードは決めていたのだが、その動きが止まる。自分はてっきりハスキーが破壊されると思っていたのだ。

 何か狙いがあるのか、それとも——。

 しかし、好都合でもあった。

 

「バトルフェイズ」

 

 天上院が身構える。

 記憶力の良い彼女のことだ。世間一般に広まれば間違いなくアイドルカード認定される彼女たち——ドラゴンメイドの本当の姿を覚えているのだろう。

 

「チェイムの効果を発動。このカードを手札に戻し、墓地から《ドラゴンメイド・ルフト》を特殊召喚」

 

『経由のされ方が何か嫌なんすけど……』

 

 おや、パルラは今こっちに入っているようだ。

 

「さらにティルルの効果発動。ティルルもまたバトルフェイズ時に真の姿を表す」

 

『やったー! 私はちゃんとした変身よ!』

 

『変身というか変態の間違いでしょ』

 

『グルルルッ!』

 

 あぁ、またティルルが唸っている。

 

「そしてハスキーの効果を発動。場のドラゴン族モンスターが自分の手札に戻ったことにより相手のモンスターを破壊する。対象は再び《サイバー・エンジェル—那沙帝弥—》」

 

 ハスキーの効果は回数制限が無い。彼女がフィールドに存在するだけで、ドラゴンメイドたちが真の姿を表すたびに破壊を齎すのだ。

 

「……く」

 

 今度こそ破壊される……ふむ。

 

「続けて《サイバー・エンジェル—伊舎那—》を破壊」

 

 三度(みたび)、尾が薙ぎ払われて天上院のフィールドは更地と化す。

 彼女のLPは9250だが、こちらの攻撃力は《ドラゴンメイドのお出迎え》によって上がっている。

 

【《ドラゴンメイド・ハスキー》ATK:3000→3300】

【《ドラゴンメイド・ルフト》ATK:2700→3000】

【《ドラゴンメイド・フランメ》ATK:2700→3000】

 

「では、効果処理を終えてバトル続行だ。《ドラゴンメイド・フランメ》でダイレクトアタック」

 

【天上院明日香のLP:9250→6250】

 

「《ドラゴンメイド・ルフト》でダイレクトアタック」

 

『この超風神速ウインドタイフーンハリケーンスラッシュキャノ——』

 

『うるさいわねぇ』

 

 今にも光線を吐き出さんとしていたパルラが竜化したティルルの尻尾により突き押されて、そのまま天上院に覆い被さるように倒れて行った。

 ソリッドヴィジョンといえど怖そうだ。

 

【天上院明日香のLP:6250→3250】

 

「これで最後だ。ハスキー、ダイレクトアタック」

 

『では、この形態ではしたなくはありますが』

 

 そう言いながらハスキーは口を開ける。

 ドラゴンとなっているときならば分かる。しかし、人型でもそっちなのかと最初は思ったものだ。

 咥内から紫光が溢れ、辺りを照らしていく。

 彼女の姿すらシルエットに消えて行くと、前二体と比べ物にならないほどの光線が天上院の身を包んだ。

 

「きゃあああ!」

 

 悲鳴を上げるのも仕方ないと思う。

 あくまでヴィジョンだが、驚いて尻餅を付いた天上院のLPが0となる。

 

【天上院明日香のLP:3250→0】

 

『フィールド番号11番のデュエル終了。結果は中間試験同様、追って渡されます。両者、退場を』

 

 ソリッドヴィジョンが消えていくが、ハスキーたちは精霊化したまま残っている。

 ハスキーに至ってはハンカチで口の端を拭いているが何を拭いているのだろう。というか一体何が出たのだろうか。後、活躍させらなかったラドリーについては後日しっかり埋め合わせするので今はナサリーに任せておこう。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ。また同じような負け方をして悔しいけれど……」

 

 手を差し出すと今度は握ってくれる。そのまま立たせると彼女にだけ聞こえる声音で言った。

 

「今から自分の部屋に来ないか?」

 

「あ、あなたの部屋に……?」

 

「今のデュエルの見直しを行いたい。休憩スペースでも良いが、好奇な視線は苦手だ。自分が天上院の部屋に入るのは駄目だろう? 他の場所があるなら構わないが……」

 

「そういうことね…………まぁ、海野さんと喜多嬉さんと仲が良いあなたなら変なことはしないでしょうし」

 

 あの二人に変なことをすれば文字通り首が飛ぶだろう。

 

「分かったわ。お邪魔させて貰うわ」

 

「では、早速向かおう」

 

 今にも遊城がこちらに来る勢いなので行動は迅速に、だ。

 

 

 

 

 

六、

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

 寮は洋室だが全て土足厳禁になっている。

 天上院が靴を脱いでいる間に自分は先にキッチンの方へと向かいお茶を用意する。

 

『これと、これと、これね』

 

「助かる」

 

 ティルルにはハスキーの次に、もしくは匹敵するくらい助けられているかもしれない。特に幸子とメイが部屋に遊びに来るようになってからはかなりだ。

 また今度お礼をしなければならない——そんなことを考えていると天上院がやって来た。

 

「こんなことを言うのも失礼だけど、綺麗にしているのね」

 

 まぁ、男子の一人暮らしなら洗い物が溜まっていたり洗濯物が転がっていたりするものだろう。それはレッドもイエローもブルーも同じで、月に一回は寮監によるチェックが行われる。一応、ブルーは週に一回掃除を頼むことも出来るので、大抵引っかかる生徒は居ないとのこと。

 

「……私の部屋より綺麗かもしれないわね」

 

 埃一つ落ちていない部屋の隅を見て彼女は言った。

 毎日掃除をして貰っているおかげである。

 テーブルの上に一口サイズのビスケットと紅茶を置いて、紅茶はカップに注ぐ。メイドたちの見様見真似に過ぎないのだが、飲んだことのある幸子やメイは美味しいと言ってくれる。当然、そのときは自分で自分のものを飲むのだが、彼女たちの淹れてくれた紅茶とは雲泥の差とも言って良かったほどだ。

 葉の蒸らし、ティーポットにお湯を入れるまでは彼女たちが用意しているため全く同じなのに何故なのか。不思議なものである……ともかく、天上院からも良評価な感想は貰い、本題に入ることとした。

 

「良ければデッキを見せて欲しい」

 

「かまわないわよ」

 

 スプレッドで広げられたサイバー・エンジェルデッキを見る。

 断りを入れ、儀式モンスターだけ前に出した。

 デッキはデュエリストの魂であり、どれだけ仲が良くとも勝手に触れると怒りを買う可能性がある。

 儀式モンスターは五種類。対する儀式カードは二種類が三枚ずつ入っている。

 

「今年に入って組み立て直したデッキだろう?」

 

「やっぱり分かるのね……」

 

 元々サイバー・エンジェルはカードが少なく、プロの世界に至っては使用者を寡聞にして知らない。しかし、進学試験のすぐ後に出た新弾パックで新カードが大量に増えたため注目され始めたシリーズなのだ。当初にはサイバー・ガールズという呼ばれ方だったものがサイバー・エンジェルとなり、サポートカードも充実し始めた。装備魔法も駆使していたが儀式特化となり、これからに期待の掛かる新星である。

 だからこそ、今日のデュエルが気になった。

 

「自分が最初にハスキーの効果を使ったとき、自分はハスキーが破壊されると思った。どうしてか分かるか?」

 

「破壊……」

 

 呟きながら、彼女は先ほどと同じフィールドを作った。

 モンスターは《サイバー・エンジェル—伊舎那—》と《サイバー・エンジェル—那沙帝弥》の二体。どちらも強力な効果を持つ。

 そして、天上院に言ったように自分はハスキーは一度破壊されると思っていた。だからこそ《ドラゴンメイドのお召し替え》を手札に加え、再び融合召喚が出来るようにしたのだ。

 

「あっ、そう言うことね……もうっ、簡単な話じゃない!」

 

 天上院は悔しそうに眉を顰めた。

 

「サイバー・エンジェル儀式モンスターを対象に相手が何らかの効果を発動したとき、《サイバー・エンジェル—伊舎那—》は自分の墓地の儀式モンスターをデッキに戻してそのカードを破壊出来る。無効化は出来ないけど、少なくともバトルフェイズの破壊は抑止出来たということね」

 

「そうだ。だから、自分は次のターンまで考えていた。だが、そうしなかった——」

 

「恥ずかしいわね。こんな初歩的なミスをするなんて……リベンジに逸っていたのかしら」

 

「そこは反応し辛いが、デッキを試行する回数が少なかったのは事実だろう。間違いなく天上院のデッキは強くなっている。あのときよりも」

 

「内容まで覚えているの?」

 

 《サイバー・ブレイダー》は使いようによっては強いが、自信満々に攻撃表示で立たされてもより強い火力で押せば済む。それに効果破壊やバウンスに耐性を持たないのでやり用はいくらでもあるのだ。

 

「あのときも同じ方法で破壊されたのよね」

 

 やはりハスキーは強い。アレでまだ変身段階を残しているのだからとんでもない。

 

「それと《ドラゴン族・封印の壺》だが、あれは最初から入れない方が良かったな」

 

「う、それは言わないでちょうだい。直前の対策だったのよ」

 

「中々それに頼るのは難しいところがあるな」

 

 あれを入れるならばデッキ枚数を減らしてサイバー・エンジェルが回るようにした方が格段に良い。

 しかし、それを思っても口には出さない。

 彼女の表情的にそれも理解していたのだろう。

 

「天上院は——」

 

「明日香で良いわ。親しい人はみんなそう呼ぶから」

 

「なら、自分のことも竜胤で良い」

 

 名前を交わし、その後は雑談を楽しんだ。

 彼女は他の女生徒に頼られることが多いようで、多くて日に数度の相談を受けることもあるという。適当に答えるわけにもいかず、どうしても時間を取られてデュエルに向き合う時間が減ってしまう。当人はデュエル漬けの日々を送りたいくらいなのだが、しかしそういった人との繋がりも大切にしたいようだ。

 

「廃寮であなたに助けられたときは言わなかったけど、あのときの私の目的は兄さんの使っていた部屋に行くことだったの」

 

「兄の……?」

 

「ええ。名前は天上院吹雪。騒がしい人だったけれど、人と関わることが苦手な私を色んなところに連れて行ってくれた人なの」

 

 だが、あるときを境に行方不明になったのだと言う。

 

「カイザーは知ってるでしょ?」

 

「丸藤先輩のことだな」

 

「兄は彼と同じ学年だったの。そのときは廃寮も特別成績者の寮として使われていて、残りの一人も含めて三人で生活していた」

 

 ということはあそこが廃寮になってから三年も経っていないのか? それにしてはあの廃れようだが、何があったのだろう?

 

「一番最初にいなくなったのはカイザーや兄さんじゃなかった。でも一人がいなくなって、追うように兄さんもいなくなった。初めはカイザーを疑うような声もあったらしいわ。ただ、彼はデュエリストとしての姿を見せ続けてその噂を払拭した。

 そうして出来たのが、人が行方不明になる廃寮の都市伝説なのよ」

 

「手掛かりは見つけたのか?」

 

「いえ。あの日部屋にあったのは兄さんの自撮り写真だけよ。本当、自分が好きなんだから」

 

 そっぽを向くように言った彼女の目尻には涙が溜まっていた。

 不意に膝に感触がしたため視線を下げると白いハンカチが乗っていた。

 ハスキーが気を利かせてくれたようだ。

 

「良かったら使ってくれ」

 

「ありがとう。そんなつもりじゃなかったのに」

 

 自分も前の世界で祖父母が亡くなったときは成人していたにも関わらず周囲が引くほど号泣したものだ。

 行方不明ならば、亡くなったとは限らない。

 それでも生きていると信じて探すのは彼女が強い心を持っているからだろう。

 

「……私の話は以上よ。あなたがあそこで何を探していたのかは聞いても良いのかしら?」

 

 難しい質問が飛んで来た。

 「闇の気配がして」などと答えれば直ぐに彼女は一歩引いたところで自分を見てくるだろう。誤魔化しても良いが、先の話を聞いてそれが出来るほどの毛は心臓に生えていない。

 さて、どう答えたものか。

 

「……どう言えば良いのか分からないが……まぁ、その、気配のようなものをだな。感じて歩いて行ったら廃寮があったわけだ……」

 

「……そう」

 

 深く考えるような素振りをする。これはどっちなのか。付き合ってくれているような感じさえする。

 

「もしかして、あなたもカードの精霊とやらが見えるのかしら?」

 

 おっと、核心的に近い。しかし、自分が何か言うよりも前に彼女は続ける。

 

「いえ、十代も同じようなことを言っていたのを思い出したのよ。《ハネクリボー》の精霊が見えるなんて言ってね」

 

「……あの伝説のデュエリストもそういったものが見えたのではないか、と聞く。往々に否定は出来ないのかも知れないぞ」

 

「ふふっ、竜胤も意外とファンシーなところがあるのね」

 

 一言で片付けられてしまった。

 

「そろそろ会場に戻るわね。ジュンコとももえのデュエルも終わってるだろうし」

 

「そうか。送って行こう」

 

「大丈夫に決まっているでしょう? いつも通っている道なんだから」

 

 む、それもそうか。

 「ハンカチは洗って返すわ」と言って彼女のポケットに仕舞われた。

 

「デュエリストとしてやっぱり負けっ放しは許されないわ。今度はより洗練して挑むから、またリベンジを受けてくれるかしら?」

 

「もちろんだ。そのときを楽しみにしている」

 

「そう、ありがとう。ビスケットも紅茶も美味しかったわ……それにしても意外な趣味ね。購買では売ってなかったけれど」

 

 彼女が去った後、実体化したメイドたちと軽い祝勝会をした。別にやらなくとも良かったのだが、それぞれが感想を言い合っているとそうなったのだ。

 途中、またもやパルラが下世話なことを言ったが……Hか。つまり、100を超えているということだ。ティルルより僅かに大きい。

 強く頭を振って、煩悩を吹き飛ばすのであった。

 

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