知り合いの朝倉さくらが東京にやってきた。
「パーティよ!出版社のパーティー!!」
と浮かれる理由は、こいつ例の病気デビューでこの手のパーティーに出れなかったからである。
んじゃまあ会おうかと気楽に声をかけて待ち合わせは品川駅。
東京の玄関口の一つにまで出世したこの駅の自由通路でしばし佇む。
「へー。ここ観光名所になっているのかー」
ずらりと並ぶデジタルサイネージを外国人観光客がスマホを向けて撮っており、それを見向きもしないジャパニーズビジネスマンたちが行儀よく整然と通路を往来してゆく。
このシーンを海外ではSF的と言っているとか。
「はるかー!こっち。こっち」
そんな声と共に朝倉さくらが京急品川駅方向からやってくる。
こいつ、堂々と夜職もしているので、着こなしが夜系なのはご愛敬。
「けど、はるかは見つけやすくていいわ。和服だから」
令和の世の中、和服は目立つのである。残念ながら。
それはさておき。
「で、パーティー会場は何処?」
「白金高輪」
これが微妙に交通の便がよろしくない。
品川からだと都営浅草線で三田駅で降り、都営三田線でというルートだが地図で見ると言って戻りの形になる。
「歩かない?」
「歩くのー?」
こちとら散歩がリセットの一つだが、さくらは基本動かない人間である。
そんな彼女に特攻を囁く。
「今日肉食べ放題なんでしょう?
アプリのおねーさん悲しむんじゃない?」
「んぐっ!!!!」
運動をせずにカロリー制限で7キロ痩せた女。朝倉さくら。
肉食べ放題で摂取するカロリー消費の囁きを無下にする事もなく品川から散歩と相成ったのである。
品川駅から柘榴坂を通って二本榎通りを通って目指すは国道一号線。
夕方のラッシュが始まる中、朝倉さくらが車を見て感心しているので尋ねてみた。
「何感心しているのよ?さくら?」
「見てよ。ここに流れている車、仕事のやつ以外軽自動車が来ない。
ここに住む連中、軽自動車なんて使わないのでしょうね」
品川から白金高輪にかけては高級住宅街の一角である。
都内に住む家族の事をパワーカップルなんて呼ぶが、そんなパワーカップルの経済力をちょっとした景色の中から見抜く朝倉さくら。こいつ本当にこういう所は抜け目がない。
そんなこんなで国道一号線に到着すると……
「あれ古本屋じゃない?」
「こんな場所でそんな儲からない……ほんとだ!?」
当然のように突貫する私たち。
古書店独特の香りが鼻孔をくすぐると店主の老人がちらりとこっちを見た。
「いらっしゃい」
「まだやってます?」
「構わないよ。どうぞ」
という訳で数冊購入。
「私たち作家なんですよ」
「ほう」
「いつかこういう所に私たちの本がやってきたらよろしくお願いします」
「来るといいねぇ。だが、俺も年だしな。
いつまでできるやら……」
都心部の地下の高騰ぶりはニュースになって久しい。
このあたりはタワーマンションも並ぶ場所でこういう古書店がいつまでやっていけるのか。そんな思いを口には出さずに私たちは古書店を後にした。
「しっかし凄いわね。
このビルの並び具合」
国道一号線を歩きながら朝倉さくらがつぶやく。
黄昏時から夜のとばりが降りつつある中、彼女は灯りがつきだした高層マンション群をながめていた。
「東京って本当に凄いわね」
「そうかな?」
「はるかはこっちに住んでいるからこの街の凄さが分からないのよ」
「そうかもね」
「私みたいな地方から見た東京はね。
フィクションみたいなものなのよ」
「フィクション?」
「だって、マンガやテレビで幾度となくこの街が出ているのに、地方の人はその実態を感じる事ができない。
だから、この街って地方の人にとってフィクションの世界なのよ。そこにやってきているって感じ」
「まあ、確かにね」
そんな他愛ない会話をしながら私たちは夜の帳が降りつつある中を歩き続けたのである。
さて、パーティー会場である白金高輪の一流ホテルに到着。
さくらとはここでお別れである。
「じゃあね。はるか」
「パーティー楽しんでらっしゃいな」
このまま帰るのもなーと思ったので、私の友人の一人であるユイ・阿羅本先生が昼間から酒を飲みに行ったという恵比寿まで顔を出すかという事で目黒駅まで歩いて、恵比寿ガーデンプレイスへ。
恵比寿駅に降りて、動く通路こと恵比寿スカイウォークにてやってきました恵比寿ガーデンプレイス。
「申し訳ございません。現在待ち時間が……」
凄いな。オーバーツーリズム。
軒並み席が埋まっていて待つのもという事で、ガーデンプレイス内の恵比寿神社にお参りをば。
商売繁盛の恵比寿様にお願いする事と言ったらこれである。
「……本が売れますように」
ほどよく歩いたのもあって、ごはんというよりもお風呂という気分な私。
なんとなしに検索したら、大井町にスーパー銭湯があるではごさいませんか!
という訳で、恵比寿駅から大崎駅で乗り換えて臨海線でやってきたのが大井町駅。
その駅前のスーパー銭湯でのんびりと湯につかる。
「ぷわぁぁぁぁぁぁぁ……」
ほどよく歩いた後のお風呂の気持ち良い事と言ったら!
これでほどよい夕食を見つけられたら優勝ってものである。
「そういえばさくらは秋葉原に行きつけの蕎麦屋があるって言っていたわね……そこにしますか」
ほかほか気分の私はそうして、大井町駅から京浜東北線に飛び乗ったのであった。
「たしか……ここ、ん!?
新メニューのステーキ蕎麦だと!?」
いやさすがに頼まなかったけど、こんどさくらに教えてやろうっと。