黙祷集。(最新話『ドラゴンメイド』更新2024.11.19)   作:神の筍

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第8話

 

 ゴールデンウィークも中ほど過ぎ、水明は部屋の掃除をしていた。掃除機は毎日軽く掛けているが今日は端から端まで毛の一本も逃さないと言わんばかりに往復し、極めつけにはウェットワイパーで仕上げるほどだった。十畳ほどのワンルームは一人暮らしには十分で、トイレと風呂が分かれて家賃きっかり光熱費込みで三万円なのだからお得もお得である。

 数字だけを見て即日入居した水明は知らないが、この物件はちゃんとした事故物件だ。

 少し前のことになるが水明の隣の部屋で痴情のもつれから殺人事件が起こった。金柳街のすぐ側ということもあり、管理会社はすぐに片付けて入居を募り、家賃が減額していたこともあって次の入居者はその日の内に決まった。だが、その入居者は入居から一月後に自殺してしまったのだ。それ以降、何故かこのマンション――三階建てコンクリート造り――の二階と三階に住むと不幸があると噂され水明しか暮らしていない。一階はそういった事情から少しでも集金するためテナント倉庫に改装されていた。余談だが、管理会社は水明がいつ死ぬかハラハラしているが一年以上特に何もなく暮らしているので不思議に思っている。

 

『もしもし』

 

「弁慶か。もしかしてもう下にいるのか?」

 

『ん、着いたよ』

 

「了解。すぐ下に降りる」

 

 水明が部屋をいつもより綺麗にしている理由――それは弁慶が来るからであった。七浜ショッピングモールに行った水明、義経、弁慶の三人は些細な連絡はすれど以降は特に集まることもなく、ゴールデンウィークを終えようとしていた。しかし、連休も残り二日といった頃に弁慶が「そろそろ川神水が尽きるから買い物ついでに遊びに行って良いか?」と連絡があったのだ。幸いにして水明の下宿先は川神水専門店と並んでいるので特に断ることもなく喜んで了承した。

 

「――おはよう。弁慶」

 

「おはよ、水明」

 

 オートロックを抜けて道に出るといつものように錫杖を携えた弁慶が立っていた。今日は少し風が吹いているので薄い上着を羽織っている。下のジーンズはこの前買ったものだろう。

 

「先にそっちに寄るか?」

 

「そのつもり。呑むためにおつまみも九鬼から持ってきた」

 

 弁慶は昨夜のうちに九鬼の従者に頼み、川神水に合う数種類のおつまみを用意してもらっていた。そのため錫杖と結局左腕に巻いた瓢箪の他にビニール袋を二つ持っている。

 二人はそのまま川神水専門店へと入った。見た目は個人酒屋と変わらないため未成年が入るには少し勇気がいるだろうが、中はアルコールに類するものなど一つもなく、年季の入った棚に大量の川神水が置かれているだけなのである。店主は奥の座敷に座っており、二人を見て会釈だけすると読んでいた新聞に目を戻した。

 

「家の隣こんな店があったら毎日来ちゃうよねぇ~」

 

 透明の瓶に入っているものもあれば、甕に蓄えられた川神水を持参した入れ物で持って帰れるサービスもある。

 水明は一度だけ来たことがあったが、そのときは正面にあった無味の川神水を選んだ。しかし、弁慶と同じように細かく見てみるとけっこうな種類があるようだ。桃の風味がするものや、柿渋を垂らして風邪予防になるもの、金箔を浮かしたものや、炭酸水と混ぜて――。

 

「これ本当に水か?」

 

「ちっ、ちっ、ちっ。水じゃなくて、川神水、ね」

 

「いや、それはわかっているが……」

 

 果実の風味を付けるのはまだわかるが、金箔を浮かしてどうするのだろうかというのが水明の正直な感想だ。炭酸水と混ぜるに至ってはそれもはや水で薄めた炭酸水ではないのかと。

 

「――お客さん。わかってるね」

 

 唸りのような、年老いた店主の声が弁慶に掛けられた。

 

「まぁ、これでも伊達に川神水を呑んできてないですから」

 

「……自身有り気だねぇ」

 

「高価なものはまだ呑んだことないけど、そうだね……ここからここまでの川神水は一口呑めば銘柄を当てる自信があります」

 

 そう言って弁慶が指定した範囲は店の六割、即ち三十種類くらいの無味の川神水だった。残りの四割は一本数万~数十万円もするものと水明も興味を示した果汁の混ざったもので弁慶の好みとは違うのだろう。

 

「ほう――」

 

 薄く、皺だらけの肌に潰された瞳が開かれる。水晶体が白く濁っており、見た目通りにかなりの歳を経ていることがわかる。

 一拍置き、店主が言う。

 

「なら、嬢ちゃん。戯れに味比べでもやってくかい?」

 

「味比べ?」

 

「御代はいらねぇ。今からこちらが選んだ川神水……そうさな、今嬢ちゃんが言った種類の中から十種類を選んで並べる。ほんで、右から順に銘柄を当てたら勝ちさ。嬢ちゃんには表に出してない稀少な川神水を一本やろう」

 

「稀少な……一本……」

 

「ああ。そいつぁ出来るのはちょいと特殊な環境でな。落雷で炭化した木によって濾過された水をさらに濾して作り上げる至高の名品。落雷が落ちるまさしく天運と手に要れる機運がなきゃあ名前も知れんだろう」

 

「そんな品をここで出して大丈夫なの?」

 

「心配にゃ及ばねえ。こちらも歳でな。最近は舌の調子も悪い。そんな輩が呑んじまったらそれこそ雷に打たれて罰が当たる。こちらとらぁこうして店番をしつつ、そんな運を持つ人間を見極めていたのさ」

 

「名前は。その川神水の名前は?」

 

「――八雷(やくさいかずち)。川神山にあった樹齢千年を超す神木に雷が落ちて生まれた、神の涙よ」

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

「流れに付いて行けないんだが」

 

 それが水明の正直な感想だった。

 最初から打ち合わせでも何かしていたんじゃないかという展開に水明の思考は停止している。実は九鬼の仕込みがあって、いきなりカメラが出ても受け入れる自信があった。

 

「……来な」

 

 水明たちが座敷の見えない場所に移動している間、店主は十の杯を用意していた。赤い杯はどれも同じ色、同じ匂いの水が入っており、カルキ臭がしないだけで水明の目から見て多摩川の水と変わらなかった。

 初めて見る弁慶の真剣な表情に呑まれ、状況に突っ込むことなく黙して佇んでいる。心の中ではいくつもの疑問が浮かんでいるが、分厚く重い空気によって本当に何か起こるんじゃないかと薄々期待しているのは事実であった。

 

「まずは一つ――」

 

 舌で泳がせ、喉を麗し、胃で熱さを感じる。

 一つ目は正解だった。

 

「次に二つ――」

 

 それも問題なく。三つ、四つ、五つ。

 

「むむ……」

 

 六つ目で少し詰まる。店主の口角が上がるのを見るに、予想していたようだ。しかし、見事に銘柄を当てる。

 

「残り三つ――」

 

 七つ目は一口分を二回に分けて味わった。八つ目はいつも弁慶が呑んでいる銘柄であり、唇に触れた瞬間わかった。

 

「九つ目――」

 

 表情が曇る。

 店主は、一つの技術を駆使していた。川神水を卸し、過去は自分も作ったが故に把握している――吞み合わせ。フレンチが前菜(オードブル)から誘い、スープへ移り、魚料理(ポワソン)で愉しませ、口直し(ソルベ)で切り替え、肉料理(ヴィヤンドゥ)で息を吐かせ、チーズ(フロマージュ)でまとめ、菓子(デセール)で現実に戻す。一つから八つまでの川神水によって舌の感覚を操作したのだ。

 弁慶は過去の記憶を思い起こすが、この味に辿り着くことが出来なかった。野舌で呑んできた川神水ではなく、今の弁慶の舌は川神水を味わうための舌になっている。それ故の――誤差。その誤差は大きく、最後は直感に頼って答えた。

 

「やるねぇ。なら、最後よ――」

 

「九つまでの川神水で、店主が最後に選ぶものは何となく予想が出来る」

 

 杯を掴み、

 

「十つ目、これが……」

 

 弁慶は豪快に杯を煽った。

 

「――八雷(やくさいかずち)」

 

「くっ、かかかかかっ! おう、おう。正解よ! 一つ目から十つ目まで全部正解よ! こちらが半世紀掛かって気付いた九つ目の吞み合わせに引っかかることなく、十つ目まで辿り着いた」

 

「はぁ~、緊張した。正直九つ目は勘だけどね」

 

「それで良いのさ。八雷を呑むにゃ、運が必要と言ったろう?」

 

 店主は一頻り笑い終えると、傍らに置いていた封の空いていない陶器瓶を弁慶の前に出す。

 

「さっきのはこちらが呑み残していたぶんだ。こん中に空気に触れてない、より深みのある八雷がある。大切なときに吞んでくれ」

 

「たしかに貰ったよ。店主の技術には驚いたけど、この――武蔵坊弁慶を倒すにはまだ足りなかったね」

 

「ほう、お主さんが話題の武蔵坊か? そりゃ、敵わないわなぁ。かかかっ!」

 

 弁慶はその後、貰った八雷以外の川神水五本の会計を済ませた。梱包する最中、店主と川神水の精製について話していたが、専門用語ばかりで水明には何を言っているのか理解出来なかった。ただ、弁慶が水明の部屋に行くまでの短い道中も非常に嬉しそうに笑顔を浮かべていたので別に良いか、と水明は思ったのであった。

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「お邪魔してくれ」

 

 濃厚すぎる時間はあったものの、その後は特に何も起こらなかった水明と弁慶はようやく部屋の玄関扉を開けた。早朝のうちから掃除をしていたおかげか水明自身もいつもより輝いている部屋に少し感動していた。

 

「お、これは私が来ると聞いてかなり綺麗にした様子」

 

「それは言わない約束じゃないのか」

 

 どうやら弁慶にはばれていたようだ。しかし、生まれたときから九鬼関連の清潔な施設で過ごしている彼女に綺麗と言われたことは水明にとって嬉しいことで、やはり掃除をしていて正解だったと思う。これで不潔なイメージを持たれて避けられるようなことがあれば華の男子高生的にも堪えていただろう。

 

「ただ、遊びに来てくれるのは嬉しいが何もないぞ?」

 

 キッチンの付いた廊下を抜け、引き戸を開けた先のワンルームには必要最低限のものしかない。部屋の中心に机と、下半部が物置になったセミダブルベッドと一人暮らしようのテレビ。たまにクラスメイトの話しているドラマやバラエティを見ることはあるが、殆どは平日の朝にやっている『ペットの時間』を見るためだけの道具になっていた。テレビ台代わりにしている書棚の中は特定のジャンルに偏ることなく、店頭に売っているおすすめ本を毎月数冊買ったようなラインナップとなっている。見た目娯楽の類が一切ない、素っ気ない部屋と言えるだろう。

 

「適当に座ってくれ。自分はお茶の用意をしよう……と思ったが、必要か?」

 

「川神水があるので大丈夫です」

 

「さよか。おつまみはどうする? タッパーのまま広げるか?」

 

「うん。このまま食べれるように分けてもらったから大丈夫かな」

 

「手拭きなどを持ってくるから準備しておいてくれ」

 

「はーい」

 

 引き戸越しに台所で作業する水明に耳を立てながら弁慶は部屋の中を見渡した。弟分である与一を除き、男の部屋に入ったのは初めてのことだったが、ここまで何もないものなのかと疑問に思う。彼女が来ると分かってから掃除はしたようだが、部屋の中は非常に整頓され、綺麗、というよりはそもそも汚くなるモノがないという印象だ。サブカルチャー趣味に傾倒している与一の部屋には何かのアニメに出てくる魔法陣のポスターやドラゴンのフィギア、ゲーム機など混在しており、水明の部屋もそこまでいかないだろうが彼の特徴を表すようなものがあると予想していた。

 そこまで考えて、弁慶は水明の趣味や得意なことなど自己紹介区分なものを何も知らないことに気付く。ベッドの下でも覗いてやろうかと思ったが、行動に移すよりも先に水明が戻ってくる。

 

「準備出来たぞ」

 

 割り箸と濡れた布巾、小皿をどれも二つずつ置く。水明用の川神水の杯もあるが、氷の淹れた烏龍茶を用意していた。

 

「お、ありがと」

 

「新しい小皿が欲しかったら言ってくれ。もう何枚かある」

 

「申し訳ないね」

 

「気にするな」

 

 おつまみは五つ。どれも多様な味付けをされている。

 

「うひょ~、美味しそう」

 

「すごいな。これを全部九鬼の従者が作ったのか?」

 

「得意不得意はあるけど、従者部隊はみんなそこら辺のレストラン以上の料理を作れるからね。ちなみにこの前迎えに来たステイシーと李さんはハンバーガーと中華料理が得意だよ」

 

「ステイシーさんか」

 

「なに、好みの人だった?」

 

 慌てて手を振りながら水明は誤魔化す。

 

「違う違う。よく川神で、金柳街でも買い食いをしている姿を見るからな。どちらかと言うと火力担当でそういうのは苦手なイメージが……」

 

「九鬼にも結構見た目犯罪者だろって人が多いからねぇ。ヒューム卿も絶対火力特化に見えるけど、というかそうなんだけど、クラウ爺には及ばないまでもプロ以上の紅茶を淹れられるから」

 

「ヒュームく――さんって言うと一年生にいる?」

 

「九鬼家従者部隊零位。今は紋プチの護衛をしてるけど本来はここにいるような人じゃないんだよね」

 

 紋プチとは九鬼紋白のことだ。

 

「そうなのか?」

 

「元々は九鬼帝専属の護衛みたい。ただ、今は九鬼の若手育成プログラムとかでこっちに戻って来てあずみたちを指導してる。おかげで私たちにも絡んでくるんだけど……」

 

 弁慶はそう言うが、そもそも若手育成プログラムから過去の偉人に学ぶという名目の武士道プランが派生した。そのため、弁慶たちの成長期中にヒュームたちが指導するのは既定路線である。

 

「弁慶たちとどちらが強いんだ?」

 

「無理無理。九鬼家従者部隊千人が一斉に襲っても返り討ちにするような人なのに、私たち三人で掛かっても勝てやしないよ」

 

「強烈な人だな……まあ、あの風貌だと妙に想像出来るが」

 

「年老いてスタミナが落ちたおかげでさらに火力が上がってるらしいから。本当、ああいう人がいれば別に私たち必要ないでしょって感じるよ」

 

 「川神水を呑みながらゆっくり暮らしたい」と弁慶はおつまみを食べながら続けた。

 

「素人目からすると、川神先輩とヒュームさんのどちらが強いか気になるけどな」

 

「うーん……あんな闘気を撒き散らしてる百代先輩だけど、何だかんだ本気は未知数だから先輩が……いや、ヒューム卿が負けてるイメージが湧かない」

 

 若くして川神鉄心のライバルであったヒュームはヘルシング家の出自にまつわる吸血鬼殺しの技を修めている。吸血鬼とは川神流の瞬間回復と似た技を持つ悪しき人間であり、超常的な存在ではなかったものの人々の安寧を脅かしていた。しかし、ヘルシング家は打撃の中に一族の血を継ぐ肉体と感応性の高い電撃を気で生み出しその回復能力を封殺した。そのため、瞬間回復と技の練度はともかく既に気量では祖父を越している百代だとしてもヒュームと戦い勝てるのかは怪しい。実際、百代は一度ヒュームの動きを見失って背後を取られているのだから、挑むとしても暫く鍛錬が必要だろう。

 

「そんな川神先輩と戦う約束をしているのか。弁慶たちも大変だなぁ」

 

「まぁね。そのために奥義の修練だってしてるようなものだし」

 

「もしかして、青い気弾を出すアレを――」

 

「そんなドラグソボール的なやつじゃないから。むしろ現代に蘇った英雄の奥義がハメハメ波って幻滅も甚だしいでしょ」

 

「それもそうか……」

 

 水明はやや落胆したような声音でそう言った。

 

「与一の奥義は割とコスパが良いんだけど、私と義経のはコスパ悪いんだよね」

 

 弁慶は義経のことを“主(あるじ)”と人前では呼ぶが、こうして落ち着いているときは義経といるときでも名前呼びをする。水明もそれを知っているため一々指摘しなかった。

 

「去年に一度だけ、川神先輩が車くらいの気弾を連打していたんだがああいうのは出来ないものなのか?」

 

「出来るっちゃ出来るけど、消耗が激しいからそういうことをするなら身体強化に回した方が良いんだよね。川神流の人たちが派手な技をしてるだけで、世の中の殆どの武芸者はあんなことが出来るほどの気量は持ってない。むしろヒューム卿みたいな肉弾戦特化が正統」

 

 与一の奥義は(自称)ソドムの弓による半端な壁越えならば容易く貫く一矢。日本でひと際優秀な弓使い五人に送られる称号――天下五弓。その一人であるFクラス、椎名京よりも遠射威力は高い。近距離の打ち合いになれば連射と白兵戦が出来る京に一歩劣るが、源氏に相応しい武威を誇る。

 一方、義経と弁慶の奥義は非常に特殊である。

 弁慶の奥義の名前は“金剛纏身”。一時的に気を爆発させ、刀を受けても矢を受けても通らぬ防御力と素で百代の力と並ぶ攻撃力がさらに上昇する。これを発動すればヒュームの攻撃にも何度も耐え得るのだが、ジェノサイドチェーンソーは体力を十割削る技なので余計に仇となる。

 義経の奥義は与一、弁慶の奥義を足してもそれ以上の能力を持つ。“遮那王逆鱗”と呼ばれるそれは『義経以外の周囲の人間から気力を徴収し、義経の求める状況を作り出す』というとんでもないものだ。義経が奇襲をしたいと思えば風が吹いて晴れているにも関わらず黒霧を呼び、奇襲を掛けたいと思えば空気を蹴って空を飛ぶことを可能にする。一見後者の能力のほうが目立つが、前者の『周囲の人間から気力を徴収する』というものの方が厄介であり、対峙している者が気弾を放てば空気へ触れた瞬間に霧散し、百代のかわかみ波であっても随時徴収され義経が超強化されるという勝ち筋のわからないものになっている。しかし、この奥義には一つ重大な欠点があり、『義経が心の底から怒ったときにしか発動できない』のだ。真面目な義経が怒ることは殆どなく、弁慶ですら他者に怒っている姿は見たことが無かった。義経が怒るときは不甲斐ない自分に直面したときだけなのだから。ヒュームはそれを赤子である故の弱点と評し、コントロールすれば比肩なき強みになると考えている。

 

「水明は川神学園で決闘とかしたことないの?」

 

「自分が? ないない。もっぱら見るの専門だぞ」

 

「天神館のときは? 他にもSクラスはよくFクラスと川神大戦をしてるって聞くけど……」

 

 弁慶の言う通り、入学以来SクラスとFクラスは毎学期に一度、川神大戦を行ってきた。発端はどれもしょうもないことでSクラスの着物姿の女学生が煽ったり、Fクラスの面々が着物姿の女学生を煽ったり。転校生が来たら取り敢えずやったりと色々ある。勝率はちょうど引き分けで、負け、勝ち、負け、勝ちで進んでいる。マルギッテが来てからは将の育成も進み、統率が上手くなっているので源氏組も合わせて今度やれば二連勝出来るのではないだろうか。前回の試合は参謀の冬馬が百代を引っ張て来たのでノーカンかもしれない。ただ、大和も人脈を駆使して九鬼揚羽、謎のバーサーカー板垣辰子、四天王橘天衣、西の武芸者松永燕といった水明も知らない強者をたくさん読んでいたのでどうなるかわからない。

 ともかく、クラスのリーダーである英雄も引き分けは好まないの性格なのでそのうち決着をつけるだろう。

 

「体力はあったからな。これでも根のリーダーだったぞ」

 

 根とは戦場の情報収集係のことだ。草と呼ばれる作戦本部と往復して実と呼ばれる将に伝える役割を持つ。

 

「まぁ、たしかに戦ってるところは想像出来ないかも」

 

「だろう?」

 

 ただ、水明は別の部分で戦っている。決闘が起きたときに必ずどこからともなく始まる食券トトカルチョだ。この方勝率を八割キープ、殆ど当てている。遊ばず手堅い方に賭けているということもあるが、どうしても拮抗している者同士の決闘は無理して賭けないといった引き際も弁えていた。おかげで卒業まで三食食べられる食券の枚数を持っており、朝食は早めに行ってとることも出来るが、最近のように弁当を作っている昼食や夕食分はどうしても余るのでたまに報酬を多めに学園依頼を出していたりする。

 

「依頼とかもあるんだ」

 

「報酬も金銭や露骨な換金物じゃなければ何でも良いからな。基本的には食券なんだが、たまに名家の生徒が温泉旅行券を出してることもあってな」

 

 去年の冬休み。水明もそれを目当てに依頼を解決したことがあった。内容はストーカー被害にあっているかもしれないということで、警察に相談しても動いてくれないからどうにかして欲しいというもの。刑事事件に繋がる可能性もあったため代行業も行っている宇佐美に協力してもらい、Fクラスの源忠勝とともに対応にあたった。結局ストーカーは生き別れた父であり、父は娘と離れてしまった負い目からばれないように見守っていたというオチがつく。

 

「私もその依頼に参加して温泉行きたかった……」

 

「本当に良かったぞ。父親が娘と向き合うきっかけをくれたお礼とかで、本当は近場の温泉だったんだが別府までグレードアップしてくれた」

 

「くぅ~、あと一年、いや半年川神に来るのが早ければ……!」

 

「依頼は一年中ある。また時間の空いたときに見に行ってみよう。温泉旅行券だけに限らず弁慶の欲しいものが報酬にあるかもしれないな」

 

 そうして二人は川神に来てから見たもの、知ったもの、驚いたものなどを話す。水明は時間を潰せるような娯楽品が無いため暇になってしまわないか心配していたが、弁慶の相槌も上手く、いつもより滑らかに舌が回った。十六時過ぎになり、義経からの連絡に合わせて弁慶は帰って行った。なお、八雷は開けることなく誕生日か何か祝い事のときに呑むようだ。

 

 

 

 

 

 

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