リセット系の文章というかのんびり旅日記というか、そういうものを書いている身としては時折それ系の仕事が舞い込んてくる事もある。
『良ければ豊原地下都市の観光に来ませんか?』
そんな依頼が舞い込んできたので行くかどうか迷った所、マリコが真顔でこう言った。
「……今の豊原?
あまりお勧めしないなぁ……」
そう言われると興味が湧くのが作家の悪い癖。
マリコにそのあたりを尋ねると、なかなか闇が深いものが返ってきた。
「ほら。今、ロシアがウクライナでああなっているでしょう?
アンダーグラウンド系のメインルートの一つになっているのよ。豊原」
理由がガチでやばいのが来た。
さすがにためらう私だが、ありがたい事にこの手のリセットを始めて知人友人が増えたこともあって、さらに話を聞こうとすると、引っかかった人が一人。
「マリコさんに聞きましたよ。なんか危ない依頼が来ているそうじゃないですか?」
という訳で宮武慶子さん召喚。
陸自の幹部から今の豊原の話を聞くといろいろ生臭いものが見えてくる。
「豊原、旧北日本民主主義人民共和国の歴史とその崩壊あたりは先生が調べるので飛ばしましょう。
で、今の豊原のやばさですが、ヨハネスブルグよりましかな程度かと」
その一言でひきつる私とマリコ。
ネットミームで話題になる街と同程度とは。
「豊原は明確に階層が分かれているんですよ。
空港から低層ならば観光客でもまだ遊べます。
深部と北樺太はアウトですね。
正直安全を保障できません」
こういう説明に地図を用意するあたり宮武さんもプロだなと思ったり。
それはさておき。
「もともと日本の樺太領土は南樺太のみだったんですよ。
それが戦後の東西対決の中で旧北日本政府が建国され、北樺太の管理が委託され、ソ連崩壊のどさくさで我が国が管理している状態でして……ロシアのと揉め事になっているんですよ。ええ」
とはいえ、もし返していたら南北樺太国境線は管理できないロシアのせいで大量の犯罪者や亡命者であふれていただろう。
たかが7キロだが、間宮海峡の存在は本当にありがたいのだ。
「そんな訳で主権問題であまり強く出れない北樺太にまた困った事に天然ガスが出て、香港の浄化とともに表に出てこれない連中の安息地となるまで時間はかからず……で、今のウクライナで北樺太はバブルに踊っていますよ」
「バブル?」
私のなんとも言えない言葉に宮武さんが実になんともいえない顔で応じてくれた。
「欧州のアンダーグラウンド社会のメインストリートって、ウクライナからバルカン半島を経てイタリアへ行くルートなんですが、戦争で見事にそのルートが途絶。今、間宮海峡を密航して北樺太に潜り、豊原から本土経由で米国へというのが新しいメインルートになりつつあるんです」
ぉぅ……と頭を抱える私。
とはいえ、できる女の宮武さんはちゃんと用意もしているのだった。
「で、行かないでくれと言って仕事がなくなるのは困るでしょう?
私同行で、向こうに使えるPMCをつけますから大丈夫ですよ」
「えっ!?PMCって高くない?」
と口を挟んだマリコに宮武さんがお役所特有のなんともいえない笑みを浮かべる。
つまり、そういう所での調整があったと。
「この依頼、豊原観光協会でしょう?
治安悪化と難民急増でイメージ悪化している樺太道のイメージアップ作戦の一つなんですよ。
この依頼、絶対私の耳に入るようになっていたみたいで……」
羽田から豊原空港まで飛行機でおよそ二時間半ばかり。
羽田-新千歳に並ぶ屈指のドル箱路線と化したこの航路だが、当然とばかりに制服姿のスカイ・マーシャルが乗り込んでいる。
「先生。これをどうぞ」
「何これ?」
「身分保障つきのケーカです。
支払いはこれでてきますのでなくさないでくださいね」
免許証と財布を持ってくるなといわれた理由がこれである。
裏返せはそれだけ盗難が多いという事。
機内なのに、外国に行くような緊迫感がすでにある。
その上、国内でもいまだ厳重なボディチェックの後で空港から出るとPMCが出迎えていた。
「ようこそ!天野はるか先生。歓迎しますよ。
私は北樺太警備保障の本斗みしろと申します」
背筋がしゃきっとして歩き方が宮武さんと似ている。
あ。これ元自の人か。
「あ。わかりましたか。
一応元です」
そんな挨拶の後。そのまま地下鉄で豊原地下都市低層部へ。
その間にやばいはなしがボロボロと出てくる。
「治安が悪いのに景気は良さそうですね」
「戦争特需が始まりましたからね。
ロシアがあれなので、旧東側兵器の製造とメンテナンスは豊原に本社がある樺太重工と共産中国軍需企業群が握る事に。
本社工場では追いつかなくて、苫小牧工場も拡張している始末です」
ウクライナの弾不足を解消できる西側における唯一と言っていい東側兵器製造工場はフル稼働で砲弾を作り、海路、空路でウクライナに送り届けている。
なんとなしに壁に張られたポスターを見るとPMCこと民間軍事会社の募集広告が目を引いた。
「ここ樺太からウクライナに向けて現在三個師団規模の人員が出稼ぎに出向いていますからね。高収入なので引く手あまたですよ。この仕事」
あまりに人が足りないので、米国の退役ホームレス兵すらスカウトして送り込んでいるとか。
それらの活躍によっていまだウクライナは持ちこたえていたが、ウクライナの戦争に、この国は、樺太はがっちりと西側として関与していた。
そのため、ロシアとの関係は過去最悪にまで冷え込んでいた。
その闇の面はまた改めて紹介しようと思う。
本斗みしろはこの話の為のオリキャラ。
なお、この話をフィードバックするかどうかは未定。