黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19) 作:神の筍
会議室の椅子に座り、休息を取っている。
メイはほんの少しだけ眠りたいようで、顔を伏せていた。ちなみにヒイラギは気絶させたまま準備室に放り込んでおり、同室にはいない。
デッキをスプレッド状に広げていると頭上に何か(・)が現れた。
「……ウィッチクラフトか」
思わず呟く。
目線の先、そこには気怠そうな雰囲気で宙に浮かぶ《ウィッチクラフトマスター・ヴェール》がいた。
『……』
ぼんやりと、こちらを見つめて来る。
彼女は小さな手を差し出した。
「カード」
『……』
頷き、取れと顎を突き出した。
『——あの』
不意に、真隣から声がする。
そちらに振り向くと申し訳無さそうな顔をする《ウィッチクラフト・ハイネ》がいた。
『こちら、我々ウィッチクラフトが作り上げたゴーレムです。きっと……えっと、ご主人様でよろしいですか?』
「ああ」
『きっとご主人様のお役に立つからと、マスターヴェールからの贈り物です』
「そうか。それは助かる。ヴェール、ありがとう」
『……』
彼女は得意げな表情を浮かべると、煙のように姿を消した。
『では、私も』
「分かった。だが、どうして今さら出て来たんだ?」
『さ、さぁ……基本的にウィッチクラフトの意向はマスターヴェールによるものです。本当なら早くに挨拶するべきだったのですが……』
見るからにマイペースな精霊だったので深く追求するつもりはない。
『それでは私も』
「何か不自由はないか?」
『まさか! ご主人様といると毎日尽きぬ量の魔導書を読めますし、精霊界ではラメイソンとも繋がりを得ました。不自由どころか自由過ぎて時間が足りないくらいです』
「そうか。それなら良かった」
『ええ。では、またお伺いさせていただきます』
そうして彼女の姿も消えた。
いきなりのことだったが、デュエル中は何度か目が合っていたので驚くほどのことでもない。
贈ってくれたカードを確認する。
「そのまま入れても問題無いか」
デッキをデュエルディスクに戻し、メイが起きるのを待った。
一、
「——ふわぁ……何だか頭がスッキリしましたわ」
「何か食べるか?」
と、メイの前に戸棚から取り出した饅頭とフィナンシェを置いた。
和洋対応しているのはさすが大企業といったところ。
彼女はフィナンシェの袋を開け、食べ始めた。
自分は余った饅頭を食べる。
「竜胤。私が寝ている間、誰かと話していましたの?」
「いや、誰とも話していないが……デッキ調整をしていたからな。独り言が聞こえたのかもしれない」
実際、デッキを見るときは色んな考えを出来るよう声に出すので嘘ではない。
メイの中では大した話でもなかったようで、彼女は小腹を満たし、最後に水を飲むと立ち上がった。
「このまま最上階へ突っ走りますわ? 準備は良いですね?」
「もちろんだ」と答え、二人して会議室から出る。
高層階手前までは同じエレベーターで行けるらしいが、高層階に行くためのエレベーターは乗り換えが必要とのことなので、そこで一悶着ありそうだ。
「絶対、この会社を奪わせるような真似はさせませんわ……!」
二、
やはりと言うべきか、高層階の一つ下で一悶着はあった。
警備室の前にいた二人組のように立ち塞がる者がいて、デュエルになったのである。さすがにヒイラギほどではなく、量産型高火力レベル4モンスターデッキだったのだが、問題は高層階からだった。
何と最上階までに行く途中の階でチンピラデュエリストたちがエレベーターのボタンを押し、停止するたびにデュエルということになったのだ。もはや戦い慣れたとはいえ、さすがに数が重なると面倒臭く、殆どの相手は即効性もある自分が戦った。
そして、五人を倒した頃、ようやく最上階に辿り着いたのである。
「……開けます」
幸子の会社で見たように、その社長室の扉も重厚だった。
傷一つ無く、防虫・防腐塗装のおかげか艶やかに輝いている。
「……」
中に入るとそこには二人の男がいた。
一人は燻んだ金髪の白人で、恐らく良かったでろう人相は人生経験を写し出しているのか歪んでいる。どことなくメイの面影はあるため、あれが叔父のはずだ。
もう一人の人物は大きな窓ガラス前に立ち、街を見下ろしている。背中しか見えないが、タバコを蒸しているようで紫煙が漂っていた。薄い金髪に黒いコートを羽織っている。
「やっと来たか。メイ」
「やっと来たか、ではないでしょう? あなた、何をやっているんですの?」
「何って、実は兄貴に頼まれてな。最近体調不良だから代わりに会社を経営して欲しいってよ。まぁ、仲はそこまで良くなかったが、曲がりなりにも兄弟だ。信頼出来る人間がオレしかいなかったんだろうさ」
「下のお仲間たちはどう説明するつもり?」
「さすがのオレもこれほどまでの大会社はいきなり経営出来ねえからな。ほら、アレだよ。何だっけ……経営顧問とかいうやつ? アドバイザーってやつだな」
「ふざけないで! あなたは我が社を乗っ取るために『モルス・キマイラ』を雇い、社員を外に出した。その間何をするつもりだったのか知りませんが、そんなこと私が許すと思って?」
「ハッ! 世の中は奪う、奪われの関係だ。体調を崩し、隙を晒したのは兄貴! 絶縁までしやがって! その間に全て奪ってやるよ!」
「させるわけないでしょう!」
メイがデュエルディスクを構えると、叔父は大袈裟に手を挙げた。
「おっとっと。デュエルはしないぜ? オレはあんま得意じゃねえんだ」
「自分で戦うことも出来ないんですの?」
「頭を使うタイプなんだよ。デュエルは下に任せれば良い。そうだよなぁ? 『モルス・キマイラ』の頭領さんよ」
「——俺は雇われで、お前が依頼主だ。お前がデュエルしろと言うなら、やろう」
頭領と呼ばれた男は尚もこちらを見ずに煙草を蒸している。
「くくくっ。お前たちを雇えたのはラッキーだったぜ。多額な前払い報酬と聞いていたが、後払いでも良いって話だからな! 安心しろ。全てが終わったあと、この会社の株で払ってやる」
「そうか」
どうやら叔父はこのまま上手くいくと思っているらしい。たとえ自分たちを止められたとしても、ヒイラギが言ったように全てを奪われるのだから。
「それと……メイ。お前はデュエルを出来ねえよ」
「……?」
「お前がこの国のデュエルアカデミアでも有数の実力を持っていることは知っている。実際、ここに来たってことはヒイラギも倒したってことだからよ?」
「あの程度、障害にもなりませんわ」
「だから、保険を用意した」
叔父はそう言うと、室内にある扉から隣室に移動へ入った。
時間にして一分も無いだろう。
再び扉が開き、そこからメイによく似た風貌を持つ男性が乗せられたストレッチャーが運ばれた。
「——お父様!」
それは病院で入院しているはずのメイ父親だった。
「なぜ!?」
「所詮、病院も商売屋だ。この地域どころか、世界的な大企業が『自宅療養するから家に帰したい』と言われれば顔を立てる。特にオレの立場があればな。絶縁されたとはいえ、兄弟。喜多嬉家に婿入りしたせいで姓が変わっちまってたのが面倒だったが」
「くっ……!」
「世の中には万が一がある。そんなお前を戦わせないように用意した人質だ」
「お母様はどうしましたの! 一緒の部屋で寝ていたはずですわ!」
「あぁ、あの女か。あっちはどうでも良い。兄貴がいなければ何の意味も無いからな。今頃病室で起きて、旦那の不在に慌てふためいてるんじゃないか?」
「そこまでの外道だったとは」
「褒め言葉だよ……さぁ、残るはお前が連れて来たその男だけだ。服装からしてアカデミア生のようだが、『モルス・キマイラ』の頭領に勝てるわけがねえ」
「竜胤……」
心配そうな顔でメイはこちらを見てくる。
「コイツの名前はアレクサンドル・ラカトゥシュ。噂には聞いてるだろ? ロシアの元代表デュエリストだ。現役時代は一人を除いて無敗。その尽くを倒して来た裏デュエリスト界最強の男!」
背を向けたまま頭領——アレクサンドルはポケットから取り出した携帯灰皿に煙草を捨てた。
「——チェイム」
あちらの行動も気になるが、今はメイの懸念を晴らさなければならない。
「——はぁい」
室内にメイでもない女性の声が響く。
その声の主を探すように叔父は辺りを見渡した。
「だっ、誰だ!」
「あらぁ、前にも上にもいないわよぉ」
叔父の足元から黒い靄が発生する。逃れようとしていたが、やがて力尽きるように倒れてしまった。
「ナサリー。メイ父親を診てやってくれ」
「分かったわ」
「えっ……えっ、誰ですの……? 一体、何が……? どこから?」
メイは混乱している。
しかし、今は詳しく説明している暇はない。
「さぁ、お姉ちゃんと一緒にお父様の様子を見ましょうねぇ」
と、メイはナサリーに背中を押され、メイ父親の下へ行く。
「ちょ、ちょっと竜胤! 彼女たちは誰ですの!?」
「自分の寮部屋でよく美味しい茶と菓子が出るだろう? それを用意してくれているメイドだ」
「……そうですの」
……そこで納得するのか? いや、受け入れる余裕が出来るものなのか? 幸子もそうだったが、それほどまで自分の部屋にあの茶と菓子があるのが疑問だったのだろうか? たしかに毎日食べたくなるくらいには美味いが。
メイはメイ父親と共に壁の端に寄る。
社長室は広く、天井も高い。
そんな空間の中央に自分とアレクサンドルが向かい合った。
「——デュエルモンスターズの精霊、だったか?」
「知っているのか?」
「代表にまで行くと、そういう眉唾な話はよく聞こえて来た。あいにく俺は見えないが、見えるというデュエリストにも会ったことがある。実際に見たのは今日が初めてだが」
八雲プロも似たようなことは話していた。
「いや……初めてではないか。一度だけ……——DDと対決したとき、そういう存在は見た」
ペガサス会長によれば、強いデュエリストは精霊が憑いていると言う。本人が見えるかどうかは別の問題だが、内包するエネルギーのようなものを好むだとか。これはメイドたちも言っていた。ただ、ウィッチクラフトのように違う目的で居着く精霊もいるが。
とにかく、DDほどのデュエリストになれば精霊が憑き、見えたとしても不思議ではない。
「最も、あの光が精霊などという利口なモノとは思えんが」
普段精霊の見えないアレクサンドルでも見えたということはドラゴンメイドのように格高い精霊だったのかもしれない。
「ヒイラギから俺たちの本当の目的は聞いているな? 依頼主がどうなろうが問題は無い。俺たちの目的は最初(はな)からメイ喜多嬉。娘だからだ」
「聞いている。だが、大人しく受け渡すつもりはない」
そもそも渡すつもりがないのだが。
「……なら、デュエルで話し合うしかないようだな」
アレクサンドルはコート内に提げていたデュエルディスクを取り出して腕に嵌めた。
その形状は自分やメイが持っているような量産型ではなく、一部のプロや一定の実力を持つ者が特注品で作らせるディスクだった。まるで烏……いや、天使の羽が黒くなったかのような装丁が特徴的である。
「アレクサンドル・ラカトゥシュ。『ウルス・キマイラ』の頭領だ」
「一月竜胤。デュエルアカデミア一年、オベリスクブルー所属だ」
ソリッドビジョンが展開され、室内が淡く輝く。
「「——デュエル」」
表示されたコインは表。
自分が先行だ。
「ドロー」
手札を見る。
初動としては悪くはなく、いつも通りの感じだ。
「《魔導弓士 ラムール》を召喚。効果により、手札の《アルマの魔導書》を見せ《魔導術士 ラパンデ》を守備表示で特殊召喚。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
【一月竜胤の手札:三枚】
相手のデッキが分からない以上、初動から動くのは愚策だ。取り敢えず壁モンスターを立てて様子を見る。
相手はDD以外には負け無しの元代表デュエリスト。
間違いなく、自分が今まで戦ってきた中でトップクラスの実力だ。
「見たことのないカテゴリだ。名前からして魔法カードが主力か? ……まぁ、良い。俺のターン」
ヒイラギはアレクサンドルとデュエルして一度もライフポイントを削ったことがないと言っていた。
速効でモンスターを展開するデッキなのか、それとも防御型のデッキなのか。はたまた魔法・罠バーンの可能性もあるが……。
「俺は手札から《堕天使スペルビア》を捨て、《トレード・イン》を発動。カードを二枚引く」
——堕天使か。
知ってはいるが、使用者は初めて見る。
高レベルモンスター。高火力モンスター。豊富な魔法・罠カード。攻防充実した最上級者向けデッキだ。手札が事故ればストレート負けもあり得るが、目の前の男がそんな愚を犯すとも思えない。
「《悦楽の堕天使》を召喚。召喚成功時、手札とデッキからレベルの異なる堕天使モンスター二体を選び、相手フィールドに守備表示で特殊召喚してもう片方を自分の手札に加える」
自分のフィールドに召喚されたのは《堕天使ユコバック》だ。守備力は1000。一応特殊召喚時効果もあるが、自分のデッキには意味が無い。
「今加えた《堕天使エデ・アーラテ》と《堕天使テスカトリポカ》を墓地に送り、《堕天使マスティマ》を特殊召喚」
獅子の顔、牛の角、それでいて二足歩行の怪物が立ち上がる。
「《堕天使の戒壇》を発動。墓地から《堕天使スペルビア》を守備表示で特殊召喚し、さらに《堕天使エデ・アーラテ》を釣り上げてくる」
堕天使モンスター四体が揃うが、それは許さずに伏せカードをオープンした。
「《堕天使エデ・アーラテ》が特殊召喚されたとき、罠カード発動。《黒魔族復活の棺》。《魔導弓士 ラムール》と《堕天使マスティマ》を墓地に送り、デッキから《混沌の黒魔術師》を特殊召喚」
「……また面倒なカードを」
「頼もしい仲間だ」
「だが、バトルフェイズには入らせてもらう。《堕天使エデ・アーラテ》で《堕天使ユコバック》を攻撃。このモンスターは攻撃力が守備力を上回っていた場合、貫通ダメージを与える」
【一月竜胤のLP:6700】
「《堕天使マスティマ》で《魔導術士 ラパンデ》を攻撃」
「破壊され墓地に送られたとき、効果により《魔導教士 システィ》を手札に加える」
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
エンドフェイズ時に《混沌の黒魔術師》によって墓地の魔法カードを回収出来るが、残念ながら今回無い。
唯一無二とも言って良い効果を発揮せずに召喚したのはこのモンスターが戦闘時、破壊したモンスターを除外出来るからだ。
【アレクサンドル・ラカトゥシュの手札:一枚】
「自分のターン——ドロー」
伏せカードも気になるが。
臆して相手にターンを与えれば、瞬く間にこちらが不利になるだろう。
「自分の墓地に魔導書魔法カードが無いため、《魔導書庫クレッセン》を発動。デッキから三種類の魔導書魔法カードを選び、相手に見せてランダムに選ばせる。自分が選択するのは《グリモの魔導書》《ルドラの魔導書》《ネクロの魔導書》だ」
アレクサンドルの前に裏側で三枚のカードが提示させる。
「真ん中を選ぶ」
「選ばれなかった二枚はデッキに戻し、シャッフル」
加わったのは《グリモの魔導書》だった。
そのまま発動して《魔導書廊エトワール》をサーチ。同じく発動する。
「《魔導教士 システィ》を召喚。バトルフェイズに入る。《混沌の黒魔術師》で《堕天使スペルビア》を攻撃」
「……除外されるか」
「カードを一枚伏せ、エンドフェイズ時に《魔導教士 システィ》の効果発動。自身を除外してデッキから《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》と二枚目の《グリモの魔導書》を加える」
【一月竜胤の手札:三枚】
滑り出しは悪くないだろう。
自分のモンスターならば堕天使モンスターの高火力にも対応出来る。しかし、未だあちらのエースカードは顔を出していない。
「俺のターンだ」
一手間違えれば敗北に繋がるのは自明だ。
「《悦楽の堕天使》をリリース——《堕天使ディザイア》をアドバンス召喚」
紺色を基調とした金装飾の鎧と両腕は攻撃にも転じられる盾を付けた堕天使が現れた。紅翼が羽ばたくとフィールド全体を揺らす。
このモンスターは天使族をリリース素材にする場合、リリース数が一体だけ済む最上級モンスターだ。
「——攻撃力3000!」
そんなメイの声が聞こえてくる。
ナサリーの様子からメイ父親は問題なかったらしい。
ちらりとそちらを向くと、笑顔で手を振って来た。ナサリーもチェイムも既に姿はメイたちに見えなくなっている。
そんなことを考えていると、アレクサンドルがバトルフェイズに入った。
「《堕天使ディザイア》で《混沌の黒魔術師》に攻撃。《堕天使エデ・アーラエ》でダイレクトアタック」
【一月竜胤のLP:6700→6500→4200】
「ターンエンド」
【アレクサンドル・ラカトゥシュの手札:一枚】
「自分のターン——」
さて、やられっ放しというのも不甲斐無い……というよりも、様子を見て警戒していたのだが、どうやらアレクサンドルも同じようだ。
ここは藪を突き、大きく主導権を得させてもらおう。
「デッキから《魔導冥士 ラモール》を墓地に送り、《マジシャンズ・ソウル》を特殊召喚。そして、《マジシャンズ・ソウル》と《堕天使ディザイア》対象にして発動。《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》を特殊召喚し、その後選んだ二枚を破壊する」
二体のモンスターから紫花が咲き、それを栄養に時花の賢者が生まれた。
さらに《グリモの魔導書》で《セフェルの魔導書》を加える、そこから《アルマの魔導書》を見せて発動。《ヒュグロの魔導書》を持って来て攻撃力を上げた。
【《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》ATK2900→3900→4200】
《魔導書廊エトワール》の効果も相まって攻撃力は4000を超える。
「バトルフェイズだ。《堕天使エデ・アーラエ》に攻撃」
【アレクサンドル・ラカトゥシュのLP:8000→6100】
「……ふん。やるな」
「《ヒュグロの魔導書》を読んだモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊したことにより、魔導書カードを一枚手札に加える」
「ダメージを与えられたのはいつぶりだ」
「たしかに強いが、勝てないほどではない」
「だろうな。どうやらお前は知り合いという枠でメイ喜多嬉が連れて来たのではなく、確かな実力を信じて連れて来られたデュエリストであったらしい」
アレクサンドルは口元を歪めて笑った。
メイン2に入り、加えたばかりの魔導書カードを使う。
「《魔導書院ラメイソン》を発動してターンエンド」
【《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》ATK3200→3300】
【一月竜胤の手札:一枚】
「——エンドフェイズ時!」
声音静かだったアレクサンドルが高らかに手を挙げ、伏せカードをオープンした。
「速攻魔法《終焉の焔》を発動! 《黒焔トークン》二体を特殊召喚! ……喜べ。お前は堕天使の長たるモンスターを見せてやる——俺のターン!」
エンドフェイズ時に《終焉の焔》を使用するのはヒイラギもやっていたプレイだ。もしかするとアレクサンドルを参考にしたのかもしれない。
「かつて、俺はロシア代表として世界大会に挑み、あの男——DDに敗れた。互いに死力を尽くしたデュエルだと思ったが、あいつにとってはそうでなかった」
語るに曰く、アレクサンドルは世界大会準決勝でDDと戦い敗北したという。
そのとき使用していたデッキは天使族。
今のような堕天使カテゴリではなく、《勇気の天使ヴィクトリカ》を主軸とした白色の天使族デッキだった。
「……見たことがあるな」
エド・フェニックスのデュエルをテレビで見ていたとき、養父がDDということを知らされ彼のデュエルを思い出していた。
そのとき、ベスト3には入るだろうなというデュエルをしていたのが彼——アレクサンドル・ラカトゥシュだったのだ。
「それを察した俺は世界大会終了後、アメリカへ帰るDDを訪ねた。敗けた身ではあったが、余力を残し俺を倒した男の本気を感じたかったんだ」
初めは断るDDだったが、アレクサンドルの熱意に押されたのか半ば強引にデュエルを開始する。大会とは全く違うデッキのDDに翻弄されるものの、アレクサンドルも大会以上の実力を発揮し、遂にDDの持つ最強のカードを吐き出させた。
「——《D—HERO Bloo—D(デスデニーヒーロー ブルーディー)》」
それが先ほどアレクサンドルの言っていた精霊のカードだろうか?
「俺は何が起きたのかも理解出来ずに敗北した。そして、最後にダイレクトアタックを受けた瞬間、思ったんだ……今のままでは駄目だと。奴を倒すには白い光よりも闇の光。容赦の無い力が必要だ。だから、俺はこのモンスターを手に取った。子供の頃、恐れてストレージの奥底に隠していたこのカードをなぁ!」
二体の《黒焔トークン》が泥のように溶けて消えていく。
あたりに漆黒の翼が広がった。
「闇世を求めたる堕ちた翼! 善悪を超越した破邪の剣! その身に宿すは神への叛逆! 煩わしい光を呑め! 《堕天使ルシフェル》をアドバンス召喚!」
……やはり来たか。
《堕天使ルシフェル》——堕天使モンスターのトップであり、特殊召喚は出来ないものの召喚した際の効果は強力だ。それでいて最上級モンスターに恥じぬ攻撃力3000という数値。
「召喚に成功したとき、俺はデッキから《堕天使イシュタム》を特殊召喚。そして、効果発動。ライフポイントを1000払うことで《堕天使の戒壇》と同じ効果を適用する。俺が墓地から蘇らせるのは《堕天使マスティマ》だ」
【アレクサンドル・ラカトゥシュのLP:6100→5100】
「さらに第二の効果。フィールドにいる堕天使モンスターの数と同じ枚数をデッキ上から墓地に送り、その中の堕天使カードの数×500ライフポイントを回復する。上から《享楽の堕天使》、《トレード・イン》、《叛逆の堕天使》だ。よって、1000回復】
【アレクサンドル・ラカトゥシュのLP:5100→6100】
しかし、まだ自分の《時花の賢者—フルール・ド・サージュ》の攻撃力は超えられない。《魔導書廊エトワール》によって3400になっているからだ。
「伏せていた罠カードを発動——《背徳の堕天使》。《堕天使マスティマ》を墓地に送りお前のモンスターを破壊する」
《堕天使マスティマ》が時花の賢者に纏わり付く。
当然、彼女も抵抗するが健闘虚しく破壊されてしまった。
「バトルフェイズに入る」
壁モンスターはいない。
相手のフィールドには攻撃表示の《堕天使ルシフェル》と《堕天使イシュタム》。
ダイレクトアタックを喰らえば敗北は必至——。
「二体のモンスターでダイレクトアタック!」
破邪の剣と無数の魔力弾が迫って来た。
本当はキマイラデッキにしようと思ったんです。でも破滅の光を絡めるならキマイラじゃ太刀打ち出来ないと思ったから……。