(参照:https://bbs.animanch.com/board/243686/)
注意:
ロナルドくんが女性
マリアさん×ロナル子ちゃん
R18ではないが裸は出てくる
目が覚めたらなにも着てなかった。
まどろみの中で最初に感じたのは素肌を撫でるふわふわの毛布の感触で、あたたかい、きもちいい、とまた眠りに落ちようとしたところで、自分はこんな毛布持ってないことに思い当たって一気に意識が浮上した。血の気が引く音が聞こえるくらい、ざぁっと頭が冷えた感じ。跳ねるように上体を起こして、ロナルドは辺りを見回す。
雑然としたようで纏まった部屋だ。棚や姿見なんかの家具は実用性重視なのか素朴なデザインだが、あちらこちらにかわいらしい雑貨や化粧品なんかが置いてある。部屋の中央にはローテーブル、そしてそのすぐ隣にはベッドがあり、そのベッドの上にロナルドはいた。ローテーブルの上に酒の空き缶がごまんと散らかっているのを見て、ロナルドはようやく「あ、マリアの部屋か」と思い当たった。ここがどこかがわかった安心感に、思わず大きく息を吐き出す。
「……なんだよ、驚かせやがっ、……」
いやそれはそれでマズいのでは。
じわりと肌に嫌な汗が滲む。ちら、と自分の体を見下ろす。やっぱりなにも着てない。素っ裸だ。友人の家で、しかも友人のベッドの上で、素っ裸で目が覚めた。しかも当の友人は見当たらない。いや俺なにしたんだ。酒に酔って暴れでもしたのか。いくら常日頃から仕事で醜態ばかり晒してるとは言っても、酒の場での失敗はマジで絶交もあり得るのでは。ヤバいヤバいヤバい、と思考がドツボにハマりだす。
「……いや、落ち着け」
落ち着け、と囁き声で自分に言い聞かせる。とりあえず思い出そう。どうしてこうなったのか。
そうだ、昨夜は、女子会だった。
正確にはその予定だった。誘っていた面子がほとんど来られなくなってしまったから。
女子会、というのは、まぁ文字通りの集まりだ。退治人とか吸対とかの女性で集まって飲む集まり。大抵シーニャかマリアが言い出して開催されることが多い。酒豪が多いから毎回結構な量の酒は飲むが、お喋りが主な会だから未成年のヒナイチとかもわりと来る。二次会まで来る。二次会の買い出しのコンビニであいつはコンビニスイーツ買いまくってる。あいつ甘いもん専用の胃袋持ってねぇ? 絶対胃袋の容量おかしいと思うんだよな。いや違うそういう話じゃない。俺は今の俺の現状の謎を解明しなければならないのだ。
そう、昨夜は珍しく俺が女子会やりたいって言い出して、直前に言うのやめなさいよってクソ砂に言われてイラついたからとりあえず殺し、皆に予定聞いたら奇跡的に皆の都合が合ったんだった。それでいざ決行、っていう当日になって、マリア以外の全員に急な予定が入った。
シーニャは飼ってる下等吸血鬼がいきなり体調崩してVRCに連れて行ったし、ターチャンは実家の中華料理店で二百人の団体客が急に予約してきたとかでヘルプに行ったし、マスターが野球拳大好きを見かけてコユキに店任せて出て行っちまったんでコユキも来られないし、ヒナイチは警察の上の人が来るのを家族共々対応しなきゃならないとかでめちゃくちゃ申し訳なさそうにしてた。というか皆申し訳なさそうにしてた。気にしなくていいのにな。
それで、そう、確か店も二人とかだと予約取れなくて、てか当日に予約取ろうとしたのが間違いだったんだけどな俺、それでマリアんちで宅飲みしようってことになったんだ。近くのヴァミマで買ってきたチューハイとか飲んで、飲み切っちまって、マリアが秘蔵の焼酎とか持ち出してきて、なんか色々割ったな、お湯で割ったしお茶で割ったし烏龍茶で割ったしオレンジジュースで割った。あれ、もしかしなくても俺昨日けっこう、いやかなり飲んだな。だいぶ記憶がわやわやしてる。マリアが録画してた映画とか見ながらぐだぐだ飲んで、わりと酔っ払って、なんか泣いちゃったりとかして、それで、
それで、
「お」
「あっマリ、」
「起きたのかよ。水いるか?」
「ア゛ーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!?????」
「持ってくるからちょっと待ってな」
近所迷惑、というクソでかい赤文字が脳内に浮かんだので咄嗟に自分の口を押さえた。俺叫んじゃったのにマリア全然動じてなかった。さすがマリアさんだぜ。いやそうじゃない。
いやマリアTシャツ一枚なんだけど。下なんも着てないんだけど。なんで? どうして? 家では裸派? そういうのは別に個人の自由だと思うけどいや違うよないつもは別にマリアんち泊まっても裸族とかじゃないもんなてかそうじゃなくってちょっと思い出してきたのがやばいっていうかというか声が心なしか出にくいような、
「ほれ、水。てかまだ朝の6時だぜ? まだ寝てたら?」
「アッ、ウン、アリガト」
ベッドの上に座り直して、季節外れのサンタのマグカップを受け取った。冷たい水が入っていて、なぜだかガラガラする喉に染み渡る。冷たいマグカップは、握っていればみるみる温くなる。ぽすんとベッドにマリアも腰掛けて、なんかよくわからないキャラクターが印刷されてるマグカップで水を飲んでいる。ちら、と横目で様子を窺うと、握りつぶしてしまうのではないかというくらい強く握りしめていたマグカップが、「飲んだか?」という声と共に攫われる。
「締め切りとかもまだ余裕あるって言ってただろ。もうちょっと寝てけよ。ロナルドの服洗濯してるからまだちょっと時間かかるし」
「アァ、ウン、ワカッタ、……」
半分呆然とその背中を見送って、行き場を失った手がマットレスに落ちる。口が乾く。水飲んだばっかりなのに。指先からどんどん温度が抜けていく。みっともなくマリアに泣きついた時の自分の声をじわじわ思い出す。弱音ばかり吐いた。シーニャもターチャンもコユキもヒナイチも家族のために頑張ってるんだと思うと、駄目だと思っていたのに、酒が進んで仕方がなかった。寒い、辛い、苦しい、寂しい、寂しい、寂しい、マリアに抱きついてそんなことばっかりぐちぐち言って、
それで。
「ロナルド?」
声にびくりと肩が跳ねる。いつの間にか俯いていて、太腿にぽつぽつと水滴が落ちている。まだ酒抜けてねぇのかな、とマリアが俺の目元を拭うので、それでようやく自分のせいだってわかった。
「あっ、ごめ、……マットレスが」
「これくらいで汚れねぇよ。いいからほら、擦らないで大人しくしてな」
やわらかい声でそう言われて、カッと顔に熱が集まった。酒で滲んでいた昨夜の記憶が、次第に熱と温度を取り戻す。いつもは豪快に笑うその唇が、ゆるく笑って耳元で囁く声、とか。タオルを持ってこちらに向き直ったマリアは、俺の顔を見て小さく笑った。
「なんだよその顔」
そう言って、マリアは俺に向き合うようにベッドに腰掛ける。
部屋の電気は点いていない。カーテンの隙間から朝日が細く差し込んで、部屋の中は薄暗い。マリアの指が、放り出されたままの俺の指を絡め取った。軽い力でタオルが目元に押し当てられて、ぼやけていた視界がクリアになる。間近にあるマリアの顔はやっぱり小さく笑っていて、俺の心臓はうるさいままで、またぼろぼろと涙が溢れてくる。
マリアの手が、俺の額、頭の天辺、うしろ、首、と掻き上げるように髪を梳く。ところどころひっかかっては、ぷつんと軽い衝撃とともに絡まっていた髪が解ける。マリアはなんにも言わなかった。俺はまだぼろぼろ泣きながら、マリアの肩に顔を埋めた。マリアは俺の髪を撫でながら、俺の手をぎゅっと握った。
マリアの体はやわらかくて、あたたかくて、ずっとこのままでいたいと思った。こんなの俺のわがままで、よくないことで、マリアにはすごく迷惑で、だけど、このままつい数時間前の自分みたいに、マリアに抱きしめられたまま眠ってしまいたいと、そう思った。