黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19) 作:神の筍
一学期最後の授業が終わり、アカデミア生たちは続々と帰省している。
自分も帰る予定だが、前半の便は例年帰省する生徒に溢れ、相部屋になる可能性も高いのでそれを避けるため後半の便に乗船予約をしていた。一応、オベリスクブルーであるため一人部屋も選べるのだが、そもそも人混みが好きではないで当然の選択だった。
「では、行って来ますわ」
「ああ。健闘を祈っている」
握手を交わした幸子の眼には強い意志が宿っており、正に自らの運命をドローで切り開く猛き者を彷彿とさせた。実力に差異はあるが、それこそテレビ番組で度々特集を組まれる殿堂入りデュエリストたちと同等のものだ。
「では——また」
海のような長髪が潮風に揺れ、彼女は乗船スロープを上がって行く。彼女らしく最後の言葉は別れの挨拶ではなく、いつも通りの再会を確信させるものだった。
『きっと勝利なさるでしょう』
「自分もそう思う」
ハスキーの言葉にそう返す。
当初、お節介かもしれないが自分も付いて行く旨を幸子に話した。別に幸子が敗北したときのことを考えたのではなく、関わったのならば見届けねばならないと考えたからだ。しかし、彼女は一時逡巡するも、はっきりと断りを口にしたのだ。その表情は不安な未来を見られてしまう顔付きではなく、先ほどと同じ精悍な顔付きだった。
人はきっとそれを——一皮剥けた、と言うのだろう。
「……さて、自分たちも部屋に戻ろう」
『はい』
前半の便は最終授業が終わった翌日。後半の便はその翌週末だ。日が空いているとは言え、一度デュエルアカデミアから出ると入るのは暫く後になる。忘れ物があれば面倒臭いことになると、学期末の寮生の集まりで丸藤先輩が言っていた。完璧そうに見えるが、そう言った失敗も経験して、今の彼があるのだろう。
「とりあえず持って帰るカードだけ集めよう。それ以外は最悪忘れてもどうとでもなる」
まぁ、そもそもメイドたちがいれば忘れ物は無い上に、万が一あっても彼女たちが直ぐに取りに行ってくれるのだが。
夏休みの予定が詰まっているわけではないが、それでも幾つか行かなければならない所がある。学生らしくどこかにハスキーたちと遊びに行っても良いかもしれない。普通の学生はメイド複数人とは遊ばないだろうが。
一、
およそ三、四ヶ月ぶりの自宅は物が増えることもなく、減ることもなく、特に変わらずにあった。両親からすれば仕事の拠点が変わっただけで、通信環境が著しく発展した現代は元々在宅ワークで済ませられることも多かったようだ。
「海野と言やぁ、海運の海野だね。最近、デュエルモンスターズ関連に参入しようとは聞いてたけどそんなことがあったとは」
デュエルアカデミアであったことを母に話しつつ、近況報告をする。
入学初日で幸子とデュエルしたこと、中間試験でメイとデュエルしたこと、期末試験で明日香とデュエルしたことなど……そして、
「ハスキーちゃんたちがいれば余程のことは無いたぁ思うが、精霊たちが起こす事件については会長からも聞いてる」
会長とは母親が勤務するI2社——ペガサス会長のことだ。
会長はかつて、千年アイテムと呼ばれる特殊な道具の影響を受けて武藤遊戯とデュエルをしたことがある。そのとき、千年アイテムだけではなく、カードに宿る精霊たちとも色々あったようで、その存在は確かなものとして認めている。また、一連の騒動の最中、生死の狭間を彷徨ったことにより本人も千年アイテムを通してではなく精霊を認識することが出来るようになったらしい。
「ただ、その《三幻魔》の話が本当なら子供たちが手に負える問題じゃなくなってくるねぇ……」
かの《三幻神》と対になる厄災。
かつて神々を手繰ったデュエリストたちはそれぞれ御すことに成功し、その力を正しい方向に使ったという。だが、根本的に悪意のあるソレらをプラスに使用することなど不可能な話だ。
「一応、会長にも話は通しておこう。そうすればアカデミアオーナーの海馬社長まで届くだろうさ」
「分かった。自分もそれとなく気を付ける」
「……まぁ、聡い子なのは分かってるけど、何かあっても引き際は見誤らないようにするんだよ。ハスキーちゃんらにも頼るように」
「もちろん」
何事も命あっての物種だ。
最悪、メイドたちに乗って空からの脱出も試みよう。
「たしかこの後は八雲プロと約束があるんだったね。ついでにこれを渡しておいてくれるかい?」
そう言われ、母親から数枚のカードを渡される。
「これは?」
「来月出る新弾のカードだよ。カードパワーもディスク動作も既に調整済みだから、今日から使っても問題は無い。八雲プロ以外にも、宣伝のために発売前から使用をお願いしてるプロは何人かいるからね」
適当にカードを見てみると、昆虫族モンスターとそれに類する汎用カードのようだ。
自分もちょうどカードを渡す予定だったので、一緒にすれば良いだろう。
「んじゃあ、私は暫く北海道に出張だから家は開けるよ。アイツも今は会社詰めになってるから帰って来ないだろうさ。鍵の管理だけは頼むね」
親子同士の会話は日を跨ぐことなく、颯爽と母親は呼んでいたタクシーに乗って姿を消した。
我が母ながら大らかというか大胆というか大雑把というか……まぁ、そういった性格だからこそ、自分も今を楽しく過ごせているのだが。
午前は自宅で暇を潰し、昼食を済ませると八雲プロとの待ち合わせ場所に向かうのだった。
二、
今やスポーツや音楽よりもその競技的地位を高めたデュエルモンスターズは街中のどこでも行うことが出来る。
ソリッドビジョンのシステム機構は地中に張り巡らされ、ディスクさえ持っていれば幼児ですら使用可能なのだ。しかし、デュエルモンスターズの醍醐味は迫力ある大味な部分だけではない。
幸子とデッキ作成を行っていたときのような卓上デュエルも人気で……というよりも、一般的にはそちらのプレイ人口の方が多いだろう。近年では老齢の脳機能——即ち認知症予防にも絶大な効果があると研究成果も出ており、もはや生涯遊戯として受け入れられていた。
「ありがとう、竜胤クン。君から貰ったカードと一月プロから貰った新弾のカード。この二つでようやくボクの望んだ昆虫族デッキに近付いた気がする」
「いえ、お力になれたのならそれで」
外見こそはアンティーク調の目立つ喫茶店だが、テーブル全てに卓上デュエル用のスペースがある店内にて八雲プロと向かい合っていた。
「海千山千とも言われてるプロリーグだけど、リーグ昇進時の三戦は全く違う環境に慣れるため相性の良い相手が当てられるんだ。一応、三連続勝利は飾ってるけど、正直運も絡んでいた」
デュエルモンスターズが世界中を賑やかせている割にプロを冠するデュエリストは極めて少ない。
東と西に分かれて五百人。
五百人中三百人がCリーグにランクインしており、実力が横並びであるからこそ勝ち数が稼げずに次の段階に行くのは難しい。
Cでも頭抜けたデュエリストが辿り着くBリーグは百五十人が所属し、日夜Aリーグを目指して竜虎相博している。
さらに上澄みのAリーグは五十人。トップ10は殆ど順位不動だが、それ以下は激しく変動が起きる。
余談だが、八雲プロがBリーグ優勝後のエキシビションで戦ったAリーグトップランカーはこの十人ではない。基本的にAリーグに所属している時点で、トップランカーと呼ばれるのだ。
トップ10は安全圏なのかと言われるとそうではなく、この順位から統一戦リーグと呼ばれる東西のトップ10同士のランキングがあるためこちらも油断は出来なかった。
さらにこの統一戦を制すると日本代表としてアジア大会。アジア大会を優勝すると大州チャンピオンとして今度は世界大会への出場が待っている。
自分の母親も大州チャンピオンとして世界大会準決勝にまで登り詰め、そこで『殿堂入りデュエリスト』というシード枠で参加していた海馬瀬人とデュエル。結果的に敗北し、子育てに専念するために引退したのだ。
なお、当時の世界大会は海馬瀬人が優勝旗を掻っ攫い、「——ふん。一線を退いたオレに勝てぬなど笑い話にもならん。より研鑽し、より努力し、より強くなれ」とテレビでもよく見る傲慢な態度で会場を後にしていた。
本人曰く一線を退いたらしいが、二年に一度の世界大会にほぼ毎回参加しているあたり正しく退いたと言えるのかは怪しい。
「ここからは一戦一戦が未知の相手……それに下手したらリーグ落ちも関わって来る。このタイミングでデッキ補強出来たのは本当にありがたいよ」
そう言うと八雲プロは微笑んだ。
彼女の今日の格好は以前、試験で出会ったときのような黒コートにワイシャツ。下は膝ほどまでのスカートをブーツで纏めている。
中性的な容姿は初対面なら柔和な男性か、凛々しい女性かと迷うだろうが、笑みを浮かべると慈愛すら感じる優しい女性らしさを感じた。
「さっそく一戦、試運転デュエルでもやりますか?」
珍しく自分から誘う。
新しいデッキを早く使いたい気持ちは皆同じである。
「ええっ、竜胤クンと?」
と、少し悩ましい素振りを見せる。
理由は分かる。
前回、デュエルしたときから八雲プロは何倍も強くなっているだろうが、それでも前回は自分が勝っている。
新年早々めで鯛を食べるように、門出となる一戦目で黒星を付けたくないのだろう。
「試運転用の対戦デッキを持って来ていますので、自分はそれを使います」
「本当かい? なら、頼もうかな……Aリーグに行けたのに弱いところ見せちゃって、内緒だよ?」
「さぁ、どうでしょう。取り敢えずこの店には個室でソリッドビジョンを使える場所があるので予約が空いているか確認しますか」
「うん。任せても良いかい? もう少しシミュレートしたい」
「分かりました。では、一時間後目安に」
「了解」
店員に声を掛けると、ちょうど良く一時間後に予約が空いていた。
自分は出来るだけ八雲プロの方を見ないよう、試運転用の対戦デッキを調整するのだった。
「「デュエル」」
ディスクが点滅し、ランダムで先手を決める。どうやら今回は八雲プロが先手を得たようだ。
「ボクの先攻——ドロー!」
手札を確認する。
悪くはない。
「《おろかな埋葬》を発動! 《ゴキポール》を墓地に送る。そのまま《ゴキポール》の効果により《G戦隊 シャインブラック》を落とし、特殊召喚!」
前回のときも活躍していた黒光りした戦隊員が現れる。
「さらにフィールドに昆虫族がいることにより魔法カード《ワーム・ベイト》を発動! 《ワームトークン》を二体特殊召喚!」
攻守ともに0だが、コストやリリースには最適なトークンだ。
そんな自分の考えを読んだのか、さらに八雲プロは動き続ける。
「トークン二体をリリースしてアドバンス召喚。一月プロからいただいた新しい群れの一匹……来い、《クイーン・バタフライ ダナウス》!」
ソリッドビジョンによる幻影とはいえ、巨大な昆虫が現れると驚いてしまうものだ。
四対の尖った紫の翅。
頭部は甲虫のようだが、六本の腕と爪は胴体より長く鋭利である。
八雲プロが手に入れた最上級モンスターの一匹目は攻撃力2800という一ターン目には相応しくない火力を誇る。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
【八雲プロの手札:2枚】
場には攻撃力2000と2800のモンスター。伏せカードも面倒だ。
「自分のターン……ドロー」
「試運転用とはいえ、油断はしないよ。キミは一度、ボクに勝っているからね」
「こちらも、今は試運転用とはいえ幼い頃はメインデッキだったので負けるつもりはありませんよ」
そう、自分がこの世界に生まれてから初めて組んだデッキである。
母親はプロデュエリスト、父親はカードデザイナーという金銭には困らぬ家庭ではあったが、それでも高価なカードは多い。故に、カードショップのストレージケースから集めたり、どうしても必要なカードは両親に頼み込んで買って貰ったりと、幼いながらも足を使って作成したデッキだった。
「手札から《補給部隊》を発動。この効果により、自分のフィールド上のモンスターが戦闘及び効果で破壊されると1ターンに1度、ドローすることが出来る」
永続魔法であり、優秀な手札補充だ。
「《マシンナーズ・ギアフレーム》を召喚。そして、効果発動」
「マシンナーズ……十分な火力と破壊されたときの効果により再機動し続ける不屈の機械族デッキ!」
「《マシンナーズ・アンクラスペア》を手札に加える。そして、このカードがドロー以外の方法により手札に加わったことにより特殊召喚」
属性は闇。禍々しいオーラを醸しながら、右腕がパイルバンカーと化した機動兵が現れる。それは最上級モンスターたる《クイーン・バタフライ ダナウス》に喰ってかからんとする威勢をも感じさせた。
「《マシンナーズ・アンクラスペア》の効果によりデッキから墓地へ《マシンナーズ・フォートレス》を送る」
このカードこそがマシンナーズデッキの要衝でもある。
「手札から《マシンナーズ・メガフォーム》を墓地に捨て、《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚」
「……攻撃力は2500。まだボクのモンスターには届かないけど」
「バトルフェイズ。《マシンナーズ・フォートレス》で《クイーン・バタフライ ダナウス》を攻撃」
【一月竜胤のLP:8000→7700】
「《マシンナーズ・フォートレス》の効果発動。《クイーン・バタフライ ダナウス》を破壊」
「——ダナウスの効果を発動! 攻撃力を0にする代わりに墓地から《ゴキポール》を効果無効状態で特殊召喚!」
フィールドで効果無効になったモンスターが墓地に行くと発動出来る場合もあるが、この場合は《ゴキポール》が墓地に送られても効果無効だ。
「《補給部隊》によって一枚ドロー。さらに、《マシンナーズ・フォートレス》が墓地に送られたため《マシンナーズ・メガフォーム》を墓地から特殊召喚」
代わりに《マシンナーズ・フォートレス》は除外されてしまう。だが、除外ゾーンを活用出来るカード、二枚目を落とせる手段もあるので問題はない。
「《マシンナーズ・アンクラスペア》で《ゴキポール》、《マシンナーズ・メガフォーム》で《G戦隊 シャインブラック》を攻撃」
【八雲プロのLP:8000→7400】
「そして、《マシンナーズ・ギアフレーム》でダイレクトアタック」
「罠カード発動! 《地雷蜘蛛の餌食》! このカードは発動後、罠モンスターとなってボクの前に現れる!」
凶悪な鎌を持つ蜘蛛が現れる。攻撃力2200という手軽に出せる罠カードとは思えない火力だ。
残念ながら、ダイレクトアタックは通らなかった。
ちなみに、このカードは伏せていた縦列と同じ相手モンスターを破壊するという効果もあるが、今回は自分が回避していたので不発だ。
「メイン2に入り、《機械仕掛けの夜—クロック・ワーク・ナイト—》を発動。ターンエンド」
【一月竜胤の手札:3枚】
【《マシンナーズ・メガフォーム》ATK2600→3100】
【《マシンナーズ・アンクラスペア》ATK1800→2300】
【《マシンナーズ・ギアフレーム》ATK1800→2300】
【《地雷蜘蛛の餌色(罠モンスター)》ATK2200→1700】
このカードはフィールドに表側表示に存在するモンスター全てを機械族にして、自分の機械族モンスターを攻撃力500アップ。相手の機械族モンスターは500ダウンさせるという単純に強い効果を持つ。また、墓地に存在する場合は除外することによって機械族・地属性モンスターを手札に加える効果もあった。
「ドロー……モンスターをセット。罠モンスターを守備表示へ変更。ターンエンド」
【八雲プロの手札:2枚】
攻撃力3000のモンスターを超える手段が無いか、何かを企んでいるのか。
「自分のターン——」
いずれにせよ、自分が攻めない理由とはならないだろう。
「《マシンナーズ・アンクラスペア》と《マシンナーズ・ギアフレーム》をリリース。《マシンナーズ・メタルクランチ》をアドバンス召喚」
【《マシンナーズ・メタルクランチ》ATK2800→3300】
「召喚時効果により、デッキから三枚の機械族・地属性モンスターを選び、見せる」
ディスクを操作して八雲プロに三枚の候補を送った。
高火力モンスターも混ざっているため、相手へのプレッシャーにもなるだろう。博識なデュエリストはこの時点で相手の動きを読もうとするため時にブラフも必要だ。
八雲プロが確認したあと、ランダムに一枚が手札に加わる。
「マシンナーズカードを一枚墓地に送り、手札から《マシンナーズ・エアレイダー》を攻撃表示で特殊召喚」
【《マシンナーズ・エアレイダー》ATK1500→2000】
「バトルフェイズ。《マシンナーズ・エアレイダー》で罠モンスターを破壊」
「くっ——」
「さらに《マシンナーズ・メガフォーム》で裏側守備モンスターを攻撃」
右肩のキャタピラが回り始め、ギャリギャリと金属音を奏でる。そのまま重たく、無骨そうな右腕で砕くのかと思えば何故か巨大ロボットは左肩に付いたキャノンでぶん殴った。
「(……むしろ器用か)」
右腕の駆動音は何だったのか。
「破壊され、墓地に送られた《共振虫(レゾナンス・インセクト)》の効果発動! デッキからレベル5以上の昆虫族モンスターを手札に加える」
「バトル続行。二体のモンスターでダイレクトアタック」
「そうはさせないよ! 手札から《ジャイアント・メサイア》を特殊召喚! 効果により、墓地から《ゴキポール》を装備する」
《ジャイアント・メサイア》は相手の攻撃宣言時に手札から飛び出して来るモンスターだ。
その効果は見た目の如く蟻地獄であり、昆虫族のダメージステップ開始時に自分及び相手フィールドのカードを一枚ずつ破壊する。
しかし、
「《マシンナーズ・メタルクランチ》で《ジャイアント・メサイア》を攻撃。《機械仕掛けの夜—クロック・ワーク・ナイト—》によりフィールドのモンスターは全て機械族。よって、破壊効果は発動しない」
「ボクのデッキは昆虫族が主役な分、そのカードが辛いよ……でも、墓地に送られた《ゴキポール》の効果でレベル4以下の昆虫族モンスターは加えさせて貰うよ」
「ライフは削れませんでしたか。自分はこのままターンエンドです」
【一月竜胤の手札:3枚】
「ボクのターン、ドロー……うん、良いカードだ。《ハーピィの羽箒》を発動して、魔法・罠カードを全て破壊!」
おっと、パワーカードだ。
《補給部隊》と《機械仕掛けの夜—クロック・ワーク・ナイト—》が破壊される。
これにより自分のモンスターの攻撃力とフィールド全体の種族も元に戻った。
「墓地の《ゴキポール》、《ジャイアント・メサイア》、《共振虫(レゾナンス・インセクト)》を除外!」
八雲プロは三体の昆虫族モンスターを除外した。これは特殊召喚するための条件だ。
「母なる大地の化身であり、大いなる天空の化身でもある! 大自然そのものを振るう皇帝——」
その姿は八雲プロの口上通り、大地でもあり、天空でもあり、大自然でもある。
《マシンナーズ・メガフォーム》より大きな体躯。
右手に持った緑宝の埋められた鉾。
機動重視の蟲脚に重量を物ともせず、彼こそを目的地に運ぶ翅。
その名こそが、
「——《樹冠の甲帝ベアグラム》を特殊召喚!」
「出て来ましたか」
「キミから貰って、ようやくデッキに入ったこのカード。持ってなかったけど、実は何度も召喚するシチュエーションを想像してたんだ。
あくまで噂で聞いただけなんだけど、カードには『魂が宿る』という言葉もある。景気付けの口上がデュエリストとカードを繋げ、より強くなるんだ」
それは噂などではない。
カードには魂が、精霊が宿る。
現に自分には《樹冠の甲帝ベアグラム》が奮起して頷いている光景が見えているのだから。
やはり、在るべくして八雲プロの下へ行ったらしい。
「ボクは《樹冠の甲帝ベアグラム》の効果を発動。このターン、直接攻撃出来なくなる代わりに昆虫族・植物族モンスター以外の表側表示のモンスター全てを破壊する——『グラム・テンペスト』!」
雷嵐は自分のフィールドにいた三体のマシンナーズたちを襲う。
だが、ただでやられるわけにはいかない。
「チェーンして《マシンナーズ・エアレイダー》の効果を発動。対象を自身に選び、デッキから《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚。その後このモンスターは破壊される」
「でも、チェーン処理によって《マシンナーズ・フォートレス》も破壊される!」
「墓地の《マシンナーズ・カーネル》の効果により、特殊召喚」
このカードは《マシンナーズ・エアレイダー》を特殊召喚した際、コストとして墓地に送ったカードだ。
攻撃力3000だが、《樹冠の甲帝ベアグラム》には届かない。そのため、守備力2500で召喚する。
「まだまだ! ボクは除外された共振虫(レゾナンス・インセクト)の効果によって、デッキから《プレイング・マンティス》を墓地に送る」
自発的に除外するとフィールドにトークンを置けるカードだ。
「そして、除外された昆虫族モンスター三体をデッキに戻して《重騎甲虫(ビートルーパー)マイティ・ネプチューン》を特殊召喚!」
《重騎甲虫(ビートルーパー)マイティ・ネプチューン》は母親が次の新弾パックに入っていると言っていた新しいカテゴリだ。
一部のカードしか見ていないため詳細は不明だが、昆虫族と除外を駆使するらしく、火力も申し分ない。実際、このモンスターは攻守3000という破格な強さを持っており、《樹冠の甲帝ベアグラム》と共に八雲プロの顔になるに違いない。
「場に昆虫族が特殊召喚されたことにより、手札から《甲虫合体ゼクスタッガー》を特殊召喚! フィールドにいる昆虫族モンスターの数だけ攻撃力を×300アップさせる」
【《甲虫合体ゼクスタッガー》ATK1500→2400】
「墓地の《プレイング・マンティス》を除外して、《ベビーカマキリトークン》を守備表示で特殊召喚。これも昆虫族だから、さらに攻撃力は上がる」
【《甲虫合体ゼクスタッガー》ATK1500→2700】
「バトルフェイズ! 直接攻撃は出来ないけど、モンスターへの攻撃は出来る。《樹冠の甲帝ベアグラム》で《マシンナーズ・カーネル》を攻撃!」
甲虫の強力な爪に裂かれ、《マシンナーズ・カーネル》は破壊された。
「二体のモンスターでダイレクトアタック!」
【一月竜胤のLP:7700→2000】
「エンドフェイズ時、《重騎甲虫(ビートルーパー)マイティ・ネプチューン》の効果発動。《樹冠の甲帝ベアグラム》の攻撃力を1000上げる」
【《樹冠の甲帝ベアグラム》ATK3400→4400】
「ターンエンド」
【八雲プロの手札:1枚】
さて、八雲プロのフィールドにはそれぞれ攻撃力4400、2700、3000のモンスターと今は気にしなくても良いトークンが一体。
次のターンで《樹冠の甲帝ベアグラム》はどうにかしなければならないだろう。
「自分のターン」
手札は三枚。
ドローで四枚になる。
逆転の目は十二分にあるはずだ。
「ドロー」
ふむ、ライフポイントを削るのは難しいが取り敢えずフィールドは処理出来るか。
「手札を一枚捨てて《機甲部隊の再編制(マシンナーズ・リフォーメーション)》を発動。デッキから二枚のマシンナーズモンスターを手札に加える。《マシンナーズ・アンクラスペア》の効果により、特殊召喚」
「たしか、さらにマシンナーズモンスターを墓地に送るんだったね」
「はい」
返事をしつつ、墓地に送るカードを選ぶ。《マシンナーズ・リザーブレイク》だ。
「墓地にいる機械族モンスターをレベル12以上になるよう除外して特殊召喚——」
高火力モンスターには高火力モンスターをぶつけるに限る。
「力こそパワー。《マシンナーズ・ルインフォース》を攻撃表示で召喚」
八雲プロのモンスターも大きいが、こちらのモンスターももっと大きい。
攻撃力4600という、あの神のカードすら正面から屠れるカードだ。
「さらに手札からマシンナーズモンスターを一枚捨て《マシンナーズ・ラディエーター》を特殊召喚。効果を発動し、墓地の《マシンナーズ・フォートレス》を蘇生。《マシンナーズ・ラディエーター》は破壊されるが、それに誘発されて《マシンナーズ・カーネル》が再機動する」
「まさに——不屈だね」
これなら八雲プロのフィールドは空になるが……。
「バトルフェイズに入ります」
「待った! メインフェイズ終了時、手札から《寄生虫パラノイド》を発動! 対象は《マシンナーズ・ルインフォース》!」
最も来て欲しくないカードではあるが……。
「そのままバトルフェイズに入る。《マシンナーズ・フォートレス》で《甲虫合体ゼクスタッガー》を攻撃。戦闘によって破壊されるが、効果により《寄生虫パラノイド》を破壊」
「くっ……!」
【一月竜胤のLP:2000→1800】
【《甲虫合体ゼクスタッガー》ATK2700→2400】
「《マシンナーズ・カーネル》で《重騎甲虫(ビートルーパー)マイティ・ネプチューン》を攻撃」
角と機械腕による衝突。
互いに死力を尽くし、割れるように消えていった。
「そして、《寄生虫パラノイド》が取り除かれた《マシンナーズ・ルインフォース》で《樹冠の甲帝ベアグラム》を粉砕」
「ベアグラム!」
【八雲プロのLP:7400→7200】
「バトルフェイズ終了。このままターンエンド」
【一月竜胤の手札:1枚】
残念ながら、伏せられるような手札は無い。
対して、八雲プロの場はトークン一体と手札が0枚。
このままいけば、自分の勝ちだろう。
たとえ《マシンナーズ・ルインフォース》が倒されようとも、効果によって除外したモンスターを呼び戻し、《マシンナーズ・カーネル》も蘇る。
懸念すべき点はライフポイントをそのまま貫かれることだ。
「ボクのターン——ドロー」
八雲プロの声音は極めて静かだった。
このターンでどうにかしなければ、負ける状況。
焦ることなく、己のドローカードを確認する。
「魔法カード《貪欲な壺》を発動する。ちょうど五枚あるモンスターカードをデッキに戻して二枚ドロー」
妨害札は無い。
あるのは自分の前に立つ鋼鉄の巨人のみだ。
「……っ」
ほんの少し彼女は目を見開き、笑った。
「ありがとう。竜胤クン。キミのおかげでボクはまだまだ強くなれる」
「良いカードが来たようで」
「うん。逆転のカードさ……《ベビーカマキリトークン》を攻撃表示に変更」
攻守500のトークンが威嚇して来るが些か無理がある。
「そして、手札から永続魔法《G(ジャイアント)・ボール・シュート》を発動! 使用する効果は二つ目の効果だ!」
「なるほど。コントロール奪取……」
「《マシンナーズ・ルインフォース》は攻撃力が高い分、耐性はバトルフェイズに限られる。メインフェイズなら何も出来ないだろう?
ボクは手札にある《樹冠の甲帝ベアグラム》を見せ、それより低い攻撃力を待つ《ベビーカマキリトークン》とキミの《マシンナーズ・ルインフォース》のコントロール権を入れ替える!」
八雲プロと戦う機満々だった《ベビーカマキリトークン》はいきなり立場が変わったためか驚いた様子で仰け反っている。
心無しか《マシンナーズ・ルインフォース》もやる気を出しているような。
「バトルフェイズ! これがボクの《マシンナーズ・ムシキング》の力だ! 思い切り吹き飛ばせ!」
きっと《樹冠の甲帝ベアグラム》も手札の中で泣いているに違いない。
まさかマシンナーズモンスターが昆虫族と化し、八雲プロの力になるとは。
当然、自分が手札誘発を持っていたとしても《マシンナーズ・ムシキング》の前では役に立たず、《ベビーカマキリトークン》では相手にもならない。
残念ながら今回のデュエルは自分の敗北のようだ。
【一月竜胤のLP:1800→—2800】
デュエルディスクにLOSEと表示される。
母親以外で久しぶりの敗北だが、終始楽しいデュエルだったため不満は無い。
これを機にマシンナーズデッキの見直しをしても良いかもしれない。
「何だか自信が付いた気がするよ」
「お力になれて良かったです。これで一対一なので、次で決着を付けましょう」
「だね。次はキミの魔導書にリベンジだ」
対外デュエルだと魔導書のほうが勝率は高いが、実は魔導書とマシンナーズ同士だと後者のほうが圧倒的だったりする。それに、動かし方もマシンナーズのほうが把握しているので場合によっては魔導書より強い。
その分、魔導書は柔軟性と入れ替えカードが豊富で、ウィッチクラフトが入ってからはさらに強くなっている。
「何だかこれだけのデュエルをした後だと小腹が空いてしまったよ。せっかくだし、ここで何か食べていかないかい?」
「軽食には丁度良い時間ですし、お供します」
「お礼に奢らせて貰うよ」
その後、自分と八雲プロは喫茶店で軽食を摂りながら先ほどのデュエルについて議論を交わした。
帰宅する頃には夕方を迎え、どうせならとそのまま夕食も一緒にした。
背後で「お持ち帰りしろ」と騒ぐ緑髪のドラゴンメイドを尻目に、駅前で別れると自宅への帰路に付いたのであった。
・当作における、設定上プロデュエリストの解説。
上から日本を東西に分けて各ABC存在する。
Cリーグ 300人(東西合わせて600人)
Bリーグ 150人(東西合わせて300人)
Aリーグ 50人(東西合わせて100人)
各Aリーグ、上位10名のみが参加出来る統一戦リーグで優勝したら''日本チャンピオン''。
アジア大会で優勝したら''大州チャンピオン''。
大州チャンピオンと殿堂入りデュエリストのみが参加出来る世界大会で優勝したら世界チャンピオン。
全てのプロデュエリストはプロ内定後(Cリーグスタート)、一年以内にCリーグ本戦に参加しなければならない。逆に言えば364日間調整に費やし(プロ本戦ではない大会に参加するなど)、挑戦する者もいる。
ちなみに、プロになるためには「プロ試験合格」と「有力者からの推薦」などかある。
幸子の両親に決められた婚約者はこの「364日期間」のデュエリストで、セミプロなどとも呼ばれる。(単純にプロくらい強いデュエリストをセミプロと呼ぶこともある)