私は休むのが下手   作:北部九州在住

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水都東京づれづれ話

 水都。

 漢字というのは便利な物で、『水の都』という意味。

 日本だと意識はあまりないだろうが、海外のヴェネツィアを思い浮かべる人も多いのではないだろうか?

 そんな水の都の話。

 なんの事はない。東京の話である。

 

 東京。日本の首都であり人口は世界有数。経済の中心でもあり、政治の中心でもあるこの街が水の都であるという事を意識している人は少ない。

 この街が江戸と呼ばれていた時からの話なのだが、当時の物流は水運がメイン。

 東京湾を利用した海上輸送路は当然として、隅田川の河川交通も利用されていたのだ。

 江戸の町の地図を眺めるとわかるのだが、思ったよりも水路が多い。

 これは、中心にある江戸城を守るためなのだろう。

 似たような作りとして大阪をあげる事ができるが、豊臣秀吉によって造られた大阪は大阪城と共に大坂の陣によって灰燼に帰し、天下を継承した徳川家康はどこまで意識したのか知らないが江戸を大阪に模したような城と町を作った。

 明治維新の際、この江戸は新政府軍に攻められる危機にあったが、当時の陸軍総裁だった勝海舟と新政府軍司令官だった西郷隆盛の江戸開城によってこの街は戦火から逃れる事になった。

 その歴史の決断がこの街には未だ残っていると感じるのは私だけだろうか?

 そんな勝海舟だがこんな歌を残している。

 

 

 時鳥不如帰遂に蜀魂

 

 

 これ何て読むのだろう???

 という訳で正解。

 

 

 ほととぎす ほととぎすついに ほととぎす

 

 

 意味は『人生すべて、かくのごとしさ』。

 いや。お願い。もう少し意味を言って。お願いだからと書いている私でも思ったから更に深堀り。

 ポイントは『ほととぎす』。

 漢字が違うが、同じ鳥を指している。

 再度言うが漢字というのは便利である。

 『時鳥』のほととぎすはなんとなく意味は察する事ができる。まさに勢いがある時のほととぎすだ。

 『不如帰』のほととぎすは一時足すと分かりやすい。

 『不如帰去』で、『帰り去くにしかず』つまり帰った方がましだという意味で、明らかに落ち目のほととぎすである。

 となれば、最後の『蜀魂』だが、これでほととぎすと読むのかと感心しつつもさすがに見た目で意味が分からないから調べるとこう書かれていた。

 『蜀の望帝の魂が化してこの鳥になったという伝説からほととぎすの別名』。

 我々日本人だと蜀というと三国志の蜀で望帝とか居たか?と思うだろうが、この蜀は古蜀と呼ばれる春秋戦国時代の蜀である。

 ややこしーんだよとツッコミたいがひとまずおいておいて、この望帝農業関係で功績があり、彼が死してこの鳥となり、農耕を始める季節が来るとそれを民に告げるようになったとか。

 まぁ、この歌の解釈だと死後みたいな扱いでいいのだろう。

 こうしてやっとこの歌の意味が見えて来る。

 

 

 時の人なんて呼ばれたが、落ち目になって故郷に帰ろうかなんて考えるぐらいに落ちぶれて、ついにはお陀仏

 

 

 なんとも味わいがある歌である。

 江戸の街を造った徳川家康を謳った『鳴かぬなら 鳴くまで待とう 時鳥』を知っていると、その味わいは深く、苦く、感慨深い。

 

 こんな歌を残した勝海舟だが、彼の歴史上の頂点は江戸開城だろうが、彼の本当の偉業はこの後から始まる。

 旧幕臣の代表として幕府残党の暴発を最低限に抑える事に奔走し、主君である徳川慶喜の赦免に奔走。

 更には西南戦争で逆賊となってしまった西郷隆盛の名誉回復にも奔走するが、新政府要職に留まる事はせずに表に出る事はほとんどなかった。

 そのせいもあってか、勝海舟の評価は微妙だったりするが、彼の残したこの東京、いや江戸の街は今でも色あせていない……で終わればいい話だったになー

 この東京という街は二度甚大な災害を経験している。

 一つは1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災。

 この震災と復興で江戸から東京に変わったという人も言うがあながち間違いでない。

 そして、もう一つが太平洋戦争末期に発生した東京大空襲。

 これによって完全にかつ完膚なきまでに東京は生まれ変わらされた。

 それは、河川水運から鉄道、更には道路による輸送に切り替わる東京の街と、そこから忘れ去られるように消えていった東京の水都としての側面。

 

 今回、神田川クルーズを体験してきたのだが、水上から眺める東京というのは不思議な感じであった。

 水都としての面が蘇る。

 東京という巨大な箱の中に押し込められた人間達の物語。

 江戸が東京になる物語。

 その物語の続きが気になるが、残念ながらまだ物語は終わっていない。

 次は、そんな東京がどうなるのか? そんな事を思いながら、一つだけ確信した事がある。

 

 

「まだこの街は蜀魂にはならないよ。こんなにも変わり続けるんだから」

「何か言いました?」

「ううん。何にも」

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