『水と安全はただ』。この国ではそう言われる事が多いが、実はそうではない。
この国は国土の大半が山地という状況で農業を営む人達が生活していく上で、水の心配をする必要があり、水の供給源となる河川の整備に力を入れてきた歴史がある。
河川整備の歴史の中で、堤防やダムなどの護岸施設が幾度となく作られたが、人命を護るためであり、生活環境の向上の為でもあったのだが、その結果として、ダム開発をはじめとした多くの生物たちにとって生存しにくい環境を作ってしまう事になった。
これらの事は我々人間が引き起こしたものであり、ある意味自業自得と言えるのかもしれないが、水がただになる為には多くの人たちの不断の努力と長い時間をかけた治水との戦いに勝利した結果と言えよう。
五月雨を 集めて早し 最上川
あまりにも有名な松尾芭蕉の『おくのほそ道』の一句。
この国の水の在り方を端的に示しているのだろう。
水と言うのは我々が生きるために必要なものゆえに、その恩恵に与るには、それなりの対価を支払う必要があるのだ。
もう一つ提示してみよう。
白河の清きに魚も棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき
これも有名な狂歌だが、この国の河(川)、田、沼という水のありようとイメージを端的に示していると言えなくもない。
今度はその目を欧州の方に向けてみよう。
欧州の礎となった偉大なる大帝国。ローマ。
その名前を冠しているローマ街道と並んでローマ水道がある。
未だにその水道が現役である所もあるぐらいで、かの大帝国の維持に道路と水道が必要だったというのは、水がいかに大事なものかという事を示していると言えないだろうか?
そのローマ帝国の崩壊後、水については面白い解釈がある。
ローマといえば公衆浴場でもあるのだが、ペストの流行後に廃れてしまい、偉大なローマ水道も維持が出来なくなった事も大きいのだろう。
向こうでは水が湧き出る泉を神聖なものととして捕らえ、沼を不浄なものとして見るいうイメージがあるという。
これは、湿地帯が病原菌、特にマラリアなどの発生に関わっているのが体感的に分かっていたのだろう。
ローマ帝国が欧州の主役から去るとキリスト教がやってくるのだが、彼らの宗教的儀式である『洗礼』に用いるのが聖水。
こういう所にも水と人の関係が見えてくるのが面白い。
多くの外国人が感動する事らしいが、彼らはこの国の田舎にあふれんばかりにある水に感動するのだという。
そして、多くの寺社仏閣に清らかな水がある事に納得するそうな。
宗教が違えども、同じ水を信仰の対象とするのであれば、そこには何か共通するものがあるのかも知れない。
さて、最後に、このエッセイのタイトルとなっている日本の水道についての話をしよう。
『水と安全はただ』とはいうが、我々はしっかりとこの安全な水道を使うために水道代を払っている。
その水道だが、ローマ帝国と同じく維持管理には費用が掛かる訳なのだが、その維持管理に自治体は悲鳴をあげているらしい。
田舎では過疎化に高齢化というダブルパンチで使う人が居なくて赤字となり、都市部では人口の過密化でそのインフラが追いつかない。
ちなみに、この国の地下に埋まっている水道管の総延長は地球17周分というとんでもない長さだという。
もちろん設備更新が追いつく訳がなく、これらの水道事業の維持は各地で大問題となりつつあったりする。
で、それならば民営化して自給自足すればいいのではと考えたみたいだが、これ、外国でろくでもない事例があったりする。
一つはなんと少し昔の1999年から2000年4月、南米ボリビアで発生した水戦争とよばれる騒動で、民営化した結果貧困層が水が飲めないという事態に暴動が発生。
軍隊が出て死者が出る騒ぎの果てに民営化を撤回するという高い代償を払った事件。
もう一つはあの英国のロンドンで現在起こっている笑えない事態で、ヴィクトリア女王時代からの水道の更新に巨額の費用がかかり水道会社が経営危機に陥っているとか。
そのくせ、民営化されて株式会社になったものだから株主には配当金が支払われていた事がロンドン市民の怒りに火をつけているそうで、イギリス議会でも話題になっている。
このように民営化すれば万事解決と言う訳にはいかないようで、なかなか難しい問題なのだ。
で、これに日本の場合はダム問題まで絡む。
近年地球環境は温暖化のせいでおかしくなっており、気候変動によって台風、豪雨、豪雪など異常気象による災害が多発するようになる。するとどうなるか?大雨になると増水した河川からの洪水被害が増える事になりその洪水被害の拡大を防ぐためにダムの建設が行われる訳だが、当然これには莫大な予算が必要になり、国や地方自治体はその負担に耐えられなくなる可能性がある。
『水と安全はただ』。その言葉が過去のものになるかもしれない。
こんな事にならない為にも、水を飲むときに色々感謝して飲んで欲しいものである。
……まぁ、喉が渇いた時にそんな事私ですら思えないのだけどね。
水に対する感性の歴史
https://www.mizu.gr.jp/images/main/archives/forum/2003/forum2003_aran.pdf
崩壊の道を静かに進む「水道」老朽化の悲惨な未来
#東洋経済オンライン @Toyokeizai https://toyokeizai.net/articles/-/636907
ボリビア水戦争ことコチャバンバ水紛争
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%90%E6%B0%B4%E7%B4%9B%E4%BA%89
お粗末なロンドンの水道が示す「民営化」の末路
#東洋経済オンライン @Toyokeizai https://toyokeizai.net/articles/-/688072