黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第5話

 義経たちがやってきたあくる日の放課後――裏庭の池の鯉でも見に行こうと思った水明はちょうど校舎の角に人影があるのを見つけた。

 

「弁け――むぐむぐ」

 

「――しーっ! 今隠れてるから名前呼ばないでっ」

 

 錫杖で唇の下、頤唇溝の所を背後から抑えられ誘拐のように角へ連れて行かれる。背中へ伝わる感触は嬉しいが、ごつごつとした錫杖が尋常じゃないくらい痛いので後ろ手に弁慶の腕にタップした。

 

「いてて……どうしたんだ? 一体?」

 

 水明は腫れて欲しくないと患部を撫でながら聞いた。

 

「んー、水明になら別に言っても良いか。私たちに挑んでくる様子も無いし――」

 

 そんな弁慶から語られたのは最近の決闘事情についてだった。

 やはり『英雄の復活』というのは世界的に見ても注目され、当初九鬼が予想した各地から挑戦者が来るという範囲が大幅に広がったようなのだ。関西や東北などはまだ近所から来たようなもので、中国の拳法家や東南アジアのシラット使い、さらに西へ進みギリシアのパンクラチオンチャンピオンが大々的に入国したりと一時的な武芸者お祭り状態が続いていた。彼ら彼女らが来るたびに百代が相手をしているのだが、そこそこ強い人が来ているおかげか有象無象を含む分母と比較すると少ないが、そこまで戦いが好きではない弁慶にとっては多すぎる決闘数が組まれているらしい。日に二、三人なら錫杖バッティングですぐ終わりらしいのだが、さすがに十を超える決闘は面倒くさいようだ。

 

「全員一列に並べて、順番に吹っ飛ばしていくのはどうだろう」

 

「……それもありか」

 

 水明はもちろん冗談で言ったつもりだったが、思いのほかリアルな顔をしている弁慶を見て慌てて止めた。九鬼に変な入れ知恵をしたと思われたら大変なことになる。

 

「最初から一日に戦う人数を決めたら良いんじゃないか? そうすれば、弁慶の言う通り一日三回バッティングで済むじゃないか」

 

「そうすると私が決闘しないといけない日が何年後にも伸びるんだよね。それに、私と戦えるのが一年後とかなら既に毎日何十戦もこなしてる主のほうに行くだろうし」

 

「ダメなのか?」

 

「だって学園に来てから放課後は毎日決闘だよー? もう少しゆっくりしたいというか、川神水の淹れた杯を傾けたいというかね」

 

「まぁ、学生の本分は勉強と遊ぶことだからなぁ」

 

「でしょ。主もさすがに疲れが溜まって来てるみたいだし」

 

 立ち止まったまま考えるのも何であったので、水明は弁慶を伴って裏庭のベンチに座る。この裏庭は園芸部がいないものの、学園長のお気に入りであるためか丁寧に整えられた空間だ。四季問わず色鮮やかな花が咲いており、茂みの隙間から見える池には三色の錦鯉が悠々と泳いでいる。餌付けされているため池に人影を落とすと岸に寄ってくるほど慣れていた。

 

「人が多くて困っているならば、何らかの条件を付けて少なくするしかないだろうな」

 

 しかし、弁慶が納得のいく適切な条件はあるだろうかと水明は考える。

 弁慶ほどの実力者になれば、壁を越えている武芸者を除いてピンからキリ、全員どんぐりの背比べだろう。ほんの少しやる気を出して一発錫杖を振るうだけなのだから簡単だろうと思えるが、坦々とした作業のような決闘は日々変わり映えのない労働と一緒で酷く疲労を感じる。ましてや、給料が貰えるとかではないのだから。さすがに九鬼も決闘者相手に鐘を出せなどとは言えない。弁慶本人も然り。

 

「川神先輩に言って見極めるラインを上げてもらうか、何度も挑戦してくる相手を禁止にするとかが無難のような気もするが」

 

「川神先輩に頼むのはちょっと考えてた。正直、ある程度強くても同じくらいの人とばかりやってても何の実の利も無いし。特殊な拳法使いとかだと見てて面白いんだけど。繰り返し挑んでくる決闘者を規制するのは出来そうかな……うん、そうしよう」

 

 中には記念で英雄に挑もうと旅行感覚で来ている挑戦者もいるだろう。そういう人間はすべて百代に弾かれているのだが、一日に百人以上も吹き飛ばせる百代がおかしいのである。

 

「――よし」

 

「さっそく直談判しにいくのか?」

 

「いや、今週は我慢して用意された決闘者と戦うことにするよ。さすがに頻繁にさぼって楽してる状態で頼んでも聞いてくれないだろうし」

 

 なるほどな、と水明は納得した。

 

「そうか。頑張ってくれ」

 

「ん。いつか水明が挑んできたときはサービスでクリティカルヒットしてあげるから」

 

「一生挑む機会は無いから安心してくれ」

 

「じゃあ聞いてくれてありがとう――」

 

「――ああ」

 

 去って行く弁慶に手を振り、彼女の姿が見えなくなると水明は空を眺めた。青空七、白い雲三のザ・心地良い晴れ模様である。

 ふぅ、と息を吐いて先ほどの相談を思い出す。

 その場で考えた回答だったが、たしかに決闘の数自体は今ののままでは減るかもしれない。だが、水明は偶然今朝の番組で海外のMMA団体のチャンピオンが義経たちに挑むために来日するとのニュースを見ていた。その影響でさらに分母が増えるのではないかと考える。一応弁慶に打算過ぎて言わなかったが、もうしばらく大変な時期は続きそうなのでどこかのタイミングで義経と話せる機会はないかとぼんやりと考えていた。

 

 

 

 

 

 翌週、いつも通りの時間に教室へ入った水明の椅子には弁慶が座っていた。隣が義経なので彼女が座っているのは珍しくない。とりあえず鞄を横にかけ、いつもより機嫌の良さそうな雰囲気に首を傾げた。

 

「どうしたんだ、弁慶?」

 

「聞いてよ水明。実は昨日、先週の分の決闘をちゃんとしたおかげで主と九鬼からご褒美貰っちゃてさぁ。いつも呑んでる川神水は無印なんだけど、今日の川神水は松竹梅シリーズの松なんだよねぇー」

 

「シリーズとかあるんだな……味がどう変化してるのかは想像出来ないが」

 

「もしかしてまだ川神水呑んでないの? 私が転入したときに買って帰るって言ってたのに……」

 

「いやいや、買ってはいるんだがまだ呑んでないんだ。ほら、あの、酒みたいに置いておいてほうが良いみたいな」

 

「酒~? 所詮アルコール如きが川神水に勝てるとは思わないぁ。てか何で水明が酒は置いておいた方が美味しいなんて知ってるの? 主~、水明が未成年飲酒を――」

 

「――聞いていたぞ、水明君。君はまだ未成年なんだから……」

 

 ただ弁慶の機嫌の良い理由を尋ねただけなのにとんでもない方へ飛び火してしまった。水明も何とか義経を宥めようとするが、真面目一辺倒の義経に言い訳は通じない。最後は義経に怒られてる水明を見て宇佐美も止め入るのだが、水明は正月に甘酒を呑んだだけと言い訳しつつ、水明と同じように言葉尻を狩られ不摂生な生活を指摘された宇佐美へ義経を押し付けるのであった。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 今年度最初の大型連休が近付いてきている。四月と五月にまたがるゴールデンウィークだ。さすがにまだまだ海水浴やプールには早いが、川神学園生も例外なく小旅行や買い物をしようと計画している。そんな光景はSクラスでも見られ、クラスメイトの不死川心が榊原に軽井沢へ旅行に行ってくると自慢するものの「ボクは友達と遊びに行くから別に羨ましくないのだー」と反撃されていた。

 

「不死川さんは家族と旅行に行けるのに、どうして榊原さんに怒っているのだろう。義経はわからない」

 

「それを不死川に言ってあげるのはやめような、義経」

 

「えぇ? 水明君が言うなら……うん。でもどうしてだろう……」

 

 しばらく絶対に気になるかもしれないが、教えることは永遠に無いだろうと水明は心の中で謝った。

 今の時刻は十二時半――つまり、昼食時である。

 義経たちがやって来た日より『野鳥の観察』で気が合ったり、地元が奥州平泉であったりと小さな共通点があった水明は自然と弁慶含む彼女たちと昼食をとるようになっていた。源氏組という枠組みで考えると与一も入ってくるのだが、彼は大抵人の少ない場所で食べているかたまに大和と二人で食堂にいる姿が見られている。そのおかげかあっち方面の界隈では『大和×与一』や『与一×大和』などが流行しているようだが、ここの三人はそんなことは知らないので休題にしよう。

 

「今週末は二人ともどこかに行くのか?」

 

 話を逸らそうと水明が言った。

 

「義経は特に予定は無いな。連休中の間は決闘も中断されるから久しぶりにゆっくり出来そうだ」

 

「私は寝て起きて川神水を摂取して、その後もう一度川神水を摂取した後お風呂に入る予定がある。合間合間に食事はとるけど」

 

 それらしく言っているが要するに無いということだ。

 

「連休と言えどぐーたらとするのは許さないぞ。連休中も朝の稽古はするからちゃんと起きるんだ。それとも、夕方の稽古も追加したほうが良いだろうか?」

 

「あー、嘘嘘。見たい映画が溜まってるから朝は参加するけど夕方は無しで」

 

「弁慶は映画が好きなのか?」

 

「だらだらと寝転びながら気になる映画を観るのが最高なんだよなぁ」

 

 その想像出来過ぎる弁慶の姿に水明は納得した。川神水が好きな弁慶なら、おつまみで軽く腹を膨らませつつソファか何かに横になりながら延々と観ているのだろう。あまりやり過ぎると「怠けている」と義経から注意されそうだ。

 

「水明は? どっか行くの?」

 

「特に予定はないな。強いて言えば一日だけ七浜ショッピングモールに買い物でも行こうと思ってる」

 

「七浜って海の向こうの七浜?」

 

「ああ。京浜から東都駅経由で乗り換えると一時間少しで着くんだ。少しだけ背が伸びたから新しい夏服を買うつもりだ」

 

 去年測った水明の身長は一七五センチに届かないくらいだったが、おそらく今測れば一八〇センチあるか無いかと言ったところだ。本人は何となく打ち止めを感じている。ただ、合わせて四肢の長さも伸びていると思うので、パジャマはともかく、外行きの服装の丈が短いとなればみすぼらしいので新調したかったのだ。制服は予め一回り大きいものを購入していたので問題ない。

 

「七浜か。行ったことないなぁ」

 

「川神も東都に近いから地方に見られがちだけど、暮らしていくには十分な店が揃ってるからな。遊び場も多いし。ただ、七浜は連休中遊びに行くにはちょうど良い距離だから義経たちも行く機会があるかも」

 

 七浜と言えばやはり“七浜ベイスターズ”だろう。元は一商店の野球チームとして設立されるものの、順調に実力を付けて設立翌年には全国対抗野球大会で全国出場するなど高成績を残している。野球チームと言えば拠点が度々変わるものだが、スポンサー会社の商店がその後無事大企業に成長して現在まで続いている。そのため、今ある大球団の中でも特に郷土愛の強い球団として根強く愛されているのだ。

 水明は一度、商店街の景品で七浜ベイスターズの試合チケットを当てたことがあった。夏終わりの金柳街で買い物をすると抽選券が貰えたのだ。一等の全国湯治チケットが目当てだったのだが、ガラポンから出てきたのは銀色の玉で見事二等が当たった。チケット転売店に持って行けば近場の温泉くらいは行けるかと思ったものの、せっかく運で当たってものを売ってしまうのも何となく罰当たりだと思い、野球にさして興味は無かったが観戦したことがある。七浜ショッピングモールもそのとき偶然寄ったのであった。

 

「ショッピングかー。久しくしてない」

 

「島にはショッピングモールとか無さそうだもんな」

 

「それはもちろんだけど、旅行とか行ったときは割と回ったりしてたんだよねぇ」

 

「なるほど」

 

 武士道プランとして世に忍んで育てられてきたと思いがちだが、意外と普通の学生として過ごしてきている。島暮らしという性質上、日常生活に目新しいものは生まれないが、他の学校行事と同じように校外学習へ行ったり、京都へ修学旅行に訪れたりなど様々だ。一部に至っては九鬼を通しているため普通の学校より良いものを見せてもらっているだろう。

 

「――はっ」

 

 弁慶が水明の塩っ気強い卵焼きに箸を伸ばそうとし、それを水明が防いでいると義経が息を呑むように何かに気付いた。

 

「どうしたの、主? ――はい、もらい」

 

「あ……」

 

「弁慶。そう言えば義経たちも夏服が無い!」

 

「そうだっけ? 島から持ってきたものがあるでしょ」

 

「ううん、マープルが言ってたじゃないか。春服は島で着ていたものを持っていって良いけど、夏服以降は自分たちで用意しろって」

 

「んー……?」

 

 弁慶は義経にそう言われ、思い出すも心当たりがない。それもそのはずで、マープルが義経たちに言ったのは川神に来る準備をする前のこと。いつもの朝食でさらりと言ったのだ。この場にいない清楚と与一はともかく、義経も聞き流しかけていたので弁慶が憶えていないのも仕方ないのかもしれない。

 ちなみに、マープルがこう言ったのは身体の成長的な問題もあるが本州に移って流行り廃りに遅れないよう自分で探し、自分で選ぶということをさせるためだ。

 

「川神の夏は結構暑いから春服じゃ乗り越えられないぞ」

 

 最後の卵焼きを弁慶に取られ、寂しくひじき煮で白米を食べる水明が言った。

 

「むむむ、それは問題だな。義経たちも夏服を買いに行かなければ」

 

「なら、那須与一と葉桜先輩も誘って七浜ショッピングモールに行けばどうだ?」

 

「うん! それもありかもしれない!」

 

「水明も行くなら着いて来る?」

 

 弁慶にそう言われるが、水明は「遠慮しておく」と断った。義経たち二人ならばともかく、与一とはあまり話さない上に、清楚に関しては一度も話したことがないからだ。たまに裏庭の花壇を弄っている姿を見るが、真剣な表情をしているため物見遊山の水明は邪魔をするのも悪いと思って静かに踵を返している。向こうの二人も初対面の自分がいれば自由に買い物が出来ないだろうと考えた。

 

「なら、もし会ったらよろしく……荷物持ちを」

 

「聞こえてるからな?」

 

「川神水ウマウマ」

 

 弁慶のこうした冗談も慣れたものなので水明も特に気にせず箸を進める。初めの頃は義経も注意していたが、水明より「大丈夫」と言われてからは度が過ぎたとき以外は少しだけ困った顔をして見ているのだった。

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

 放課後も過ぎ、夜になった頃。風呂上がりの水明は下宿先のワンルームでタオルを頭に乗せていた。本当ならば男性もドライヤーで髪を乾かすのが健康的にも禿げる確率的にも良いのだが、夜風にあたって自然乾燥が好きな水明の家にはドライヤーが無かった。消していたテレビを付け、適当なバラエティ番組を見ているとベッドの上に投げ置いていた携帯が光っていることに気付いた。

 

「珍しいな。義経からの電話か」

 

 着信記録は十五分ほど前。ちょうど水明が風呂に向かった時間帯だ。入れ違いになったのだろう。

 水明の言う通り、義経から連絡が来るのは非常に珍しかった。いや、そもそも義経が携帯を使っているということ自体珍しいのだ。この世に生まれてその名前に相応しく生きようと苦手なものを克服する義経だが、唯一時間を掛けても変わらないのが機械に対する苦手意識だった。初めて渡された携帯はいきなりの着信に驚いて水没、ようやく慣れてきたと思えばガチャガチャとわからずに触ってインターネットに繋がる最新機種だったおかげか尋常じゃない額が請求され――九鬼からすれば端も端の金額だが――、今では機能が著しくシンプルとなった老人向けラクラクホンなのだ。

 逆に、弁慶は同じ生まれだが不得手もなく使いこなし、頻繁に水明へメールを送っていた。土日はその日の食事や見た映画のことについて、勝手に撮影したであろう義経のうたた寝顔など絵文字付きの弁慶らしいのからしくないのか知らないがそんな内容だ。

 水明は夜もそこまで更けていないので、折り返し義経に連絡を掛けることにした。

 

『――わっひゃう!? かかか掛かって来たぞ! これは左のボタンを押せば良いのか!?』

 

 既に繋がっているというにも関わらずパニックになっている声が水明の耳には届いた。

 

『いや、名前が表示されてるからもう繋がってるよ主。そのまま耳に当てて話せば水明が反応してくれるはず』

 

 隣に弁慶もいるのだろう。

 

『そうか……もしもし、水明君だろうか? 源義経なのだが……』

 

 会話早々いきなり「源義経です」などと言われれば間違いなく詐欺を疑うが、紛れもない本人である。

 

「もしもし、聞こえているぞ。義経」

 

『あー、良かったぁ。川神で電話をするのは初めてだから、ちゃんと出来るか心配だったんだ』

 

「ちゃんと繋がっているから安心してくれ。それで、何か用か?」

 

『少し話したいことがあって。水明君、今時間は大丈夫か?』

 

「問題ないぞ。さすがに二、三時間になるなら別日を指定して欲しいが……」

 

『それは大丈夫。たぶん五分くらいだから。実は水明君に提案があって――』

 

 義経から提案されたのは昼間に誘われた七浜ショッピングモールに改めて一緒に行かないか? というものだった。どうやら義経は夕食の時間に与一と清楚に夏服を買いに行こうと言ったのだが、与一は大和たちFクラスのゲーム好き二人と東都方面へ向けて新作ゲームの買い出しついでに行くと言い、清楚も百代含む三年の友人たちと予定が入っていたのだ。結局義経と弁慶の二人になってしまう。ならばと、水明が大人数での買い物を避けるために昼間の提案を遠慮したことに気付いていた弁慶は義経に伝え、こうして義経が連絡してきたのだ。

 

「それなら大丈夫だぞ。詳しい日取りは明日の昼間にでも決めようか?」

 

『了解した。義経たちも念のため九鬼に予定が無いか聞いておく』

 

「わかった。用事はそれだけか?」

 

『うん。夜分遅くにすまない。また何かあったら連絡すると思うから、義経と話してくれると嬉しい』

 

「自分からも何かあったら連絡するから、そのときは頼んだ」

 

『もちろん』

 

「じゃあ、おやすみ」

 

『おやすみ、水明君』

 

『あ、ちょっと待って水明。主に切ってもらうから。そこのボタンを押して』

 

『ま、任せてくれ……ここのボタンか?』

 

『いや、それ高齢者用の緊急連絡ボタンだから。ここの――』

 

 と、二人の声が聞こえなくなったので無事に切れたのだろう。水明はラクラクホンに緊急連絡ボタンがあるのかと恐らくこの先知らないでも良かったことを知り、携帯を置こうとした。だが、すぐにメールランプが光っていることでもう一度開いた。

 

 『おやすみ(´▽`)』

 

 弁慶からのメールに水明も短く返し、一日が終わったのであった。

 

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