黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19) 作:神の筍
期末試験を終え、アカデミア最初の夏と夏休みを迎えようとしている。
どうやらアカデミアの存在する島は梅雨の影響をあまり受けないようで、そこまで雨の日が多いとは感じなかった。しかし、それでも台風は我関せずとやって来るので登校に億劫な日はあったが……ともかく、一学期が終わろうとしていた。
「竜胤はまたあのオシリスレッドに狙われてたんですの?」
「あのオシリスレッド」とは遊城十代のことである。
「今朝も何とか撒いてきた」
「大変ですのねぇ」
明日香との一戦以来、やはり勝ち方にもインパクトがあったのか外を歩いているだけでも視線を向けられることが多くなった。それだけならまだ耐えられたものの、中にはドラゴンメイドを狙ってアンティルールを企てていたりと一定数面倒臭い生徒もいる。基本的に幸子やメイといるので挑んで来ることはないのだが、一人で歩いているときを狙って近付いて来た場合はチェイムの力を借りて姿を隠したりと事態が落ち着くのを待っている。
そういった中でも特に情熱的なのが遊城で、最近は連日寮前で張られている。
「週末には一先ずこの島ともおさらばだからな。暫く考えなくて良い」
メイとのデュエルで《ブラック・マジシャン・ガール》を召喚した翌日も似たようなものだった。今回は本島に帰るという確実な冷却期間があるためマシである。
余談だが、休み自体はもう始まっていた。
期末試験は当然三学年が受けるのだが、一日で全生徒とは行かない。夏休み前の土日を除く丸五日で一年生から順番に受けるため、自分たちは残りの期間は実質的に休みとなるのだ。
「そう、ですものね。本島に帰るんですから……はぁ」
「……」
珍しく幸子の歯切れが悪い。少し前までは両親に会えると帰省を喜んでいたのだが、何かあったのだろうか?
「気乗りしていないようだが?」
「そう見えます?」
「見えるな」
自分の部屋で幸子と帰省前に会っていたのだが、この部屋に来てから既に五回ほどため息を吐いている。一瞬、自分が何かしたのかと思ったがそうでもない様子。「帰省」という単語が出るたびに息が漏れ出ているのだから、原因は察するに容易い。
「……両親の決めた婚約者と会うことになったんですわ」
「今時、と思ったが君はそういう世界に生きていたな」
「ええ。私は高貴ですから……はぁ」
これは本当に参っているようだ。
「相手はどのよう人物なのか知っているのか?」
彼女の話によると、幸子の両親はプロデュエリスト業界に事業を伸ばそうとしているらしく、相応な家柄、それでいて実力のある若いプロデュエリスト(ルーキー)を見繕って来たらしい。まさにこれから大リーグでも活躍すると言われている人物で、ゲームの本場アメリカの大会での入賞経験も多数とのこと。
両親のためを思えば婚約までは許せたが、実際に対面して結婚のことを意識すると誤魔化していた気持ちも隠せなくなって来たようだ。
「幸子とご両親は別に仲が悪いわけじゃないんだろう? 正直に言えばどうだ?」
「お母様もお父様も今の私と似たような状況で結婚してますの。もちろん二人は仲が良いのですが……だからこそ私も心配ないと言われたのですわ」
上手くいっている例が近くにあったようだ。
「相手は若くてもプロデュエリスト、か……」
スポンサーのいるプロデュエリストは国内の本リーグに挑戦する前に海外の大会に参加して履歴書に書けるだけの成績を得ると聞く。アメリカの大会で入賞、というのもそういうことなのだろう。そうは言ってもアメリカのデュエルモンスターズも日本に負けないくらいレベルが高いので腕は確かだろう。
「それでもわがままは言うべきだ。自分たちはまだアカデミア生で、子供だ。だが、デュエリストでもある。昔読んだ武藤遊戯列伝曰く、『デュエリストの運命はカードを引いてようやく決まる』と。自分も君も、そして婚約者もデュエリストだ」
なら、やることは決まっている。
「——デュエルで全てを決めたら良い」
「なっ……相手は若くてもプロデュエリストですのよ!」
「自分も進学試験で八雲プロに勝利している。なら、幸子も勝てるはずだ」
「……竜胤、とんでもない人! ですが——」
彼女は顔を伏せる。
そして、直ぐに顔を上げると宣言した。
「——運命を切り開くのに立場は必要ありませんわ! たとえ相手がプロでも全力でデュエルをする」
陰鬱な雰囲気より勝気な方が彼女には似合う。
「一筋縄では行かないだろうがな」
「分かってますわ。これで負けてしまっても……いえ、自分を通すことに負けるということはありませわね」
「自分はそう思っている」
「そうなると情報収集とデッキの編成が必要になって来ますわね。当然、付き合って貰いますわよ?」
「もちろんだ」
取り敢えず相手のデッキ情報は調べると出て来るだろう。あとは八雲プロにも聞いてみよう。年齢が近いので、同世代だろう。もしかするとデュエルをしたこともあるかもしれない。
「まずはデッキの見直しからですわね」
机でデッキを広げる幸子を見て自分も使えるカードが無かったか探すことにする。
時間は十分にある。
彼女のデッキを強化することも、対策を立てることも出来るだろう。全力でサポートをすべく、自分はカードケースを取り出しのだった。
一、
「——いや、これは二枚にした方が良いだろう。むしろ《テラ・フォーミング》を一積みにしてデッキ圧縮をするべきだ」
「フィールド魔法三枚は重たいですか……こちらの手札から特殊召喚の効果は私の《超古深海王シーラカンス》との相性も良さそうですわね——」
「——それは三枚入れるべきだ。さらに展開したいなら」
「なるほど、でしたらコレとコレを——」
デッキを考え始めてから二日が経過した。
幸子は《超古深海王シーラカンス》を主軸とした魚族を横に展開するタイプのデッキを使うのだが、考え方を魚族から水属性へと枠を増やした。《超古深海王シーラカンス》が通用しなかったときの対処法を増やすべきだと助言したのだ。
「無理に四十枚に制限する必要はない。実際、自分の魔導書は五十枚前後だからな」
そこで自分のカードプールが役立った。魚族や水属性に相性の良いカードが割と出て来たのだ。幸い自分は両方とも使用しないため、サイドデッキの分も含めて幸子に渡した。
彼女は頑なに返礼を考えていたが、それを考えるのは全てが終わってからで良いと答えた。
いや、そもそも……自分がパックから出したわけでもなく、単体で買ったわけでもなく、誰かから貰ったわけでもなく、そして本島から持って来たわけでもないカードなのでお返しも何も無いだろう。
「(……完全にこちらへ来たときからカードが倍以上に増えているな)」
『以前も言いましたように、ご主人様はカードやそのカードの精霊を呼ぶ力が備わっております』
「(だからと言ってこんなに増えるか)」
『中には私たちメイドが捨てられたカードを拾って来るときもありますので』
たまに懐からカードを出しているのはそういうことだったのか。
捨てられたカードは自分もたまに目にする。廊下に置いてあるゴミ箱や、寮から校舎までの道、自分がよくメイドたちを連れて行く湖畔など……そういったカードは自分も拾うが、彼女たちも同じだったらしい。
『ご主人様ぁ。お客様が来たわよぉ』
部屋の扉が叩かれる。
「——メイ喜多嬉ですわ。竜胤、いらしてるかしら?」
どうやらメイのようだ。
試作デッキの睨み合っている幸子はそのままに招き入れる。
「む、海野幸子も一緒でしたのね。最近、外で見ませんでしたが何をしていらしてるんですの?」
「幸子、話しても良いか?」
「ええ。かまわいませんわ」
幸子の許可も得たので事情を説明した。
メイも婚約者こそいないが立場的には似たようなものである。
「竜胤の言う通りですわ! 庶民の癖に素晴らしい言葉ですの!」
だからこそ幸子に理解を示し、自分も手を貸すと言って席に着いてくれた。メイもまた強力なデッキを自分で作り上げた猛者。その見識は幸子の力になってくれるだろう。
それから半日が経ち、いよいよデッキが形になって来た。
食堂から持って来た昼食—見た目に差は無いが自分の分は既にティルルの手が入っている—を食べ、まずは卓上デュエルで一回ししてみることにする。
「このコンボは強いな。手札二枚でモンスターゾーン全てを埋められる」
「このカードを生かすなら、守備力の高いモンスターを増やしても良いかもしれませんわね」
まずはメイが相手になった。
自分が幸子の背後に付き、気になったところを口に出すような態勢だ。今回はデュエルディスクを通していないので巻き戻しをアリにしている。時にはメイにも手札が見えるようにして、相手の嫌がる動きを見つけるなどをしてデッキの更なる強みを見つけていく。
「一番強力なのは《氷獄龍トリシューラ》を出してからコレを使うことだな」
「えぇ、最上級モンスターが上手くいけば五体も並びますの」
「ただ、かと言って三積みでもすると事故になる。上手く回すしかないだろうな」
何度か抜き差しを繰り返して今度は自分の番となる。
自分のデッキは魔導書だ。
どういったコンセプトのデッキなのかは把握しているので、少しずつ幸子の嫌がるような動きを混ぜる。必要なカードを《ゲーテの魔導書》で除外し、フィールドのモンスターの効果を《ウィッチクラフトマスター・ヴェール》で無効化にする……そうすると彼女は相手の動きを見るために敢えて無駄になっても良いブラフのようなプレイングを行い、順番にフィールドを組み立てていく。
「この二体のモンスターでフィニッシュだな」
「うぅ、負けてしまいましたわ」
「いや、自分のLPも2000以下まで削られた。相当使えるようにはなっているはずだ」
負けてはいないが、ここまでLPが削られたのはアカデミアに来てからは初めてだ。より熟していけば、敗北もあり得る。
「残りの三日間はディスクを用いてデュエルしよう。自分やメイ以外の生徒も目を合わせれば相手をしてくれるだろうさ」
「トレーナーじゃないんですから……」
今日は脳の休息も兼ねて中断する。
冷蔵庫を見るといつの間にかケーキが三つ入っていた。
本当にありがたい。
二、
デュエル相手の見繕い方は簡単だ。ちょうど最近、連絡先を交換した相手がいる。
「それで私が呼ばれたのね」
「頼めるか?」
「試験も終わって暇をしていたから大丈夫よ。それに、同じ女子として思うところはあるし」
ブルー寮前にある広場で明日香を呼んだ自分は幸子の相手を頼んでいた。彼女の後ろには二人のブルー生が立っており、以前彼女が言っていたジュンコとももえだろう。出来れば彼女たちにも相手を頼みたい。
「そういうことだからジュンコとももえも協力してくれるかしら?」
そう思っていると、自分が口を開くよりも早く明日香が言った。
「分かりました。明日香さんに頼まれたからもありますけど、話を聞いていると力になってあげたいし」
「それに一月様もいますわ! 普段はメイさんと幸子さんとご一緒でお声が掛け辛いですけど、今日は違いますわ! きゃー!」
そんなに喜ばれるような人間ではないと思うんだが。
『高い身長、精悍な顔付き、最近噂になっているデュエリストとしての強さ。全てを兼ね備えた素晴らしいご主人様です』
女性デュエリストとして母親はもちろんのこと、父親も醜男ではないのでそれなりの顔は持っていると信じたい。ただ、過剰なまでに持ち上げられると恥ずかしいものだ。
「ごめんなさい。たまにこうなるの」
「気にしていない」
「……そう」
卓上デュエルでやれることはやったので、今日は昨日も言った通りソリッドヴィジョンを用いたデュエルだ。
横から助言することも、巻き戻しも出来ない。
これからは実践で慣れていかなければならないのだ。