人間の三大欲求は食欲・睡眠欲・そして性欲である。
で、私たち売文稼業にとって、その三大欲求にアクセスできるのは性欲な訳で、そういう小説の事を世間一般では官能小説という。
私のデビューは官能小説なので、その手の書き方を伝授してみようと思う。
1) 官能小説とは文字数との勝負である
私が小説を見る際に気をつけているのは設定ではない。
文字数である。
特にこれを見ている皆様は小説家志望の方が多いと思うので力説したい。
書籍化作家という連中は、十万字以上の文字数を使って物語を組み立てる人間の事である。
この十万字というのは一冊の本における文字数である。
つまり、小説家として本屋に本が並ぶ為には、最低限それだけの文字数を書かねばならないという事を強調したい。
という訳で、貴方がそういうものになりたいのならばやってほしい事が一つある。
とても簡単な事だ。
文章作成ソフトを立ち上げて、『あ』を押しっぱなしにして十万字を打って欲しい。
ついでに言うと、印刷までするとなお良いが、紙代と印刷代がかかるので本気の人だけするといいだろう。
これをするのは何の為かというと、自分が挑むものの可視化である。
これだけ書かねばならないのだ。
これだけ物語を紡がねばならないのだ。
この全体像の把握ができないと、まず間違いなく詰まる。
『敵を知り己を知れば百戦危うからず』とは孫子の言葉だが、これが貴方が挑む敵の正体である。
それを頭に入れておこう。
2) 官能小説とは最低三割、できれば半分以上濡れ場のある小説の事である
さて、繰り返すがこれを見ている皆様は小説家志望の方が多いとという前提で話をしている。
という事は『起承転結』は理解しているという事で話を進めさせてもらおう。
官能小説である以上、当然その濡れ場を期待して本を買っている訳で、延々と面白い物語が紡がれても濡れ場が一切なかったら、その本は叩きつけられる運命にあるのだ。
という訳で、その濡れ場が物語におけるウェイトが大事になるのだが、物語を作る場合、実は濡れ場というのは『転』の部分に当たるのだ。
『起』 男女の出会い
『承』 出会いから恋愛
『転』 濡れ場
『結』 二人は恋人END
こんな感じで無理なく濡れ場を入れられるのだが、これを均等で配分すると25%という事になる。
なお、官能小説の読者には濡れ場だけを読む層も存在する訳で、そういう人間にとっては、一冊の本の内3/4が不要という事になる。
それは良くないよねという事で、出版社も作者もその比率を増やす方向に動いた。
官能小説を書く際に作者を苦しめる濡れ場の肥大化である。
一人相手に手を変え品を変えてセックスする事のなんと難しい事か!
それを世の官能小説家たちは二つの方向で解決したのである。
量と質である。
量は簡単だ。つまりハーレムである。
上の『起承転結』で言うとこうなる。
『起』 Aとの恋愛 濡れ場
『承』 Bとの恋愛 濡れ場
『転』 Cとの恋愛 濡れ場
『結』 三人との濡れ場
これにはもう少し補足説明が必要だ。
それぞれの場面で女の子が違うから正確にはこうなる。
『起』「起」 Aとの出会い
「承」 出会いから恋愛
「転」 濡れ場
「結」 恋人END
『承』「起」 Bとの出会い
「承」 出会いから恋愛
「転」 濡れ場
「結」 恋人END
『転』「起」 Cとの出会い
「承」 出会いから恋愛
「転」 濡れ場
「結」 恋人END
『結』「起」 Aとの濡れ場
「承」 Bとの濡れ場
「転」 Cとの濡れ場
「結」 三人の濡れ場
16分割になった訳だが、これで本の各所に濡れ場が配置されているのがポイント。
更に、この各章が均等文量な場合、その濡れ場比率が43.75%にまで跳ね上がる。
一方質である一人を相手にする場合、展開はこうなる。
『起』 男女の出会いから恋愛
『承』 恋愛から濡れ場
『転』 濡れ場にハマる
『結』 ハマった果てのEND
よく言われる『堕ち系』がこれで、これ究極的には承転結の75%まで濡れ場を増やす事ができる。
ジュブナイル系ポルノにおいてこのハーレムものと堕ち系はまさに王道となり、その流れがエロゲーにもというのは話がそれるのでひとまず置いておこう。
3)官能小説とは己の性癖を晒す小説の事である。
ここまで語って、やっと性癖の話に入る。
つまり、10万字の内43750字から75000字を濡れ場にしなければならない訳で、それだけ書く以上は自分の性癖をぶちまけないと書けないのである。
それほど、この文字数というのは多いのだ。
とはいえ、現代社会というのは便利な物で、最近はAIでも官能小説を書いてくれるのである。
いい世の中になったと思うそこのあなた。
試しにそのAIで作られた官能小説を読んでみるといい。
好みの女の子をデータ入力し、シュチュはこう、相手はこう、濡れ場はこう……とデータを入れてAIに出させて、満足する人ははっきり言おう。官能小説家に向いていない。
ならば、どういう人間が向いているのか?
決まっている。こういう人間だ。
「違うんだよ!彼女はここではこう喘いで、相手はここではこう責めて、それでも……」
AIによって文章が提示されたおかげで、自分の性癖というか業を見つめなおせるのはありがたいと思う。
そして、そこから紡がれた物語に満足しない連中こそ官能小説家になってしまうのである。
最後に、とてもとても大事な事を語ろう。
最悪これだけ覚えて欲しい。
4)官能小説家とは、究極的には作者という読者を満足させる自慰的小説である。
おあとがよろしいようで。