黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19) 作:神の筍
「誰かいますわね」
三階に上がり、暫く廊下を進むと壁に『警備室→』と標示があった。それに従い角から顔を覗かせると、先ほど自分が戦ったチンピラデュエリストと同じ格好をした男女二人がいる。
「相手は二人だ。自分たちも二人でいくぞ」
「タッグデュエルですの?」
「苦手か?」
「まさか。これでも中等部時代の成績はオール5ですわ」
それは頼り甲斐がありそうだ。
半端に足を止めていても増援が来る可能性がある。あの二人を倒すのは早いほうが良い。
「行くぞ」
「ええ!」
そう合図して、警備室までの直線廊下を飛び出す。
「っ、侵入者か!」
「ここを通りたければアタイたちを倒していきな!」
口上通り、二人はデュエルディスクを構える。それに応じように自分たちも構えた。
「望むところですわ!」
久しぶりのタッグデュエルだが、ルールは当然覚えている。
ライフポイント、フィールド、墓地は共有。手札は個人だ。
フィールドにセットされているならば裏側守備表示モンスターとセットカードは任意で表側表示及び使用することが出来る。ターンについてはA・B対甲・乙ならばA→甲→B→丁となる。
攻撃可能になるのはBからなので、両タッグ息の合ったコンビネーションが必要だ。
「先行はアタイからだ! ドロー!」
息巻いて女のチンピラデュエリストが山札から一枚引く。
「アタイは《ゴブリンドバーグ》を召喚! そして、効果発動! 守備表示にしてレベル4以下のモンスターを特殊召喚する。来な! 《レアメタル・ドラゴン》!」
《レアメタル・ドラゴン》は通常召喚出来ないが、攻撃力2400を持つモンスターだ。有名どころで言えば、《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》に匹敵する。
「ターンエンドだ」
【チンピラデュエリストBの手札:四枚】
「私のターンですわ!」
メイのデッキは《ブラック・マジシャン》を主軸とした魔法使い族デッキ。急造とはいえ、自分の魔導書・ウィッチクラフトとは相性が良い。
「手札より《黒の魔導陣》を発動! 発動時、デッキから上三枚を確認して好きな順番に並べ替えますの。そのとき《ブラック・マジシャン》とテキストに記載された《永遠の魂》を加え、そのままセット!」
両方とも強力な永続魔法・罠カードだ。
「カードを一枚伏せて、ターンエンドですわ!」
【メイ喜多嬉の手札:四枚】
デュエルディスクからメイの伏せたカードを確認する。
なるほど……このカードなら相手が勢い付いても挫くことが出来るだろう。
「へへっ、オレのターン! 《ゴブリン偵察部隊》を召喚! バトルフェイズに入るぜ! 《レアメタル・ドラゴン》で攻撃!」
「罠カード発動ですわ! 《マジシャンズ・ナビゲート》! 手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚。さらにデッキから《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》を守備表示で呼びますわ!」
「ぶ、《ブラック・マジシャン》!?」
「《ブラック・マジシャン》が特殊召喚されたとき、《黒の魔導陣》の効果発動! 《レアメタル・ドラゴン》を除外!」
「何だって!」
「……く、くそ……っ、《光の護符剣》を発動! カードを一枚伏せ、ターンエンド」
【チンピラデュエリストCの手札:三枚】
「自分のターンだ」
ドローし、手札を見る。
ふむ……。
「《魔導召喚士 テンペル》を攻撃表示で召喚」
赤褐色のローブを纏った人物が現れる。初見では男性に思われがちだが、実は分厚いローブを着ているだけで青髪の女性だったりする。
「永続魔法《魔導書廊エトワール》を発動」
「まったく。二人揃って意味の分からないデッキを使ってくれるねぇ」
不貞腐れたように女チンピラデュエリストが言うが、それならば理解される前に倒したい。
「《魔導召喚士 テンペル》をリリースしてデッキから《ウィッチクラフト・ハイネ》を特殊召喚」
彼女の効果は魔法カード一枚を捨てることによって、相手フィールドの表側表示カード一枚を破壊する。
「《アルマの魔導書》を捨て、《光の護符剣》を破壊」
相手を覆っていた三本の剣が消え、その道が開かれた。
「バトルフェイズ。《ウィッチクラフト・ハイネ》で《ゴブリン偵察部隊》を攻撃」
【チンピラデュエリストB・チンピラデュエリストCのLP:8000→7300】
「《ブラック・マジシャン》でダイレクトアタック」
【チンピラデュエリストB・チンピラデュエリストCのLP:7300→4800】
【一月竜胤の手札:三枚】
「っち、思ったより強い相手だ……アタイのターン、ドロー!」
女チンピラデュエリストは引いたカードをそのまま発動する。
「《二重召喚(デュアルサモン)》!」
召喚権を増やすカードだ。
「《ゴブリン突撃部隊》と《ゴブリン暗殺部隊》の二体を召喚! バトルフェイズに入り、《ゴブリン突撃部隊》で《ウィッチクラフト・ハイネ》を攻撃!」
攻撃力は100足りないが——。
「ダメージ計算時、罠カード《ライジング・エナジー》を発動! 手札を一枚捨て、《ゴブリン突撃部隊》の攻撃力を1500アップ!」
これは男のほうのチンピラデュエリストが伏せていたものである。
【《ゴブリン突撃部隊》ATK2300→3800】
《ウィッチクラフト・ハイネ》が金棒によって破壊された。心無しか涙目になっていたのは見間違えではないだろう。
「《ゴブリン暗殺部隊》の効果によりダイレクトアタック!」
【一月竜胤・メイ喜多嬉のLP:8000→6600→5300】
「ターンエンドだよ」
【チンピラデュエリストBの手札:1枚】
「ドローですわ!」
メイがこちらに視線を送ってくる。
決めるという合図だろう。
「手札を一枚捨て、《幻想の見習い魔導師》を特殊召喚! 効果により《ブラック・マジシャン》を手札に加えますわ——伏せていた《永遠の魂》を発動し、二体目の《ブラック・マジシャン》を特殊召喚!」
《黒の魔導陣》により《ゴブリン突撃部隊》が除外された。
「バトルフェイズですわ! 《幻想の見習い魔導師》で《ゴブリン暗殺部隊》を攻撃! 空いたプレイヤーに《ブラック・マジシャン》たちでダイレクトアタック!」
【チンピラデュエリストB・チンピラデュエリストCのLP:4800→2300→—200】
「……やる、ねぇ」
「まさかオレたちのコンビネーションが破られるとは……」
そう言い残し、二人は倒れた。
別にデュエルの後遺症ではない。チェイムがタイミングを合わせて気絶させたのだ。
「警備室の扉は私のキーカードで開きますわ」
メイが壁に取り付けられたパネルに金色のカードを重ねると、ガチャリと音がして鍵が開く。
まだ中にチンピラデュエリストがいるのではないかと思って警戒したが、中には誰もおらず、扉前の二人だけだったようだ。
「監視カメラも起動してますわね」
一番奥には中層階までの監視モニターと人感センサーによるどの部屋、廊下に人がいるのか分かる機械が置かれている。
「二階ごとに二、三人いるみたいだな。あと、十四階にいるこの男の首元……」
「キーカードですわ。それも中層階に行くための……まさか本当に首に掛けているとは」
「辿り着く前に何人かと当たりそうだが、これを使えば真っ直ぐこの男の下へ行けるかもしれない」
防火壁の開閉ボタンを指差す。火気を感じると自動的に作動するシステムだが、ここからでも操作は出来るようだ。
「社内アナウンスも各階層で出来るらしい。誘導すれば防火壁の中に閉じ込められる」
「良い考えですわ。アナウンスは私が担当しますから、防火壁は任せても良いかしら?」
「やってみよう」
そこからメイがマイクの前に立ち、挑発的な言葉を並べる。音量と反響を上手く調整することによって、アナウンスではなく、実際に近くから言われているような感覚にしているようだ。自分は監視モニターと人感センサーのランプが光るのに合わせて防火壁を閉じていく。
一人、二人、三人……と身動きが取れなくなっていき、最終的には十四階にいる男を孤立させることに成功した。
「異変に気付いて上階に逃げられたら厄介だ。すぐに行こう」
「ええ!」
自分とメイは十四階に向かうべく、警備室を飛び出した。
一、
最後に男を見た会議室に突入すると、そこにはスーツ姿でデュエルディスクを構えた男がいた。
今まで戦ったチンピラデュエリストのようなラフな格好ではなく、街中で歩いていても違和感無い風貌だ。
「おやおや。その顔はメイ喜多嬉お嬢様でいらっしゃいますね?」
「誰ですの? あなた?」
一瞬、メイ父親の社員かと思ったが、彼女の反応からそうではなさそうだ。
「私は裏デュエリスト組織『モルス・キマイラ』の副頭領ヒイラギです。この度あなたの叔父に雇われ、この会社を占領させていただいております」
「『モルス・キマイラ』——!」
「知っているのか?」
「企業間競争に介入する闇組織の一つですわ。どの企業も各界で縄張り争いというものがあって、そこに生まれた軋轢はデュエルモンスターズで解決する。ですが、今やプロも含め強いデュエリストは多くがスポンサー企業に属します」
それは聞いたことがある。
八雲プロもBリーグに上がってからは何社からか打診され、良さそうな企業とはスポンサー契約をしているらしい。
「そんなとき、高い報酬を代わりにその企業のデュエリストとして参加するのが彼らなのです」
「私たちは報酬を得て、企業は業界に居場所を手に入れる。お互いにwin-winの関係というやつです」
「疑問ですわね。今回は企業とは何の関係もない叔父に雇われたってことですの? あの人にあなたたちを組織ごと雇う財力も無いでしょうし、一体どういう風の吹き回しで?」
「頭領がそろそろ腰を落ち着けると仰りまして……まぁ、我々も人数が増えて来ました。食い扶持のため、というやつです。あなたの叔父——つまり、今回の依頼主はあくまで神輿。取らぬ狸の皮算用で会社の株を報酬にしてきましたが、我らは全部頂くつもりなのです」
「そんなこと出来ると思って!」
「出来ますとも……あなたを使えばね」
男は醜悪な笑みをメイに向けた。
「一人娘たるあなたを人質に取り、あなたの父親に交換条件として会社の保有株全てを譲渡していただきます。会社を守るためご自身で有していたようですが、その行いが会社を奪われるために繋がるのです。滑稽過ぎて笑えますが、私たちにはちょうど良かった。だから、あなたの叔父から依頼が来たときに後払い報酬を承諾した」
つまり、メイは会社を取り戻すために乗り込んだは良いものの、実のところそれは『モルス・キマイラ』とやらの作戦だった。
「少々計画とは違う点がありますが、まぁ所詮アカデミア生。鳥籠から出れるほどの力は持ちますまい」
目を細めてこちらを見てくる。
「さて、本来娘だけを相手にするつもりでしたが構いません。一対二の変則タッグデュエルといきましょう!」
「「「デュエル!/デュエル」」」
「先行は貰います。私のターン!」
この場合、変則タッグデュエルのターン順はヒイラギ→メイ→ヒイラギ→自分となり、攻撃は二回目のヒイラギから可能なので流れを取られてしまった形となる。
「《ゴブリンエリート部隊》を召喚。そして《ラプテノスの超魔剣》を装備」
《ラプテノスの超魔剣》は装備したモンスターが攻撃表示のときに効果の対象に出来ず、守備表示のときは戦闘で破壊されないという効果を付与する。攻撃後、守備表示となるゴブリンカードとは相性が良い。
「カードを一枚セットし、ターンエンド」
【ヒイラギの手札:三枚】
「私のターンですわ! 《ディメンション・コンジュラー》を召喚して、デッキから《ディメンション・マジック》を手札に加えます。さらに《黒の魔導陣》を発動」
メイはデッキの上から三枚を確認するも、手札に加えることはなかった。
「カードをセットしてターンエンド」
【メイ喜多嬉の手札:四枚】
《ディメンション・マジック》は状況次第でどんなモンスターでも破壊出来る優秀なカードだが、《ラプテノスの超魔剣》によって対象が取れない。恐らく手札に魔法使い族はいるのだろうが、それほど良くない手札から始まったようだ。
「くくっ、こういうのときのためのカードですから……ドロー! さぁ、まずは目障りなそれを破壊です! 《ナイトショット》で《ディメンション・マジック》を破壊!」
光線が射出され、メイの伏せカードが破壊された。
しかし、
「違うカード……フェイクですか」
それは《ディメンション・マジック》ではなく、他のカードだった。
「まぁ、良い。《ジャイアント・オーク》を召喚。バトルフェイズに入ります! 《ゴブリンエリート部隊》でモンスターに攻撃! 《ジャイアント・オーク》でダイレクトアタック!」
【一月竜胤・メイ喜多嬉のLP:8000→6300→4100】
「さて、この会社を手に入れるまで残り半分といったところですか。我ら『モルス・キマイラ』は安定した基盤と資金源を得て、より強力な組織となる」
「夢物語も良いところですわ。この私がそんなことをさせるわけないでしょう」
「たかが小娘一人で何が出来る。1ターンでライフポイントの半分を削られながら、威勢良く吠えられるその度胸だけは褒めて差し上げましょう。ですが、『モルス・キマイラ』の副頭領として、配下たちにデュエルモンスターズを教えた私に勝てるとでも?」
【ヒイラギの手札:一枚】
ゴブリンモンスターや高火力レベル4モンスターの使い方を教えたのは彼だったのか。比較的揃えやすいカードと単純なコンボでデッキを組むのは組織立って動くなら大きなメリットだろう。
あと、地味に自分は眼中から外されているようだ。
「自分のターン、ドロー」
「しかし……どこの馬の骨ですか? 彼?」
普通に聞いてくるな。普通に。
『こいつ縊り殺してやろうかしら』
『馬の骨どころか龍の骨っスからね』
『パルラ。それも褒め言葉ではありませんよ』
こっちもうるさい。
とにかく、デュエルに集中である。
「《魔導老士エアミット》を召喚」
攻撃力1200というレベル3に相応しいモンスターではあるが、この老士の真価はステータスに依らない。
「手札から《グリモの魔導書》を発動。効果により、《セフェルの魔導書》を加える」
【《魔導老士エアミット》ATK1200→1500】
そう。このカードは魔導書と名の付く魔法カードをプレイするたび攻撃力が300上がる。それも一時的ではなく永続的に上がるのだ。
知識と経験は財産。
今は老えども戦いのときはかつての実力を取り戻すというわけである。
「《魔導書廊エトワール》を見せ、《セフェルの魔導書》を発動する。墓地の《グリモの魔導書》と同じ効果を得る」
【《魔導老士エアミット》ATK1500→1800】
さらに加えたのは《ヒュグロの魔導書》だ。
《魔導書廊エトワール》と共に発動する。
【《魔導老士エアミット》ATK1800→2800→3100→3400→3500】
どこか存在感の増した老士が杖を構えた。
「バトルフェイズに入る。《魔導老士エアミット》で《ジャイアント・オーク》を攻撃」
「……高い攻撃力ですが、こちらは守備表示です!」
「モンスターを倒したとき、《ヒュグロの魔導書》の効果によりデッキから《魔導書院ラメイソン》を加える。メイン2にて、フィールド魔法をセット。カードを一枚伏せターンエンドだ」
【《魔導老士エアミット》ATK3500→2500】
【一月竜胤の手札:二枚】
「なるほど。そこそこやるようですね……エンドフェイズ時! 速攻魔法《終焉の焔》を発動。《黒焔トークン》二体を特殊召喚!」
《終焉の焔》は発動したターンは召喚・反転召喚・特殊召喚出来なくなるため、このタイミングの発動は上手い。
「私のターン、ドロー……っくくく。見せてあげましょう。なぜ私が『モルス・キマイラ』の副頭領なのか。
《黒焔トークン》二体をリリースして、アドバンス召喚! 力を示しなさい! ——《暗黒の侵略者》!」
闇の渦が生まれ、そこから筋骨隆々な腕が伸びて来た。爪は鋭く、肩まで刺々しい骨格? に覆われている。背は天井に着くほど高く、黒い外套を怪しくはためかせていた。
「このモンスターが存在する限り、あなたたちは速攻魔法を発動出来ません。罠カードであれば、別ですが」
それは少し困った。
自分が伏せたカードは《ゲーテの魔導書》。墓地の魔導書カードを任意の枚数除外して、発動する効果を選ぶという速攻魔法だ。
「さぁ、バトルフェイズです。《暗黒の侵略者》。その老いた魔導士を倒しなさい!」
剛腕が振るわれる。さすがに攻撃力の上がった《魔導老士エアミット》とはいえ、2900のモンスターには敵わない。
【一月竜胤・メイ喜多嬉のLP:4100→3600】
「決着は次のターンまでお預けでしょうか。ターンエンドです」
【ヒイラギの手札:一枚】
「私のターンですわ」
まずはあの《暗黒の侵略者》をどうにかしなければ、自分が伏せた《ゲーテの魔導書》もメイの手札にある《ディメンション・マジック》も使用出来ない。
「竜胤。あの男とのライフポイント差はありますが、まさか臆してるなんてことありませんわよね?」
「そう見えるか?」
「…………あなたは顔色が変わりづらいから分かりませんわ……まぁ、その返答が出来るということは問題ないのでしょうけど」
当たり前だ。
デュエルはライフポイントが1でも残っていれば、どれだけ劣勢でも勝敗は分からない。諦めた者から敗けていくのだ。
「安心しましたわ! 私は手札から——《黒魔術のカーテン》を発動! ライフポイントを半分支払い、デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚!」
【一月竜胤・メイ喜多嬉のLP:3600→1800】
「《ブラック・マジシャン》が特殊召喚されたことにより、《黒の魔導陣》の効果が発動しますわ! 《暗黒の侵略者》を除外!」
「何だと!?」
「そして、速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動! 《ヒュグロの魔導書》と《セフェルの魔導書》を除外して《ゴブリンエリート部隊》を裏側守備表示に変更ですの!」
さすがメイだ。
自分が除外されても問題無いカードを選択してくれた。
そして、モンスターが裏側守備表示になったことで、装備されていたカードは対象を失い破壊される。
ついでに《魔導書廊エトワール》に魔力カウンターが乗った。
【《ブラック・マジシャン》ATK2500→2700】
「くそっ!」
「バトルフェイズ! 《ブラック・マジシャン》で《ゴブリンエリート部隊》に攻撃!」
ダイレクトアタックこそ出来なかったが、ヒイラギのフィールドがガラ空きになる。
「カードを三枚伏せてターンエンド」
【メイ喜多嬉の手札:0枚】
最上級モンスターが破壊されてもヒイラギは狼狽えていなかった。
ドローフェイズに入り、自分が引いたカードと持っていた一枚を重ねる。
「《スケープ・ゴート》を発動。《羊トークン》を守備表示で四体、特殊召喚……せっかく最上級モンスターを召喚しましたが、私も簡単に勝てるとは思っていません。さらに《悪夢の鉄檻》でモンスターの攻撃自体も防がせてもらいますよ」
【ヒイラギの手札:0枚】
抜かりない防御姿勢だ。
だが——このターンで決めさせて貰う。
「自分のターン、ドロー。《魔導書院ラメイソン》の効果を発動。《グリモの魔導書》をデッキの一番下に戻して一枚ドロー」
【《ブラック・マジシャン》ATK2700→2800】
当然、魔力カウンターが乗る。
「伏せカードオープン。《師弟の絆》。場に《ブラック・マジシャン》がいることにより、自分のデッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を呼ぶ」
正直、《ブラック・マジシャン・ガール》はカードパックから出た記念のような意味でメイとのデュエル時には入れていた。あまりシナジーが無いため残すつもりは無かったのだが、いざ抜こうとするとやはり見た目で入れたくなってしまい、今に至る。
デュエリストとしては失格かもしれないが、きっと男としては合格だろうと言い訳をした。さしものメイドたちもそのときはジト目で見て来たが、ベッドに引き摺り込んで黙らせたので無問題である。
【《ブラック・マジシャン・ガール》ATK2000→2300】
《師弟の絆》にはサーチ効果もあるが、さすがに入っていないので使わない。
「速攻魔法《ディメンション・マジック》」
「小娘があのとき残していたカードか……!」
「《ブラック・マジシャン・ガール》をリリースして、《混沌の黒魔術師》を特殊召喚。さらにデッキから《妖眼の相剣士》、手札から《マジシャンズ・ソウル》を墓地に送り、墓地から《ブラック・マジシャン・ガール》を蘇らせる」
【《混沌の黒魔術師》ATK2800→3100】
【《ブラック・マジシャン・ガール】ATK2000→2300】
「錚々たるカードが並びましたが、彼らの効果は私も良く知っています。何しろあの伝説の決闘者、武藤遊戯が好んだモンスターたちですから。《混沌の黒魔術師》だけは厄介ですが、それはエンドフェイズに発動する効果」
「そうか。なら、《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》が揃ったときのことも分かるな?」
「……っ、まさか!」
「メイが伏せた最後のカードを発動——《黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)》」
師弟の二人が杖を合わせると大きな魔力弾が生み出される。
その威力の大きさからか、時折プラズマのようなものすら起こる。
「まっ……負ける!? 私が! 『モルス・キマイラ』のナンバー2たる、私が!?」
「たしかにあなたは強かったかもしれない。ですが、私と竜胤のコンビに勝てると思わないでくださいまし!」
余波でフィールドが見えないほど、明滅が繰り返される。
ソリッドビジョンとはいえ、思わず目を細めてしまうほどだ。
やがて土煙が晴れる頃、ヒイラギのフィールドには《羊トークン》も《悪夢の鉄檻》も何もかもが無かった。
「バトルフェイズ。三体のモンスターでダイレクトアタックだ」
【ヒイラギのLP:8000→5700→2900→—200】
「くっ……」
そして、ヒイラギは力が抜けるように膝を付いた。
自分はそんな彼に近付き、首元に掛かったキーカードを取る。弱々しく手を伸ばして来たが、後ろに下がることで避けた。
「往生際が悪いですわね。敗者は敗者らしく、潔く頭を垂れなさい」
「は、敗者ですか……くくっ。それはどうですかね?」
「……?」
「たとえ私が負けようとも、『モルス・キマイラ』が負けたわけではない。私にとって、我々にとって、負けとは組織の敗北だ。副頭領である私が負けようが、『モルス・キマイラ』の頭領が負けなければ、それは負けではない」
「……頭領。噂には聞いたことがありますわ。元々ロシアの代表デュエリストであり、裏デュエリスト界に入ってからはその実力もあって瞬く間に成り上がった傑物。ロシア国内で問題を起こしたとの話もありますが、真相は不明。秘密裏に回されたロシアと欧米の追手デュエリストも返り討ちにしたとか」
「あの方の実力は私と比べようもない。時たまに手合わせはさせてもらっていましたが、一度もライフポイントを削ったことはありません。私が知る限り、あの方が負けたのは——DDのみです」
「——っ、そこまでの実力がありますの……」
「DDに敗北し、あの方は表舞台から姿を消した。雌伏の時を経て『モルス・キマイラ』を作り上げ、今の我々がある」
「お前たちの頭領はどこにいる?」
「くくくっ、最上階——社長室で愚鈍な依頼主とあなたたちを待っているでしょう。どうせあの方には勝てない。どうですか? その小娘を置いていけば、あなただけは無事にビルから出られます」
「初めから無事に出るつもりだ。心配は要らない」
「……やれやれ。メイお嬢様もとんだ馬の骨を用意したものだ。こんな考え無しを側に置くとは」
「いや。これでも考え——」
「——確かに竜胤は庶民で考え無しかもしれませんが、私にとって頼りになるパートナーなのですわ」
おい。
「甘い考えだ。なら、行くと良いでしょう。そして、知ると良い。本当に強いデュエリストというものが、一体どういうものなのかを……くっ、ぅ」
そう言い残し、ヒイラギは気を失った。
話が長くなりそうだったのでチェイムにお願いしたのだ。
「これで中層階のキーカードは手に入れましたわ。私のも合わせて、社長室までは問題無く行けます」
「そうだな。だが、少しだけ休息を取ろう。ビルに入ってからデュエル続きだ」
自分は割と体力に自信があるため大丈夫だが、メイはそうではない。
社長室を目前に逸っているのか、眉根が寄ってしまっている。
「……ふぅ。そうですわね。竜胤の言う通りですわ。気持ちの焦りはデュエルのプレミ。拾える勝ちも拾えなくなる」
「幸いここにはウォーターサーバーとケータリングもあるようだ。疲労は出来るだけ残さないようにして上に向かおう」
勝手に取るのもどうかと思うが、緊急事態につき許してもらいたい。メイもいるので大丈夫なはずだ。
自分は魔導書デッキをテーブル上に広げる。
DDにしか負けたことがない話が本当ならば、相手は相当強いはずだ。それこそ、母親より強いかも知れない。
念のためドラゴンメイドのデッキも確認し、メイの息が落ち着くのを待った。