「今日の会を面白おかしく短編小説にしてみてよ!
私よみたい!」
若人に無理難題を告げた私だが、めでたく電話口で同業者に叱られる私であった。
今日のエッセイはそんな電話の顛末である。
楽しい宴会は語りたくなるもので、その話が盛り上がってついついとばかりに頼んだ短編小説の依頼が電話口の相手を怒らせたのである。
『あんたねぇ……若人にそれはちと厳しいわよ』
あきれる口調で詰るのは朝倉さくら。
同業者だが、官能小説でデビューできずに政経小説もどきでデビューした変わり者である。
見なくてもわかる。今のさくらは目を閉じてこめかみを指で押さえながら首を傾けているだろうと。
「そうかなー?」
『そうよ。せめて三題噺程度のヒントは用意してあげなさいよ』
三題噺。落語の形態の一つで、寄席で演じる際に観客に適当な言葉・題目を出させ、そうして出された題目三つを折り込んで即興で演じる落語の事なのだが、ここではお題を三つぐらい渡してから書かせろとさくらは詰っているのである。
「えー? 『宴会』に『怪しいビール』に『笑顔』で三つ。簡単じゃない?」
『それはわたしらが物書きとして常に意識しているから!
それを短編小説ってせめて文字数で縛りなさいよ文字数で!!』
「ぉぅ……」
さくらは怒ると怖い。私は電話口で縮こまる。
私たち売文稼業(なおさくらはこの言葉を嫌っていたりする)にとって当たり前の事でも、それをできない人も居るという事を忘れてしまうのだ。
私は反省した。
気を取り直すようにさくらが咳払いをする。
『ごほん。一応聞くけど、はるかの短編小説の文字数ってどれぐらいを想定しているの?』
「ん? 原稿用紙換算で30枚ぐらい?」
『……あんたねぇ』
さくらがまた怒りそうな雰囲気を醸し出す。
え? 何? と私は思わず身構えていたらさくらの雷が落ちてきた。
『30枚なんて、普通の人は書ききれないの!』
「そんな馬鹿な!!」
と私は電話口で叫ぶが、さくらは冷静に続ける。
『はるか。30枚の短編小説、あんたはどれぐらいで仕上げられる?』
「うーん……ネタがあって筆が乗れば一日から二日かな?」
『乗らなければ?』
「一週間から十日?」
『それぐらいかかるのを期日なしで三題噺もせずに若人に投げたって事』
「え?
でも、30枚ってそんなに難しいの?」
『難しいわよ。
30枚の短編小説を仕上げるにはね、まず起承転結をしっかりと意識して書く事。
次に、その小説のジャンルを決める事。
そして、それを書き始める前に全体の構成をしっかり決めておく事。
この三点をクリアして初めて30枚の短編小説が書けるのよ。
素人が手をだしたらまず文字埋めで話が迷走するわね。間違いなく』
「ぉぅ……」
なお、こういう事をいうさくらだが、展開が詰まった時にサイコロを振るのを私は知っている。
それでいて、政経のネタを日々拾うのにアンテナを張り巡らしてリアルに泣かされると愚痴るのも私は知っている。
とあるイベントで知り合った縁だが、とにかく話が流れるようにしゃべり続けるので私は楽だっ……げふんげふん。
『私だったら、原稿用紙四枚で宴会についてとお題を与えるぐらいはするわね』
「あれ?
『今日の会を面白おかしく』じゃダメ?」
『範囲広すぎ。
さっきも言ったけど、文字数指定がない短編小説だから、下手したら仕込みの所から書き始めるわよ』
それはそれで読みたい気がしないではないのだが、さくらが言うように仕込みから始めるとふつうの読者は面食らうだろう。
私は再度反省した。
『いい。はるか。分かっていると思うけど、できたものについては褒めないと駄目よ。
今回は、あんたの発注ミスみたいな所があるんだから、そんなもので若人の筆を折ったりしたら駄目だからね!!』
「ぉぅ……」
『返事は!』
「はい!」
さくらの言う事は正しい。私は三回目の反省をした。
そんな私の反省をくみ取ったのか、さくらは電話口で大きくため息を吐くとこう続ける。
『はるか、わたしらみたいな物書きは、物を書くだけでなく、人が書いた物語を読みたいからこういう職業についているでしょう?
そんなわたしらもはじめはそりゃ下手だった。今でも書いたものに頭を抱えたり、悩んだりするでしょう?
悪い所は指摘しつつも、褒めて褒めてほめちぎって、天まで登らせなさい。
物書きはそれがないと、最後躓くのよ』
「……うん。そうだね」
すとんとさくらの指摘が腑に落ちた。
私は、さくらにありがとうとお礼を言って電話を切る。
うーん。宴席の楽しさに浮かれてついつい若人に無理難題を言ってしまった。本当に心から反省である。
その分、若人が仕上げてきた短編小説については褒めて褒めて褒めちぎって未来の売文稼業に誘えるようにしなければと、私は心に誓ったのである。
おまけ
「はい!?
三文字の短編小説ってのがあるの???」
ネットとは広いもので、大手出版社小説投稿サイトにて一世を風靡した短編小説の事を後日さくらに教えてもらい、マリコと観音さんと一緒に見る事に。
三人とも唖然としつつも大爆笑したのは言うまでもない。