私は休むのが下手   作:北部九州在住

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一歩を歩き出した作家たちへ

 物語を書き終えた作家たちへ。

 おめでとう。先生。

 この言葉は君たちの為にある。

 これからも君たちが物語を紡ぐために、先達から少しばかり言葉を送らせてほしいとこれを書いている。

 君たちが物語を書くのは何の為か?

 

 有名になりたいもあるだろう。

 社会の歯車からはずれてちやほやされたいもあるだろう。

 これしかできなかった人間もいるし、これを忘れられなかった人間もいる。

 その上で君たちがこれからも物語を紡ぐ上で忘れないでほしい事を教えておこう。

 

 まずは本当に大事なことを。

 君の書く物語の最初の読者とファンに君自身がなりなさい。

 

 簡単なことだ。

 君が書く物語は生まれたてだから、その読者はまだだれもいないので君自身がその読者となりファンとなって応援しなさいという事だけ。

 プロと呼ばれる連中は自分が紡ぐ物語を自分でたたむ事すら難しくなるし、売れる物語と人に読んでもらいたい物語ばかりを書き続けると間違いなく自分を見失うからだ。

 自分が読みたい物語を自分で書く事。

 これができるのが作家と言う連中の本当の特権である。

 それを忘れないでほしい。

 

 次に君たちの人生を物語にしなさい。

 かっこいい言葉で言ったが、要するにネタは人生のどこにも転がっているという事で、それを面白おかしく書きなさいという事だ。

 物語というのは人が読むもので、人は物語を読むことで他の人の人生を知る。

 つまり、君が書ける唯一絶対の武器は君自身の人生だという事を忘れないでほしい。

 波乱万象の人生を歩んだならそれが十二分にネタになるだろう。

 たいした人生じゃないのならば、多くの共感者がいるという事で多くの読者を捕まえる事ができるだろう。

 はっきりと言おう。

 小説家という連中は、人生を切り売りしているろくでなしな連中なのだ。

 

 喜びも

 怒りも

 哀しみも

 楽しさも

 

 自分の、人の人生を文字に変換する連中の事を小説家というのだ。

 ほら。それを意識すれば、世界にはこんなにも物語があふれている。

 それを君の手で再構築して世に出せばいい。

 

 次に締め切りは守るに越したことはないが、文字数にはこだわりなさい。

 プロの小説家と呼ばれる連中が一冊の本を出すために紡ぐ文字数は十万字から十二万字。

 これだけの文字を紡いで起承転結の物語を作り出す事が絶対条件である。

 だから、文字数には本当に徹底的にこだわりなさい。

 長く書けるようになったら今度はそれを編集して奇麗に整理してゆくことで本として世に出る多くの物語は生み出されてゆく。

 何もいきなりこの文字数を生み出せというのも無理だろうから、一日に君たちが書ける文字数を把握しなさい。

 一日四百字つめ原稿用紙一枚しか書けないとしても、一年続ければ十四万六千字。

 単行本一冊分の文字数を紡ぐことは可能なのだ。

 だからこそ、文字数にこだわりなさい。

 締め切りについては、スケジュール管理の失敗の方が大きいし、これはこれで色々とあるので、個々の体験に任せるとだけ言っておこう。

 なお、締め切りの悲喜劇を味わいたくないなら対策は簡単だ。

 物語を先に仕上げてからスケジュールを組めばいいい。

 それができるなら苦労はしないのが小説家というのも先に言っておこう。

 

 君が趣味で物語を紡ぎ続けるならばここから先はあまり役には立たないだろうが、ここから先はプロになりたい君たちの為の言葉である。

 時代を読みなさい。

 プロになるという事は、多くの人たちに読まれる物語を書かねばならない。

 だからこそ、時代を、流行を読みなさい。

 時代に乗った物語ならば、世に出るのは比較的簡単なのだ。

 もう少し言い切るならば、売れる作家というのは、時代と自分が書きたい物語が一致した連中の事を言う。

 そして、本物になると、自分の書きたい物語が時代を動かしてゆく。

 こういう本物たちが時代を動かしてきた。

 物語にはそういう力があるのだという事を忘れないでほしい。

 

 最後は、迷うだろう君たちに向けてだ。

 何しろネタは無数にあり、書かねばならない文字数は膨大だ。

 だからこそ、君たちの待つ道は険しく、困難と共にあるのは先達である私が保証する。

 そんな時に帰れる物語を持ちなさい。

 人の本でもいいが、自分の物語ならなおいい。

 ついでにその物語が『終わっている』なら最高である。

 これについては、君たちが物語を紡ぎ終わらせたから最後にしているが、私は初心者には必ずこう言っている。

 

『何文字でもいいから物語を終わらせろ』

 

と。

 

 先生。

 この言葉は、小説家にとっては、物語を終わらせた人間に与えられる称号なのだよ。

 先生。

 君たちが迷ったときに、帰れる物語は君が完結させた物語なのだよ。

 先生。

 プロと呼ばれる連中は、その物語を多く紡ぎ、終わらせてきた連中の事なのだよ。

 

 先生。

 先生とよばれたからには、その物語たちを手に、何度も何度も紡ぎ続けてゆかねばならないのだよ。

 

 先生。

 この言葉の祝福と呪いを理解してくれたのならば幸いである。

 

 

 

 改めて先生に祝福を。

 先達として新たな仲間を歓迎しよう。

 おめでとう。

 そして、これからもがんばりたまえ。先生。

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